裏幹部会
誕生祭は結構な盛り上がりだったから企画者はお咎めなしにした。
というかスザンナ姉さんだったから怒るに怒れない。それに意外と私も国民から支持されていたのが分かったから気分がいいというのもある。
いつの間にか結構支持されていたのは理由があった。私が色々な人に話を聞くことが支持につながっているようだ。
確かにこの数年、トラン王国にいる人達に色々な話を聞いて多くのことを教わった。立場上、城に呼びつける形にはなったけど、身分に関係なく頭を下げて教えを乞う姿が心を打ったらしい。
それに呼びだした人はほとんどがご老人で、家族や周辺に私のことを好意的に伝えたんだろう。そういったところから多くの人の支持を得られたわけだ。
これを狙ったわけじゃないけど、やっていたことに間違いはなかったと思える。それが分かった素敵な誕生祭だった。サプライズはもういいけど、来年からも皆が楽しめる誕生祭を開催しよう。
でも悔しい。怒ってはいないけどやり返したい。やられたらやり返すと言うのがソドゴラの掟。たとえスザンナ姉さんでもここはしっかりやり返さないと。
フェル姉ちゃんやニア姉さん達、それにヴァイア姉さんはギリギリセーフ。ちょっとお手伝いしただけだから、やりかえすことなんてしない。でも、後で嫌っていうくらいお話しさせてもらおう。しばらくはトラン王国にいるらしいから、歓待しつつ私の愚痴とかに付き合ってもらう。
それはいいとして、スザンナ姉さんだ。誕生日にサプライズ返しをするのが一番いいんだけど、スザンナ姉さんはこの前誕生日を迎えたからしばらくはない。
よく考えたら、スザンナ姉さんはもう三十歳だ。ちょっと豪華な料理を食べてお祝いをしただけ。今更ながらに申し訳ない気がする。これまでの貢献度や節目の年齢という部分を考えても、もっと派手にお祝いするべきだったかも。
それはそれとして三十歳か。私のために色々してくれてはいたけど、トラン王国も色々と順調だし、スザンナ姉さんも自分のためにもっと色々してほしい。
例えば結婚とか。そこまでいかなくても恋愛とか……あまり想像できないけど。
大体二十歳前後で結婚するのが一般的なんだけど、スザンナ姉さんには浮ついた話がない。あるのかもしれないけど私は知らない。
人気はある。しかも男女問わず。ファンクラブまであるほどだ。でも、本人はそういうのに興味がないのか、お見合いも全部断っていた。
どう考えても私のせいだろう。スザンナ姉さんは常に私を優先的に考えてくれる。私が結婚するまで結婚しないとかそんな風に考えているのかも。
無理矢理相手を決めるわけにはいかないけど、ちょっとくらいはおじいちゃんに頑張ってもらったほうがいいのかな。うん、スザンナ姉さんにサプライズを仕掛けるなら結婚式の時にしよう。
念のため、結婚願望があるかどうかくらいは調べておこうかな。あまり嫌がるようなことはしたくないし。
こういう時はクル姉さんだ。
年齢も近いし、仕事がオフの時は二人でいることも多いらしいから、何か知っているかもしれない。
すぐにクル姉さんを自室に呼んだ。
「あれ? 私だけ呼ぶって珍しいね? スザンナとかいるかと思ったんだけど?」
「実はそのスザンナ姉さんのことで聞きたいと思って」
「スザンナのこと?」
「スザンナ姉さんは結婚願望があるのかどうか事前調査しようと思って」
「ああ、あの件か。もしかしてレイヤから聞いたの?」
「なんのこと?」
「あれ? 違うの? 親衛隊にいる人がスザンナに猛アピールしているって話なんだけど。私も前に聞いたけど、本人は『特に話すことはない』って言ってたね」
「その話、くわしく」
ヴァイア姉さんの口癖が移った。でも、これは詳しく聞かないといけない。というか、そういう情報は幹部会で展開して欲しい。
話を聞くと、親衛隊にいるかなり有望な部隊長がスザンナ姉さんにお付き合いして欲しいと言ったとか。
スザンナ姉さんは即座に断ったらしいけど「諦めません」と返したらしい。どこの恋愛小説だろうと思えるやり取りだ。
その勇気ある人の名前はヴァレリー。
年齢はスザンナ姉さんと同い年で三十。古参メンバー程ではないにせよ、新規に入隊した中ではトップクラスの実力者。皆からの信頼も厚く、見た目も悪くないとか。
ただ、問題があるらしい。
「地位が釣り合わない?」
「スザンナはさ、親衛隊の隊長でアンリ直属の護衛でもあるでしょ? お付き合いする、つまり最終的には結婚を考えているんだろうけど、スザンナの相手にはそれなりの地位が求められるわけだよ。でも、彼は平民なんだって。いまでこそ親衛隊の部隊長っていう立場だけど、その肩書だけでスザンナと結婚するには釣り合いがとれないと思うよ。スザンナは断った理由を言わなかったけど、それが理由なんじゃないかって噂」
おじいちゃんがお見合いの話を持って来ていたときにそんなことを言っていた気がする。
私達の結婚相手にはそれなりの地位や立場が求められるとか。
