変な国
あれから一週間が経って、スザンナ姉さんとヴァレリー兄さんの問題はとりあえず落ち着いた。
二人は私が許可をする形で正式に婚約することになった。
いつになるかは分からないけど、きっとヴァレリー兄さんは騎士団長になってスザンナ姉さんと結婚するだろう。
その前準備と言うか始まりとして、ヴァレリー兄さんは正式に騎士団へ移り、ベインおじさんが率いる部隊へ配属された。ちょっと特殊な部隊になるけど、ちょうどいいと思う。
もともとベインおじさんは騎士団の副団長も兼任だったけど「そんな柄じゃねぇからな!」と言って近々副団長を辞するつもりだったとか。今回のことがあるからもう少し副団長を務めるみたいだけど。
副団長の座は騎士団の各部隊長が狙っている。ヴァレリー兄さんもその候補にあがる感じなんだろう。簡単ではないだろうけど頑張って欲しい。
それにベインおじさん達から見たら私やスザンナ姉さんも娘みたいなもの。お父さん並みにヴァレリー兄さんを鍛えてくれると思う。オリスア姉さんにも連絡したし、これからモリモリ強くなってくれるだろう。
これからも多くの問題はあるだろうけど、二人で乗り切っていけると思う。
でも、今回の件で別のトラブルも発生した――いや、発生しそうだった。
王制廃止派がここぞとばかりにスザンナ姉さんを叩いた。曰く「どこの馬の骨とも分からん奴と婚約した」とのことだ。そしてそれを許した私に問題があるという流れ。
ひねりがなくてちょっとかわいそうになるほどだ。想定外のことをしてほしいわけじゃないけど、あまりにも想定内すぎて逆に憐れになってくる。
しかもそれによる暴動に関しては誰も賛同しなかった。むしろそんなことを言う人を皆が率先して犯罪者として突き出してきた。
身分違いの恋に燃える女性が九割というニア姉さんの話は本当だった。
今、トラン王国では身分違いの恋というのがブームだ。
小説、演劇、歌、色々な創作で題材となっている。
身分違いのまま結ばれる派と、同じ地位になるまで頑張ってから結ばれる派、そしてすべてを投げ捨てて結ばれる派の三派に分かれて大論争が起きるほど。
さらにはスザンナ姉さんのお見合い相手に関して「探さないであげて」という嘆願書がお城に来るレベル。
さすがにそういうわけにはいかないので、親衛隊が探索してくれたんだけど、駆け落ちした場所はソドゴラだった。
無理に連れ戻すことはせず、場所だけ把握してお忍びで会いに行くという話になったらしい。家督は次男が受け継ぐことになり、駆け落ちも認めるという形になるそうだ。
そんなんでいいのかなと思ったけど、幸せそうな二人を見て引き裂くのは可哀想という考えに至ったとか。そんなわけで、公には発見できなかったことにした。
その結果や今回のお見合いに関して家族総出で謝罪に来たけど、こちらも元々潰す画策をしていたので、お互いに今回は大変だったね、という形で特に何もなく終わった。
なぜかそれに感謝されて、今後、私にさらなる忠誠を誓ってくれることになった。
運が良かったんだろう。色々なことが丸く収まったような気がする。
ただ、思うことがある。トラン王国の貴族も国民もこんな感じだったっけ?
もっと悲壮感漂う感じの国だったのに、いつの間にかパワフルというか逞しくなってた。
誕生祭では私にサプライズを仕掛けるほどだし、親衛隊は私を捕まえるのに躊躇しなかった。さらにはどうでもいいようなことで論争になるほどだ。
悪いことじゃないんだけど、そういうのを目指していたのかと言われるとちょっと違うと言いたいような気もする。
なにかこう変な方向に元気が有り余っている感じ。ヤケになっているわけじゃないんだろうけど、国の方向性としてこれでいいのか不安だ。
ここは客観的な視点を持つ人に聞いてみよう。
「トラン王国って本当に大丈夫なのかなって思うようになった」
「いきなり呼びつけてなんの話だ?」
フェル姉ちゃんを自室に呼んだ。
いつもならスザンナ姉さんがいるんだけど、最近は自室でフェル姉ちゃんと二人きりのほうが多い。
スザンナ姉さんにはヴァレリー兄さんと一緒にいた方がいいと私が言ったからというのもある。婚約者だし当然だ。もちろん大事な案件では私のそばにいてもらうけど、しばらくは問題ないだろうから二人で色々話したほうがいいと送り出した。
一緒に食事をしたり、話したりはしていたみたいだけど、あまり時間が取れなかったのは分かっている。お互いをもっと良く知るためにもいままで以上に一緒にいた方がいいと思う。
でも、嬉しさと寂しさが合わさった不思議な気持ちだ。今ならリエル姉さんの気持ちもなんとなく分かる。スザンナ姉さんの結婚式で私が暴れないか今から心配だ。
