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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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姉弟

 

 橋を渡り、庭園のような場所を通って城に入る。そして玉座の間へと歩き出した。


 城は町と違って普通だ。全体的に白い石で出来ていて思ったよりも綺麗にしてある。きらびやかとまではいかないが、壁沿いに置かれている調度品や壁にかかっている絵などは値段が高そう。


 さすがに昔からある城を金属で作り直すことはしなかったんだと思う。


 十八年ぶりに戻ってきたわけだけど、不思議な感じがする。


 私が生まれたのはこの城だと思うけど、育ったのはソドゴラ村だ。物心がついたころにはあそこにいたからここにいた記憶なんて全くない。それなのに懐かしい感じがする。


 聞き覚えのある音が聞こえるとか、嗅いだことがある匂いを感じるなんてこともない。それなのになぜか懐かしいと感じる。私自身は覚えていないけど、身体が覚えているのかも。


 ダズマは十八年間、ここで何をしていたんだろう?


 私はソドゴラ村で育ってルハラ帝国で傭兵をしていた。それに世界中を巡って仲間を集めた。


 ダズマは城から出たことはあってもトラン国を出たことはないはず。それに十年近く前からトラン国の住人はおらず、いるのは魔素の身体を持った人かゴーレム兵だけ。


 もちろん母親のラーファや博士と呼ばれる人とは一緒にいたんだろうけど、私から見たらそれだけの人数だ。たぶん、意思の疎通ができる相手なんて五十人もいないだろう。


 そんな状態で王を名乗って楽しかったのだろうか。


 本人がどう思っているのかは分からないけど私から見たらそれはとても寂しいと思う。身体の疾患のことはともかく、そんな十八年だったら同情する。


 たとえそうだとしても私はそんなダズマを倒さなくてはならない。ううん、倒すと言うよりも殺す必要がある。今後に禍根を残さないためにもそれは絶対だ。


 たぶん、私がとどめをさせなくてもスザンナ姉さんが空気を読んでやってしまう可能性がある。さすがにそれはダメだ。


 ダズマは私の弟。会ったこともないし、本人が望んで王になったのかも分からない。でも、戦いの中で私が直接命を奪うのがせめてもの慈悲だ。姉として弟にしてやれる唯一のことだといってもいい。


 私にはソドゴラ村で多くのお姉さんやお兄さんがいた。そんな中で育ったから妹や弟が欲しかった。ヴァイア姉さんのリンちゃんやモスちゃん、それにニア姉さんのハクちゃんが候補だ。


 三年近く会っていないけどかなり大きくなったと思う。むこうがどう思っているかは分からないし、血は繋がっていないけど私の妹や弟だ。


 それなのに実の弟とは王位を争って殺し合いをしなくてはならない。


 正直、何をしているんだろうと思う。王になる……人界を統べようとは思っていた。もっと楽しいことだと思っていたんだけど、これは楽しくない。


「アンリ」


 フェル姉ちゃんの声に少しだけびっくりした。どうやら考え込んでいたみたいだ。


 立ち止まって、いつの間にか横にいたフェル姉ちゃんの方を見る。私の前を歩いていた皆も振り返ってこっちを見た。


「その、なんだ。皆がいるんだからそんなに緊張するな。アンリにとって信頼できる頼もしい仲間達だろ? 不安に思う事なんて何もないぞ?」


 そういうことじゃなかったんだけど、フェル姉ちゃんにはそう見えていたみたいだ。でも、不安に思っていたから色々考えていたのかも。


 まずは深呼吸をしよう。


 そうだ、余計なことは考えない。それは戦いで隙を生む。やるべきことはシンプルに。


「ありがとう、フェル姉ちゃん。落ち着いた。今の私なら神でも殺せる気がする」


「一応、私も魔神って名乗ってるから、試さないでくれよ?」


 フェル姉ちゃんは不老不死だから死なないのに。でも、それがちょっとツボった。それに皆も笑っている。良い感じに緊張が抜けたみたいだ。


 一通り笑ってから皆に頷いた。もう大丈夫という意味。


 皆も頷いてから改めて歩き出す。


 数分後、かなり大きくて豪華な扉が見えた。


 ここが玉座の間になるんだろう。でも、ここまで来るのにゴーレム兵がいなかった。この部屋にいるのかは分からないけど、慎重に対処しよう。


 ベインおじさん達が両開きの扉を二人掛かりで押し開けた。


 ずいぶんと大きい広間だ。百名近い人が余裕で入れそうな場所の一番奥に三人の人が見えた。ゴーレム兵はいない。


 それなら遠慮する必要もないので、奥へ向かって歩き出した。


 そして二十メートルほど手前で「控えよ」と声がした。一応、立ち止まる。


 正面の玉座に座っているのがダズマだろう。私と同じ茶色の髪が肩までかかるくらいの長さで整えられている。白色をベースにした服を着ていて宝石なんかもついている。付けているマントも見た限りでは豪華そう。


