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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十八章

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聖母への報告

 

「というわけで、リエル姉さんを説得するのに力を貸して」


「……もう言わなくていいんじゃないか? 面倒くさいし」


 アーヴェスが次の宰相になることが決まった日の翌日、さっそくフェル姉ちゃんを呼んで対策を練ることにした。


 ところがフェル姉ちゃんはそんなことを言っている。


 気持ちは分かる。リエル姉さんは結婚式当日に「絶対ヤダ」とか言い出して精霊の呼び出しを拒否するような真似もする。ディア姉さんがそれをされた。つまり、事前の説得はあまり意味がない。


 でも、何も言わないで結婚するのはあまりにも不義理だし、私の結婚はリエル姉さんに進行してもらいたい。たとえ事前報告で拒否されたとしてもだ。


 それに言わずに結婚なんかしたら聖人教と戦争になるかもしれない。リエル姉さんならそれくらいやりそう。


「そこをなんとか。できればスザンナ姉さんの分も」


「難易度を上げるんじゃない」


 確かに一気に二つはだめかもしれない。まずは私の方の説得からかな。


 フェル姉ちゃんが溜息をついた。


「仕方ないな。とりあえず、リエルに会ってアンリから説得してくれ。私もその場で説得するから二人がかりでやろう」


「うん。ありがとう。ちゃんとフェル・デレも持ってくから」


「戦いに行くんじゃないぞ――似たようなものだが」


 今日はもう転移門を開けないと言うことで明日行くことが決まった。しっかり準備していこう。




 翌日、お忍びでソドゴラの妖精王国へやって来た。


 いつも集まっていたテーブルがまだあって懐かしい気持ちでいっぱいになった。でも、テーブルがすごく小さくなったように思える。


 ソドゴラを出てからずいぶん経ったけど、ここだけはそのままだ。いつまでも変わらない物があるってかなり嬉しい。


「ところでアーヴェスはどうしているんだ?」


 フェル姉ちゃんがリンゴジュースを飲みながら聞いてきた。


「今はおじいちゃんと一緒に色々やってくれている。今までも相当鍛えていたみたいだけど、これからは気兼ねなく鍛えられるから本気を出すって言ってた」


「そうか。本気だすのか」


 アーヴェスならどんな状況でもやってくれるはずだ。まだちょっとしか話していないから不満はあるけど、結婚すれば話す時間も増えると思う。もう少し我慢しよう。


「それにしても本当にアーヴェスと結婚するとはな。ちょっとは考慮してやってくれってくらいの意味で言っただけなんだが」


 確かにその通りだ。あまりお互いのことを知らないのに、お互いにやったことだけを知って結婚に至った。


 アーヴェスは絶対に勝てないフェル姉ちゃんに挑み続けて、それでも諦めなかった。私はそれを知って興味を持った。ただそれだけの関係だったのに。


 これはフェル姉ちゃんのおかげだろう。


「フェル姉ちゃんは私達のキューピッド。結婚式で花を撒く権利をあげる。フェアリーフェルって呼ぶ」


「絶対にやめろ」


 かなり真剣な顔で言われた。でも、花を撒くような年齢の知り合いはいないかも――年齢的にはちょっと高すぎるけどリンちゃんやモスちゃん、それにハクちゃんにお願いしようかな。


 あ、待った。もう一人いる。


「そういえば、ディア姉さんに赤ちゃんが生まれたんだよね? 今いくつ?」


「エーテルのことか? もう九歳――いや十歳だったかな。可愛いんだが右手に包帯を巻いたり、恰好いいポーズの研究をしたりして、ちょっと将来が不安だ。でも、私を慕ってくれてるし、可愛いぞ」


 可愛いって二回言った。


 でも、すでにチューニ病的なことをしているんだ。あれの全盛期は十四歳とか聞いたことがあるけど。


「それってディア姉さんの教育によるもの?」


「……教えてないらしい。ディアは『うちの子は大物になるよ!』って喜んでたな」


「なんの大物なのかは聞かないけど、生まれ持った才能ってこと?」


「魔眼でみたけど、そんなのはなかったけどな。まあ、魔眼でも分からないことはある」


 遺伝、かな。それにしてもディア姉さんの子はエーテルちゃんって名前だったんだ。確か女の子だとは聞いていたけど名前は知らなかった。そんなことも知らないくらい余裕がなかったのかも。


 そのエーテルちゃんは十歳。それならリンちゃん達と一緒に頼もうかな。


 あれ? でもリンちゃん達っていくつだったっけ?


 確か私とリンちゃんは六歳か七歳違いだったかな? 私が二十八だから――え? まさかの二十越え?


「フェル姉ちゃん、リンちゃんはいまいくつ?」


「たしか二十二になったんじゃないか? 今は魔術師ギルドでかなり活躍しているってヴァイアが嬉しそうに言ってたぞ。モスやハクは十八だったかな。もう立派な大人だな」


 時の流れを感じた。リンちゃん達はいつのまにか成人になってた。フェル姉ちゃんが全く変わらないから時間の流れを忘れるけど、結構な時間が経ってたんだ。


「なんだ? 私の方を見て。リンゴジュースはやらんぞ」


「それは普通に頼むから安心して。ちょっと時の流れを感じてただけ。ただ、フェル姉ちゃんはいつまでも変わらないから少し安心した」


「……不老不死だからな」


 フェル姉ちゃんはそう言うと少しだけ暗い顔をした。


「どうかした――」


「よお! アンリ! 俺に話があるんだって?」


 リエル姉さんがやって来た。それと同時だったのかフェル姉ちゃんはいつも通りの顔だった。というか呆れた顔をしているような感じもする。


 よく見ると、リエル姉さんもあまり変わってない。というかますます綺麗になっているような……?


