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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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一年後

 

「突撃する! 動ける者は私に続いて!」


 スレイプニルに乗ったまま、商業都市シュルザルの北門へと向かう。門を開けるにはこれが一番。これ以上、被害が出ないうちに門を斬って都市になだれ込む。


 矢と魔法が降り注ぐ場所を通り抜けて門へ向かった。


「アンリ様、お下がりください。ここは私が」


 お父さんがスレイプニルに乗って私と並走してきた。


「お父さんは軍の指揮をお願い。最前線に出てこないで」


「それはアンリ様に言いたいです。ご安心ください。今回だけです。『シロキリ』と言われた私の力をお見せします」


 シロキリ。つまり城斬り。


 あの巨大な門を斬るってことだ。そういうことならここは任せよう。


「分かった。任せる。あの門を斬って」


 ゴーレム兵は戦えば戦う程強くなる。昔は守ることもせずに攻撃しているだけだったのに、効率的な戦いをするようになってきた。


 今では都市の防衛というか籠城的なことまでする始末。さらには私だけを狙うなんて真似もしなくなった。軍の消耗を狙っている戦い方だ。


 兵糧攻めができない籠城戦に勝つには強行突破しかない。壁の上から攻撃されて近寄るのも難しいけど、突っ込まなければずっとこのままだ。


 東西南北全ての門に兵を配置してゴーレム兵を分散させた。チャンスは今しかない。


 そんなことを考えていたら、いつの間にか門の近くまで来た。


 お父さんがスレイプニルに乗ったまま、その門に接近する。


「【紫電一閃・乱】」


 でたらめに紫電一閃を放つわけじゃなく、そこにはかなり計算された剣筋があるという。いまだに私にはできない技だけど、一瞬で数十の斬撃を放つ紫電一閃の最終形態。


 お父さんがそれを放つ。


 失敗したと思えるほど、門は何も起きない。でも、それは一瞬だ。門は人じゃないけど、斬られたと認識できないレベルで斬ったんだろう。


 巨大な門、それが斬られたので一部が重力によってずれた。そして次の瞬間にはすべてが崩れ落ちる。コマ切れとまでは言わないけど、かなり細かく斬れている。さすがお父さんだ。