面倒な話だけど、分からないこともない。それにスザンナ姉さんと結婚するということは物理的に私と近くなる。私を暗殺するためにスザンナ姉さんに近づいたという可能性もないわけじゃない。ちゃんとした身分が必要なのかも。
スザンナ姉さんはもともと冒険者で貴族でもなんでもない。でも、ずっと私を支えてくれて、王位を取り戻す戦いでは一番の功労者ということもあって、多くの人から支持されている。
それにソドゴラ村に来た頃から私と一緒におじいちゃんから礼儀作法を学んでいた。どこに出しても恥ずかしくないレベルに仕上がっている。
今や親衛隊と言えばトラン王国の花形。多くの人が入隊したいと毎日のように希望者が来るほどだ。そのトップを務めている上に、私の姉という立場も持っているスザンナ姉さん。客観的に見ても、下手な貴族よりもはるかに地位は高い。
確かにそんじょそこらの人にスザンナ姉さんの伴侶は務まらないだろう。
「スザンナ姉さんは何か言ってる?」
「さっきも言ったけど、一度だけそのことを聞いたら『特に話すことはない』って言ってた」
「脈がないってこと?」
「いや、どうかな。スザンナの性格なら嫌なら理由もはっきり言うだろうし、逆に脈があるんじゃないかって私は睨んでるよ」
「確かにスザンナ姉さんの性格ならその可能性が高いかも。でも、そっか、脈ありなんだ」
ちょっと寂しい気もするけど、スザンナ姉さんがいいと思っているなら地位とか立場とか気にしなくていいと思う。むしろ変に拗らせて、愛の逃避行とかされたら困る。フェル姉ちゃんから借りた小説にそんなのがあった。
うん。ここは皆に相談してみよう。
自室にレイヤ姉さんとマナちゃんを呼んだ。これを裏幹部会と名付けよう。主に恋愛関係の相談だ。当事者は呼ばない。
スザンナ姉さんにサプライズを仕掛ける話がこうなるとは思わなかったけど、ここはしっかり状況を把握しておくべきだろう。
話をすると、当然レイヤ姉さんは知っていて、マナちゃんは驚いていた。
「親衛隊で今一番熱い話題です」
「スザンナ姉さんに釣り合うってリエル母さん並みに大変そう」
思ったことを皆で言いながら状況を共有したけど、実を言えばこういう方面はかなり疎い。
ソドゴラにいた頃、自称恋愛の達人に色々聞いたことはあるけど、私の勘があれはだめだと囁いている。ここは皆に聞こう。
「こういうのってどうすればいいのかな?」
皆にそう聞くと、クル姉さんが口を開いた。
「余計なことはしない方がいいとは思うけど、私の見立てでは性格的にスザンナの方から結婚するとは言い出さないだろうから、いろいろとお膳立てするしかないだろうね」
さもありなん。
スザンナ姉さんはクールだけど、あれは照れ隠しの部分もある。心情を知られるのが恥ずかしいからクールを装ってる。どんなに条件が揃ったとしても、自分から「結婚する」とは絶対に言わないはずだ。
つまり私達が何とかしないと結婚はないということ。全力でお膳立てする。
「あの、レイヤさん、ヴァレリーさんはどういう方なんですか? 地位以外ではスザンナ姉さんに釣り合いがとれる方なんですか?」
マナちゃんが言うことはもっともだ。レイヤ姉さんならクル姉さんよりも詳しく知っているはずだ。ちゃんと聞いておこう。
「間違いなく能力は高いです。もともとオリハルコン級の冒険者でオリン魔法国の出身ですが、入隊と同時に冒険者を辞めた上にトラン王国の国民になりました。雇ったのは三年ほど前ですが、貢献度の高さから異例ともいえる出世で部隊長まで上り詰めました。戦乙女部隊のメンバー以外で部隊長を務めているのはヴァレリーだけになります。人当たりもいいですし、部下からも信頼が厚いので、親衛隊の女性陣にも結構人気がありますよ。強さでいえばスザンナ様には敵いませんけど、それはこの国の誰もが敵わないので、地位以外は釣り合いがとれていると言っても間違いではないかと」
やっぱり問題は地位か。
でも、親衛隊の隊長に釣り合う地位ってなんだろう?
おじいちゃんが持ってきていたお見合いの話では、結構、位が高い貴族だったような気がする。でも、こんな理由で貴族にするわけにはいかないし、親衛隊と双璧をなすような部隊を作るわけにもいかない。
「貴族だったら公爵、親衛隊だったら副隊長ってところかな?」
「え? ちょ、ダメですよ! 副隊長の座は渡しませんよ!」
「レイヤ姉さん、落ち着いて。そのポジションを渡せって話じゃないから。釣り合うならそれくらいの地位じゃないとダメかなって話」
慌てるレイヤ姉さんをなだめてから色々考えたけど、やっぱりいい案は思いつかない。
そうこうしているうちに結構な時間が経っていた。
「ところでスザンナ姉さんは本当に結婚する気があるのかな?」
マナちゃんの疑問に皆が「確かに」と言い出した。脈がありそうなのはあくまでもクル姉さんの見立てだ。本気でそう思っているのかは分からない。
ここは私が妹としてしっかり聞いておこう。




