10 誕生日です!
もう1つ更新したいのですが、今日中に出来るか怪しいです。
もしかしたら日をまたぐかもしれません!
朝の稽古を終え、昼ごはんはいつもどおりに食べ、魔法の訓練をし終わったその日の夜。
「誕生日おめでとう、ミカ」
「おめでとう」
「ありがとう、お父様、お母様!」
10月20日。適性審査の11日前。今日はミカの誕生日なのだ。
この日のために、朝の稽古をしている間に準備を進めてきたのだ。
と言っても、2人が外で稽古をしている間にジェイナが手作りで何かを作り、家にいる間にアーリアが買い物に行き何かを買ってくる。
それだけなのだが。
2人は、この日のために作ったり買ったりした、袋に包まれた何かをミカに渡す。
「これはプレゼントだ」
「受け取って頂戴」
「わぁ、ありがとう!」
ミカは喜んでジェイナのプレゼントを受け取り、アーリアのは、一瞬止まるがすぐに素直に受け取る。
アーリアのプレゼントにはかつてのことがあるので、少しためらってしまうのだ。
ミカ地面に置き、しゃがみこみ2人に開けてもいいかと顔で訴える。
「ええ、開けていいわよ」
それを聞くなり、ミカはまずジェイナのプレゼントを開ける。
中には、真っ白なドレスが入っていた。所々に銀色の刺繍が入っている辺り、ミカの銀髪に合わせて作ったのだろう。手作りだということも、十分にわかる。
これほどのドレスを作れる人など、ミカは1人しか知らない。
「ありがとう、お母様! 大事に着るね!」
「それは、今度の適性審査の時に着ていくといいわ」
「うん、そうする!」
そして、ミカはアーリアのプレゼントに手を伸ばす。
まず最初に、受け取れたことから異常に重たいものではない。であれば、今回は常識の範囲内なのではないだろうか。
何が入っていても驚かないと思いながらミカは袋を開けたが、中に入っていたのは、綺麗に装飾が施されたレイピアのようなものだった。
これは一体何だろうとミカがアーリアに視線をやると、アーリアは少し恥ずかしそうに目をそらしながら喋り出す。
「実は、前にミカにあげた剣は、少し女の子に持たせるには可愛くないかと思ってな。だから、可愛い装飾を施したものを作らせたんだ」
「お父様...」
アーリアにも、女心というものが少しはあったということが今回のでわかった。
しかし、武人の定めというのだろうか、アクセサリーというものは思いつかなかったようだ。それでも、進歩である。
ミカはその気遣いが嬉しかったのか、アーリアに抱きつく。
「お父様、大事にする!」
「お、おう! 大事にしてくれ!」
今まで精神的ダメージを受けてきたアーリアは、この場で回復していくのだった。
しかし。
「ミカ、ご馳走もあるのよ。冷めないうちに召し上がれ」
「わぁ、本当だ!」
「あっ...」
ジェイナにご飯のことを言われ、ミカはアーリアから離れて食卓へと向かう。
アーリアは名残惜しそうな顔と声を出すが、すぐに切り替えてミカについていく。
「今日は、ミカの好きそうな食べ物を出来るだけ作ってみたんだ」
「私、お母様の作るご飯は全部好きだよ?」
「ミカ、いい子ね」
アーリアがそう説明すると、ミカは全部好きだという。
そんなミカが愛らしかったのか、ジェイナもミカの頭をなでる。
ミカは、嬉しそうに目を細めている。
そんな2人を見て、壁を感じるアーリアだった。
「えへへ、今日は幸せな日だったなぁ...」
誕生日パーティーを終え、部屋のベッドで転がっているミカ。
こんな風に誕生日を祝ってもらうこと、その中でも、父親に祝ってもらえるということが一番大きかったのだ。
正直言って、ミカは最初の『おめでとう』で泣きそうでもあった。顔には出していないが。
ジェイナにもらったドレスをクローゼットに慎重にしまい、アーリアにもらったレイピアを...どうしようかと悩む。
「まさか、中に入っているのがもう1つの武器だとは...」
レイピアだから、ミカは持てたのだろうか。否。
初日の地獄のトレーニングと、普通の稽古のおかげで、ミカは見た目の変化は無くとも、ある程度の重さなら違和感なく持てるようになっていた。
ただ最近は、木剣しか持たなかったことで、剣の重さがわからなくなっていたのだ。
アーリアが、訓練の度に木剣の重さを変えていたことも関係しているが。
「アイテムボックスみたいな魔法無いのかな」
ジェイナから借りている本をパラパラとめくっていくミカ。
そろそろ読み終わってしまうといったタイミングで、ちょうどいい魔法を見つけた。
『コンバート』。変換系の魔法だ。
日本ではコンピュータでの変換に使われる言葉だが、この世界ではそうでもないらしい。
効果は、対象物を自身の質量へと変換し、体重がその分増えるだけで、持たなくてもいいという魔法らしい。
(さすがにアイテムボックスなんて便利な魔法はないか)
ミカは少し落胆しつつも、その魔法が実際に使えるかどうかを試す。
レイピアに手を置き、魔法を唱える。
「『コンバート』!」
すると、レイピアは薄く光り、そのまま光の泡となってミカの体に吸い込まれていった。
異常は、特に何もない。少しだけ感じるのは、ミカ自身が重くなったことぐらいだろうか。
「なるほど、これは便利だ」
しかし、あまりにも重たいものを持とうとすると、強化魔法で『筋力上昇』を行う必要があるだろう。
ミカはそれだけ確認すると、『コンバート』の魔法を解除する。
魔法を解除するというのが、他の強化魔法で感覚でわかっていて良かった。
解除することで手元に出てきたレイピアを、以前もらった剣と同じようにベッドの下に隠す。
隠す必要は無いのだが、女の子の部屋に武器は合わないという、ミカの趣味だ。
ベッドに伏せたミカは、そのまま目を閉じる。
11日後には、ミカ自身の、最も適性の高い魔法がわかり、それぞれの属性を持つ妖精と契約ができる。
期待に胸を膨らませながら、ミカはそのまま眠りへと落ちた。
11日後。ついにミカ待望の日が来た。
適性審査の日である。
「気を付けていくんだぞ」
「わかっているわ」
「うん、いってきます!」
以前ジェイナにもらった、銀色の刺繍が入った純白のドレスを身にまとったミカは、ジェイナと一緒に馬車で家を離れていく。
ジェイナがついてきてアーリアが留守番なのは、この世界でのじゃんけんで決まったのだという。
どちらが行くかをじゃんけんで決めたことに驚くのではなく、この世界にもじゃんけんがあるということに驚くミカだった。
馬車に揺られながら他愛ない話を続けること2時間、ジェイナは1つ気がついた。
「2本とも持つようにしたのね」
「うん!」
ジェイナはミカの隣に置いてある2本の武器を見た。
剣とレイピアだ。
どちらを持って行こうかとミカは悩んだのだが、結局2本とも持っていくことにした。
どちらも、大切な父親にもらったものである。
「ところで、この剣、何でできているの?」
「...ああ、見えてきたわよ」
「あれ、お母様? お母様?」
ミカの質問をスルーし、外を指すジェイナ。
仕方ないなあと思いながらミカも外を見ると、そこには、どこまでも建物があるという、ミカにとって見なれない光景が広がっていた。
「わぁ...!」
ミカにとっての、始めての中心街である。