表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

466/477

カウンター

 

 アーヴェスに会うため、王都にある王族の別邸に呼んだ。


 さすがに男性を自室に呼ぶのはよろしくないし、玉座の間では王として会う必要がでてしまう。なので別邸にある中庭で会う予定だ。


 今はだれも住んでいない別邸。本来は王位継承権を持っている人が住むような場所だけど、ダズマは死んだことになっているし、そもそも継承権は放棄した。今は継承権を持っている人はだれもいない。


 こんな豪華な屋敷を使っていないのは少々問題があるけど、歴史があるみたいで壊すわけにもいかない。なにか上手い利用方法でも考えてもらおう。


 誰も住んでいなくても、メイドさん達が毎日手入れをしてくれているようで、中庭は綺麗になっている。


 名前も知らない綺麗な花が結構咲いていて落ち着く。色々と味を覚えたお茶を飲みながらそれを見ていると、優雅な気分を味わえる。


 本来は私がアーヴェスを待つような真似はしない方がいいらしいけど、そんなことはどうでもいいと思う。


 問題はアーヴェスだ。悪い人じゃないのは分かった。ただ、皆に相談した限りではあまり乗り気じゃない。


 そもそも存在を知ったのが半年から一年前。つい最近まで名前や姿をおぼろげにしか覚えていない相手を運命とかちょっとおかしいとか言われた。


 誠に遺憾ではあるけど、確かにその通りなような気もする。


 私にほとんど会ったことがないのに、そこまで根性を見せるのもなにか裏があるんじゃないかって心配もしてくれていた。姿は見えないけど、皆は近くに潜んでいるんだろう。なにかあれば飛び出してくるつもりだ。


 今日、見極める。


 私は確かに恋愛関係に疎い。


 それに周りも特殊な事例ばかりで参考にならない。


 フェル姉ちゃんはアレだし、ヴァイア姉さんはアレだし、リエル姉さんなんて、ものすごくアレだ。かろうじてディア姉さんは参考になりそうだけど、ちょうどそのころはソドゴラにはいなかったから詳しくは知らない。


 アーシャ母さんとウォルフ父さんも私のために偽装夫婦をしていたけど特殊すぎて参考にならないし、ニア姉さんとロンおじさんは愛の逃避行だし、普通の恋愛で普通に結婚した人がいないのは由々しき事態だ。


 クル姉さんとルート兄さんのことはよく知らないし、ベルトア姉さんはかなり内緒にしてたし、スザンナ姉さんは言わずもがな。


 はっきり言って私の近くにいる人達の恋愛はなんの参考にならない。


 なら私は直感で行く。駆け引きは不要。零か百かだ。


「アンリ様、アーヴェス様がいらっしゃいました」


「ここまで案内してあげて」


「承知しました。ところでアンリ様。アーヴェス様は公爵家の方だったと思うのですが……」


「うん? その通りだけど? 昔でいうところの天の公爵家」


「大貴族ということですよね?」


「その通りだけど、どうかした?」


「歩いてこられましたけど……」


「え?」


「馬車ではなく、徒歩で来られました。それに護衛もおりません。お召し物もあまりいい物とは言えず、ちょっと裕福な平民と変わらないような状況なのですが」


 アーヴェスは公爵家の嫡男だ。その人が馬車にも乗らず、護衛もなしで来た?


「本人なのは間違いない?」


「はい、それは間違いございません。鑑定スキルや分析魔法でしっかりと確認しております」


「これって不敬になるのかな?」


「前例がないのでなんとも。ただ、アンリ様はお忍びでいらっしゃっていますので、そのあたりを配慮してくださったのかもしれません」


 下手に大勢でくると私がここにいることがバレる事になるかもしれないってことか。


 その可能性はあるけど、もしかしたら、あの噂なのかもしれない。


 アーヴェスは間違いなく公爵家の嫡男だけど、家族からは疎まれているとも情報にあった。


 簡単に言えばどんなに努力してもそれに見合う結果がでないから。それはスキルのせいだけど、家族はそのことを知らない。本人もフェル姉ちゃんから教えてもらって最近知っただろう。


