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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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頼もしい背中

 

 城壁があった場所はナガルちゃん達のおかげで更地になった。


 北側の城壁がほとんどなくなって城下町が丸見えの状態になっているけど、そこには魔素の身体を持った人達と、さっきよりも多いゴーレム兵達がずらりと並んでいる。


 魔素の身体を持った人の何人かは見覚えがある。


 剣士風の男性はソドゴラに来ていて、おじいちゃんを刺した剣を扱っていた人物だ。そして隣のピンク色の髪をした人はフェル姉ちゃんに化けて紅蓮の寮に来た人。


 他にも黒い狼や何人かは主要都市を落とすときに何度か会っている。今までは一度に来るのは三人か四人程度だったけど、今回は十人以上と同時に戦わないといけない。


 どうやらここで総力戦をしないといけないみたいだ。


 魔素の身体を持っている相手は強い。さらには自爆することもある。こっちにはマナちゃんがいるけどそれでもかなりの被害がでるだろう。


 でも、なんだろう? ピンク色の髪をした人はきょろきょろと周囲を見渡していて緊張感がない。戦いに来たわけじゃない……?


 剣士風の人がそれを咎めてから口元に何かを当てた。


「あー、聞こえるか? 俺の名はレオ。ここを通すわけには行かないんでな、城壁があった場所よりもこちらへ来たら問答無用で斬る。死にたくなければ来るな」


 声を大きくする魔道具だ。そこそこ離れているのに余裕で聞こえる。


 でも、どういうこと? レオって名前らしいけど、こっちが攻め込むまでは戦わないって意味? それとも挑発されてる?


 さすがに城壁が壊れることは想定していないはず。あの場所に罠がある様にも思えない。


 こういうときはおじいちゃんだ。


「あれはどういう意味?」


「いえ、分かりません。向こうから攻めてこない理由は王を守るためだと思いますが、それにしては城から離れすぎています。考えられるのは時間稼ぎですが、相手は北門以外から攻め込まれることも想定しているはずなので、ここへ援軍が来ることはないと思います。援軍がない以上、時間を稼いでも意味はないと思うのですが……」


 おじいちゃんでも分からないか。


 正直、細かいことは分からない。ただ、こうやってにらみ合っているだけでこちらが不利になっていくような気もする。


 仕方ない。被害は大きいだろうけど、突撃して倒すしかない。


 そんな風に思っていたら、いきなりフェル姉ちゃんが私達と相手の間に現れた。どうやら転移してきたみたいだ。


 フェル姉ちゃんは私を見て口を開いた。実際には声が届く距離じゃないけど、イヤリングを通して声が聞こえてくる。


「アイツらは私がやる」


 王位簒奪は手伝わないって言ってたのに、そんなことはなかった。なんて頼もしい。もしかすると、これがフェル姉ちゃんの個人的な事情?


 よく分からないけど、助けてくれると言うなら助けてもらおう。結構な被害が出ると思ったけど、フェル姉ちゃんならほぼ無傷で勝てるはず。


 さすがにここでフェル姉ちゃんの手を借りたとしても私に力がないという話にはならないと思う。この三年間、色々と根回しもしたし、頑張ってきたんだから大丈夫なはずだ。


「分かった。ここはフェル姉ちゃんに任せる」


「ああ、任せろ。お前の出番は最後だ。それまでは力を温存しておけ」


 そう言ってからフェル姉ちゃんはレオって人の方を見てこちらに背中を向けた。


 私が好きな背中だ。フェル姉ちゃんの背中はいまだとかなり小さく見える。でも、こんなにも頼もしい背中はない。絶対的な安心感がある。


「久しぶりだな。悪いがお前達の相手は私だ」


 レオって人が少しだけニヤリとする。あれ? ピンク色の髪の人も少し嬉しそう?


「願ってもない事だ。魔族を倒すために磨いた技術を人族に使う理由はなかったんでな。勝負してもらうぞ」


 そう言ってレオって人は剣を抜く。他の人達は立っているだけで武器を持って構えるようなことはしないみたいだ。


「一対一か? 時間がもったいないから全員で来い」


「……魔族とは言え舐めすぎじゃないか? 俺一人じゃ足りないと?」


「舐めてるのはお前達の方だろう? 私を倒すのにお前だけなのか?」


「まさかとは思うが、魔王で不老不死だから負けないとか考えていないだろうな? 殺すことはできないが、動けなくするくらいはできるぞ?」


 フェル姉ちゃんのことを知っている? 知っているのはソドゴラにいた人達やフェル姉ちゃんの知り合いくらいだと思っていたのに。


「博士から聞いたか?」


「まあ、そういうことだ。戦いは一対一で譲らんぞ。魔族に勝つために何年も修練を積んだ。あの頃の私と思わないほうがいい」


 フェル姉ちゃんは博士のことを知っている? それに博士の方もフェル姉ちゃんを知っているってこと?


 何がなんだか分からなくなってきた。フェル姉ちゃんは一体何を知っているんだろう?