 瓦礫が邪魔だけど、そんなことを言っている場合じゃない。都市の中に飛び込もう。


「北門は開いた! なだれ込め!」


 そう言って、後ろについていた戦乙女部隊と共に都市になだれ込んだ。その後、他の門を攻撃していた部隊からも声が聞こえてきた。


「アンリちゃん! ドワーフ部隊、西門を開けたよ!」


「獣人部隊、東門も開けたぞ!」


「アンリ、南門も開けた。中で戦うのはいいけど、ゴーレム兵の自爆には気を付けて」


「みんな、ありがとう。お父さん、全軍突撃準備を。各門からなだれ込んで」


「分かりました。アンリ様もお気を付けください。また魔素の身体を持つ奴が襲ってくるかもしれません」


「大丈夫、返り討ちにする」


 お父さんは笑顔で頷くと、この場を離れていく。そして全軍による攻撃が開始された。都市の外からでは攻撃しにくいけど、中からなら問題ない。


 危険度も上がるけど、多少の被害はやむを得ない。マナちゃん達ローズガーデンの部隊がいるから問題はないはず。痛いのは我慢してもらおう。


 ここさえ落とせばすべての主要都市を落としたことになる。もうひと踏ん張りだ。




 戦闘後、商業都市シュルザルにある家で幹部会議を開いた。今回はただの幹部会議ではない。一つの節目と言える会議だろう。


「アンリ様、おめでとうございます。これでトラン王国の主要都市を全て落としました。残りは王都だけです」


 おじいちゃんが笑顔でそう言ってくれた。久しぶりに笑顔を見た感じだ。


「ありがとう。これも皆のおかげ。感謝する」


 かなりの強行軍だったけど、ようやく十二の主要都市を全て落とした。トラン王国にいるゴーレム兵をかなり減らせただろう。


 それに魔素の身体を持つ相手もずいぶんと倒した。逃がした相手もいるけど、トラン王国の戦力はかなり落ちたはず。


 でも、安心はできない。


「まだ小さな町や村の方が残っている。ジョゼちゃん、魔物部隊の方はどんな感じ?」


「問題ありません。残りは僅かです。アンリ様が王都へ到着する頃にはすべての町や村を解放しておきます。王都への攻撃時には全員が戻れますのでご安心ください」


 さすがに多くの軍隊を連れて小さな町や村へ行くのは効率が悪い。軍隊は移動だけで色々な物を消費する。軍は主要都市だけに絞って、町や村は魔物部隊の皆に任せた。


 小さな町や村をだけで百以上あるけど、ジョゼちゃんは快く引き受けてくれた。


 そして効率を上げるために分裂してくれた。スライムの生態はよく分からないけど、自分の意思で分裂できるらしい。魔素を分け与えるので弱体化するらしいけど私のためにやってくれた。


 ヴィクトリアちゃん、イングリッドちゃん、マルガリータちゃんの三体の新しいスライムちゃんが爆誕して、それぞれが戦いに赴いてくれた。もちろん、前からいるエリザちゃんやシャルちゃん、それにマリーちゃんも同じように町や村に赴いて対応してくれている。


 知らない人が見たら、トラン王国全土で魔物達が暴れまわっている感じになるけど、知っているのは私達だけだから問題はないと思う。あっても無視する。


 聞いたところによると魔物部隊は破竹の快進撃だったとか。もちろん、私達も主要都市の攻撃ではそんな感じだったけど、お互いがいい感じで影響を受けていたと思う。今日の戦いもそれが出ていた。


 そして、ようやくここまで来れた。残りは王都だけだ。


 あれから一年。いつの間にか私も十八になっている。誕生日を祝っている暇もなく戦いに明け暮れて、そのすべてで勝利を収めた。


 そのおかげか、ルハラ、オリン、ロモンから多くの人が集まってくれた。今では五万近い人が私のために戦ってくれている。


 あとは王都で弟のダズマを倒す。そうすれば私が王だ。


 ここまで来て失敗するわけにはいかない。今まで以上に慎重に戦おう。


 改めて状況を確認する。被害の状況、物資の補給、その他いろいろな問題点。一つ一つ解決していかないと。


 そこでふと気づいた。


 スザンナ姉さんとアビスちゃんがいない。


 スザンナ姉さんはいつものところだろう。最近は戦いが終わると必要な報告だけをしてすぐにいなくなる。


 戦いも終わりが近づいている。せめて最後くらいは、と考えているに違いない。


 私のためにしてくれていることだ。面と向かってやめてとは言えない。それに私もいまだに来てくれることを期待している。口では強がっているけど、私はあの頃からずっと弱いままだ。


 スザンナ姉さんはいいとして、アビスちゃんがいないのは珍しい。


「アビスちゃんは?」


「ゴーレム兵達の残骸を調べているようです。なんでも今回は原型を残したゴーレム兵が多かったとかで」


 おじいちゃんの回答に納得した。


 ゴーレム兵は徐々に強くなっているけど、アビスちゃんが言うには王都に近いほど強いゴーレム兵を配置しているとのことだった。


 ただ、アビスちゃんはそのことに少しだけ引っ掛かりを覚えているみたいで色々調べたいと言っていた気はする。


 ゴーレム兵は自爆する。最初に戦ったときはそんなことなかったけど、王都に近いゴーレム兵は自爆するようになった。最初はそれで結構な被害がでた。


 今日も同じはずなんだけど、自爆せずに残っていたゴーレム兵がいたってことなんだろう。


 そんなことを考えていたら、アビスちゃんがやって来た。


「すみません、遅くなりました」


「大丈夫。話は聞いている。なにか報告することはある?」


「そうですね。先ほどまでゴーレム兵を調べていたのですが、少々問題が起きました」


「問題?」


「まだ調査中ではあるのですが、もしかするとフェル様の力を借りなくてはいけないかもしれません」


「え……?」


 少しだけ喜んでしまった自分がいる。でも、ここまで来てフェル姉ちゃんの力は借りることはない。その提案は却下しよう。


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