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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十八章

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姉妹の幸せ

 

 お見合い当日、さすがにお忍びでも王がその場には行くことはできないので連絡待ちだ。


 フェル姉ちゃんやメノウ姉さん、それにメイドさん達を送り込んだから問題が起きてもなんとかなると思う。


 それにお見合いの席に用意する食事はニア姉さんに任せた。相手側も料理人を用意していたけど、王族やそれに近い人が食べる食事は毒見が必要だからとか理由を付けた。


 そしてリエル姉さんは、お見合いがばれないようにヴァイア姉さんとディア姉さんに適当な用事を作ってもらって隔離。


 完璧な布陣だ。


 スザンナ姉さんには内緒にして色々画策しているけど、上手く行きそうな感じはする。


 それに色々な事情を伏せてヴァレリーに話をしたら、考えることなく「潰します」と言ってきた。貴族のお見合いを躊躇することなく潰そうとするのはよくないけど、個人的には好感が持てる。


 なぜそこまでスザンナ姉さんのことを好きなのか聞いてみたら、ヴァレリーの初恋がスザンナ姉さんで、いつかアダマンタイト級の冒険者になってから会いに行く予定だったとか。


 スザンナ姉さんはソドゴラへ来た頃から冒険者としては活躍しなくなったけど、それでも冒険者ギルドに在籍はしていたからいつか会うために日々努力をしていたそうだ。


 結局オリハルコン級止まりだったし、スザンナ姉さんがどこにいるのかも分からないということで諦めていたらしいけど、トラン王国で再会して驚いたとか。


 スザンナ姉さんの方は全くそんなことはなかったみたいだけど、元々人との付き合いが薄かったからヴァレリーのことを覚えていたみたいで昔話が盛り上がったと言ってた。


 全然会っていなかったのに貴族のお見合いを潰すほどの気概を見せてくれるのは頼もしい。潰される方はたまったもんじゃないだろうけど、スザンナ姉さんを利用しようとしたことは分かってるからこれくらいはいいと思う。


 そろそろ時間なんだけど、そわそわしてきた。


 王じゃなかったら絶対に行ったのに。


「アンリ様、ずいぶんとそわそわしているようですが、どうかされましたか?」


 幹部会でおじいちゃんが私を見てそう言った。


 空気が読めないおじいちゃんだけど、読めというのが無理な話ではある。それに今回のお見合いで色々と上手くいくだろうからお咎めはなし。


「お見合いがどういう結果になるのか楽しみでそわそわしていた。会議の内容は聞いているから安心して欲しい」


「そういうことでしたか。良い結果になるといいですね」


「本当にそう思う」


 おじいちゃんの言う良い結果とはちょっと違うけど、そういうことにしておこう。


「では、次は騎士団の案件ですが――」


 そろそろ突撃をかました頃かな?


 ぜひとも頑張って欲しい。




「あの、アンリ様、巨大な水のドラゴンが王都へ向かって来ています」


「……どういうこと?」


 玉座の間でレイヤ姉さんからの報告を聞いたけど、ちょっとよく分からなかった。


 でも、水のドラゴンはスザンナ姉さんが作り出したドラゴンで間違いないはず。


 お見合いしている場所は相手が治めている領地だったけど、なんで水のドラゴンがこっちに向かっているんだろう? 普通に馬車で帰ってきて欲しい。


「フェルさんからの報告では、スザンナ様に色々な事情がバレて静かに怒っている、とのことです。現在、ドラゴンの上で説得中だとか。一応お見合いはヴァレリーが潰しましたが、スザンナ様にちょっとボコボコにされたようです。照れ隠しではないかとのことですが」


「……水のドラゴンを作り出しておいて静かに怒っているというレベルじゃないと思う。あと、照れ隠しでボコボコにしないであげて欲しい――あれ、もしかして次の標的って私?」


「私も含まれている可能性はありますが、まず間違いなくアンリ様でしょうね」


「親衛隊の皆で突撃してスザンナ姉さんを拘束して。落ち着いたら謝るから」


「無理です」


 レイヤ姉さんの力強い言葉。一点の曇りなし。


 親衛隊全員よりもスザンナ姉さん一人の方が強いというのもどうかと思うけど、それくらいの戦力差であるのはなんとなくわかる。私だってスザンナ姉さんと本気で戦ったらどうなるか分からない。


