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小細工

「モテないのは鏡を見ないからよ」

臼瓦文化(うすがぶんか)は幼馴染に言われて頬に手を当てる。柔らかい餅に紙やすりが貼りついたような違和感。そいういえば今朝髭を剃るのをめんどくさいから放置していた。

 

 「それに言いたくないけど体臭。香水でなくていいから何か使ってよね」

ふいに火矢が放たれて文化の弱点が赤々と晒される。ショートカットの女友達、奈佐良(なさら)しゃらは身体をよじって顔だけ向ける。心なしか不機嫌そうに見える。おあずけを食らったトイプードルがそこにいた。


「それだけ言うなら付き合ってくれよ」

文化は勇気を出して女友達に声をかける。緊張がヒステリー球を呼び寄せて喉に軽い痛みが走る。

「嫌、文化には男臭さを感じるけど、男の魅力はどこにもないから」

「どういうことだってばよ」

「周りの男友達に聞いてみなよ」

その言葉を最後にしゃらは走る。たちまち置いてけぼりになる文化。追いかけようとしたが運動不足で足がもつれ、器用に右足で左足を踏んだ。


 ※


 翌日、文化は女装してきた。ファンデーションを塗りたくり、コンシーラを重ねウィッグをつけて登校してきた。

「アイメイクがまだだよ」

しゃらは驚きもせず。文化のメイクをチェックしている。文化には周囲の視線より、しゃらのダメ出しが痛い。

「目元のメイクは怖いから」

「意気地なし。女は毎日してるのよ」

「僕、初めてだし」

「動画ならいくらでもあるでしょ」

 その言葉を聞いて、文化は自分の浅さを恥じる。四限が終わったら研究をしなければと思う。


「ねえ。女って楽だと思うきついと思う」

 文化は答えられなかった。心を見通されていると思ったからだ。


「あんたに女は無理ね」

 文化が薄々感じていた解答をしゃらは閻魔大王が舌をひっこぬくような速さで文化に突きつける。文化が唖然としていると、しゃらはまた駆け出して行った。


「さようなら男になるのが怖いどっちつかずさん」

 今度は文化は追いかけるのを止めた。フレアスカートは走りづらかったからだ。


 文化は一人で授業を受けている。しゃらは仲間に囲まれていて、こちらを見ようともしない。心底愛想をつかされたかなと文化はなげく。


 たった一人の女友達だったが、彼女いない歴=年齢の文化には貴重な話し相手だった。

「絶対レズビアンよね。多いのよねそういう擬態」

 放課後、掲示板を見た後肩を落として足を引きずる文化に、どこから現れたのかしゃらが語り掛けていた。目いっぱいの皮肉を素材のままテーブルに置いた。


「いや実は心が女で」

「嘘でしょ」

「嘘じゃない」

「じゃあ男と一夜を過ごせられる?」

しばらくの沈黙が流れ、雲の足音が聞こえた。空の無料動画はゆっくりと趣を変える。


「条件が許せば」

「条件って何よ」

その言葉を最後に、しゃらは駆け出す。だだっ広いキャンパスを競技場に染めながら。


「待てよ」ランニング10周目のような足運びで文化は追いかけた。

「少しの根性はあるみたいね」

「ああ、こんな茶番は終わりだ」

「じゃあ今から頑張ってね」

しゃらはさらにスピードを上げて文化をぶち抜いた。遠くの景色と重なる彼女を見送ったまま文化は膝から崩れ落ちた。

片方のパンプスが脱げて落ちた。


 


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