それはあとで考えるとして、今はトラン王国のことだ。
こういうことならフェル姉ちゃんに聞くのが一番。付かず離れずのちょうどいい距離感だと思うし。
「トラン王国って変な感じになってないかな? ぜひとも客観的な意見が欲しい」
「国どころか王が変だろ――冗談だからフェル・デレを亜空間から出すんじゃない。聖剣だからちょっと気持ち悪くなるんだよ。最近、それで脅すことが増えてないか?」
「フェル姉ちゃんに対抗するための剣だから仕方ない。聖剣フェル・デレが正式名称だけど、最近、魔神殺しとも呼んでる。ちなみに国宝にしたから」
「物騒な名前を付けるな。あと、国宝にするなよ」
「まあ、細かいことは気にしないで。それでどう?」
「なにが? ああ、トラン王国が変な感じ? そんなことはないと思うぞ」
「でも、うまく言えないけどおかしくない? 皆は十数年眠っていたわけだし、それが影響しているんじゃないかって思うようになったんだけど」
「前にも言ったと思うが、アビスやドゥアトが装置を調べて問題ないことは分かっているから安心しろ。大体影響を受けたのなら王であるアンリの影響を受けたに決まってるだろ?」
「私の影響……?」
「それ以外にないだろ。アンリがトラン王国で色々やった結果が今に繋がっているのは間違いない」
「そうかな? でもこんなにパワフルというか元気になるもの?」
「変えることができない過去のことを悔やんでも意味がないという考えに変わったんだろう。働いて、遊んで、美味しい物を食べて、笑って、寝る。そんなことをしていれば元気にもなる。アンリが率先してやってることだろ?」
確かに。それだったら嬉しいけど……でも、本当にそうなのかな?
フェル姉ちゃんが少しだけ笑って椅子から立ち上がった。そして私の頭を撫でる。
見た目、私の方が年上なんだけど、どんなに経ってもフェル姉ちゃんからみたら私は子供なんだろうな。
「アンリはよくやってるぞ。あれから四年経ったが、トランの王国は来るたびに国民の笑顔が増えていると思う。王都だけじゃなく地方の町や村でもな。住みやすくていい国である証拠だ」
「そうかな?」
そう言われるのは自分のことを良く言われるよりも嬉しい。
「まあ、ピーマン戦争のときみたいに暴走することもあるだろうが、アンリの周りにはフォローしてくれる人も大勢いる。だから、変かどうかなんて気にせずに懸命に働けばいいんだよ。そういう姿に皆はついてくるものだ」
不思議だ。フェル姉ちゃんに言われるとそんな気がしてくる。
「それに国が豊かになったから心に余裕ができたんだろう。身分違いの恋について派閥ができるなんてこの国くらいなものだ」
「最近、ルハラ帝国でも派閥ができたって話らしいんだけど?」
「……よく考えたらディーンとウルも身分違いの恋だからな。傭兵の団長をしていたウルと皇帝が結婚するなんて本来ならありえないだろうし。でも、あれは皇帝になる前から公私ともにディーンを支えたウルの勝利だな。ディーンに勝てたら嫁になれるっていう条件はあったが、ディーンが本気で戦ったかどうかは怪しいものだ」
そういえばそうだった。今度の三国会談で聞いてみよう。ぜひともリスペクトしていきたい。
「ええと、その、なんだ」
椅子に座ったフェル姉ちゃんの歯切れがいきなり悪くなった。かなり挙動不審だ。
「どうかした?」
「いや、スザンナに婚約者ができた訳で、そうなると必然的に次はアンリなのかなと思ってな。そういう相手はいるのか?」
フェル姉ちゃんの方から恋バナを振ってきた。これはとてもレア。
「いないけど、強ければだれでもウェルカム。最近王位が欲しいって言う人がいないからトーナメントで婿になりたい人という形で募集するつもり」
「いや、ダメだろ」
「ディーン兄さんも似たようなことをしてたし大丈夫だと思う」
「そうじゃなくて、アンリに勝てる奴がいるのか? いや、そもそもそんな形で婿を選んじゃダメだけど」
レイヤ姉さんもそんなことを言ってた。
でも、私に勝てなくても根性をみせてくれればいいんだけどな。絶対にあきらめないくらいの気持ちを見せてくれれば私もときめくかもしれない。というか、それ以外じゃときめかない。
「色々考えないといけないけど、多分なんとかなる。だいたい、身分違いの恋が流行ってるからどうとでもなると思う。むしろ、婿が条件で誰も挑戦してこなかったらちょっとへこみそう」
「普通に婿を選べよ……あまり言いたくないが、リエルみたいになるぞ?」
「ものすごい危機感を感じた」
結婚はまだ早いような気がするけど、リエル姉さんみたいになるのも困るし、今のうちからちゃんと考えておこうかな。
でも、もうしばらくは内政だ。もっともっといい国にしていこう。