 私がユニークスキルを使っても空に逃げられて水の爆撃攻撃をしてくるに決まってる。条件が何もなければ、私はスザンナ姉さんに勝てないということ。


「王様は休みにして逃げるから後をよろしくお願いします。ソドゴラに逃げるので探さないでください」


「……フェルさんが、アンリ様ならそういうだろうから拘束しろとのことです。親衛隊、アンリ様を拘束して。逃げられたら私の命だけじゃなくて皆の命も危ないから全力で」


 おかしい。玉座の間で王様なのに完全なアウェー。味方が一人もいないなんて。


 ここで暴れると罪状が増える気がする。仕方ない。スザンナ姉さんの怒りを受け止めよう。あとちゃんと謝る。




 巨大な水のドラゴンがやってきて王都は少しパニックになったけど、やっているのがスザンナ姉さんだと分かるとパニックは収まった。何かしらの催しだと思ってくれたようだ。


 最終的には王都の上空で水のドラゴンが爆発し、軽く雨が降った後に虹ができて皆は大喜びだったらしい。


 私が念話で謝ったのが効いたんだと思う。あと少し謝罪が遅れたら城が危なかった。


 とはいえ、私は今、自室で正座中だ。


 でも、私だけじゃない。レイヤ姉さんとヴァレリーも一緒だ。フェル姉ちゃん達はお咎めなし。一緒に怒られて欲しかった。


 そして表情がない感じがとても怖いスザンナ姉さんが仁王立ちしている。


 クールビューティ―どころか、オリン魔法国の北にある永久凍土のような冷たい目だ。行ったことないけど。


 ここは私が発言するべきだろう。


「ごめんなさい。でも、後悔はしてない」


 スザンナ姉さんの目がギロリとこちらに向く。そんなスキルはないはずなのに体が麻痺した感じだ。


 スザンナ姉さんが大きく溜息をついた。皆がびくっとなるけど、表情からすると少し落ち着いたかな?


「アンリ、気持ちは嬉しいけど、私は今のままでも幸せだって言ったでしょ? しかもフェルやニアさんまで巻き込むなんて」


「たとえ強欲でもスザンナ姉さんにはもっと幸せになって欲しいと思った。私は国民全員を幸せにしたいと思っているけど、その筆頭はスザンナ姉さんなので誰よりも幸せになって欲しい」


 この言葉は効いたようだ。スザンナ姉さんの表情がさらに柔らかくなる。でも、慌ててキリッとした顔になった。


「私が幸せでも、それでアンリに迷惑をかけるなら意味がないでしょ? 私だってアンリには幸せになって欲しい――というか、最高の王になって欲しい。それが私の幸せでもあるんだから」


「そのあたりはちゃんと考えてあるから大丈夫。ヴァレリーにはスザンナ姉さんに見合うだけの地位に就いてもらうから、私に迷惑は掛からない。それに泣き言も言わせない」


 私がそう言うと、ヴァレリーは黙ったまま頷いた。


「結婚のためにヴァレリーに地位を与えたってことになりかねないでしょ? そんなことになったら王制廃止派がまた色々やってくるよ?」


「それも大丈夫。実力でなってもらう。周囲に文句を言わせない程の功績を上げてもらうつもり。今思いついたけど、オリスア姉さんに預けるの悪くないって思った」


 そう言うとレイヤ姉さんが暗い顔になって震えだした。


「でも――」


「スザンナ姉さん、私の幸せはスザンナ姉さんが幸せになってくれること。私のために色々我慢されるのは逆に困る。だから、もっとわがままに生きて。私もそうするから」


 スザンナ姉さんはちょっとびっくりした顔になったけど、大きく息を吐いてから少しだけ笑顔になった。


「そっか……私が幸せならアンリも幸せ?」


「もちろん」


 スザンナ姉さんは頷くと、ヴァレリーの前に移動した。ちょっと照れ臭そうな感じだ。


「ヴァレリー、貴方と婚約する。でも、私と結婚したいなら誰にも文句を言わせない程の強さや地位を手に入れて。たとえおばあちゃんになっても待っててあげるから」


「……ああ、必ずそうなって見せる」


 うん、いいシーンを見れて良かった。後はオリスア姉さんに連絡すればいいかな。まずはアダマンタイト級の強さを手に入れてもらおう。話はそれからだ。


「アンリ様、シャスラ様がお見えですが」


 部屋の外からメイドさんの声が聞こえた。


「入ってもらって」


 おじいちゃんにはお見合い相手のフォローをお願いしたんだった。その報告だろう。


 おじいちゃんが入ってくると、すごく疲れた顔をしていた。そして私達が正座したままなのになんのフォローもなく報告を始めた。足を崩してとか立ち上がってとか言ってほしかった。


