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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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本屋の店主

 

 泣きながら迎えに来てくれたヴァイア姉さんの転移門をくぐって、ソドゴラの東にある商業都市リーンへとやって来た。


 どういう状況なのか分からないのでおじいちゃんにも来てもらった。少なくとも私よりは冷静だ。今の私は思考がまとまらないダメダメだから色々と頼ろう。


 それにソドゴラにいたスザンナ姉さんも転移門で合流した。


 スザンナ姉さんは泣いてはいないけど、かなりやつれている。最近はずっとそうだったけど、ここに来てとどめを刺されたような感じになっていた。


 それはたぶん、私もそう。自分でどんな顔をしているのか分からないけど酷い感じだとは思う。


 そんな私達を見たおじいちゃんが微笑んだ。


「アンリもスザンナ君も落ち着きなさい。フェルさんが怒って出て行くなんてことはないから」


「そんなことは言い切れない。それくらい私に呆れたんだ……」


 そう言うとスザンナ姉さんもヴァイア姉さんも自分達のせいだと言い出した。


 戦争に参加したくなかったのに、無理やり参加させて、さらには一番危惧していた暴走が起きてしまった。フェル姉ちゃんからしたら呆れて何も言えないという考えはあると思う。


「それに重要な話があるって言ってた。もしかしたら魔界へ帰るって話なのかも……」


「それならソドゴラで話してもいいだろう? フェルさんにはこの町で話さないといけない理由があるんだよ」


「それくらいソドゴラが嫌になったって意味で……」


 おじいちゃんが微笑みながら私の頭に手を乗せた。そして優しく撫でてくれる。


「昔ね、フェルさんはソドゴラ村が好きだと言っていたよ。追い出されるまで出ていくことはないと。だから心配しなくていい。それにアビスさんの話ではリーンに来た理由も言っていただろう?」


「でも、リーンにノマがいるかもしれないなんて話、アビスちゃんが聞き間違えたとしか考えられない」


 ノマはもう亡くなっている。それにリーンという場所がノマとは全く関係ない。人界でもトラン王国とオリン魔法国はまったく正反対の場所だ。


「そうかもしれないが、重要な話、そしてこの町で話したいということならノマに関する何かがあるのかもしれない。まずはちゃんとフェルさんの話を聞こう。ヴァイア君、あそこの本屋がその場所でいいのかな?」


「ふぁ、ふぁい……」


「ハンカチを渡すからこれでちゃんと拭きなさい。何年経ってもヴァイア君――というよりも、ソドゴラの子達は手のかかる子供達のままだね。さあ、行くよ、フェルさんに会おう」


 おじいちゃんが皆を先導して本屋に入った。


 入るとすぐに紙とインクのにおいが鼻を通り抜ける。フェル姉ちゃんが好きな本だらけ――まさか、ここに住むって話なのかな……。


「いらっしゃーい。ずいぶんと早かったね?」


「……ジェイ?」


 ピンク色の髪をした魔素の身体を持つジェイが目の前のカウンターにいる。店番をしているってこと?


「その通り! でも、超絶美人っていう言葉が抜けてるかな! それはともかくちょっと待って。今、フェルを呼んでくるから」


 ジェイはそう言うとカウンターの奥にある扉を開けて地下へと移動していった。


 ……よく分からない。なんでここにジェイが? 確かロモン聖国へ行ったって話を聞いたんだけど。


 ヴァイア姉さんは面識がないからよく分かっていない顔をしているけど、スザンナ姉さんは私と同じように不思議そうな顔をしている。おじいちゃんだけはあごに手を当てて何かを考えているようだけど。


 地下への階段から足音が近づいてきた。


 そしてフェル姉ちゃんが現れる。


「アンリ、遠い所まですまなかったな」


 いてもたってもいられなくなって突撃した後、抱き着いた。


「ごめんなさい、フェル姉ちゃん! 私の、私のせいで……!」


「だからもう謝るな。念話で何度も言っただろう? 私は怒ってない。アンリを手伝ったのは私の意思だ。だから暴走したのも私の責任だ。アンリのせいじゃない」


 ものすごい力で引き離そうとしているけど、絶対に離れない。こうなったらユニークスキルも使おう。三分で説得する。ソドゴラから出ていくなんて駄目だ。


 そう思ったら背中に衝撃があった。どうやらスザンナ姉さんとヴァイア姉さんも突撃してきたみたいだ。


「ごめんね、フェルちゃん! 私達、フェルちゃんがあんなことになるなんて全く考えてなくて! あんなに頑なにアンリちゃんを手伝わないって言ってたのに、無理やりやらせちゃって!」


