2 感動しない再会です
今回を短めに、次回を長めにします!
「詳しいことは現地で話そう。まずは、ついてきてくれ」
それだけ言うと、強面の男達は美香を囲むようにして動き出す。
一方の美香は、そんな人達に抵抗するなんて勇気が出る訳もなく、そのまま流されていくのだった。
そして、校門を出たところにある車に乗り込むよう指示される美香。
「これから向かうところは、国家の機密に関わる。移動時間で場所を悟られる可能性もあるため…君にそんなことが出来るとは思えないが、一応、これを飲んでくれ」
そう言って手渡されたのが、1錠のカプセルの薬。
(…これって、もしかしてだけど睡眠薬?)
美香が読んできたラノベだと、移動中は目隠しとヘッドホンとかで誤魔化されていたような気がするが、現実では薬で済ませてしまうのかと美香は考えた。
(さっき国のとか言ってたし…というか、これ飲まないと始まらないんだろうなぁ…)
美香は少々憂鬱になりながら、薬を飲み込む。
カプセル錠なので、美香は水は必要ないタイプだった。
「よし、それじゃあ、行こう」
「……」
思ったよりも早い薬の進行により、美香の視界は一気にグラグラと揺れだし、最後に辛うじて捉えたのは、少し辛そうな顔をした、スーツの人だった。
「起きてくれ。ついた」
「う……」
決して、安眠していたとは言い難い眠りから叩き起され、美香は気だるそうに起き上がった。
しかし、目の前にいるのがスーツ姿の男だと認識すると、その意識は一気に覚醒していく。
「あ、すみません!」
「いや、気にしなくていい。それより、ついてきてくれ。少し遅れてる」
「遅れてる…?」
日本人の癖で、つい謝ってしまった美香だったが、その後に男が言った言葉に引っ掛かりを覚える。
(遅れる…そういえば、招集がかかってるって言ってたっけ。死んじゃうのかなぁ…)
どんどん歩いていく男達の後ろを慌てて追いかけながら、ブルーになっていく美香。
でかいトンネルの中に入り、しばらく暗闇の中を歩いていると、突然辺りが光った。
「わっ、まぶし…」
その光は、アニメでルパンとかが当てられている奴によく似ていた。
手で光を遮りながら周りを見ると、既にスーツの男達はどこかに行っており、代わりに、周りには何人もの、美香と同じぐらいの年の人達がいた。
(もしかして…招集をかけられたのって私だけじゃない?)
その可能性も無いわけじゃなかった。それはわかっているのだが。
(何となく…可哀想って思っちゃうなぁ)
美香自身もここに呼ばれているのに、他人を心配するというのは、状況を把握出来ていないからなのか、それとも。
『あー、諸君。よく集まってくれた』
「…?」
美香が考え事をしていると、光の方から機械を通した人の声がする。
拡声器でも使っているかのような声だ。
『さて、君たちはどうしてここに連れてこられたのかと疑問に思っているだろう』
(…どこかで聞いたことのある声…)
美香は、その声の主になんとなくだが心当たりがあった。
具体的にいえば、血が繋がっている、普段は全く家に帰ってこない人だ。
『その疑問には、私が直接応えよう』
そして、当てられていた光が消え、辺り全体を照らすように、証明がつく。
奥に立っていたのは、何年も姿を見ていなかった、美香の父親だった。
「…お父さん、何してるの?」
「……諸君、君たちが連れてこられた理由は、今日の朝のニュースにある」
美香の言葉は無視し、そのまま全員に話し続ける父親。
彼の名前は、勝元光。
彼の仕事は、各国の情報を仕入れてくることで、家にいることはほとんど無かった。
故に、美香からはよく思われていないどころか、記憶にあまりないので特になんとも思われていないのが現状だった。
「そう、『異世界』だ。君たちには、今からそこへ移動してもらう、被験者に選ばれたのだ」
(そんな横暴な…)
それが事実なら、日本が保証している人権とやらはどうなってしまうのだろうか。
美香はそう考えたが、それを口にする勇気はない。
周りを見渡しても、同じことを考えているのかどうかはともかくとして、誰も喋ってはいない。
「……無論、拒否権はない。安全面には安心してくれ。既に実験には成功し、向こうで上手くやっている」
そこまで光が言ったところで、美香の後ろにいた人が手を上げる。
「あ、あの、どうして向こうの状況が分かるんですか…戻って来れたりするんですか?」
おどおどと喋ってはいるが、確かに、と美香は思う。
(だけど、帰って来れるなら最初に言うはずだし、何らかの連絡手段があると見た方がいいのかな…)
「帰ってくることは、現状不可能だ。しかし、こちらと通信ができるものを持たせる」
それだけ言うと、光は質問は終わりだとでも言うように、奥へと歩いていく。
その姿を呆然と見ている美香たちに振り返って、「ついてこい」とだけ言い、また歩き出す。
「……はぁ」
美香は、ため息を1つこぼす。
(久しぶりにあったのに、何か他に言うことないのかな…)
異世界に行くことよりも、その事で、悲しくなる美香だった。