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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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外道

 

 即座にダズマへ向かって飛び出した。


 まずは小手調べ、なんてことはしない。最初に一撃を与えて、この戦いを支配しているのがどっちなのかを分からせる。


 でも、ダズマも同じように思っていたみたいで飛び出してきた。


 たとえ防がれようとも思い切りフェル・デレを振るった。小手先の技術ではなくてまずは力で黙らせる。


 甲高い音が聞こえて、お互いの攻撃が弾かれた。


 パワー勝負は今のところ互角だ。でも、まだまだ。


 速く、そして力強くフェル・デレを振るう。ほとんどが一撃必殺。そんな攻撃だ。


 ……おかしい気がする。本気は出していないと思うけど、それは私もだ。でも、力を抜いているとはいえ、この程度?


 どう考えても今まで戦ってきた相手の方が強い。それにダズマはゴーレム兵の経験を持っているはずだし、魔石を食べて魔素の身体を持った相手の知識などを継承しているはず。


 たとえ本気を出していなかったとしてもこの程度なら相手じゃない。


 仕掛けてみよう。


 今度は剣を弾かずに鍔迫り合いでダズマに接近する。


 手加減して押し込んでいるけど、ダズマも同じような力でしか返してこない。本気なのか手を抜かれているのか微妙なところだけど、この程度なら一瞬で息の根を止められる。


 そのダズマがニヤリと笑った。


「フフフ、姉上。人族にしては中々強い。私とここまで戦える人族に会ったのは初めてだ」


「貴方は魔素の体を持っている割に弱い。その程度なら人族にもたくさんいる」


 これならスザンナ姉さんやゾルデ姉さん達の方がはるかに強い。


 本気じゃないならそれまで。次の一撃で決める。


 足癖が悪いと評判の蹴りでダズマの姿勢を崩しつつ距離を開けた。


「【紫電一閃】」


 蹴った左足で思い切り踏み込み、魔力を乗せた紫電一閃で右から左へと横薙ぎ一閃。


 ダズマは躱すこともできずに上半身と下半身が分かれた。


 手を抜いていたとしても一撃で殺されるほど手を抜くなんて拍子抜けだ。


「他愛ない」


 真っ二つの弟を眺めている趣味はない。クルリと後ろを向く。


 身体的にどれだけ強くても戦いに慣れていないんだろう。経験の差だと思う。


「アンリ! まだ終わってないぞ!」


 フェル姉ちゃんの声を聞いて慌ててダズマの方に体を向ける。


 しまった。ダズマは魔素の身体を持っている。自爆するとは思えないけど、真っ二つでも動ける可能性が――さっき斬った身体がくっついている?


 いや、それよりも攻撃を受けないと。


 上段からの攻撃をフェル・デレを横にして受ける。


 思いのほか強い。さっきよりも少しだけパワーが増した感じだ。


 ダズマが憎たらしい感じに笑った。


「魔族に感謝するんだな」


「……どうして? 貴方を真っ二つにしたはず」


 魔素の身体を持っているなら生きているのは理解できる。でも、真っ二つになった身体が元に戻っているというのはどういうことだろう?


 服は斬れたままだ。つまり、斬ったのは見間違いじゃない。


「手品と言うのはタネを明かさないから面白いのだ。タネを知っていたら面白くないだろう?」


 直後にダズマから蹴りを食らった。私がさっきやった蹴りと同じだ。


 さすがに紫電一閃は真似してこなかったみたいだけど、攻撃がさっきよりも激しくなっている。


 落ち着こう。動揺せずに丁寧に攻撃を捌く。致命傷になりそうな攻撃だけは確実に止める。


 バルトスおじさんが言っていた。私は動体視力がいい。本気で防御に徹すれば誰にも負けない。


 問題はどうすれば勝てるかだ。ダズマは身体を真っ二つにしても死なない。魔素の身体を持っているとしても、インテリジェンス系の相手とは違って体内に魔石があるとも思えない。