 たしか私と十三歳は違うはず……四十を超えてもこの容姿ってすごい。


 リエル姉さんは椅子に座るとリンゴジュースを頼んだ。


「忙しいところきてくれてありがとう、リエル姉さん」


「何言ってんだ。俺とアンリの仲だろうが。子供が遠慮すんな」


 もう二十八だけど、リエル姉さんの中で私は子供なんだろうな。


「それでどうしたよ? またトラン王国へ来てくれって話か?」


「それもあるんだけど、大事な話がある。あとお願いしたいことも」


「大事な話? お願いしたいこと? 何があった? 俺にできる事ならなんでもしてやるぞ」


 リエル姉さんが真剣な顔で見つめてくる。


 こういうところはリエル姉さんのいいところなんだけど、豹変しそうでちょっと怖い。


「えっと、その、今度結婚することになったから式の進行役をお願いしたい」


「へー、誰の?」


「もちろん私の」


「アンリの……?」


「それ以外の人で進行役をお願いするわけない」


 リエル姉さんは少し止まったけど、次の瞬間には笑い出した。


「アンリもそういう冗談を言う歳になったか」


「いや、冗談じゃなくて」


「おいおい、アンリ。子供は結婚できないんだぞ。せめて成人してからじゃないと」


「私、もう二十八なんだけど」


「二十八……? 誰が?」


「もちろん私が」


 リエル姉さんはまた止まった。そして今度はギギギと聞こえるような感じの動きでフェル姉ちゃんの方を見る。


 フェル姉ちゃんは頷いた。


「よく見ろ。アンリは二十八で間違いない。立派な大人だ。現実逃避するな」


「……なら結婚の話も?」


「間違いないぞ。私も相手は知ってるし」


「……そうか」


 思いのほか、普通の反応だ。もっと暴れるかと思ったんだけど。


「アンリは王族だもんな。お世継ぎのためにも結婚は必要か」


 意外と理解があった。ヴァイア姉さんとかディア姉さんのときと反応は違うけど、それはそれでちょっと悲しい気もする。私が結婚しても寂しくないってこと?


「俺もロモン聖国の貴族だったから分かるぜ。あの頃は俺にも見合い話があったもんだ。あれが俺の全盛期だったんだろうな……」


 そういえばそんな話をきいたことがある。変なことをやりすぎて勘当されたとか。


 でも、リエル姉さんの全盛期は今まさにこの瞬間だと思う。全盛期すぎて誰も結婚を申し込んでこないレベルになってるけど。


「分かった。結婚式の進行役をしてやる」


「え? 本当?」


「女に二言はねぇ」


「ありがとう、リエル姉さん。嫌だって言ったらフェル・デレで交渉するつもりだったから助かった」


「まあ、アンリも大変だろうから文句は言わねぇよ。だから頑張れよ」


 うん? ちょっとニュアンスが変と言うか、憐れみを感じているような顔をしているんだけど?


「えっと、頑張れって?」


「政略結婚なんだろ? 村長が選んだ人と強制的な結婚なんだろうけど、王族や貴族なら仕方ないよな。でも、大丈夫だぞ。一緒になることで芽生える愛もある」


 色々と勘違いしているような気がする。少なくとも政略結婚じゃない。ヴァイア姉さんやディア姉さんみたいにラブラブというほどでもないけど、お互い信頼し合った上での結婚だ……と思う。


「リエル姉さん、そういうわけじゃ――」


「アンリも大変だからリエルもしっかり祝福してやってくれ」


「おう、任せろ。結婚式は当然トラン王国だよな? マナもいるし、親子で祝福してやるぞ!」


 なぜかフェル姉ちゃんがそういうことにしてしまった。


『面倒だからこれで行こう』


 フェル姉ちゃんからの念話だ。面倒だからってそれはないと思う。


『騙すのは良くない。私としてはリエル姉さんにちゃんと事情を知ってもらった上で祝福してもらいたいんだけど』


『安心しろ。どうせ当日になればバレて暴れるから本気の説得はその時だ。それまではリエルにバレないようにしておくから、結婚式の進行中に休憩時間とかで説得の時間を作ってくれ。二時間で説得する』


 策士がいた。でも、確かにその通り。ここで説得しても当日に暴れる可能性は高い。まずはリエル姉さんをトラン王国へ呼ぶことが先決だ。


『二時間で足りるかな?』


『大丈夫だ。リエルはなんだかんだ言って最後は認める。だいたいコイツ、結婚を反対なんかしてない。寂しくなるから駄々をこねているだけだ。ヴァイアのときもディアのときも結局コイツが一番二人の結婚を喜んでたからな。私が説得していた時間を返せと言いたい』


 なるほど。だからフェル姉ちゃんはこの場で説得するのが面倒なんだ。というか、フェル姉ちゃんが懸命に説得してくれるから、リエル姉さんも駄々をこねるのに手加減してないんじゃ……?


 まあいいや。日程に余裕もないしリエル姉さんには悪いけど、まずはトラン王国へ来てもらおう。


 決戦は結婚式当日。今のうちから説得の準備をしておこう。


 あとはディア姉さんにウェディングドレスの作製依頼だ。お金に糸目をつけず、超特急でお願いしよう。


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