後悔は後回し
城の外では皆がざわついている。
全員が事情を知っているわけではないから、多くの部隊がどこかへ行ってしまったことに不安があるんだと思う。
そちらの対処も必要だけど、まずは優先順位の高いところからだ。
すでに探索に向かっていたレイヤ姉さんに城の東にある丘を調べて欲しいと連絡した。
ただ、魔力は供給されなくともダズマは魔素の身体を持っている。それにノマもいる。無茶なことはしないようにとお願いした。やって欲しいことは場所を特定することであって捕縛することではない。
これから東の丘へ向かうけど、その前に色々とお願いをしておこう。
まずは残党のことだ。
ゴーレム兵や魔素の身体を持っている人の生き残りがいるかもしれない。それには警戒しないといけないので、それはお父さんに頼むことにしよう。
「お父――ウォルフは軍を率いて残党の対処を。それにお母――アーシャ達魔術師部隊やマナちゃん達の治療部隊がいないから注意して。それと事情説明もお願い。不安に思っている皆を落ち着かせてほしい。私とスザンナ姉さんは東にある丘へ行くからこっちは任せる」
「承知しました」
戦争が終わったから、はい解散、というわけにもいかない。褒賞が必要だろうし、しばらくは寝床も必要だ。王城にある宝物庫に皆を納得させるだけのお金があればいいんだけど。
この辺りはおじいちゃんに任せよう。
「それとおじい――シャスラには今後の対応を決めて欲しい。それと問題の洗い出しを。大きな問題は把握しているけど小さな問題はたくさんあると思うから」
「承知しました。問題の対処が可能な場合は私の判断で対応してしまっても問題ありませんか?」
「任せる。一番重要なのは地下にいるトラン国の人達だから、そこを優先的にお願い。ただ、下手に何かしようとはしないで。どういう状況か分からないから、まずは状況確認だけをお願い」
地下はまだ見ていないけど、もしかしたら神の技術が使われている可能性がある。
アビスちゃんは魔力供給の遮断を五分で対応してくれたけど、アビスちゃんでも五分かかると言い換えることができる。私達が下手に手を出すと危険かもしれない。
「そのことなのだが――」
オルドおじさんが腕を組んで私の方を見ている。
「実は先ほどピラミッドにいるドゥアトを呼んだ。アビスが手を離せないなら地下の対処に必要かと思ってな。それに儂の知識が必要になるかもしれん。そちらは儂らに任せんか?」
「それはありがたい。ぜひお願い」
ドゥアトちゃんはダンジョンコアというアビスちゃんと同族だ。ドゥアトちゃんなら任せて問題ないと思う。
「そんじゃ、私はここにいるジェイとかレオを見てるよ。何か変なことをしようとしたらぶっ潰しておくから!」
ゾルデ姉さんがそう言ってくれた。
それには頷くことでお願いする。今のところ大人しくしているけど、この混乱に乗じて何かをするかもしれないから見張りは重要だ。
「変なことなんかしないってば……でも、アンリちゃんは東の丘に行くの? なんで?」
ジェイがなぜか目をキョロキョロさせながらそんなことを言っている。レオの方はどっしり構えているというかちょっと顔が険しいけど。
挙動不審のようにも思えるけど、どうしたんだろう?
