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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十八章

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武闘会

 

 御触れを出してから一ヵ月が過ぎた。


 私を簒奪王と呼ぶことと、倒すことができたら王位を譲るという内容だ。


 さらには王制廃止派を牽制するために「私が気に入らないなら直接文句を言いに来て」ということも添えて暴動などは起こさないようにと伝えてある。


 おじいちゃん達はかなり難色を示していたけど押し通した。さすがは簒奪王。力で押し通す。


 それにこの一ヵ月。私への挑戦権を得るということで国主催の武闘会を開催していた。


 場所はアビスちゃんにお願いしてコロシアム的な物を王都の隣に一晩で作ってもらった。昔、ソドゴラ村でやったような魔物さん達のトーナメントで作ったコロシアムだ。


 いまだに王位を譲るという言葉に半信半疑の人も多いけど、実際に武闘会に参加した人達が戦うと結構人気がでた。大声で応援するのもストレス解消になるんだろう。


 おかげでコロシアムの入場料とか飲食代で結構な利益がある。他国からも物珍しさでやってくる人も多いので、国にお金を落としてくれる人も多いみたいだ。


 そして今日、私が初めて挑戦者と戦う。


 調べたところ、勝ち残ったのは王制廃止派が送り込んできたオリハルコン級の冒険者だ。アダマンタイトに頼もうとしたけど、誰もが鼻で笑って受けてくれなかったとか。


 ほとんどのアダマンタイトは私の知り合いだし、知らない人でも私の強さを警戒しているみたいで敵対することはない。それに魔族さんや魔物さんは参加を禁止にした。


 同じ人族なら負ける気はないけど、ソドゴラにいる皆が参加したらさすがに無理。


 親衛隊の人が呼びに来てくれた。


 これから一対一の戦いが始まる。


 今日のコロシアムは満員御礼だ。他国からも貴族の人達が来ている。恰好悪いところは見せられない。


「アンリ、大丈夫?」


 コロシアムの王族席へ行く途中の通路。スザンナ姉さんが心配そうに話しかけてきた。


「もちろん大丈夫。それに相手はそれほど強くない。でも、油断はしないから安心して」


 半信半疑ということもあって今回はトーナメントの参加者が少なかった。全部で百人もいない。本当に強い人は出ていないだろう。様子見ってところかな。


「強さに関しては心配していないけど、多くの人の前で戦うのはそれなりに緊張すると思う。それに王制廃止派がヤジを飛ばしてくるかもしれない。戦いづらいかも……」


「それも大丈夫。たとえアウェーでも勝ってみせる。今日の――ううん。武闘会の主役が誰なのかを今日はっきりさせる。主役を食われることも下剋上もない。それを多くの国民に知ってもらう」


 皆と共に苦労して――そしてフェル姉ちゃんをあんな状態にしてまで取り戻した王位。それを誰かに渡すなんて真似はしない。これは死ぬまで私の物だ。


 通路を歩き、王族席に姿を見せる。


 五万人は収容できる楕円形のコロシアム。


 そのすべてを震わすほどの歓声とヤジが聞こえた。


 どちらかと言えばヤジが多い。王制廃止派が煽っているんだろう。そういう人達に入場してもらった可能性はある。チケットのお買い上げをありがとうとしか言いようがないけど。


 右手を軽く上げると、徐々に言葉がなくなっていった。ヤジを飛ばしている人はいまだにいるけど、まあいいや。


 ヴァイア姉さんから買った声を大きくする円すい型の魔道具を持った。


「私はトラン王国の王、アンリ。御触れの通り、これから私のことは簒奪王と呼ぶようにしてほしい」


 そう言うと、コロシアムの人達はざわざわしだした。冗談か何かと思っていたんだろう。簒奪と言うのはいい言葉じゃない。個人的には恰好いいと思っているけど。


「私がこの国を逃げ出して王位の継承権を失ったことは分かっている。でも、私は力で奪われた王位を取り戻した。簒奪王と呼ばれるのも間違いじゃない。そして、そのせいでトランの全国民に迷惑をかけた」


 王制廃止派がここぞとばかりにヤジを飛ばしてきた。王の器がないとか、王はいらないとかそんなヤジ。


 そのヤジが止まるまで何も言わずにジッと待つ。


 何も言わないことにおかしいと思ったんだろう。徐々にヤジも無くなって静かになった。


「さっきも言った通り私は簒奪王。一番信用しているのは力。私よりも強いと言うなら王位を渡す。私や王制が気に入らないというなら、私を倒して新たな王になり、王制を廃止にすればいい。人を煽って暴動を起こすなんて卑怯者がすること。私は逃げも隠れもしないから文句があるなら力で私を屈服させて」


 そう言って誓約魔法によるサインを紙に書く。簡単に言えば「負けたら王位を譲る」という内容だ。見えないだろうけど、それを皆に見せた後、おじいちゃんに渡した。


 思い切り溜息をついたおじいちゃんを横目に、王族席からコロシアムのフィールドへ飛び降りた。


 五メートル近く距離はあったけど、これくらいは余裕。


 着地したときは、左膝を立てて、右膝と右の拳を地面につける。そして左手は広げては地面と平行になるように横に伸ばす。あと、ちょっと下を向く。


 以前ディア姉さんから教えてもらった格好いい着地だ。この体勢で砂ぼこりが収まるまで待つのが通。


 歓声が起きた。


 ヤジもあるけど、今度は興奮している歓声が多い。


 ゆっくりと立ち上がってから挑戦者を待つ。


 正面にある鉄格子のゲートが開き、一人の男性が歩いてきた。


 茶色の髪を短髪にした二十代後半の男性。身軽そうな革製の黒い服を着て、両腰に剣を差している。普通に歩いているだけなのに足音がしない。どうやら冒険者というよりは暗殺者に近いのかも。


