風に舞う雪はふるさとの雪と同じ
思い付きで書きました。短いです。
アナスタシアは今日も厚いコートに身を包み高校へ続くバスに乗る。車内は暖房と生徒たちの体温で蒸されていた。
「おはようアナスタシア。今日は寒いわね」
クラスメイトの風祭昌枝が息を弾ませながら声をかけた。彼女の吐息がバスの窓を二重に曇らせている。
アナスタシアは父の仕事の都合で日本に移住してきた。現在は北海道の高校に通っている。慣れ親しんだロシアのサハリンは北海道に近く気候も似通っている。寒さは今いる土地よりは厳しい。
「本当ね。いつも寒いね」
「今年は気候があれだから」
天気予報では北の方から強烈な寒気団が降りてきて例年になく寒いのだそうだ。アナスタシアは故郷の天気が遊びに来てるのかなと思った。
流氷に囲まれた海の近くで、海産物を加工していた祖母の姿が思い浮かぶ。降り始めた小さいカツミレの花びらのような雪が、記憶の中で舞い踊る。
「バーブシュカ、私は元気です」
サハリンの祖母に届けとばかり目を閉じて念を送った。数秒後、彼女がいたサハリンの光景が脳裏で再生された。それが想像の産物なのか彼女が受け取ったテレパスなのかは、神のみが知っている。
バスが動き出す。日本の家屋を白く染め上げた雪は、サハリンに舞う粉雪と同じものかもしれない。
アナスタシアは窓を手で拭って外を見た。拭われた水滴は、水の塊を窓に残した。