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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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運命

 

 マナちゃんのおかげでリエル姉さんは一命をとりとめた。


 椅子の上で両膝を抱えてぶつぶつ言っているけど、もう大丈夫だと思う。


 それとは反対にディア姉さんは満面の笑みだ。


「それでね、来年結婚するってことに決めたんだ。最近は色々あったけど終わりが見えたし、仕事も落ち着きそうだからね!」


 たぶん、色々あったというのは私のことも含まれていると思う。最近までずっと戦っていたし、フェル姉ちゃんもずっと眠ったままだった。そんな状態で結婚するのは気が引けたんだと思う。


 それを知っていたら急ぐために戦いでもっと無理をしていたかもしれない……知らなくてよかったかも。


「言うタイミングがなかなか掴めなかったんだけど、ちょうど良かったよ。まあ、あれだね、ダーリンとは前世で結ばれる約束をしてたんだよ! これは運命だね!」


「ああ、うん。そうだな。運命。良くある話だ」


 フェル姉ちゃんの言い方が雑だ。


 でも、運命。それに前世での約束。ディア姉ちゃんの場合はチューニ病的な表現なんだろうけど、色々なことがあって今があると思うと確かに運命を感じる。


 フェル姉ちゃんがソドゴラ村へ来たことが私の運命を変えた。王都を見下ろしたときにそう思った。


 ……なんだろう、フェル姉ちゃんが私の方を見ているけど、すごく心配そうな顔をしている。


「えっと、アンリ。変な男に捕まるなよ? 例えば、ミトルみたいな奴」


 男の人の話だった。ミトル兄さんは意外と心もイケメンなんだけど、フェル姉ちゃんの中では違うみたいだ。私にも一応男の人の好みというのはある。結婚するならこれっていう条件を軽く決めてたから教えておこう。


「その辺りは大丈夫。私に勝てなければ夫にはしない。夫になりたければ武器一つ持って私に戦いを挑む気概を見せて貰わないと」


「ハードルが高すぎる」


 そうかな? 私に勝てる人はいっぱいいる。人族だと少ないかもしれないけど、すくなくともこのソドゴラには私よりも強い人が多い。魔物さん達も含むけど。


 まあ、それは後だ。


 ムクイ兄さんがドラゴンの肉を持って来てくれた。普段お金に替えちゃっているけど、今日はしっかり食べよう。




 フェル姉ちゃんにはさっきからひっきりなしに人が会いに来る。


 そのついでに私にも挨拶してくれるけど、やっぱりここではトラン王国の王という肩書はあまり関係がないみたいだ。むしろ何も変わっていないような……?


 でも、その方がいいかもしれない。ここではどんな身分も関係なく、皆で楽しく過ごせる素敵な場所だ。


 あれ? さっきから冒険者ギルドのネヴァ姉さんとウェンディ姉さん達がフェル姉ちゃんと話をしているけど、ちょっと空気が変わった? なにか戦いの匂いがする。


 直後にウェンディ姉さんがステージの方を指した。


 指の先を追うと、そこにはヤト姉さんがいる。そしてその後ろには数人の獣人さん達。


「今日は私のニャントリオン復帰ライブニャ! 最強のアイドルが誰なのか改めて教えてやるニャ!」


 いきなり盛り上がると、ロンおじさんとかベインおじさん達が猫耳コールをしている。


「宣戦、布告。負けられ、ない」


 ウェンディ姉さんもやる気だ。それによく見ると、メノウ姉さんや料理を運んでいたメイドさん達がいない。


 どうやら、あの伝説の戦いがまた始まろうとしている。血で血を洗うアイドルの戦いだ。


「お前ら、三十超えてるのにアイドルやるのか? いや、いくつになったとしても別にいいんだけど、引退ってそんな簡単に撤回できるのか?」


 そしてフェル姉ちゃんは呆れ顔。


 うん。昔に戻ったみたいだ。ここは私達も妖精愚連隊として参加するしかない。クル姉さんも宴会に来るはずだし、マナちゃんもいる。最強の布陣で最強のアイドルが誰なのかを教えよう。ユニークスキルを使うのも辞さない。