 心臓を貫くという方法もあるとは思うけど、真っ二つになった身体が元に戻るほどなら心臓も治せる可能性はある。


 まずはその手品のタネを明かさないと勝てないかもしれない。


 斬ってダメなら――燃やしてみよう。


「姉上、どうした? 先程から防御ばかりだ。これでは私が勝つぞ?」


 さっきも思ったけど、ダズマは命を懸けた戦いをしたことがないんだろう。魔石を食べることによって経験を積んだ可能性はあるけど、魔素の身体を持った相手の経験なんて死を恐怖しない戦いだけだ。それに身体能力の差だけで勝てると思っている節がある。


 私は傭兵として色々な戦いをした。モンスターだけじゃない。山賊や盗賊といった人との戦いも経験がある。


 そういう人達は弱いけど、相手を騙して戦う強さで実力以上の戦果をだしていた。褒められたことをしていたわけじゃないけど学ぶことはある。


 わざとらしくない程度に悔しそうな顔をした。意味が分からなくて何もできない。そんな表情をダズマに見せる。


 調子に乗ったダズマが強めの攻撃をしてきた。


 それを受けそこなった感じに仰け反る。そういう演技で相手の大技を誘う。


「終わりだ。【紫電一閃】」


 こんないい加減な演技でも食いついてきた。


 縦斬りの紫電一閃を素早く横へ躱す。そして術式を組み立ててながら言葉に魔力を乗せる。


「【一色解放】【赤】【炎波】」


 ダズマをまた一閃。今度は斬るのではなく炎で燃やす。


 精霊の力を借りた炎はよほどのことがない限り相手を燃やし尽くす。池に飛び込むくらいのことをしないと消えないはずだ。


 ダズマは燃えながら後退した。


 でも、少し経つと火が消えていく。服は多少焦げたけど、それもほんの少し。


 火の消え方がおかしい気がする。身体に吸い込まれた?


 そしてダズマの身体から魔力があふれ出した。フェル姉ちゃんじゃあるまいし、魔力量が一気に跳ね上がるなんて。


「なかなか面白い剣だ。そんなことができるとはな。姉上を倒したら私のコレクションとして持っておこう」


「貴方にこの剣は使いこなせない。持ってるだけ無駄。剣もそう言ってる」


 ダズマがまた攻撃してきた。さっきよりもさらに速くて重い攻撃だ。


 まだ余裕はある。でも、結局手品のタネは分からなかった。一体、ダズマに何が起きているんだろう?


 あれじゃフェル姉ちゃんの不老不死と変わらない――そういえば、アビスちゃんがダズマは不老不死じゃないと言っていた気がする。不老不死を実現するには膨大な魔力が必要だとか。でも、これを見た限りは同じ――


「なんだと?」


 いきなりフェル姉ちゃんが声を上げた。


 私もダズマもそれに気を取られた。そして大振りの攻撃でお互いの武器を弾いてそのまま距離をとる。


 フェル姉ちゃんの方を見た。こういうときに声を上げるなんて何か問題が起きたに違いない。


 そのフェル姉ちゃんは私の方をちらりと見てからダズマの方を見た。


「ダズマに聞きたい」


「ほう? 魔族が私に何の用だ?」


「お前、その魔力はどこから来ている? お前の魔力ではないだろう?」


 ダズマの魔力じゃない?


 不思議に持っていると、ダズマがニヤリと笑った。


「なるほど、カラクリに気付いたのか? なら説明してやるか――いや、説明してやれ、ノマ」


 ダズマは博士の方を見てノマと言った。


 そのノマは両手を後ろに組んだまま、フェル姉ちゃんの方へ軽く頭を下げた。


「はじめてお目にかかります。科学者のノマと申します。お見知りおきを」


 カガクシャってなんだろう? 初めて聞く言葉だけど、確か博士は第三世代の生き残りだとか。そのころの言葉なのかも。


「さすがはフェル殿ですな。ダズマ様の魔力、その出所を疑うとは」


「早く答えろ」


「せっかちですな。では答えましょう。トラン国民が地下に閉じ込めてあるのはご存知ですな? 簡単に言えば、そこからダズマ様に魔力を供給しているのです」


 魔力を供給? 地下にいるトラン国民から?


