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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十八章

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人懐っこい魔王

 

 ルネ姉さん達の一行が王都に到着した。


 魔族さん達の移動にはカブトムシさんの青雷便を雇った。ただ、リエル姉さんの時とは違ってかなりの人数だったから、カブトムシさん達も大量にいる。


 十体ほどのカブトムシさんによる大行進。それだけで見ごたえは十分だ。


 ものすごく歓迎ムードという感じではないけど、怖いもの見たさなのか、メインストリートのフェル通りにはたくさんの人が道沿いにいる。


 聞いていた通り、今回は獣人さんも多く見に来ているから閑散していなくて本当に良かった。


 時間を掛けて行進してきたカブトムシさん達が城のはね橋の手前で止まる。


 今回も先導してくれたレイヤ姉さんがスレイプニルから下りて、カブトムシさんが引っ張っている屋根付きの馬車に近づいた。到着した旨を伝えたのか、馬車の扉が開く。


「どーもどーも。私が魔王ル――くえっ」


 ルネ姉さんが降りてきそうだったけど、なぜか馬車から出てきた腕が襟首を引っ張って馬車の中に戻った。そして一度馬車の扉が閉まる。


 そしてガタゴトと馬車が荒れている。カブトムシさんが凄く嫌そう。それにオリスア姉さんが剣の柄に手をかけた。波乱の幕開けみたいな状態は止めて欲しいんだけど。


 馬車が落ち着くと、もう一度扉が開いた。


 今度は体にぴったりの黒い鎧を着たレモ姉さんが出てきた。腰には魔剣タンタンも装備しているけど、今度は普通だと思う。でも、ちょっと難しい顔をしている。


 次に魔族の男性が降りてきた。


 見覚えがある。たしか、リエル姉さんを助けに行くときに一緒に来てくれた魔族さんだ。確かサルガナおじさん。影を操る魔族さんでディア姉さんがちょっと興奮気味だった気がする。


 その後にようやくルネ姉さんが出てきた。すごくしょんぼりしているけど、怒られたのかな。


 そしてきょろきょろと見渡してから、私を見つけると笑顔になった。いきなり駆けだしそうになったけど、なぜか体が動かなくなるように止まった。


 よく見ると、ルネ姉さんの影が足を掴んでいる。あれってサルガナおじさんの影を操る能力じゃ……?


 他の馬車からも魔族さんや獣人さんが出て来てそちらが注目されているからバレていないけど、ルネ姉さんは動きを強制されているようみたいだ。


 全員が降りてから三人が近づいてきた。


「アンリ王、この度は急な訪問にもかかわらず、このような歓迎をしていただき、ありがとうございます」


 ものすごい違和感。間違いなくルネ姉さんはサルガナおじさんに操られている。でも、ここは乗っておこう。


「いえ、魔界という遠いところから良くいらしてくださいました。お疲れでしょう。まずはお体をお休めください」


「いや、そんなことないんですけど――ぐぐっ――ありがとうございます。ではお言葉に甘えて休ませていただきます」


 一瞬、素がでたけど、また操られた。漫才かな?


 メイドさん達にご案内してとお願いしてから、皆で城へと移動する。


 ここは魔王と仲良しをアピールしようと一緒に並んで歩こうと思ったけど、ルネ姉さんの方から近づいてきてくれた。どうやら拘束は解けたみたいだ。


「アンリちゃん、久しぶりですね!」


 ルネ姉さんが小声で話しかけてきた。魔王なのに人懐っこい感じの屈託のない笑顔。どちらかというとサルガナおじさんの方が魔王に見える。


 だからこそルネ姉さんを呼んだというのもあるけど。


「うん、久しぶり。ソドゴラでの宴会以来かな?」


「そうですよ! だから、アンリちゃんの方から人界に呼んでくれるなんて嬉しかったですよ!」


「魔族さんとは色々あったけど、今はフェル姉ちゃんのおかげでそんなことを言っている人は減ったから、ちゃんと魔王として迎えようと思って。トラン王国の宣伝に利用させてもらったというのもあるんだけど」


「そんなこと言わなくていいのに真面目ですねー。まあ、私としても魔王になってからなかなか人界には来れないのでこういうのは助かりますよ。魔界からお土産も持って来たんで美味しい物をよろしくお願いします!」


 お土産をあげるからって交渉したと聞いたけど、魔界のお土産を貰えるんだ?


