地球よ俺を酔わせてくれ
一発書きで話を作りました。プロットなし、下書きなしです。
太陽と地球の距離の間にある夾雑物を取り払われたのか、日差しが暑い。天空に輝く黄白色に見える星は長い間見つめていると黒い残像が残る。彼はしばらく網膜に残り、見ようとする物を全て遮る。邪魔な照準がゲーム画面のごとく宙に漂っていたが一人の女性をロックオンした。
「なにしてるの廓」
呼び止められた少年は、眼をしばたいて残像を追い払おうとしていた。顔は見えなかったが、中音域のキーボードを思わせる声で相手を判別した。
「真那か。太陽を見ていた」
廓と呼ばれた少年は、振り返って女性を見ていた。黒い丸は徐々にその姿を背景と同化させて存在感を消していく。やがて、モアレ状になった電気信号の中に、真那の呆れた表情が浮き彫りにされた。
「廓っていっつも変な事ばかりしてるのね」
逆光の位置では見にくかろうと、廓の反対側に歩みを進めて向きを変える。亜麻色の髪の毛がときおり気まぐれに吹き返す風になびいた。馬の尾のような髪の束が風にそよいだ。
「自然を感じたいんだ。全身を使って」
チェックのシャツの下に黒いTシャツを着て、その色はいかにも太陽熱を吸収しそうだった。褐色に焼けた肌は、この夏の活動ぶりを如実に表している。
「健康に悪いから太陽を見るのはもうやめなよ」
「うん」
少年は素直にうなずいた。影が少年に返事を返したような動きに見えた。
夏の天気は変わりやすい。山の方に見えていた濃い青い雲が、アスファルトの地面を照射したように変化し、重い雨粒が彼らをあぶりだした。
「きゃーっ。冷たい」
「いいぞいいぞ雨粒よ。火照った身体を冷やしてくれ」
少女は手で頭を押さえながら、民家の軒下に逃れて雨宿りをする。湿ったモルタルが背中の汗と同調してシャツを濡らす。ふと少年を見ると、彼は雨の中伸びをしていた。
「本当にあんたは不健康に生きてるね」
真那は、廓の濡れた手首をつかむと、軒下へ連れて行った。濡れた衣服は、太陽光と雨水のハイブリッドで生暖かく重かった。シャツを絞るが固く、水が切れることはなかった。
「これどうすんのさ。あんた風邪ひくよ」
「晴れたらまた乾くよ」
身体全体で、地球を感じ取る廓の大胆さに心惹かれる所が真那にはあった。彼の無謀さは心配の種でもあったが、それほどの嫌悪感はなかった。夏休みを何度も超えて、廓はどこへ向かうのだろうか。真那は、彼の成長ぶりを一生見届けたいと思っていた。
雨はいつの間にか止み、身体を焦がし続けた太陽が、いつもの場所で仕事を続けていた。