 でも、その前にフェル姉ちゃんと話をしておこう。ちゃんとお礼を言っておかないと。


「フェル姉ちゃん」


「ん、どうした? このコロッケはやらんぞ? カレー風味はお気に入りだ」


「それはいくらでも食べて。そうじゃなくて、二人きりで話をしたい。フェル姉ちゃんの部屋で話をさせてもらってもいい?」


「なんの話か知らないが、ここじゃダメなんだな? 分かった。なら行こう」


「うん。あ、スザンナ姉さんは――」


「私はいい。二人っきりで話をしたいんでしょ? 三年近く話をしてなかったんだから思う存分話をしてくるといい。二人の邪魔をさせないように見張っておくから」


「ありがとう。スザンナ姉さん」


 スザンナ姉さんは何も言わなくても分かってくれている感じだ。聞かれて困るような話でもないんだけど、二人っきりで話をしたいと思ってたから助かる。


 フェル姉ちゃんと一緒に二階の奥の部屋へと移動する。


 しばらく使っていなかったはずなんだけど部屋は綺麗だ。それにパジャマパーティをしていたころと全く変わりがない。


 皆で夜更かしをするときはいつもここだった。数年ぶりだからすごく懐かしい感じがする。


 備え付けの小さなテーブルで向かいあって椅子に座った。


「それで話ってなんだ?」


「うん、改めてお礼を言いたかった。ありがとう、フェル姉ちゃん」


 頭を深く下げてお礼をした。


 正直、こんなものじゃ私の気持ちを表現しきれないけど、まずはちゃんと頭を下げておこう。


「よせよせ。アンリがトラン国の王になれたのはアンリ自身の力だ。私は最後にちょっとだけ手を貸しただけなんだから礼を言われるほどじゃない。私よりもスザンナとか、ずっとアンリを支えてきた奴に礼を言うべきだ」


 フェル姉ちゃんは分かってない。戦争のことだけじゃない。これまでのこと全てにお礼を言っている。


「もちろん、皆にはお礼をした。でも、フェル姉ちゃんは別。今回の戦いだけの礼じゃない。もっと昔からの事にお礼を言いたい」


「昔ってなんだ? 何かしたっけ?」


「フェル姉ちゃんは何でもしてくれた。夜盗から救ってくれたし、武器もくれた。ダンジョンも作ってくれたし、色々な事を教えてくれた。私がトランの王位を取り戻せたのは、ほとんどがフェル姉ちゃんのおかげ」


「それは言い過ぎだぞ?」


「そんなことはない。フェル姉ちゃんがソドゴラ村へ来てくれたから今がある。その礼を言いたかった」


 もう一度頭を下げた。


 マユラ母さんとおじいちゃん達が助けてくれたのが一番のきっかけだとは思う。でも、私が王になるためには多くの壁があった。


 その壁を全て失くしてくれたのがフェル姉ちゃんだ。


 戦争で私に協力してくれた皆。そのほとんどはフェル姉ちゃんの伝手だ。ルハラ帝国やウゲン共和国とも仲良くできるのもフェル姉ちゃんのおかげ。


 フェル姉ちゃんがいなかったら、ディーン兄さんが皇帝になることもなかった可能性が高い。獣人さん達はいまだに迫害されていた可能性もある。


 トラン王国はルハラ帝国やウゲン共和国と戦争を続けていたかもしれない。私が王位のために戦争したら、攻め込まれていたはずだ。


 私が王になれるチャンスは万が一にもなかったと思う。


 でも、そのすべてがこのためにあったんじゃないかと思えるほど、人界の情勢は変わった。全部フェル姉ちゃんのおかげだと言っても過言じゃない。


「フェル姉ちゃんとの出会いが、私の運命をいい方向へ変えたんだと確信してる。あれが私にとって運命の出会い。だから……私がいた村へ来てくれてありがとう」


 フェル姉ちゃんからの言葉はない。私の頭を下げるだけじゃ足りないと思っているのかな?


 少しだけ頭を上げてちらっとフェル姉ちゃんを見ると、なにか考えているようだった。


「フェル姉ちゃん?」


「ああ、すまない。お礼を言われるほどじゃないが、そう言ってくれて嬉しく思う。こちらこそ、ありがとうな。そうだ、昔の事を思い出してたんだが、ピーマンを食べられるようになったか?」


 ここでいきなりピーマンの話をぶっこんでくるなんて。でも、私を昔のままだと思ったら大間違い。


「大丈夫。鼻を摘まめば味はしない」


「それは大丈夫じゃない」


 フェル姉ちゃんはお礼を言われるのが苦手だからピーマンの話で雰囲気を変えてくれようとしたんだろう。でも、真面目な話はまだ続ける。言っておかないといけないことがある。


