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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十八章

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命令とお願い

 

 ウィザリーに王位を譲ってから十年が過ぎた。


 皆からは王として優秀という評価を貰っている。でも、その評価に満足することなく色々と頑張っているようだ。


 話を聞いたら私を追い越したいということだったけど、もうすでに私を超えている。慢心させないように「母という壁を越えて見せて」って言ってみたら、真に受けてさらに頑張っている。


 世代の変わり目なんだろう。


 スザンナ姉さんは親衛隊の隊長を辞めて私専属の護衛となった。


 昔からそうだけど、公の職でそうなったという意味だ。親衛隊の隊長を継いだのはレニーちゃん。水を操るユニークスキルはないけれど、スザンナ姉さんの昔の恰好をして水の魔法を好んで使っている。まだ若い方にもかかわらず、相当強いらしい。


 ヴァレリーは団長を辞めて今は教官的な仕事をしている。今は新兵の訓練が主な仕事だ。


 レイヤ姉さんも似たようなことをしていて、その上に貴族の振舞的な部分の教育係もしている。そういえば、今度レイヤ姉さんの次女が親衛隊に入隊するとか言ってたかな。


 クル姉さんは二年くらい前にルート兄さんとルハラ帝国に戻った。外交官という立場も終わって、今は孫達と一緒に帝都で城に住んでいる。孫達はかなり優秀で今の皇帝の護衛をしているとか。


 アーヴェスはいまだに現役で宰相をしていてウィザリーを支えている。そして今はウィザリーのお婿さんを次の宰相として鍛えているみたいだ。


 長いようで短かった十年。色々なことがあったけど、順調に世代の交代ができたと思う。トラン王国はこれからも安泰だろう。


 そのことに安心をしたからなのか、単なる年齢なのかは分からないけど、ずいぶんと老け込んだと思うようになった。


 私ももう六十。


 あれほど無理な動きができた体が思うように動かなくなった。それでも同じ年代の人よりは動けているけど全盛期ほどじゃない。


 羽のように軽かったフェル・デレも今では両手で持つのがやっとな程度。日課の素振りもできなくなった。


 もうダンジョンには数年行ってない。行ってもアビスちゃんのところくらいだ。


 無理をしたわけじゃないけれど、これが勇者の因子によるデメリットというか反動なんだろう。


 ただで普通の人よりも力が使えるわけじゃない。今まで無理矢理に力を出していた分のツケを払っているようなものだ。


 でも、これのおかげで私は王位を取り戻せた。それに色々なことができたのもこの力のおかげ。たとえ普通の人よりも寿命が短かったとしても、いまさら恨み言なんてない。


 それに私は運がいい。


 アビスちゃんから色々なことを聞いた。大霊峰にいた古代竜さんが言っていたことも今なら理解できる。


 本来、この力は魔王を倒すための力だ。勇者と魔王は常に殺し合いをするという神が決めたシステムがあるらしい。


 魔王が魔族を率いて人界に攻め込み、人族の脅威となる。人族は一致団結するけど、それでも勝てなくて、ある程度人族が減ったら勇者が魔王を倒す。


 そうやって何百年も人族の数を調整していたらしい。そういう計画のシステムに魔王と勇者は組み込まれている。


 ただ、百年以上前の戦いで魔王に問題が起きた。


 本来、魔王になるはずだったウェンディ姉さんが行方不明になって魔王不在の時期が五十年程あったとのことだ。魔族さんが魔界に留まり人族を襲わなかった時期だ。


 そして本当ならウェンディ姉さんはセラに殺されるはずだったらしい。でも、それがなくなってセラは不老不死のまま人界を放浪していたとか。


 もしそのとおりになっていたら、次の魔王はおそらくオリスア姉さんだったという話だ。そして次の勇者はバルトスおじさんだった可能性が高いとか。


 二人とも晩年は結構仲良くしていたんだけど、なにかが間違えば憎しみあって戦っていたんだろう。


 そしてバルトスおじさんの次の勇者は私だった可能性が高いとか。ただ、オリスア姉さんの次の魔王は分からないらしい。


 フェル姉ちゃんの可能性は低かっただろうとのことだ。そもそもフェル姉ちゃんは魔王の因子がなく、無理矢理ウェンディ姉さんの因子を埋め込まれたらしい。


 魔王ではなかったとしても、私は勇者としてフェル姉ちゃんと殺し合いをしていた可能性は高い。


 でも、運良くそんなことにはならなかった。


 私は魔王となったフェル姉ちゃんと出会い、勇者候補の力を使って王位を取り戻した。それは運が良かったのだろう。寿命が減るくらいなんでもないと思えるほどだ。


 本来なら私は魔王を倒して、一週間後には亡くなるという筋書きだ。魔王を倒した勇者は一週間以内に死ぬことが決まっているらしい。ただ、魔王を倒さなければずっと不老不死だとか。


 魔王も勇者以外には殺されない。条件付きだけど不老不死で、それが今のフェル姉ちゃんということだ。


 色々なことをしでかしているのは、フェル姉ちゃんの敵であるイブって人。


 空中都市でイブがフェル姉ちゃんの記憶を奪ったり、魔王様を永い眠りにつかせたりしたとか。相打ちだったみたいで、イブも永い眠りについたらしいけど。


 フェル姉ちゃんの人生は壮絶だ。私もそれなりの人生だけど、それにくらべたら大したことがない。しかもフェル姉ちゃんは不老不死のまま生き続ける。


 それはどんな気持ちなんだろうといまだに思う。運が良かったのは私だけで、フェル姉ちゃんは運が悪いなんて言葉では言い表せないような人生を送っている。


 親しい人が亡くなっていく中、姿形が変わらずにずっと生きていく。それは想像できないくらいに苦しいはず。


 私もいつかはおじいちゃん達がいるであろう場所に行けると思う。死後の世界があるかなんて分からないけど、そう思うことで心の寂しさを埋める。だから寂しくて悲しくても耐えられる。


