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見えないまっすぐの道

 高校を中退したら暇になった。親の顔は毎日落胆と怒りを繰り返している。二つのお面が交互に入れ替わりからくり人形を見せつけられているようだ。私はいつののようにアリバイ作りでハロワへ向かう。歩いて、ひたすら歩いて。歩かないと体が肉を蓄えていく。食べた炭水化物はどういう理由なのか脂肪へと変わる。学校の勉強をやっておけばよかったのかな。いや、たぶん大事なことは教えない。教師はいつもそう。


 パソコンとにらめっこしてできそうにない求人票を眺めつつ自分ができそうな仕事を探していくのは結構苦行だ。私のこれまでの人生が求人の束から弾かれる。「努力しなかったお前が悪い」という声なき声が聞こえる。親の声色を真似て誰かが頭の中で叫ぶ。


 たくさんの求人の中から私が行けるのは数枚だけ。実は非正規の職員さんが親身な振りをして機械的な電話、こちらに興味のなさそうなそぶり、冷たい世間の体温が伝わる。不況続きのニッポンは明るい未来を氷に閉じ込める。寒い、未来が寒い。直哉が来た。


「仕事ある?」

直哉は明るい。虫歯一つない白い歯が私の心を輝かせてくれた。直哉は凄い。よくわからない資格をたくさん持っている。でもなぜか彼は仕事が続かなかった。


「私、学校入り直した方がいいかも」

落胆した顔を見せて、背中を曲げた。わかっている。中卒の女なんかに務まる仕事はないってことを。何を勉強したらいいんだろうか。私がわかる学問はない。ないったらない。


「美星の好きなことをやればいいと思うよ。うーんと好きなことを」

「ありがとう。直哉にそういわれると明るくなれる」


 帰りは直哉の車で駅まで送ってもらった。車の振動が身体をゆする。直哉の動きがハンドルを通して私に伝わる。操作のリズムが心地良い。


「じゃあ、また今度」

「じゃあな」


 改札口を抜けて電車の中に入る。私はいろんなことをしてるいろんな人たちに紛れて透明になる。ただの無職でどうしようもない女が自分の存在を消せる唯一の時間。電車の中の広告を見つめて心を消す。


 親が追いかける小言の嵐をさえぎって自室にこもる。私の好きなことってなんだろう。音楽を聴く、ゲームをする。どれも仕事になりそうにない。あーお金を稼ぐって難しい。


 同じところをぐるぐる回って朝が来る。早く丸い道からそれて行きたい。まっすぐに進む道を見つけて人生立て直したい。そう思いつつ私はまた今日もハロワに行って一日をつぶす。私の未来はどこにあるのだろうか?

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