「ピーマンはいいとして、話しておきたいことがもう一つある。私はトラン国の王になった。もう気軽にここへ来ることはない」


「……そうだな。アンリだけじゃなく、村長やスザンナ、それにアンリの父や母、それと親衛隊の奴らもか。ここを離れてトランに住むんだな」


「うん。今日はヴァイア姉ちゃんの転移門で皆が来てるけど、そう簡単に来れるような距離でもない。だから今日を最後にしばらくは会いにこれないと思う」


 今度は王として戦いが始まる。それが落ち着くのがいつになるかは分からない。


 もしかしたら十年、二十年かかるかもしれない。その間にソドゴラには来ないとは言わないけど、何日も滞在するのは無理だ。


「アンリ、さっき自分で王になったと言ったじゃないか。なら、そんな顔するな。会えないと言っても、こっちに来れないと言うだけの話だろ? 私が行く分には何の問題もないじゃないか。しばらくは復興で忙しそうだから邪魔しないようにするけど」


 フェル姉ちゃんはいつだって私の欲しい言葉を言ってくれる。


「うん、それを言いたかった。いつでも遊びに来て。国賓として迎えるから」


「そんなことされたら逆に行かないけどな。普通でいいぞ、普通で」


「そう言わないで。私が王としてどれくらいフェル姉ちゃんに近づけたかを、玉座の間で見せるつもりだから」


「アンリは私――私に追いつくのは難しいと思うぞ。これでも魔族達の王をやってたからな。魔王は人族の王よりも、その、なんだ、すごいからな」


 なぜか一瞬言い淀むところがあったけど、目標はそれくらいがいい。


「うん。でも、絶対に追いつく」


「ああ、私に追いつく時をずっと楽しみにしてる。だから頑張れよ」


 そう言うと、フェル姉ちゃんは微笑んでくれた。


 本当は分かってる。たぶん、私がフェル姉ちゃんに追いつくことはない。あらゆる面で私はフェル姉ちゃんに勝てないだろう。でも、諦めない。


 それを思うだけで頑張れる。立派な王になれるようにこれからも努力しよう。少しでもフェル姉ちゃんに近づくんだ。


 よし、気合を入れよう。まずは食事で本気を出す。


「それじゃ食堂へ戻ろう。私もフェル姉ちゃんくらい食べないと立派な王になれない」


「食べる量は関係ないぞ?」


 そうかもしれないけど、私は形から入るタイプ。しばらくはニア姉さんの料理も食べられないから食い溜めしておかないと。


 フェル姉ちゃんと一緒に食堂へ戻ると人が増えていた。どうやら人界だけじゃなくて魔界からも来ているみたいだ。


「ルネ、レモ、来てたのか」


「フェル様、お久しぶりです!」


「お久しぶりです。ヴァイアさんから念話の連絡を貰ったので急いでやってきました」


 ルネ姉さんとレモ姉さんがフェル姉ちゃんに挨拶している。


 そういえば、ルネ姉さんは魔王になったとかいってたっけ? オリスア姉さんがそんなことを言っていたような……?


「お前達だけか? 他の奴らは?」


「連絡はしたのですが、今日中には来れないかもしれないですね。あ、でも、安心してください。その分、私が食べる……!」


 やっぱり魔王はたくさん食べる気がする。オリスア姉さんも食事の時は皿ごと食べる勢いだったし。これは同じ王として負けられない。


「まあ、いいけどな……アンリ? どうした?」


 私の決意がフェル姉ちゃんには分かったみたいだ。


「やっぱり王はたくさん食べないとダメな事が証明された」


「なんの話だ?」


「立派な王になるための話。立派な王はたくさん食べる。これは負けられない」


 なぜかフェル姉ちゃんは不思議そうな顔をしている。どうしたんだろう?


「アンリ、一体誰に負けないつもりなんだ? 私じゃないんだよな?」


「ルネ姉さんに負けない。そう言ってる」


「えっと、何でだ?」


「王だから」


「王? 誰が?」


 あれ? ルネ姉さんのことを知らない?


「もしかしてフェル姉ちゃんは知らないの? ルネ姉さんが王。魔王ルネ。たしか五年前から魔王をやってるはず。人界に修行に来たオリスア姉さんから聞いた」


 フェル姉ちゃんの首が壊れた人形みたいにギギギってゆっくりルネ姉さんの方へ向いた。ゴーレム兵が爆発する寸前の行動に似ている。


 ルネ姉さんはドヤ顔だ。そしてマントをバサッと払った。


「人形遣い魔王ルネとは私の事! さあ、人族よ! ひれ伏すがいい! そしてドラゴンステーキをもう一切れ持ってきてください! ワサビショーユで……!」


 偉いのか下手にでているのか分からない感じだけど、ルネ姉さんっぽい。せっかくだし、ルネ姉さんにも話をきいてみようかな。


 ……よく考えたら、ここにはたくさんの王がいる。せっかくだからディーン兄さんやオルドおじさんとも話をしてみよう。


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