表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

442/477

色々な伝手

 

 武闘会は大盛況のうちに終わった。


 反省しなくてはいけない部分もあるけれど、概ね問題なしだ。


 あれ以降、暴動を煽る人はいても参加する人は極端に減った。そんなことをしなくても、私を倒せばいいという風潮ができていて、暴動を煽る人も参加する人も卑怯者だというレッテルが張られるからだ。


 とはいえ、暴動に参加する人は仕事が見つからない人ともいえる。冒険者になるほどの強さもなく、特別な技能もない。農業は好調そうだけど、人をたくさん雇えるほどでもないんだろう。


 悪いことをする人の大半は仕事がないからだ。好きで悪いことをしている人もいるだろうけど、大体は生活できないから悪いことをする。山賊や盗賊、捕まえた人達は大体そんな感じだ。


 誰もが学べる教育機関が必要なのかもしれない。私も勉強は嫌だけど色々と学んでおけば仕事の選択肢が増える。


 それはそれとして、やっぱり問題はお金だ。武闘会関係の利益は結構あったけど、まだまだ足りない。


 そもそもトラン王国は全体的にお金が少ない。


 これもシシュティ商会のせい。もとを正せばラーファとノマがシシュティ商会から旧世代の装備を買い込んだのが原因なんだけど、それでトラン王国内のお金はシシュティを通して国外に流れた。それをなんとか取り戻さないといけない。


 色々な案はあってもやるためにはお金が必要。なんて世知辛い。


 広いベッドの上で大の字になる。お昼にはまだ早いし、もっと色々考えよう。


「アンリ、いる?」


 扉の向こう側からスザンナ姉さんの声が聞こえた。


 本当なら部屋の前で親衛隊の人達が色々やり取りをしてくれた上で入ってもらうんだけど、スザンナ姉さんはフリーパスだ。


「うん。どうぞ入って」


 スザンナ姉さんがいつもの革製の服じゃなくて、親衛隊用の白いパンツルックの制服を着ている。左胸元の銀で出来たアクセサリーがおしゃれ。あと、ニャントリオンのマークも。そんな姿だけど、トレードマークのゴーグルはいつも通り首にかけたままだ。


「最近はその服もスザンナ姉さんに似合ってきた」


 スザンナ姉さんは少しだけ眉間にしわを寄せた。


「あまりこういうのは好きじゃないけど、そうも言っていられない。親衛隊隊長として規範にならないと。逆にアンリはドレスを着たままベッドに寝ない方がいい。メイド達に怒られるよ」


「大丈夫。状態保存の魔法をかけてあるからしわにならない。対策はバッチリ」


「服のしわじゃなくて、王としての振る舞いとして怒られるって意味なんだけどね」


 王だって大の字で寝たいときもある。文句があるなら力で――メイドさんには色々な意味で勝てそうにないからちゃんとしよう。


 ベッドから下りて、備え付けの椅子に座った。


「それで何か問題でもおきた? 問題が多すぎるけど、どんと来て」


「最近、獣人に対するあたりが強くなっているからその報告に。王制廃止派がそっちに狙いを定めてきた感じ。その上で獣人と仲がいいアンリを非難するという作戦みたい」


「私を非難するのはいいけど、獣人さん達に無礼を働いているってことか……王制廃止派を潰していい気がしてきた」


「私もそう思うけど、それはそれでつまらない。それで親衛隊の皆に相談したんだけどね、レイヤがニャントリオンをトラン王国へ呼んだらどうかって」


「ニャントリオンを……? ディア姉さんを呼んでどうするの?」


「そっちじゃなくて、アイドルの方のニャントリオン」


「ああ、そっち。でも、呼んでどうするの?」


「コロシアムでトーナメントをしているでしょ? アンリへの挑戦権を得るために二、三日おきにトーナメントが開催されているけど、開催日以外はニャントリオンに歌ったり踊ったりしてもらったらどうですかって。今のトラン王国は暗いイメージがあるから心を楽しくさせるイベントが必要じゃないかとも言ってたね」


「採用。獣人さんの魅力を伝えられる上にトラン王国のためになる最高の案。それに楽しい国というのは大賛成。私も謎の簒奪王として踊る」


「謎も何も簒奪王は一人だけでしょ……確認だけど、妖精愚連隊は解散したよね?」


「大丈夫。ニャントリオンもヤト姉さんが復帰ライブとして踊ってたし。そうだ、メノウ姉さんのゴスロリメイズとかウェンディ姉さんも呼ぼう。戦いの舞台はソドゴラからトラン王国に移った。そのうち人界中でやるところまで考えた。各国にお抱えアイドルがいて戦うのも悪くない。トラン王国は妖精愚連隊にしよう」


「……方向性の違いで引退したいんだけど」


 スザンナ姉さん達は人前で踊るのが恥ずかしいみたいだ。大宴会の時はソドゴラ村の人達だけだったからなんとかなったけど、ここでは無理っぽい。


 でも、諦めない。


「今はお金がないからやらないけど、私主催の舞踏会――踊る方の舞踏会を開く必要があるからダンスの訓練は必要だと思う。お母さんも言ってた。ダンスで結婚相手を捕まえるとか」


 スザンナ姉さんが「アーシャさん……」と言ってため息をついた。お母さんへの評価が落ちた気がする。


「私はまだそういうのはいい。そもそも親衛隊が踊るっておかしい。私達はアンリを守るためにいるんだから、舞踏会でも護衛役に徹する。なんだったらレイヤだけは踊ってもいい。そういう踊りは貴族として学んでいたらしいから私よりも上手い」


