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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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人徳

 

 まずは深呼吸。


 全てを一気に解決するような案なんてない。一つ一つ丁寧に対処していこう。


 私が全部やることはない。そこまで傲慢な考えは持たない方がいい。皆は優秀だ。私はお願いするだけでいいはず。


 オリスア姉さんがルネ姉さんの魔王っぷりを評価していた。自分では何もできないけど、色々な人に仕事を割る振るのが上手だと。私もそれを見習ったほうがいい。


 問題はいくつかある。


 まずはアビスに閉じ込めたフェル姉ちゃんの問題。


 これはある程度状況は分かっている。アビスちゃんが吸収する魔力さえあればなんとかなる。アビスちゃんが色々と動いてくれているようだからこれは任せてもいいはず。


 私としてはソドゴラに駆け付けたいところだけど、魔力量から考えてもそれほど貢献できないし、まだまだとはいえ私は王だ。それを放棄してここを離れるのは皆を裏切ることになると同義。それに気づいたからには私はここで踏ん張らないと。


 次の問題はダズマとノマの二人だ。


 あの時、ラーファは拠点に行けと言っていたような気がする。


 そこへ転移を使って逃げた。想定でしかないけど拠点はトラン王国内だろう。さすがに国をまたぐほどの転移は魔力量から考えてもフェル姉ちゃんやヴァイア姉さんくらいしかできないはず。


 ……もしかして、アビスちゃんが城の外に人を集めて欲しいと言ったのはヴァイア姉さんの転移魔法を使うってことなのかも。


 ヴァイア姉さんの魔力ならフェル姉ちゃんよりも大きく、時間も長い転移門が作れると思う。ソドゴラへは行かないけど、一度確認しておいた方がいいかもしれない。


 それにもしヴァイア姉さんがここへ来たらノマの転移について相談させてもらおう。


 それに姿が見えなかったレイヤ姉さんと戦乙女部隊は消えたダズマとノマの捜索をしてくれているみたいだ。そちらの情報にも期待しよう。


 それ以外の問題は地下にいるトラン国の人達だ。


 これはどうしよう。アビスちゃんが対応してくれていたけど、今はフェル姉ちゃんのことで手がいっぱいのはず。こっちの状況は分からないけど、すぐに解放していいのかな?


 一度見に行った方がいいかもしれない。


 それにノマが改めて何かをする可能性もある。できるだけ早く地下から解放させてあげたい。


 他にも問題はありそうだけど、大きな問題はこの三つだ。


 さて、どうしよう――いけない。また自分だけでやろうとする悪い癖が出た。


 ここには優秀な人達がいる。意見を聞こう。でも、ここじゃなくて外だ。ソドゴラへ向かってくれる人達にフェル姉ちゃんのことをお願いしないと。


 自分の思いついた問題を説明しながら皆で外へと向かう。


 そういえば、ラーファの遺体はベインおじさん達が運んでくれることになった。


 思うところはあるけれど、ラーファも母親としてダズマを守ろうとして死んだ。


 考えは理解できなかったし、フェル姉ちゃんにあんなことをしたことも許せないけど、敵ながら尊敬できるところもある。


 丁重に葬りたいとも思わないけど、亡くなった人に鞭を打つような真似はしたくない。せめてダズマと同じ墓に入れてあげよう。それくらいの慈悲はある。


 城の外には多くの人が集まっていた。


 フェル姉ちゃんを助けるために多くの人が集まってくれたんだろう。ほぼ全員と言っていいくらいのメンバーがソドゴラへ向かってくれるんだ。


「アンリ!」


 クル姉さんとマナちゃん、それにベルトア姉さんがこちらに駆け寄ってくる。


「アンリ、悪いけど、私、ソドゴラ村へ行くね。フェルさんがピンチで私の魔力が必要なら行かないと!」


「クル姉さんも行ってくれるんだ? クル姉さんは魔力量が多いからぜひお願い」


「うん、任せて。それにディーン君にもアビスさんから連絡があったみたいで、行く準備してくれているみたい」


「ディーン兄さん? ルハラの皇帝なのに?」


「皇帝陛下だけじゃなくてウル姉さんもだよ。それに魔力の高い軍のメンバーも連れて行くみたい。フェルさんには世話になりっぱなしだったからね。情報の確認が取れたらすぐに行くって決めてくれたよ。ソドゴラで合流するつもり」