「不老不死を実現するためにはどうしても膨大な魔力が必要なのですよ。残念ながら魔力高炉への接続許可がありませんのでな、別の形で再現してみました。なかなか良い出来だと思うのですが、フェル殿から見てどうでしょう? 是非とも意見を伺いたい」


「ふざけるな! そんなことをしたらトラン国民の魔力が枯渇して死んでしまうだろう!」


「何を怒っているのです? 貴方が使っている魔力高炉も似たような物でしょう? あれはこのエデンにいる生物から微力な魔力を常に吸い上げて溜めているのですから、原理は変わりませんよ」


 一部何を言っているのか分からない。でも、なんとなくは分かる。ダズマの魔力はトラン国民から吸い上げているものらしい。


 ノマがフェル姉ちゃんに笑いかけた。


「それにダズマ様は王なのです。王のために民が死ぬのは仕方のない事では?」


 その言葉にフェル姉ちゃんが驚いている。私も驚いた。


 フェル姉ちゃんが私とダズマ、順番に視線を送った。


「アンリ、ダズマ、お前達はどう思ってる? 民は王のためなら死ぬべきか?」


 ダズマは何を言っているのか分からないという顔をした。


「当然であろう。民は王のためにいるのだ。王が命令したら民はそれに従うべきだ。それが例え死ねという命令でもな」


 分かってない。王はそうじゃない。私の弟なのにそんなことも分からないなんて。


 首を横に振って否定した。


「違う。民のために王がいる。もちろん理不尽な命令をするときもある。でもそれは、民のため、国のためにすること。王は民のために働くべき。必要なら王は民のために命だって差し出さなくてはいけない」


 私はそう教わった。言葉で教えてもらったことなんてない。でも、私が目指す王は身をもってそれを証明している。


 フェル姉ちゃんが安堵したように私に笑いかけた。


「そうか。私もアンリと同じ意見だ」


 やれやれ、その目指す王はフェル姉ちゃんなんだから当然の事なのに。あの村で育ったんならどんな王になるかなんて誰も同じだ。


 でも、フェル姉ちゃんはすぐに真面目な顔になる。


「アンリ、ダズマに致命傷を与えると、地下にいるトラン国民の魔力が急激に減り、ダズマに供給されるらしい。魔力の少ない奴は死んでしまうかもしれない。攻撃はしてはダメだ」


 そっか。私の弟はそこまで堕ちていたんだ。生き方が違うとここまで違うなんて。


 怒らないようにしようと思っても心の底から怒りが湧いてくる。これが自分の弟だと思うと情けない。


「怖いな。姉上、せっかくの美人が台無しだぞ? その魔族の言う通り、私に致命傷を与えると、自動的に魔力が供給され体を治すのだ。つまり私を殺そうとすれば、代わりにトラン国民が死ぬことになる。トラン国民が全員死んで魔力が供給されなくなれば私を殺せるが、試すか?」


「……外道」


「これが強さというものだ。姉上がどれだけ強くなっても意味はなかったようだな。まあ、安心しろ。姉上が死ねば、国民は助かる。王として民のために命を差し出したらどうだ?」


 もう慈悲を与える必要もないけど、今の時点で私ではダズマに勝てない。でも、私には皆がいる。


 フェル姉ちゃんの方を見た。


 手を借りるしかない。今の私には何もできないけど、トランの国民が危険ならそれはなんとかしてほしい。


「アンリ、そんな顔をするな。助けるに決まっているだろう。まあ、やるのは私じゃないけどな」


 言葉にしなくてもフェル姉ちゃんは分かってくれる。それがどれだけ嬉しいことなのか言葉では伝えきれないほどだ。


 少し経ってから、フェル姉ちゃんが改めてこちらを見た。


 たぶん、アビスちゃんに念話を送っていたんだろう。こういうときはアビスちゃんの出番だ。


「アンリ、五分だけ耐えろ。アビスが何とかしてくれる。できるよな?」


「当然。一時間だって耐えて見せる」


 五分なんてあっという間だ。全力で攻撃をしのごう。


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