 なかなか手ごわい。しかもレイヤ姉さんを生贄に差し出した。これは何か違う手で攻めないとダメそうだ。


 でも、それは後にしよう。まずはニャントリオンにお願いをしないと。


 スザンナ姉さんに「その話はあとにしよう」と言ってから、ヤト姉さんに念話を送った。


「ヤト姉さん? アンリだけど、今、忙しい?」


「アンリニャ? 今はランチの仕込み中で忙しいニャ。後にするニャ」


 忙しいのは分かるけど、忙しいと聞いたのは建前というか礼儀として言ったまで。実際には話をしてもらいたい。こういうのは早くした方がいい。


 それに私はトラン王国の簒奪王。ここは権力の大きさを見せつけよう。


「ヤト姉さん、よく聞いて。私はトラン王国の王。あまり言いたくはないけど、結構偉い。忙しいとは思うけどちょっとだけ時間をとらせて」


「私は妖精王国の副料理長ニャ。どっちが偉いかは分かるニャ?」


 ……そう言われると微妙に負けている気がする。


 それにこういうのは良くないかも。仕方ない。一旦諦めよう。


「なら、また夜に連絡するからその時はお願い」


 そう言うと、ヤト姉さんから溜息をつくような念話が届いた。


「仕方ないニャ。なにか大事なことのようだし、ニア様に休憩を貰うからちょっと待つニャ」


 こういう演出がニクい。下げてから上げるみたいな。でも、本当に助かる。


 すぐにヤト姉さんから「いいニャ」と念話が来た。


「実はトラン王国でアイドルグループのニャントリオンに踊って欲しいんだけど」


「ニャ? なんでニャ?」


「トラン王国の人達は獣人さんと仲が悪い。色々あったから仕方ないことではあるけど、少しでもその仲を改善できるようにしていきたいと思ってる。あと、アイドルとして皆を笑顔にしてもらいたい。今、トラン王国に必要なのは心から楽しいと思える催しだと思ってるから、それをニャントリオンにお願いしたいかなって」


「なるほどニャ」


「ちなみに、ゴスロリメイズとウェンディ姉さんにも声を掛けるつもり」


 ヤト姉さんは「ニャー」と唸っている感じだ。


「どうかな?」


「まず、さっきも言った通り、私は妖精王国の副料理長ニャ。ここを離れるのは無理ニャ」


「確かに。ちょっと無理があったかも」


 ニャントリオンを呼べばなんとかなると思っていたけど、そういう問題があった。


 妖精王国で食事をする人は多い。それにニア姉さんの料理は材料の仕込みからしてかなり計算されているとか。ヤト姉さんでも結構大変だったはず。


 ヤト姉さんの魅力ならトラン王国の人達もイチコロだと思ったんだけど。


 いい案なんだけど、ちょっと厳しいかも。


「まあ、待つニャ。私は無理でもニャントリオンは行けるかもしれないニャ」


「え、本当?」


「私抜きのニャントリオンでもなんとかなると思うニャ。というか、させるニャ。たとえアウェーでもお客の心をつかむ……それがアイドル道ニャ!」


 意外とヤト姉さんは熱血だ。


「それとディアにちょっと相談してみるニャ」


「え? ディア姉さんに? 何を?」


「私は服飾ブランド『ニャントリオン』の専属モデルでもあるニャ。ソドゴラでもたまにやるようになったけど、ファッションショーをトラン王国でやれば楽しいと思うニャ。ニャントリオンのメンバーにやってもらって獣人の地位向上に貢献するニャ」


「採用。最高の案」


「なら、今日にでもディアに連絡してもらうから少し待ってるニャ」


「うん、ありがとう……あ、でも、ディア姉さんは結婚式の準備が忙しいんじゃないの?」


 ディア姉さんはガープ兄さんと今年中に結婚することが決まってる。


 服飾ブランドのニャントリオンも忙しいし、結婚式の準備もあるだろうから時間を作るのも大変だと思う。


「それは大丈夫ニャ」


「えっと、どうして?」


「リエルが邪魔しているから、しばらく結婚はないニャ」


「それは大丈夫じゃない」


 リエル姉さんはまだそんなことをしてるんだ?


 マナちゃんには聞かせられない……と思ったけど、ポジティブに捉えるかも。


「まあ、そんなわけだからしばらくは大丈夫ニャ。結婚の方はフェル様がリエルを説得しているからそのうち何とかなるニャ」


 フェル姉ちゃんも相変わらずだ。


 魔族さん達の王というか神である魔神で不老不死なのに、やっていることは結婚の説得。そこが良いところでもあるんだけど。


「とりあえず状況は分かった。それじゃ悪いんだけど、ニャントリオンとファッションショーの件、よろしくお願いします」


「任せるニャ。王位を取り戻すときは手伝ってやれなかったから今回は色々手伝ってやるニャ。それにフェル様もアンリは大丈夫か、と何度も言ってうるさいから、こうやって手伝ってやった方が少しは大人しくなるニャ」


 フェル姉ちゃんはそんな風に言ってたんだ。


 でも、すごくありがたい。


 私は王としての手腕はまだまだだけど、色々な伝手があるのは悪いことじゃないと思う。


 フェル姉ちゃんじゃないから一人でなんでもできるわけじゃない。こうやって皆の力を借りてやっとだ。


 うん。これからも皆の力を借りつつ頑張ろう。


「アンリ、聞いてるかニャ?」


「え? あ、なに? ごめんなさい、聞いてなかった」


「ならもう一度言うニャ。アイドルを雇うならちゃんとお金――出演料はしっかり払ってもらうニャ」


「……出世払いでお願いします」


「王になったアンリにそれ以上の出世はないニャ。キチンと払ってもらうからちゃんと用意しておくニャ」


 色々な伝手はあっても世知辛い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