 こういう人を雇った王制廃止派は何を考えているんだろう。結局、王制どうこうというよりも、自分の利益かなにかに影響しているから王制に反対しているだけなのかもしれない。たぶん、国民のためとか正義とか、そういう大志はないんだろう。


 王制を廃止した後のことを本当に考えているのか一度確認してみたい気がする。単に不当な扱いをされていると思っている貴族達だって話だから、王制でなくなればもっと贅沢ができるとかそんな考えなんだろうな。


 おっといけない。まずはこっちに集中しないと。


 暗殺者っぽい男性が優雅に頭を下げた。


「初めまして、簒奪王。跪いたほうが良いですか?」


 そもそも敬意を払っているような顔じゃない。なんとなく見下している感じだ。こんな小娘に負けるわけがないとかそんな考えなのかも。私は結構強い方なんだけど、知らない時点で強くなさそう。それともユニークスキルとか奥の手でもあるのかな?


 まあ、どっちにしても跪く必要なんてない。敬意がない状態で跪かれても馬鹿にされているだけだ。


「そのままで構わない。ただ聞いておきたいことがある」


「なんでしょう?」


「私を倒して何をしたいの?」


「王制を廃止にしたいですね」


「その後は?」


 男性は何も答えない。少しだけ目を泳がせている。


「私にも未来に対する明確なビジョンがあるわけじゃない。でも、民のための王になるつもり。私にはトラン王国の全国民を幸せにするという荒唐無稽な夢があるけど、貴方にはそれよりもすごい夢がある?」


 そう言っても男性は何も答えない。


 つまりそういうことだ。


 単に雇われただけで何も考えていない対戦者。


 お金のためなのか、それとも王制廃止派に親族がいるのか、単に私に恨みがあるのかは分からないけど、国をどうしたいかという考えは全くない。


「少なくとも私が倒れればこの国が大変なことになることだけは分かった。先手は譲ってあげるから掛かって来て」


 そう言って亜空間から聖剣フェル・デレを取り出した。


 手に持つだけで私を守ってくれている気がする。


 それに呼応して男性も腰の剣を抜いた。


「鎧も着ずに戦うおつもりですか、簒奪王?」


「それ以前に攻撃を当てられると思っているの?」


 ガレスおじさんに作ってもらった白銀のプレートアーマーはあるけど、あれを装備するほどでもない。あれは亜空間に入れてないし、今は宝物庫だ。


「ずいぶんと舐められたものですが、負けてから文句を言わないでくださいね」


「分かった。でも、私が簡単に勝ったら文句を言うかも」


 そう言った瞬間に男性が飛び出してきた。


 思っていたよりも速い。それでも私にはスローモーションだけど。


 二刀流ではあるけれど、特に大した連携もなく、フェル・デレ一本で余裕に捌ける。


 それが一分ほど続いたら、通用しないと思ったのか相手は距離を取った。そして驚愕の目でこちらを見ている。


 私はこの場所から一歩も動いていない。もう少し何とかなると思っていたんだろう。


 直後に大歓声があがった。


 もしかして私がここまで強いとは思ってなかった?


 まあいいや。なら私がどれくらい強いか覚えて行ってもらおう。ここはアビスちゃんの結界内。どんなに派手にぶちかましても周囲には影響しないし、相手も死なない。遠慮はなしだ。


「先手は譲った。次はこちらの番」


 男性は二刀流を構え、受けの体勢になる。


 でも、そんなものは無意味だ。


「【一色解放】【黄】」


 剣に土の精霊が宿る。そこから繰り出される攻撃は大地を割る。私の強さと聖剣フェル・デレの力を目に焼き付けるといい。


 フェル・デレを両手で振りかぶり、


「【星砕き】」


 と言葉に魔力を乗せて、右足の踏み込みと同時に思い切り剣を地面に叩きつけた。


 軽い地震が起きて、ゾルデ姉さんの巨人の一撃のようなクレーターがコロシアムの中央にできる。その威力で周囲の砂が舞い上がった。


 一分ほど経つと砂ぼこりが晴れ、状況が良く見るようになる。


 男性はクレーターの外側で腰を抜かしたように座り込んでいた。やや放心気味で戦意を喪失しているように見える。


 近寄って剣先を相手に向けた。


「立つか降参するか決めて。ちなみに次は当てる」


「ま、参りました……」


 男性はそう言って剣を手放し、両手を上げた。


「私に勝ちたかったらもっと精進して。挑戦は毎月受けるから」


 そう言うと大歓声が起きた。今日最大の歓声だ。


 少なくとも私に対するヤジは聞こえない。あったとしても歓声でかき消されている感じだ。


 よし。後はフォローだ。この力を民に振るうわけじゃない。逆に恐怖を与えないようにしっかり対応しよう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今回のアンリ、めちゃくちゃフェルっぽくてニヤニヤが止まりません!
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