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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十八章

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一撃必殺

 

 自室でメイドさん達に調べてもらったアーヴェスの情報をスザンナ姉さんと一緒に確認する。


 一週間くらいだったけど、メイドさん達は喜々として情報を集めてくれた。報酬は恋バナ。どうなるかどうかは分からないけど、後で内密に情報を公開しよう。


 さて、まずは資料だ。


 アーヴェスはトラン王国における三大公爵のうちの一つ、「天」の公爵家の嫡男だ。とはいっても、その三大公爵というのはすでになくなっていて、今はただの公爵家。


 偽物のダズマが王になった時、そういうのは止めると言い出したそうで一方的に廃止された。


 これはノマの進言だったという話がある。


 元々三大公爵は「天」「地」「人」に分かれていて、機神ラリスから天啓を受けたという話が伝わっている。


 偽物のダズマが機神ラリスに作られたから、ノマが偽物のダズマと機神ラリスの関係を悟られないようにしたんじゃないかって話だ。


 アモンに聞けばわかるだろうし、気になると言えば気になるけど、それ以上は調べていない。もう、どうでもいいことだし。


 公爵家は私が王になったとき、その三大公爵の復活を願ったけど、それはおじいちゃんが止めた。これまでのトラン王国と決別するという理由から、神に与えられたものではなく、自分達で何かを得てそれを公爵家として誇れ、と言ったとか。


 当時は私も色々と忙しかったから、そういういのは全部おじいちゃんに任せてた。一応報告も受けていたけど、当時はそれほど気にしていなかったかな。


 それに今ではその公爵家で自分達の売りを探しているというか、色々なことに手を出して公爵家をアピールしているみたいだ。ピーマンだけには手を出さないで欲しい。


 それはさておき、アーヴェスを詳しく調べてもらったら、元々私の婚約者の一人だった。あくまでも私が生まれたときの話で、私が死んだとされた時点で解消されたけど。


 トラン王国の国民は平民貴族関係なく十三年近く眠らされていた。


 本来なら今の年齢に十三歳プラスする。アーヴェスは私より二歳下で、現在二十三歳。プラス十三歳で、本来なら三十六くらいだろう。


 私が生まれた頃は十歳とか十一歳。そのころから私の婚約者だったわけだ。十歳も違う婚約者ってどうなんだろうと思うけど、それくらいは普通らしい。


 そもそも私は王位を継ぐ予定だった。それを補佐する相手が年上なのは問題ないとか。


 他の公爵家には私と同じくらいの子達がいたらしいんだけど、今は逆に年齢が離れてしまって、まだ成人もしていない子もいる。一応、再度婚約者にとアピールしているみたいだけど、十も歳が下の人と結婚するの個人的に遠慮したい。


