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出会いが神格化する時

ちょっと描写が弱いです。精進します。

 ダイエットのために歩くのがいいと聞き、地下鉄の駅を途中で降りて一駅ぐらい歩いてみるつもりだったのに、運動不足の身体は言う事を聞かず、筋力の助けのない膝は自由は方向を目指し始める。アスファルトを蹴る靴底はいつもより増して重く。空の青さも活力の助けにはならない。今はもう転ばないようにそれでいて苦役から逃げるように速足で四肢を持ち上げる。


「そういえば並走する市電があったよな」

何かの拍子に見た地図の都心部が脳裏をよぎる。楽をしたい気分でいっぱいになり、道を垂直に進み始めた。路面電車の走る方向へ。照り返しで陽炎の発生したアスファルトを横切ると、箱から出した羊羹のようにてらてらと光る電車の軌道が見えた。


 すこし切り立った安全地帯に足を乗せて立ち上がり、時刻表を見ると昼間の時間帯だったので、電車の時間はアバウトに表示されていた。少し苛立ったが時間の経過とともに腹立ちが消えて、郷に入れば郷に従えという気分に切り替わる。


 シルバーの近未来的な車両がのっそりと姿を現す。ポラリスのお出ましだった。普段、市電を利用しない則人《のりと》は、前の人に倣って電車に乗り込んだ。と少し遅れて白い帽子に水色のブラウスを着た女性客が駆け込んできた。サンダルで乗り込んだ彼女は勢いづいていたのか転びそうになった。則人は思わず手が出て、彼女を支えてやった。


「ありがとう。この電車乗りたかったの」彼女は頭を下げたあと則人の顔を見る。そして初めて会ったのもおかまいなしに喋りはじめた。


「この電車、最新式で珍しいのね。よく乗るの」

「いいえ、初めてです」

「良かったじゃない。君、ラッキーよ」


 その後彼女は、初対面とは思えない馴れ馴れしさで話をつづけた。則人は面食らいながらも黙って相槌を打っていた。


「この時期は新緑とのコントラストが奇麗で一度行ってみたかった。路線図見たら山の方にも行けるよね」

「ええ。はい」

「今日暇? 一緒に山に登らない」

急な提案だったが、彼女の勢いに押されて承諾した。先ほどの軽い疲労感はどこかへ消し飛んでいた。



 山の近くの停留所で降りた。彼女はスマホで去り行く電車を撮影した。なぜかうっすらと涙が流れていた。

「じゃあ、ロープウェイで頂上まで行こうね」

「あ、はい」


 他の客と一緒にロープウェイに乗り込む。カップルでもないのに彼女は身体を寄せてきた。ボディゾーンを無視した接近に則人は戸惑いを隠せなかった。


 彼女の瞳は涙でうるんでいた。則人にはその意味が掴めなかった。目でも悪いのだろうかと訝しんだ。

頂上の売店で焼きトウモロコシをパクつきながら、則人は彼女の話をじっくり聞いた。彼女は初めて外に出た入院患者のようにはしゃいでいた。


「あ、名前言ってなかったわね。小諸えいすって言います。年は二十歳です」

「はじめまして。沼田則人です」


話すことがなくなったのか、少しの沈黙の後えいすは口を開いた。

「私じつは占い師で、寿命今日までなの。生きているうちに一度でいいからデートしたかった。占いで調べたら、電車に縁があるって出てたから狙ったの。ごめんね驚かせて」

則人は相手を不思議ちゃんだと思ったが、相手を否定せず話をつづけた。

「占いなんて当たらないよ。気にするなよ」

「いいや私の占いは当たるの。楽しいひとときをありがとう」

礼を言って彼女は別れた。連絡先は特に訊かなかった。不思議ちゃんは苦手だったから。


 自宅に戻って古新聞を整理してると、今週の占いに目が留まった。「いて座のあなたは意外な出会いがあります」占者は小諸えいすだった。


 翌週、占者の訃報により連載は終わっていた。


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