 そうこうしている間にレオって人が剣を構える。


「その剣は――」


「ああ、俺の本体だ。クラウ・ソナスが壊れたんでな、これしかなかった。名乗っておこう。魔剣ダーインスレイヴだ」


「そうか。なら私も名乗っておこう。魔王――いや、神殺しの魔神フェルだ」


 ディア姉ちゃんのチューニ病的表現が炸裂した。私は恰好いいと思う。


 レオって人は半身になって左手を前に突き出して。そして剣は右手に持ってだらんと垂らしている。あれはトラン流剣技の構えの一つ。左手はくれてやるから心臓をよこせという構え。私も左手を突き出すのはよくやる。


 フェル姉ちゃんは両手を軽く握って肘を曲げ、左腕で顔を、右腕で胸の辺りを守るような構えだ。そしていつものセリフを言う。


「来い、先手は譲ってやる」


「後悔するなよ? 『身体ブースト』『高速演算起動』『虚空領域接続』『疑似未来予知展開』『限定世界規則改変』」


 レオって人はそう言った直後に飛び出した。そして一瞬でフェル姉ちゃんの前まで移動する。


「『紫電一閃・乱』」


 あれはお父さんも使える紫電一閃の乱れ撃ち。普通、動かない相手、城壁とかに使う技なのにフェル姉ちゃん一人に使った。複数の斬撃を全部躱すのは不可能――普通の人なら。


「とった!」


 そう言いながら放った技はフェル姉ちゃんの左手で止められた。


 ……ちょっと待って欲しい。紫電一閃は空間を斬る技。つまりあらゆる物を斬る。それなのにフェル姉ちゃんは斬れていない。


 お父さんの方を見ると、お父さんも目を見開いて驚いている。


 あの「紫電一閃・乱」は完璧だった。それにお父さんが放つ技よりも速く鋭い。魔力の乗せ方も完璧だからフェル姉ちゃんは躱すと思っていたんだけど、何事もないように左の手のひらで剣を受け止めた。しかも血が出ていない。


「ば、馬鹿な! 空間すら斬る斬撃だぞ! なぜ斬れない!」


「魔力で体内の魔素を硬質化した。私以上の魔力を使わない限り私の体を斬ることは不可能だ」


 普通、そんなことできないんだけど。というか、私の必殺技もフェル姉ちゃんには効かないってことに……?


「この十数年でお前は強くなったのだろう。だが、私も強くなることを考えなかったのか?」


「くっ!」


 レオって人が後方に飛びのく。でも、フェル姉ちゃんは転移して逃がさない。直後に左フックが炸裂した。


「ぐっ、お……!」


 ガードが間に合わずに思いっきり右腕を殴られた。激しく吹き飛んだけど、あれは衝撃を逃がすために自分で跳んだ。私もよくやる。それなのにかろうじて立っているって感じだ。


「くそ! なぜ未来予知が働かない! なぜ予知以上の行動ができる!」


「ネタバレはマナー違反だから言わんぞ」


 あのレオって人は魔素の身体を持っている人達の中でもかなり強いはず。それなのにフェル姉ちゃんの前だと子供扱いだ。普通の人では目で追えないほど速い攻撃なのに、ほぼすべての攻撃にカウンターを入れている。


 フェル姉ちゃんは何でもありのような気がしてきた。というか未来の自分を見ているようでちょっとへこむ。今、フェル姉ちゃんと私が戦ったら私がああなるわけだ。


「悪いな。普通の魔族なら勝てたかもしれないが、私は普通の魔族じゃない」


 そもそもフェル姉ちゃんは魔族という範疇に入っていないと思う。魔王で魔神だし。でも、そうか。あの状態のフェル姉ちゃんを倒さないとダメなのか。


 もうレオって人はボロボロだ。動き遅くなったし、精細さがなくなってきた。


「それだけボコボコにされても戦う意思があるのか。負けを認めて倒れてもいいんだぞ?」


「……まだ動ける。動けるうちは負けじゃない」


「そうか。なら続行だ」


 フェル姉ちゃんはそう言ったけど、決めるつもりだ。


 転移してから右の拳で腹部への攻撃。その攻撃がレオって人の身体を貫いた。


 腹部への打撃ってじわじわと体力を奪うような攻撃なのに一撃必殺の威力になっている。フェル姉ちゃんが相手だと、硬い魔素の身体も意味がないようだ。


「が、はっ」


 腹部を貫かれても剣を振るった。でも、そのまま前のめりに倒れる。最後の最後まで戦おうとしていたんだろう。その気持ちだけには敬意を払いたい。


 フェル姉ちゃんは倒れたのを確認してから今度はピンク色の髪の人を見た。


「さて、次はお前か?」


「レオを単独で倒すような相手と戦うわけないじゃん? と、言いたいところだけど、今回はやらなきゃいけないんだよねぇ。はー、やだやだ。こんな天気のいい日に戦争なんて趣味じゃないよ。ショッピングしたい」


「戦争なんて趣味じゃないのは私も同意見だ。ところでレオはどうする? 持って帰っていいぞ?」


「あー、それはそのままでいいよ。しばらくは動けないだろうし……さてと、今回ばかりは本気でやろうかなっと」


 ピンクの髪の人はそういうと、何かの仮面を取り出した。それを顔に付ける。泣いている仮面みたいだけど、顔が覆われて素の顔は見えなくなった。


「これが私の本体。ダーレンスレイヴみたいな名前なんかないよ。しいて言えば『クライ』かな。まあ大量生産された仮面の一つだね」


 クライ……? 確か泣くって意味だっけ? 古代共通語の勉強していたときにおじいちゃんから教わったことがある。


「じゃ、いくよー」


 なんだかすごく気の抜けた声。


 でも、速い。速さだけならレオって人よりも上だ。しかも、戦い方は体術。パンチやキック、膝蹴りや肘打ちまであって、威力もありそうだ。


 フェル姉ちゃんはパンチだけのスタイルだけど、それがかみ合っているのか、かなりの接近戦をしている。


『ちょっと! フェル! 悪いんだけど、戦いながら聞いて!』


 あれ? 小さな声がイヤリングから聞こえてきた?


『私とレオって、今、超ヤバイの! 助けて! お願い!』


 戦いながら内緒話をしているみたいだ。でも、こっちに筒抜けなのは分かっていないみたい。


 でも、超ヤバイ? フェル姉ちゃんと戦っているんだから超どころじゃないと思うんだけど……?


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