 というわけで、今回の件で逆に年齢的に近くなったのがアーヴェスだ。二歳下。これなら許容範囲。


「もしかするとこれは運命かもしれない」


 そう独り言を言ったら、スザンナ姉さんがものすごい呆れた顔で私を見た。


「アンリ、あんまり言いたくないんだけど……」


「なんでも言って」


「恋愛に対してちょっと弱すぎない? こういうのは初めてだろうからそうなるのも分かるけど、気になってから一週間程度で運命って」


「スザンナ姉さんには言われたくない」


 最近、スザンナ姉さんとヴァレリー兄さんはいい感じだ。ほぼ公認の中になっている。


 とはいえ、スザンナ姉さんにはファンクラブがあるほどだから、騎士団の中でも絶対にヴァレリー兄さんを団長にはさせないという派閥があるらしい。


 その活躍もむなしく、数年後には間違いなく騎士団長になれるほどの功績を上げているけど。


 たぶん、ヴァレリー兄さんが騎士団長になったらすぐに結婚すると思う。


 顔には出さないけど、行動には出てる。秘密裏にディア姉さんに連絡を取ったみたいだし、あれはウェディングドレスの発注とみた。


 婚約した直後、スザンナ姉さんに聞いたことがある。ヴァレリー兄さんが騎士団長になれなかったらどうするの、と。


 その時の答えがこれ。


「なるよ。間違いない。運命がそう言ってる」


 その言葉を聞いたときの私の衝撃は相当なものだった。食事がのどを通らないという話ではないけど、日課の素振りを止めてまでスザンナ姉さんを心配したほどだ。


 そんなスザンナ姉さんにだけは恋愛に弱いとは言われたくない。


 とはいえ、スザンナ姉さんも心配してくれているんだろう。確かにいきなりすぎる気はする。


 でも、恋愛は時間じゃない。直感だ。


 フェル姉ちゃんから借りた恋愛小説みたいに、付かず離れず、ドロドロな三角関係になり、勘違いによる売り言葉に買い言葉で周囲を振り回すような恋愛はしたくない。


 あれはフィクションだけど、一ページ目で「好きです」「私も」って答えていればそれで終わったはずだ。物語としてはダメだけど、現実はそれくらいでいい。


 おっといけない。考えすぎた。スザンナ姉さんが心外って顔で私を見てる。


「私が言わなくたって、クルもマナもレイヤもそう言うと思うよ? まあ、それはいいとして、結局どうするの?」


「資料を色々見たけど、悪いところは見つからない。今度は直接会ってみようと思う」


「それが一番手っ取り早いだろうね。でも、本当にアーヴェスでいいの? フェルの話だと強くならないんでしょ?」


 確かに私の理想ではない。一緒にダンジョンへ潜って背中を預けられるような人の方が理想ではある。


 でも、一緒にダンジョンへ行くのはフェル姉ちゃんやスザンナ姉さんでいいし、私の留守を任せられるほどの人の方がいいような気がしてきた。


 それにアーヴェスが強くならないならそれでも構わない。


「私がアーヴェスの分まで強くなる。それで問題はない」


 スザンナ姉さんがびっくりした顔で私を見ている。というよりも、新種のモンスターを見たような顔だ。


 そして溜息をついてからちょっとだけ笑った。


「女は恋をすると変わるって本当だね。アンリだと全く想像できなかったけど」


「それはスザンナ姉さんに言いたい。最近、外出が多くない? あと、指の怪我が多い。傭兵料理じゃなくてちゃんとした料理を作ってあげているんでしょ?」


「……………………黙秘する」


 スザンナ姉さんはそう言って手をテーブルの下に隠した。


 それは答えていると一緒だと思う。でも、突っ込むのは止めておこう。


 ちょうどいいところにマナちゃん達がやって来た。こういう時に相談できるのが親友だ。皆に意見を聞いてみよう。




 メイドさん達に調べてもらった結果を報告した。


 基本的に客観的な意見だけで主観な情報はいれていない。


 でも、皆、なぜか呆れた顔をしている。


「皆、どうかした? ビシバシ意見が欲しい」


「いや、意見って、もうほとんど決めてるような感じだったよ? 運命って言葉が多すぎない? あとカパビラって何の隠語?」


 そう言ったのはクル姉さん。


「カピバラはカピバラ。私推しの動物。老後は飼いたい。それはそれとして、客観的な意見でそう思われたのなら、もう決まりかもしれない」


「アンリちゃん、客観的な意見ってどれのこと? 明らかに全部主観が入っていたような……?」


 マナちゃんは酷いことを言う。


「全部客観的な意見だったけど?」


「あの、アンリ様、どう考えてもアーヴェスさんに対する主観的な意見です。というか全部のコメントにアンリ様の意見が入っていたような……いい人なのは分かりましたけど」


 いつでも私の味方であるレイヤ姉さんまでそんなことを言い出した。


 どうやらここはアウェー。おかしいな。


「もしかして、フェルを通して洗脳でもされてるんじゃないの? クル、ちょっと分析魔法で見てあげて。私も水で調べるから」


「わ、分かった、任せて!」


「なら私は解呪の魔法を使ってみる!」


「もし、そんなことをしていたら公爵家付近に潜ませている親衛隊を突撃させます!」


 酷い言われようだ。昔の女神教じゃあるまいし、洗脳なんてされていないのに。


 数分後、皆が首をひねっている。


「おかしい。アンリは普通だね」


「私も同じ結果が出た」


「解呪の魔法もこれでもかって使ったけど変わりないです」


「公爵家付近の親衛隊は一応解散という形にしておきます」


「確かにあまりにも急な変化におかしいと思うのは分かるけど、私にそんな状態異常は掛からないから安心して。たぶん、色々な耐性スキルがあるし」


「なら、アンリは素でアーヴェスのことを好きなの? つい最近まで名前を憶えていなくて、姿もおぼろげなんでしょ?」


「好きかどうかというとちょっとよく分からないけど、努力できて根性がある人なら悪くないと思ってる。これで強ければ完璧だけど、強くなくてもそのマイナスを帳消しにするくらい根性があるなら問題ないかなって。だいたい、他の人はまるで条件を満たしてないし」


 そう言ったらなぜか皆が私をのけ者にして円陣を組んだ。


 そしてひそひそ話している。


 なにか「恋は盲目」とか「名医でも治せない」とか「焦ってる」とか「女心と秋の空」という言葉が聞こえてくる。あまりいい話じゃないような気がする。


 そして何かが決まったのか、皆が頷いてから私を見た。レイヤ姉さんが口を開く。


「皆でアンリを見守ることにした」


「見守るだけなんだ?」


「恋愛経験値が低そうなアンリは色々と勉強するべきという話でまとまったからね。失敗しても今後の糧になると思う」


 皆の顔を見た。


 スザンナ姉さん、クル姉さん、マナちゃんにレイヤ姉さん。


「四人に恋愛経験値が低そうなんて言われたくない。でも、見ているといい。私は一撃必殺でこの恋をものにして見せる」


「もう恋って言ってる……」


 スザンナ姉さんの驚愕したような声が聞こえたけど気にしない。


 恋愛なんて戦いと一緒だ。一撃で仕留める。


 必ず勝って見せるぞ。


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