 でも、フェル姉ちゃんはそこへ行けない。永遠にこの世に生きる。アビスちゃんやジョゼちゃんがいるから大丈夫だとは思うけど心配だ。


 おじいちゃんが亡くなった頃から、フェル姉ちゃんは城にあまり来なくなった。葬儀にも参加はしてくれなかったし、最近はアビスに閉じこもっていることが多いとも聞いた。


 ウィザリーとも距離を置くようになったし、私に孫ができたと言っても理由をつけて会いに来てくれなかった。喜んではくれて、色々な高価な素材を送ってはくれたけど、あんなに赤ちゃん好きだったフェル姉ちゃんは結局会ってくれなかったな。


 スザンナ姉さんの話だと、別れが辛いからだろうとの話だ。


 出会いがあれば別れがある。逆に言えば、出会いがなければ別れもない。そんな風に思っているのかもしれない。


 ヴァイア姉さん達はなにかとフェル姉ちゃんにお願い事をしているみたいだ。それは外に連れ出す名目なんだろう。それとも思い出をたくさん作ってあげようとしているのか。


 私も何かしてあげたいな。




 久しぶりにアビスちゃんのダンジョンに来た。


「アンリ様、お久しぶりです。今日はどうされました? フェル様とジョゼ達は魔王様を探しにダンジョンへ行っているのですが」


「それを見計らってリンちゃんに転移門を開いてもらった。ちょっとアビスちゃんにお願いしたいことがあって」


「私にですか? それなら念話でも構わないと思いますが……?」


「これはお願いと言うより、命令でもある。だから直接言いに来た」


「それはまた……いえ、アンリ様は私のマスターです。なんでもおっしゃってください」


「うん、それじゃ最優先命令を伝えておく」


 一度そこで言葉をとめてから、改めて命令した。


「フェル姉ちゃんの力になってあげて」


「アンリ様、それは――」


「私が亡くなったらフェル姉ちゃんに何もしてあげられない。だからアビスちゃんにフェル姉ちゃんをお願いする。これはアビスちゃんのマスターである私からの命令であると同時に、友人からのお願いでもある」


「アンリ様……」


「フェル姉ちゃんはこれから辛い思いをしていくと思う。でも、私はずっとそばにいられない。だからずっとそばにいることができるアビスちゃんにお願いする」


 本当は魔法生物であるジョゼちゃんにもお願いしたいところだけど、ジョゼちゃん達はそんなこと言わなくてもやりそうだから大丈夫だと思う。


 あとエルフであるミトル兄さんにもお願いしておこう。


「言っておくけど、フェル姉ちゃんに絶対に従って欲しいという話じゃない。従うかどうかはアビスちゃんが判断して。でも、どんなことがあってもフェル姉ちゃんの味方であって欲しい」


 アビスちゃんは何も答えない。


 なにか答えて欲しいと思ったところで、目の前に人型のアビスちゃんが現れた。


 メガネをかけて、髪がすこしぼさぼさの白衣を着た二十代くらいの女性。アビスちゃんもあの頃から全く変わらない。まあ、これは魔素の身体だからなんだけど。


 そのアビスちゃんは私の前で片膝を付いた。


「マスターからの命令、そして友人からのお願いとして最優先命令として設定しました。最強で最高のダンジョンを目指すよりも優先させますのでご安心ください」


「ありがとう」


「ですが、申し訳ありません」


「えっと、なんで謝ったの?」


「アンリ様の勇者の因子をなんとかできれば、寿命を少し伸ばすことも可能だったのですが、今の私の知識や技術ではどうすることもできないからです。私はマスターであるアンリ様の、フェル様とできるだけ長く一緒にいたい、という望みを叶えられません」


 そんなことか。でも、それは気にしなくていい。大体、アビスちゃんのせいじゃないし、私はこの力が結構好きだ。


「気にしないで。私は勇者の因子があるおかげでこんなに素晴らしい人生を送ることができたと思ってる。たとえ因子をなんとかできたとしても、今になって手放したいとは思わない。この因子とは死ぬまで一緒にいる。だから私の代わりにフェル姉ちゃんをお願いする」


「承知しました。必ずフェル様の味方でいますのでご安心ください」


「うん。お願いね。ところで他の皆はいる? もう戦うことは出来ないけど、皆とお話をしておきたいから」


「はい、ではすぐに呼びます。魔物達にとってボスとの会話は何よりの褒美ですからね」


 よし、皆にもフェル姉ちゃんのことをお願いしておこう。


 魔物さん達は種族にもよるけど人族よりも遥かに寿命が長い。ジョゼちゃん達みたいにお願いしなくてもやってくれそうだけど、ボスとして命令とお願いをしておこう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アンリが六十歳…… 初登場時は五歳だったんですよね。 他所の子は成長が早いと言いますが、まさか年齢を追い越される程に早いとは…… ずっと戦ってた気もしますし、ずっと遊んでた様な気もする、…
[一言] 少し寂しいですが、静かなエピローグをありがとうございます。 本編で唐突に現れたウェンディさん、魔王候補とはありましたが本当に魔王になる予定だったとは気が付きませんでした。戦争で人界に来てた…
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