 おじいちゃんの話ではアーヴェスは頭がいいと言っていた。でも、頭がいいだけじゃ貴族は無理だ。


 貴族には領主として土地の運営を任せているから魔物の襲撃にも備えなくてはいけないし、盗賊とか山賊の討伐もする必要がある。自らが先頭に立って戦う必要もあるはずだ。そういう分かりやすいことに領民はついてくる。


 でも、アーヴェスにはそれができない。家族はもとより、家臣達や領民にも頼りないと思われているのかも。


 頭がいいなら内政を上手くやれる可能性はあるけど、ああいうのは長期的な対応の結果だ。すぐにどうこうってわけでもなく、結果も地味な場合が多いからよほどのことをしない限りは評価されないだろう。


 それにアーヴェスは公爵家から私の婿として推薦はされなかった。おじいちゃんが持って来てくれたお見合い用の絵になかったのはそういうことだ。


 つまり私の婿になろうとしているのは本人の意思のみで公爵家の総意じゃない。


 私と結婚したい理由……もしかしたら周りを見返したいって話なのかな。


 そういうつまらない理由じゃないことを願おう。でも、もしそうだった時は……フェル・デレのサビになってもらうかもしれない。


「状況はわかった。私は気にしないから入ってもらって」


「承知しました」


 さて、どうなるかな。




 アーヴェスが中庭にやって来た。


 しっかり見るのはこれが初めてだけど、茶色の髪と茶色の目をしている美男子と言っていいと思う。全体的に線が細い感じがしたけど、かなり鍛えこまれた体で一切の無駄がないって感じだ。これで弱いっていうんだから不思議。


 着ている物は報告通りそれほどいい物じゃなさそう。ちゃんと手入れはされているみたいだけど、それほど高級な物とは思えない。見栄を張るのも貴族の仕事と言えるほどなのに、これじゃ見栄も張れていない。


 私は気にしないけど、他の貴族からは笑われるかも。


 そのアーヴェスが片膝を付いた。


「アンリ国王陛下。アーヴェスと申します。本日はお招きいただきありがとうございます」


「畏まらないでいい。今日は非公式だから無礼講。私のこともアンリと呼び捨てでいい。私もアーヴェスって言うし」


「いえ、そういうわけには――」


「これは王からの命令だと思って」


「ではアンリ様で」


「それなら許容範囲。椅子に座って」


 アーヴェスは立ち上がって一度お辞儀をした後に椅子へ座った。


 丸いテーブルを挟んで正面だ。メイドさんがテーブルに焼き菓子とお茶を用意してくれた。


「どうぞ」


「ありがとうございます。いただきます」


 焼き菓子を一口、そしてお茶を飲んで「美味しいです」と笑顔で言った。


 所作の一つ一つが貴族って感じだ。私なら一口で頬張ってバリバリ食べる。それをやると怒られるけど。


 さてと、余計なことはせずに単刀直入に聞こう。


「アーヴェスに聞きたいことがあるから呼ばせてもらった。正直に答えて欲しい」


「はい」


「私のことが好きなの?」


 アーヴェスはびっくりした顔をしている。


 ここは「好きです。結婚してください」と言ってほしかった。それなら「はい」って答えたのに。


 びっくりした顔から思案顔になったアーヴェスは私を見つめて口を開いた。


「長くなりますが聞いてもらってもいいでしょうか?」


「え? 長いの? 一応聞くけど」


 好きかどうか聞いたのにそれを説明するのが長いんだ?


 もっとシンプルでいいんだけど。


「アンリ様のことはもちろん好きですが、尊敬や憧れの方が大きいです」


 尊敬? 憧れ? あまりそう言われたことはないかも。傭兵時代はそう思われていたことも多かったけど、王になってからその評価はあまりない。だって簒奪王だし、変なことをする王様って感じだ。嫌われてはいないと思うけど。


 もしかして私が強いことに憧れているのかな?