 確かにディーン兄さんは帝位簒奪をフェル姉ちゃんに手伝ってもらった。その恩があるだろう。でも、普通、その国のトップが駆けつけるなんてことはしない。


 これはフェル姉ちゃんの人徳なのかもしれない。私がなんとかしようというのはやっぱり傲慢な考えだったみたいだ。


「それじゃフェル姉ちゃんをお願い。私はまだここですることがある。全てが終わったらすぐに向かうつもりだけど」


「分かってるよ。アンリはこの国の王だもんね。それにルハラ帝国の比じゃないくらい問題が山積みなんだから、しっかりやって。代わりと言ってはなんだけど、ベルトアが残って色々やってくれるから」


「私は魔力が少ないからな。行っても微妙だしこっちに残るよ。なんでもするから言ってくれ」


「ありがとうベルトア姉さん。私はこっちで頑張る。あ、もしかしてマナちゃんもソドゴラへ行ってくれるの?」


「うん、私というかローズガーデンの皆も行くことになってるよ。リエル母さんが孤児院の皆や聖人教の聖人さんにもに呼びかけてくれたから、聖人教の人達も向かっているみたい」


「そっか、リエル姉さんが……」


「あんなに必死そうなリエル母さんの声を初めて聞いたな……リエル母さんにとってフェルさんがすごく大事な友人なんだなって思えたよ。アンリちゃんとスザンナ姉さんを置いて行っちゃうのは申し訳ないんだけど」


「大丈夫。こっちよりもそっちの方が大変だからぜひ魔力の供給をお願い」


 たぶん、アビスちゃんやソドゴラにいる皆が色々なところに呼びかけているんだと思う。


 フェル姉ちゃんは人界中を回って人助けと言うか、色々なことをした。恩を感じている人は絶対にアビスの中に入ってくれる。皆で魔力を供給すればフェル姉ちゃんの暴走が終わるまで閉じ込められるはずだ。


 周囲がざわついたと思ったら、城のすぐ近くに巨大な門が現れた。


 フェル姉ちゃんが使う転移門よりもはるかに巨大で何人もの人が通れそうな幅と高さだ。


 その扉が内側に開くと二人の人が出てきた。ヴァイア姉さんとディア姉さんだ。


 でも、ヴァイア姉さんはものすごく泣いている。


「で、でんびぼん、づ、づぐっだがら、ば、ばやぐ……」


 皆が引いてるくらいの泣き顔の上に、何を言っているのか分からない。


「もう! ヴァイアちゃんはアビスの中で転移門を開くだけでいいから! あー、えっと、アビスに向かってくれる方はこの門を通ってください! 門の先はアビスと繋がっています! 入ったとたんに魔力を限界まで吸いますが命に別状はありませんので大丈夫ですよ!」


 ヴァイア姉さんの代わりにディア姉さんが色々と説明している。


 魔力を限界まで吸うという話は伝わっているだろうけど、そう言われると躊躇する。皆が二の足を踏んでいるみたいだ。


 でも、そこに飛び込んでいく部隊があった。ジョゼちゃん率いる魔物部隊だ。


 私の方から連絡はいれなかったけど、アビスちゃんから連絡を受けていたんだと思う。


 何も言わずに行っちゃったけど、これは仕方ないと思う。


 そしてエルフさん達もディア姉さんの言葉に躊躇することなくその門をくぐっていった。


 お母さんもお父さんに何かを話した後、私に向かって微笑んでからすぐに入っていった。クル姉さんやマナちゃん達もそれに続く。


 それに触発されたのか、他の人達もすぐに門をくぐってくれた。


 そんな中、ミトル兄さんがヴァイア姉ちゃんに近づいた。


「ヴァイアちゃん、フェルは大丈夫だから泣かなくたっていーんだよ。女の子は笑顔が一番だぜ?」


「で、でも、あ、あんな、ヴェルぢゃん、ば、ばじめでで……あ、あんながおで暴れるなんで……」


 フェル姉ちゃんは暴走状態で暴れまわっているんだろう。どうやったかは知らないけど、ヴァイア姉さんはそれを見たんだと思う。私もここでの対応を終わらせたらすぐに向かおう。


 どんな状況になっているのか私もちゃんと見なきゃいけない。自分がやってしまったことをしっかりと把握しておかないと。


「フェルのことだから腹がすいて暴れているようなもんだって。すぐに前のフェルに戻るから安心しなよ。正気に戻ったら俺達に迷惑をかけた償いでフェルに飯をおごらせようぜ!」


 ヴァイア姉さんは鼻をすすってから頷いた。


「う、うん……そ、そうだね……フェルちゃんを前のように戻すためにも皆に魔力の供給をお願いしないと……もっともっと助けてくれる人をアビスちゃんのところへ転移させる……」