「私の方からもお礼を言わせてください、アンリ王」


 今度はサルガナおじさんがそう言ってくれた。


「人族と親交を深めるのはフェル様の望みです。何人かの魔族が人界で交流を深めていますが、このような形で交流できるのは我々にとっても利のあること。このような機会をくださってありがとうございます」


「うん。ならお互いに利があるということで。ちなみに城の中ではそこまで畏まらなくて大丈夫。外では魔族さんの威厳的なものがあると助かるけど」


「……もう手遅れかもしれません。主にルネ――魔王ルネ様のせいで」


「えっと……?」


「魔界の子供に大人気の人形劇をしてあげたんですよ。トラン国のどこの滞在先でも大盛り上がりでしたよ! 子供達に魔王ルネちゃんって人気者になりましたよ!」


 ルネ姉さんはユニークスキルを持っている。たしか「人形庭園」という名前で、人形と認識できる物ならなんでも操れるとかそんな感じのスキルだ。


 人形劇をやるのはいいんだけど、魔王としてやっちゃったんだ?


「まあ、親しみのある魔王ってことで――魔族さんとしては問題かな?」


 サルガナおじさんはかなり長い溜息をついた。


「我々にとって魔王と言えばフェル様のこと。魔王という立場はフェル様から借りているにすぎません。その魔王の評価が下がるのは間接的にフェル様の評価を下げるようなもの。そうならないように何度もいい聞かせたんですがね……オリスアが知ったら斬られていたかもしれません」


「オリスア姉さんならそこにいて話を聞いているけど……?」


 オリスア姉さんが城の入口の前で仁王立ちだ。


 ルネ姉さんが笑顔から一転。ものすごく汗をかき始めた。


「な、なんでここに?」


「サプライズ?」


「……私、魔王を辞めて、ただの総務部部長に戻ります。長い間ありがとうございました」


「……ちょっと遅かったかも」


 オリスア姉さんが笑顔のままゆっくりと剣を抜いた。


 一緒に待っていたスザンナ姉さんとバルトスおじさんが一応止めようとしているけど、あれを止めるのは無理かも。


 城の中でも外でも暴れてもらったら困るんだけどな。




 王城の私の部屋にルネ姉さん達を呼んだ。


 ルネ姉さんは無事だ。あと城も。


 オリスア姉さんに首を跳ね飛ばされることなく生きている。恐怖を味わったかもしれないけど、人形庭園のスキルで事なきを得た。あと、レモ姉さんと魔剣タンタンのおかげだとは思う。


「えっと、ルネ姉さん、まずは無事で何より」


「オリスア様って魔族の平均年齢を遥かに超えているのにいまだに健在なんですよね。というか見た目の年齢が私と変わらないような……?」


「私、一度見た剣技は完全にコピーできるのですが、オリスア様の剣技だけは真似できないんですよ。規格外にもほどがありますよね」


「俺なんか折れるかと思いましたよ! 旧世界の武器なのに!」


 ルネ姉さん、レモ姉さん、魔剣タンタンがそれぞれオリスア姉さんのことを語っている。それだけ魔族の中でも規格外ということなんだろう。スザンナ姉さんも「あれは無理」って言ってるし。


 私の師匠として鼻が高い――とはならないのはなんでだろう?


 規格外すぎて思考が追い付いていないからかもしれない。


 ついさっきフェル姉ちゃんが来てくれてオリスア姉さんをなだめてくれているからもう大丈夫だろう。


「オリスア姉さんのことはフェル姉ちゃんに任せよう」


「そうですね! フェル様なら何とかしてくれると思いますし!」


 ポジティブなのはルネ姉さんの良いところだと思う。


 さてと、それじゃ滞在中のスケジュールに関して色々と話をしておこう。トラン王国の宣伝としてルネ姉さんを呼んだけど、魔族の人達はいい人ってこともアピールするべきだ。


 おじいちゃんとサルガナおじさんが色々と調整してくれているけど、私達も意識合わせは必要だし、ルネ姉さんの魔王としてのお話もじっくり聞いてみたい。


 今日くらいはお互いに王として語り合ってみよう。


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