 これからその理由を教えてくれるのだろうから、ここは何も言わずに聞こう。


「フェル様から聞いていると思いますが、私はいくら努力しても強くなりません」


 その言葉に頷く。


 全てがスキルで評価されるわけじゃないけど、少なくとも戦闘行為でスキルがあるかどうかは重要だ。


「子供の頃はそれでも良かったのですが、歳を取れば色々と判明します。そして私は公爵家の嫡男。国民が眠りにつく直前くらいの頃には、家族や家臣は誰も私に期待していませんでした」


 逆算するとちょうど成人したころだと思う。そのころから期待されていなかったんだ。


「目を覚ましてからも同じです。公爵家は眠る前よりはるかに力を失いました。父が健在なので建て直すことはできましたが、私には誰一人として期待していなかったでしょうね」


 さっきからネガティブな発言が多いけど、これがずっと続くのかな?


「アンリ様も同じだったと思います」


「え?」


 そんなことはないと思う。少なくともおじいちゃん達には期待されていたはず。何をもって同じなんだろう?


「目を覚ましたばかりの国民は十数年の眠りを強制されてアンリ様に恨みを持っていた。そしてアンリ様は当時は十八になったばかり。国民はだれも期待していなかった」


 そういうことか。確かに国民には期待されていなかったかも。


「私もその一人でして、いくら王族だと言ってもアンリ様が国を建て直すなんて無理、私と同じでどれだけ頑張っても無駄だと思っていました。そのうち、王制廃止派が国民をまとめてクーデターを起こす、そんな風にも思っていましたね」


 最近は大人しいけど、あの頃の王制廃止派は元気だった気がする。


「ですが、アンリ様は私の期待を裏切り続けました」


 そう言うとアーヴェスはさわやかに笑った。


「アンリ様は国のために、そして国民のために身を挺して働き続けました。中には失敗した政策もあるでしょう。ですが、そんな失敗はものともせずにできることはなんでもやった。そして少しずつ国民の心をつかんだ」


 私だけの案じゃないけど、皆の力を借りて色々やってもらった。確かに失敗も多かったけど、上手く行ったことも多かった気がする。


「痛快でした」


「え? 痛快?」


「はい。国民に戦う以外で何もできないと思われていたアンリ様がそんな評判をものともせずに少しずつ国を建て直していった。私はアンリ様を自分と同じだと思っていました。誰にも期待されず、何もできずに終わっていくんだろうと。ですが、どんな状況でも諦めずにアンリ様はトラン王国を建て直し、多くの人から支持されるほどになった。とても痛快でしたね」


「ええと、ありがとう?」


 ……これはない。


 どういっていいのか分からなくてお礼を言ってしまった。


 アーヴェスは少しだけ笑ってから首を横に振った。


「ありがとうは私の方です。期待されなくとも関係ない、失敗しようとやると言ったらやる。そんなアンリ様を見て、生きる希望が湧きました。あのまま眠らせてくれた方が良かったと思っていた私がそんな風に思えるようになったのはアンリ様のおかげです。本当にありがとうございます」


 アーヴェスはそう言って深く頭を下げた。


 そう面と向かって褒められるとちょっと照れる。というか、ちょっと心臓の動きが速いような……?


「それが私を尊敬とか憧れているって話……でいいのかな?」


「はい。そして私をそんな気持ちにさせてくれたアンリ様をお慕いしています。フェル様に何度負けても諦めない、未練がましい男だと思うかもしれませんが――」


「ストップ」


「え? あ、はい」


「ちょっと心の限界が来た。今日はここまで」


「は? あ、はい、承知しました」


「後日連絡するから話はそのときにお願いしたい」


「また呼んで貰えるのを楽しみにしております。では、今日はこの辺りで失礼させていただきます。本日はありがとうございました」


 頷くだけで肯定する。今はちょっと見送りもできそうにない。


 でも、参った。一撃必殺のつもりがカウンターを食らった。


 まさか、私の強さに憧れたとかじゃなくて、王としての振る舞いの方だったとは。


 ちょっと素振りをして心を落ち着けよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 『三大公爵家に生まれましたが、何のスキルも身に付けられない私は周囲の皆から見限られていました。そして国王に国民全てが十数年間も眠らされて目覚めると、美少女が王位を簒奪していました。 ~…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