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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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あの人

 

 アビスちゃんがフェル姉ちゃんの力を借りる必要があると言った。


 本音で言えばそうしたい。フェル姉ちゃんの力を借りたい。戦ってくれなくたっていい。そばにいてくれるだけで、私はなんでもできると思う。


 でも、それはダメだ。フェル姉ちゃんに依存する王なんてありえない。それにここまで頑張ってきたプライドだってある。


 なんのためにここまで苦労してきたのか。それは私自身が成長するためだ。もっともっと強くならないとフェル姉ちゃんには追い付けない。


「あの人の力は借りない。それは一年前にも言ったはず」


 フェル姉ちゃんと言葉に出して言わなくなった。名前を言うだけでも安心してしまうからだ。それだと気が緩む。


 自分を一瞬も気を抜くことができない綱渡りのような状況に追い込んだ。だからこそここまで勝てた。ここまで来て気が緩んだらかなり危険だ。


 それなのにアビスちゃんは食い下がってきた。


「しかし、こうも言っていました。自分達ではどうにもならない状況ならフェル様の力を借りることもやぶさかではないと。今、その状況だと思っていただきたく思います」


 なぜかその言葉に幹部の皆も頷いた。


 確かにそうは言ったけど、実際にそんな状況になるとは思えない。念のために事情を聞いてみよう。


「なら、説明を。それを聞いて判断する」


「はい。今日、原型をとどめたゴーレム兵を確認致しました。どうやらこのゴーレム兵は一から作られた物らしいのです。私の予想と違っておりました。王都での戦いは大変危険なものになるかと思います」


「因果関係が良く分からないからもう少し詳しく説明して」


「失礼しました。では――」


 アビスちゃんの話ではこうだ。


 ゴーレム兵は一から作り上げた物であるという事実が判明した。これは機神ラリスというトラン王国にいる神の技術で作られている。


 元々、人族に機神ラリスの技術が奪われていることは分かっていたらしい。これはフェル姉ちゃんが知っている情報でアビスちゃんと共有していた。


 アビスちゃんは技術を盗んだと言っても、すでに機神ラリスによって作られていたゴーレム兵をこの戦いに投入しているだけだと考えていた。


 でも、今日調べてみると、ゴーレム兵は機神ラリスではなく、人の手によってつくられていたとのことだ。


 判明した理由は簡単。


 機神ラリスは十数年前に死んでいるからだ。ゴーレム兵はそれよりも後に作られているので機神ラリスには作れない。つまり、技術を奪った人族がその技術を使って作り上げたということだ。


「なんとなく事情は分かったけど、あの人の力を借りる理由にはならない。一からゴーレム兵を作ったからと言って助けを求めるのは変だと思う」


「機神ラリスの技術は今の人達に理解できるものではないのです。技術が奪われて結構な期間が経っていますが、その程度の期間で理解するのは不可能です。それを考えるとおそらくトラン王国には第三世代の人族がいると思われます」


 皆が驚いている。私も驚いた。


 第三世代は今よりも高度な文明があったとおじいちゃんに教えてもらったことがある。高度な文明がどんなものなのかは分からないけど、今よりも遥かに技術が進歩した世代だったとか。


 その時代の生き残りがいるってことだ。でも、第三世代はかなり昔、どうして人族が生きていられるんだろう?


 遺跡から発掘される第二、第三世代の物は分かる。でも、人はそんなに長く生きられない。


「聞きたいんだけど、その人族はあの人みたいに不老不死ってこと?」


「いえ、それはあり得ません。実はそういう人を一人だけ知っているのですが、その方は冷凍睡眠という体を維持したまま超低温で眠る装置で生き長らえました。おそらく似たような技術で生き延びたのだと思います」


 詳しく聞くと、商業都市リーンにいる本屋の人がその一人らしい。フェル姉ちゃんの知り合いだとか。


「第三世代の人族を相手にするのならいざという時のためにフェル様に近くにいてもらったほうがいいでしょう。王都を攻めるとなれば、相手は今まで以上に本気を出すはずです。アンリ様達だけですと危険過ぎます」


 確かに危険かもしれない。でも、それは今までだって同じことだ。安全な戦いがあるわけない。


 首を横に振った。


「話は分かった。でも、あの人の力は借りない。私達だけでなんとかする」


 また、皆が驚いた。私ならこの提案に飛びつくと思ったんだろう。


「まず、本当に危険なら証拠を揃えて。話を聞くとアビスちゃんの憶測であることが多い。そんな状況であの人に助けてとは言えない。そもそも第三世代の人族が本当にいるの?」


「確かに状況証拠でしかないですね。ただ、トラン王国には『博士』と呼ばれる人物がいるようです。ソドゴラに暗殺の依頼を受けた者達が来たと思いますが、その時にアンリ様はそんな話を聞いたはずです。おそらくその『博士』が第三世代の生き残りでしょう」


 そういえば、メッセンジャーになってもらった剣士がそんなことを言っていた気がする。命令系統がどうとかも言っていた。


 あの剣士は魔素の身体を持っていた。それにこの戦いでは魔素の身体を持った相手がたくさんいる。ゴーレム兵とは違うかもしれないけど、アビスちゃんと同等の技術を持っていないと作れないのは間違いないだろう。