「そこにダズマがいる可能性が高いから。このまま逃がすわけにはいかないからこれから向かうつもり」
「……それって間違いないの? ずいぶんと自信を持っているみたいだけど」
「間違いない。最も信頼できる魔法で判明してる」
「あ、そうなんだ……? あー、でもすぐに行くの? お腹すいてない? 腹が減っては戦ができぬって言うし食事してからでもいいんじゃないかな!」
「もしかしてすぐにそこへ向かうとまずい事があるの?」
「ないよ、全然ないかな! でも、お腹はいっぱいにしておいた方がいいと思うよ!」
怪しすぎる。そもそもトラン国を裏切ったと言っているけどそれも本当かどうか分からない。この辺りの対処もおじいちゃんに頼んでおこう。
でも、それは後だ。何かできるとも思えないし、今は時間が惜しい。
すぐに東の丘へ向かおう。
スレイプニルに乗ってスザンナ姉さんと一緒に東の丘へ向かっている。
レイヤ姉さん達がすでに探索をしているけど、まだ見つかったという報告はない。たぶんその拠点とやらは隠されているんだろう。
ヴァイア姉さんが構築した術式に間違いがあるとは思えないから東の丘を重点的に探せば見つかるはずだ。
それはそれとして、スザンナ姉さんがかなり危険な状態だ。比喩ではあるけどすぐにでも死んじゃいそうな青白い顔をしている。
「スザンナ姉さん、大丈夫? なんなら今からでもアビスちゃんのところへ行く? フェル姉ちゃんを心配しているんだよね?」
「……私はフェルに合わせる顔がない。無理やり連れてきて、あんなことになって、なにをどう償っていいか分からない……迂闊だった。ラーファは人族。ゴーレム兵や魔素の身体を持っている相手としか戦っていなかったから暴走の心配はないって勝手に思い込んでた。一番気を付けなくちゃいけなかったのに……」
「さっきも言ったけど、あれは私の責任だからスザンナ姉さんのせいじゃない」
「……そんなことない。これは私のせい。アンリからの要請だからって無理やり連れてきたのが間違いだった……」
かなりの重傷だ。でも、スザンナ姉さんのせいじゃないし、間違っていたとも思えない。
そもそもフェル姉ちゃんがいなかったらダズマのからくりが分からずにアビスちゃんへの連絡が遅れて負けていたかもしれない。
それにダズマに勝つためにユニークスキルを使った。それを止めれば反動で身体が重くなるなんて前から分かっていたことだ。
おじいちゃんを助けようとして鎖に捕まりそうになり、突き飛ばしてくれたフェル姉ちゃんが代わりに捕まった。
こんなことになった全ての原因は私が弱いせいだ。ユニークスキルを使わなくともダズマを倒せるほどの強さを持っていればこんなことにはならなかったのに。
もっともっと強くなりたい。
私は王だ。これからは国民を守らなくちゃいけない。守られる存在じゃなくて守る存在にならないと。
でも、過去を悔やんでも強くならないのはよく分かっている。未来のために、今、何ができるかだ。
「スザンナ姉さん」
「……なに?」
「私もスザンナ姉さんももっともっと強くならないといけない。二度とこんな思いをしないためにも一緒に強くなろう。だから後悔は後回し。フェル姉ちゃんは私を王にしようとしてくれた。まずはその期待に応えるためにもダズマを捕まえよう。そしてフェル姉ちゃんが元に戻ったら一緒に謝ろう」
「……そうだね。まずはやるべきことをやろう。落ち込んでいる暇なんてなかった。フェルが元に戻った時、ダズマを捕まえていなかったら馬鹿にされるかもしれないし」
「うん、その調子」
スザンナ姉さんは少しだけ元気になったみたいだ。まだまだ本調子じゃないだろうけどいい傾向だと思う。
そう、落ち込んでいる暇なんてない。ダズマが生きている限り私は王を名乗れない。必ず倒さないと。
「アンリ様、今、大丈夫ですか?」
「レイヤ姉さん? 大丈夫だけど、もしかして見つかった?」
「はい、丘の近くで地下に続く入口を発見しました。突入しますか?」
「待って。今、スザンナ姉さんと一緒にそっちへ向かっているから。中には入らずに外で待機をお願い」
「畏まりました。入り口付近で誰も逃がさないように見張っておきます。それと他にも出入り口がないか確認しておきます」
「うん、よろしく」
レイヤ姉さん達、戦乙女部隊が色々やってくれて本当に助かる。
それに、さすがはヴァイア姉さんだ。間違いないって信じていたけど、こうも確実に当ててくれるとちょっと怖いくらいだ。
「スザンナ姉さん、聞こえてた?」
「イヤリングを通して聞こえたよ」
「どんな罠があるか分からないからスザンナ姉さんの出番になる。ダンジョン攻略でブイブイ言わせていたスザンナ姉さんのユニークスキルを使ってもらうからよろしくね」
水によるトラップの確認や鍵の開錠、あらゆることができてダンジョン攻略には重宝した水を操るスザンナ姉さんのユニークスキル。その本領発揮だ。
そう言われたのが嬉しかったんだと思う。
スザンナ姉さんはいつもより儚げだけど笑ってくれた。そして頷く。
「任せて。今日はあまり出番がなかったからここからは私も本気を出す」
うん。持ち直してくれたみたいだ。こっちはこれで大丈夫だろう。
私ももうひと踏ん張りだ。たぶん、もう一度ダズマと戦う必要がある。それにノマも。
ユニークスキルを今日使うのはもう無理だし、フェル姉ちゃんもいないけど泣き言は言えない。
次は逃がさないように必ず倒そう。