「スザンナ君」


「……はい」


 おじいちゃんはちらりとヴァレリーの方を見てからすぐに視線を戻す。


「フェルさんやニアに聞いて、ある程度の事情は把握しているが、最終的にどういう状況になったか聞いてもいいかな?」


「ヴァレリーと婚約することにしました。その、すみません。せっかくお見合いをセッティングしてくださったのに。それにアンリに近い立場なのに勝手なことを……」


「いや、それはいいんだよ。確かに宰相としては困ったものだが、私はスザンナ君の祖父でもある。好きな人と結ばれるならそれに越したことはないからね」


 おじいちゃんは笑顔でそう言うと、今度はヴァレリーの方を見た。


「ヴァレリー君だったね」


「ハッ。親衛隊、未踏領域探索部隊の部隊長を務めているヴァレリーと申します」


「私はシャスラだ。この国の宰相をしている。でも、これから言うことはそんな肩書は関係ないから安心しなさい」


「はい」


「私の可愛い孫をよろしく頼むよ。ただ、泣かせるようなことがあれば容赦しない。考え付く最悪の想像をしておきなさい。そんな想像よりもはるかに酷い目に遭わせるが、心の準備は必要だからね」


 おじいちゃんが笑顔でとんでもないことを言っている。でも、私も同じ気持ちだ。スザンナ姉さんを泣かせたら、私とフェル・デレが黙ってない。


「そんなことはあり得ませんので想像は不要と考えます。私はたまに見せるスザンナ様の笑顔が好きですから」


 ヴァレリー……ううん、ヴァレリー兄さんが真面目な顔でそう言った。


 分かる。ヴァレリー兄さんとはいいお酒が飲めそう。スザンナ姉さんの笑顔は最高だ。


 そのスザンナ姉さんは無表情だけどちょっと耳が赤い。あれは笑顔をこらえている顔だ。


「うむ。期待しているよ。それと聞いた話ではスザンナ君に見合う地位になるまで結婚はしないという話だね? あくまでも婚約までということで間違いないかな?」


「はい。間違いありません」


「なら提案がある。親衛隊にいたままではいつまでもスザンナ君に釣り合う地位にはつかないだろう。引き抜きという形になってしまうが、騎士団の方へ移らないか?」


「私が騎士団に……?」


 騎士団。正式名称は簡単だけどトラン王国騎士団。ウォルフ父さんが騎士団長を務めているトラン王国の最大戦力だ。


 親衛隊は私直属の部隊で騎士団とは別枠。でも、騎士団へ移るっていうのはどういうことなんだろう?


「親衛隊で部隊長までになったのなら騎士団に移っても文句は出ないだろう。そこで騎士団長を目指すといい。今の騎士団長であるウォルフの後釜を狙うということだね。それなら親衛隊の隊長であるスザンナ君と釣り合う」


 これにはみんなびっくり。


 なるほど。確かに騎士団の団長ならスザンナ姉さんと釣り合いは取れる。


「ウォルフはまだまだ引退するつもりはないだろうが、後継者のことも色々考えている。私の方からヴァレリー君のことを推薦しておこう」


「しかし、それでは私に対してかなり便宜を図ることに――」


「レイヤ君。ヴァレリー君は何か不正な手段で部隊長になったのかね?」


「いえ。実力です。強さ、指揮能力、功績を考えた上でのことです」


「ならなんの問題もない。トラン王国の親衛隊は個々が一騎当千とも言われている。そこの部隊長なら騎士団へ推薦しても便宜を図るようなことにならないからね。それに便宜を図るなんてとんでもないよ。ウォルフもスザンナ君を実の娘のように思っている。甘い考えが少しでも見えたら容赦なく叩き潰すだろうからね」


「……ありがとうございます」


「礼は早いよ。騎士団長になるのが簡単というわけじゃないからね。あくまでも推薦というだけだ。あとは君次第だから頑張る様に」


 ヴァレリー兄さんは正座したまま頭を深く下げた。


 おじいちゃんは「頭をあげなさい」と言ってから、今度は私の方を見た。そして溜息をつく。


「言いたいことは分かったから、もう言わなくても大丈夫。以心伝心」


「……とりあえず、正座はもういいから立ちなさい」


 私も久しぶりの正座でちょっと足がしびれた。麻痺無効スキルを覚えたと思ったのに。


「それじゃ解散ということで」


「まだ報告があるから待ちなさい」


「報告?」


「お見合いの相手のことだよ」


「おじいちゃんがフォローしてくれたんじゃないの?」


「まあ聞きなさい。今回、相手は断られることを前提にスザンナ君とのお見合いを要望してきた。それは知っているね?」


「たしか相手側も身分違いの恋をしていて画策中だったとか」


「その通り。そして今回のどさくさに紛れて、相手は駆け落ちしたみたいなんだよ」


「え?」


「貴族のお見合いを潰すほどの人がいるなんて勇気を貰ったと書置きがあったらしい。ご両親から今回の謝罪と共に探索の依頼をされたよ。こっちも色々と画策していたようだし、お互いの面子を潰したことになるから断り切れなくてね……スザンナ君、レイヤ君、それにヴァレリー君もかな。至急、部隊を編成して探索を」


 なんかすごいことになってる。でも、色々と上手くいったから問題はないかな。


 うん、一件落着だ。


「さて、アンリにはこれから説教するから」


 これからが本番だった。まあ、怒られるくらいならどんと来いだ。


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