 心が揺らぐ。フェル姉ちゃんに助けて欲しいと思っているのは私だ。ここにいる誰よりもそう思っている。


 でも、ダメだ。最後の最後でフェル姉ちゃんに頼るなんて、今までのことに意味がなくなる気がする。


「アビスちゃん、やっぱりそれは状況証拠にしかならない。さっきも言った通り、あの人の力は借りず、私達だけでやる」


「アンリ様……」


「これもさっき言ったけど、どうしてもというなら証拠を揃えて。絶対に私達だけじゃ勝てないというならあの人の力を借りる。でも、戦いが楽になるという程度の理由で助けを求めることはできない」


「……承知しました。ここから王都までは一週間ほど掛かるでしょう。それまでに証拠を揃えますので」


 本当に証拠を揃えられたら困るんだけど、そうなって欲しいと思っている自分がいる。


 私はなんて弱いんだろう。でも、それが分かっているからこそ、安易にフェル姉ちゃんを頼るのはダメだ。


 それに問題はまだある。


「あの人が絶対に助けてくれるという保証はない。証拠を探すよりも私達だけで勝てるような作戦、対策を考えて欲しい。それが可能なら助けを求める必要もなくなるから」


「……それも承知致しました」


 私は最高の王になる。たとえ相手が誰であろうと勝つ。フェル姉ちゃんがいなかったから王になれなかったなんて言い訳はしたくない。


 部屋を見渡すと皆が私を見ている。なぜかちょっと悲しげだ。そんな風に見られる理由なんてないのに。


 それに今日は最後の主要都市を落としためでたい日。もっと楽しくやって欲しい。スザンナ姉さんがいないのはちょっと残念だけど。


「皆、会議はこの辺にしておこう。今日はお疲れ様。残すは王都だけ。少しくらい羽目を外していいから食事を楽しんで。それじゃ解散」


 トラン王国の北から攻め込んで、王都を左手にぐるりと回る様に周囲の主要都市を落としてきた。今度は王都を目指す。


 あと少しだ。あと少しで皆を助けることができる。


 アビスちゃんの話では王都の地下に国民全員が閉じ込められているらしい。そんな巨大な地下があるわけないと思ったけど、元々そこは機神ラリスがいる場所で、それくらい可能とのこと。


 王になるという理由もあるけど、まずは皆を助けないと。そのためにもダズマを倒さなくてはならない。


 ……強くなろう。おそらくダズマを守っている魔素の身体を持ったインテリジェンス系の敵は強い。逃がしたときはゴーレム兵と同じように強くなって戦場に戻ってきた。次に戦うときにどれくらい強くなっているか分からない。


 でも、それよりも強くなればいい話だ。


 よし、素振りをしておこう。王都まで一週間、たったそれだけで強くなれるかどうかは分からないけど、一分一秒だって無駄にはできない。


「アンリ様」


 おじいちゃんに声を掛けられて初めて気づいた。


 皆はいつの間にか部屋から出ていたようだ。この部屋にいるのは私とおじいちゃんだけになっている。


「考え事をしてた。なに?」


「体をお休めください。最近、無理をしすぎです」


「そんなことない」


「いえ、どう見ても――」


「最近じゃない」


「え?」


「戦いが始まってからずっと無理してる」


 おじいちゃんが申し訳ない顔をしている……?


 ああ、そっか。嫌味に取られたのかも。そんなわけないのに。


「おじいちゃん、ごめんなさい。嫌味で言ったわけじゃない。これは私が進んでやっていること。おじいちゃんがそういう状況を作ったとか王位を取り戻すことが嫌だったとか、そんな意味で無理をしていると言ったわけじゃない。無理をしているのは、あの人に追いつくため。今なら分かる。あの人はこんな状況を三年近くやっていた。私はもっともっと頑張らないと追い付けない」


 それに私と違っていざとなったら頼れる人がいなかった。常に崖っぷちでずっと大変な思いをしながら魔王をやっていたことになる。


 それにいつか確実に負ける勇者との戦いがあったのに、逃げずに踏ん張っていた。たとえ自分が死んだとしても、魔族さんを一人でも多く残すために一対一で勇者と戦うことにしていたと聞いた。


 私なんかいくら追い込んでもフェル姉ちゃんの苦労や辛さには届かない。


「……フェルさんはもろ刃の剣ですね。あれほど頼りになる人はいませんが、追いつこうとするならそれこそ人をやめるくらいの気持ちでいないとたどり着けません」


「だからこそやりがいがある」


「普通は無理だと諦めるのですがね……ですが、ずっと無理をし続けたところで追いつくとは思えません。どうか、王都へ行くまでに十分な休息をとってください。それにフェルさんの力を借りることも視野に――」


「休息については分かった。その通りにする。でも、あの人の力を借りることは基本的にないと思って。あの件はアビスちゃんに調査をお願いしたから、次の報告でまた考えるけど」


「……分かりました。では、食事にしましょう。豪勢とは言えませんが、それなりの料理を用意してもらいました。もちろん、ピーマンは使っておりません」


「それは素敵。それを聞いただけですごく疲れが取れた」


 無理をしすぎて最後にヘマをするというのはよくあること。確かに無理を続けてもいい結果になるとは思えない。しっかり休んで王都での戦いに備えよう。


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