「いや、だからな――」


「本当にごめんなさい。フェルが心配していたことが現実になってものすごく後悔した。ゴーレム兵だけだったから大丈夫だと思っていたけど、ラーファは人族。油断しちゃいけなかった」


「お前ら、いい加減にしろ。あれは油断した私が悪いんだ。お前らの責任じゃない。それとも何か? 私がやることは全部お前らの責任なのか? いいから離れろ。しつこいと本当に怒るぞ?」


 もしかして本当に怒ってない……?


 とりえあえず話を聞いてみた方がいいのかも……?


 離れるとフェル姉ちゃんはちょっと呆れた顔をしていた。でも、すぐに真面目な顔になる。


「アンリ、それに村長。念話で伝えた通り、ここへ来てもらったのは話しておきたい事があるからだ」


「はい。とても重要な事だと伺いました。一体、どんな話なのでしょう。それになぜここで?」


「会わせたい奴がいる。トランに連れて行くと色々問題がありそうだったからな。だから来てもらった。ちなみに会わせたい奴は何も知らない。それを踏まえた上で会ってやってくれ」


「フェルさんのお願いです。それは構わないのですが、一体誰と会えばいいのでしょうか?」


「今、呼ぶからちょっと待ってくれ。おい、アモン。連れて来てくれ」


 アモン……誰の事だろう? それに連れてくるってことはもう一人いる……?


 階段から二人が現れた。


 一人は黒い髪の四十代くらいの男性。なぜか目をつぶったままにしている。もう一人は十歳になったかならないかくらいの子供だ。私と同じ茶髪の髪を肩くらいまで伸ばしている。


 なんだろう? 子供の方はどこかで見たような気もする。


 その後ろにはさっきのジェイ、それにレオもいる。なんで二人はここに?


「初めまして、アンリ様、シャスラ様。私はこの店の店主、アモンです」


 アモンと言った男性が頭を下げた。そして頭を元に戻すと優し気な顔で隣の子供に微笑みかけた。


「さあ、挨拶しなさい」


「は、初めまして! ダ、ダズマです! ほ、本日はお日柄も良く!」


 ダズマ……? えっと? ダズマって私の弟の名前だったはず……?


「フェ、フェルさん、これは一体……!」


 おじいちゃんの驚いた声が聞こえた。そう、これは一体どういうことなんだろう?


「事情はこれから話す。それじゃ、ダズマ、まあまあの挨拶だった。あとはジェイとでも話をしていてくれ」


 フェル姉ちゃんがそう言うと、ダズマと呼ばれた子はジェイの方を見てから「えー」と言い出した。


「ちょっとダズマ? さっきも言ったけど、マジ笑わすから。マジ本気出すから。私をつまらないと言ったことを後悔させてやるから!」


 よく分からないうちに、ダズマって子はレオとジェイに連れられて階段を下りて行った。


 何が何だかよく分からない。重大な話ってこれ? フェル姉ちゃんが魔界に帰るって話じゃなくて? というよりもあの子は誰?


 なんだか考えがまとまらない。


 しばらく呆然としていたんだと思う。


 アモンと言う人が頭をまた下げた。


「私はノマの弟です。これから何があったのかを説明致しますので、少しの間、お時間を頂きたいと思います」


 ノマの弟……?


 なんとなく事情が見えてきた。そうか、フェル姉ちゃんはこれが重大な話だと言っているんだ。


 もしかして本当に怒ってない……?


 うん、それは後にしよう。まずはこのアモンという人の話を聞くべきだと思う。


「わかった。話を聞かせて」


 ノマのこと、アモンのこと、そしてさっきのダズマって子のこと。フェル姉ちゃんが言っていた重大なことの全部が分かるはずだ。


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