「その意気だ。それじゃ俺は先に行ってるよ。まったく、フェルの奴は俺らがいねーとどうしょーもねーな!」


 ミトル兄さんはこっちに手を振ってから笑顔で転移門の中へと入っていった。


 いつもより無理に笑っていると思う。でも、こんなことなんでもないという感じに振舞ってくれているんだろう。ミトル兄さんは思ったよりもイケメンだ。


 そうだ、私もヴァイア姉さん達と話をしておこう。


「ヴァイア姉さん」


「アンリちゃん! フェルちゃんが!」


 近づくといきなりヴァイア姉さんに抱き着かれた。さっき涙が止まったのにまた泣き出している。


「ごめんなさい。フェル姉ちゃんがあんなふうになったのは私のせい」


 ヴァイア姉さんは離れると泣いたまま首を横に振った。


「ち、違うの……私達、フェルちゃんを焚きつけたの。アンリちゃんを助けに行ってって。そうしたらこんなことになっちゃって……私達の――私のせいなの……」


 焚きつけた? フェル姉ちゃんを?


「違う。私がフェルを無理矢理に連れ出した。こうならないようにフェルはずっと戦いに参加しないようにしていたのに……」


 さっきから大人しかったスザンナ姉さんが今にも死にそうな顔でそう言った。


 ちょっと体が震えているし、私よりも危険な感じがする。


「二人ともフェル姉ちゃんは大丈夫だからそんなにならないで。それに責任があるならそれは全て私の責任。私が弱いからこんなことになったんだから二人とも気にしなくていい」


「もー! 三人とも何やってんの! 今はフェルちゃんのために少しでも早く動くときでしょ! 誰の責任でもいいから、後でフェルちゃんに怒られればいいんだよ! 怒られ慣れてる私が言うんだから間違いない!」


 ディア姉さんがそんなことを言いながら近寄ってきた。


 ミトル兄さんと一緒だ。ディア姉さんもいつも以上に明るく振舞っている。


「そ、そうだよね、泣いてなんていられない。頑張る。すぐに転移門をアビスとルハラの王城とつなげるから。ディーンさん達もアビスへ連れて行こう」


「うん、そうして。でも、私は行けない。ここに残ってやらなくちゃいけないことがある。終わったらすぐに向かうから」


 ディア姉さんが笑顔で頷いた。


「分かってるよ、安心して。大体、フェルちゃんだったらトランを放り出して何しに来たんだって怒るところだよ。こっちでやることを完璧に終わらせてから来るといいよ」


「うん。ありがとう。それじゃフェル姉ちゃんのことをお願い――それはそれとしてヴァイア姉さんに教えて欲しいことがあるんだけど」


「え? 何かな?」


「うん、実はダズマ――私の弟と博士と呼ばれている人が転移魔法を使って逃げた。転移先を追えるような魔法の術式ってある?」


「ごめんね、転移魔法を使える人は限られているからそういう魔法の術式を組んだことはないかな……」


「そっか。うん、ありがとう。なら地道に探してみる」


「その人達の場所を知りたいって話なんだよね? ならアンリちゃん、ちょっと頭にその人達の顔を思い浮かべてみて」


「顔を? えっと、こう?」


 頭の中にダズマとノマの顔を思い浮かべる。


 ダズマはどちらかというと私に似ている。ノマは――あれ? 何かよく思い出せない? 白衣を着ているのは覚えているけど。


 ヴァイア姉さんが私の頭に手を乗せた。そして何かの術式を構築する。


「ダズマって人はここから東にある丘の近く。誤差は一キロくらい。もう一人の博士って人はイメージが曖昧なのかちょっと分からないけど」


「何を言っているの?」


「え? ダズマって人を探しているんだよね? 今はそこにいると思うけど……今のところ動きはないから行けば捕まえられると思うよ」


「そうじゃなくって、なんで分かるの?」


「えっと、魔法で?」


 なぜか疑問形で言われた。相変わらずヴァイア姉さんはやることがおかしい。魔法ってそこまで万能じゃないと思うんだけど……でも、ヴァイア姉さんの術式なら信頼できる。


「ありがとう、早速向かってみる。それじゃフェル姉ちゃんのことをお願い」


「うん、まかせて。アビスちゃんの中に多くの人を転移させておくから。アンリちゃんも気を付けて」


「こっちは大丈夫だから心配しないで。アンリちゃんはしっかり王をやるようにね」


 その後、魔術師部隊の皆も転移門をくぐっていった。それを見届けた後、ヴァイア姉さんとディア姉さんが門を通ると巨大な門が閉じて消えていった。


 フェル姉ちゃんのために皆が頑張ってくれている。問題なんてあるわけないんだ。


 よし、さっそくダズマがいる所へ向かってみよう。


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