 でも、なんだろう。だらしないというか、右肘を玉座の肘置きに乗せたまま頬杖をしている。私をジッと見つめているけれど、どことなく興味がなさそうにも思える。ちょっと嫌な目つきだ。


 その左側にいるのが黒いドレスを着た女性。開いた扇子で口元を隠しているけど、さっき声を出したのはこの人だろう。つまり、ラーファだ。


 右側にいる男性はアビスちゃんと同じような白衣を着ている。この人が博士なんだろう。でも、ダズマ以上に私には興味がないのか視線が合わない。あの視線はフェル姉ちゃんに向かってる……?


「王の御前である。頭を下げよ」


 ラーファの声がまた聞こえた。


 なるほど。たしかに王の前では頭を下げるべき。


 でも、何も起きない。


「何をしておる。目の前にいらっしゃるのはトラン王じゃ。頭を下げるのは当然じゃろう?」


「なら早く頭を下げるといい。私がトラン王なのだから跪け」


 そう言うとラーファは誰がどう見ても怒りの表情になった。逆にダズマや博士は何とも思っていないのか姿勢を変えない。


 挑発の意味もあったけど、どちらが王なのかという話なら私が王。ちゃんと言ってあげよう。


「どうしたの? トラン王の御前なのだから、早く頭を下げて」


「あの女! いつまでも邪魔をしおって! 死んでからはその娘が邪魔をするか!」


 ラーファはそう言って手に持っていた扇子を床に叩きつけた。


 あの女……私の本当のお母さんの事だろう。そして今度は私が邪魔をしているときた。


「無知な貴方に教えてあげる。邪魔をしているのは貴方のほう。そもそも私が継ぐはずだった王位を暗殺などと言う汚い真似をして手に入れたのを理解して。それと貴方の息子は王を名乗っているけど、勝手に言ってるだけ。自称の王なんて何の意味もない」


 ラーファはさらに怒りの表情になったけど、逆にダズマは笑った。しかも「フッ」と鼻で笑った。しかも今度は大笑いで笑いをこらえきれないって感じだ。もう斬っていいのかな……でも、待とう。


 一通り笑いが終わってから、ダズマが私の方を見た。


「汚い真似といったのか? 戦いに汚いも綺麗もない。姉上には力が無かったからトラン国を追われた。トラン国にいないのにトラン王を名乗るとは片腹痛い」


「その通り。当時の私には力が無かった。だから力を付けて取り返しに来た」


「力を付けた、か。人族が力を付けてもたかが知れている。私は人族を超越した存在だ。王位を取り返せるかな?」


「愚問。弟だから話をしてあげただけで、本当なら既に貴方を数回は殺せていた。いつまで無防備に座っているのかは分からないけど、もう殺していい?」


 この距離なら一瞬で詰め寄れる。二秒もあればやれる。


「ハハハ! そうだったか。姉上も無防備だったのでまだ戦わないと思っていた。こっちも数回は姉上を殺せていたのだが、私の方も殺してよかったのか?」


 そう言ってダズマが立ち上がった。そして肩にかけていたマントを玉座へ放り出す。


「姉上、話は簡単だ。一騎打ちで姉上か私、強い方がトラン王となる。たかが二週間生まれた日が違うだけで、全てを奪われるのは納得できん。私にもチャンスはあっていいはずだ」


 チャンス? 王になるチャンスが欲しかったってこと? どうも分かっていないようだから教えてあげよう。


「すべてを奪ったのは貴方のほう。それにチャンスがあってもいい? 残念だけど、そのチャンスは三年前に無くなった。大人しくしていれば、トラン国なんてくれてやったのに、わざわざ私を怒らせた。貴方にはもうチャンスはない」


 王位継承権なんて破棄するつもりだった。そんなものがなくたって私は人界を統べる王になる。それなのに私を暗殺しようとしておじいちゃんを危険な目に遭わせた。


 生まれたときから持っていた王位なんていらないけど、つまらない人に渡すつもりもない。私にあるとは言えないけど、ダズマにも王になる器はない。


 聖剣フェル・デレを構えた。


 それに呼応するようにダズマは何もない空間から黒いオーラを纏った剣を取り出して構えた。


 この国に王は二人もいらない。姉として引導を渡してあげよう。


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