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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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山積みの問題

 

 フラガラッハを倒した後、スザンナ姉さん達も魔素の身体を持つ相手を倒した。


 ただ、自爆はなかった。戦場に巨大な黒い狼がいきなり現れて倒れた相手を食べた。あれは魔石と武器を体内に入れて逃げたということらしい。


 あの狼はどうやら空間や重力を操るタイプであれも元は第二世代の武器か何かではないかとアビスちゃんは分析していた。


 その後、ゴーレム兵達を最後の一体まで破壊してようやく一息つけた。


 戦いには勝利した。でも、皆の顔は暗い。それに軍の皆も複雑そうな顔をしている。


 防衛都市バードゥルの状況を見たからだろう。


 アビスちゃんの言う通り、人族はどこにもいない。ゴーレム兵や魔素の身体を持った人はいたけど、生活している人がいない場所で手入れがされているわけでもなく、建物はほとんどが朽ち果てていて原型は残してあるもののボロボロだった。


 このままだと野宿と変わらない形になりそうなので、ゾルデ姉さん達ドワーフ部隊やオルドおじさん達獣人部隊が建物の復旧に当たっている。


 そして残りの幹部達は比較的原型をとどめている家に集まって今後どうするかの会議を始めることにした。


 おじいちゃんの顔は暗い。


 戦いに勝利しても本当に勝利したとは言えないからだろう。


「初戦に勝ったとはいえ、多くの問題が発生しました」


「一つ一つ解決していこう。問題点をあげて」


「はい。まずはトラン王国の国民がいません。アビスさんの話では他の都市や町も同じだろうとのことです」


「アビスちゃん、それは間違いない?」


 攻撃を受けて倒れていたアビスちゃんを回収したけど普通に治ってた。今は問題なく身体を動かせるようで会議に参加してもらっている。


 情報に関してはメイドギルドの人達と協力してかなりの精度を誇る。間違いはないだろうけど、念のために確認しておこう。


「はい、間違いありません。メイドギルドの方達にも色々調べてもらっていますが、まず間違いなく人族はいません」


「それは、その、殺されたってこと?」


 アビスちゃんは首を横に振った。


「いえ、そうではありません。おそらくどこか一ヶ所に集められているのでしょう。どこに集められたのかまでは調査しきれていないのですが、おそらく王都に近い巨大なダンジョンに閉じ込められているかと」


「なんでそんなことを?」


「簡単に言えば魔力の抽出です」


「魔力の抽出?」


「ダンジョンのアビスと同じです。私はアビスに入ってくる冒険者達から少しだけ魔力を吸い上げて自分の物にしています。トランは国単位で行っているということです」


 以前聞いたことがある。アビスちゃんは魔力を皆からちょっとずつもらってダンジョン内を整備しているとか。他にも致命傷を受けても少しだけ回復させて死ににくいダンジョンにしている。


 でもよく分からない。


「さっきと同じ質問になるけど、なんでそんなことを?」


「ゴーレム兵を動かすための魔力だと思います。あれだけのゴーレムを動かすにはそれなりの魔力が必要になりますから。他にも魔力は使い道があるでしょうが、一番はそれかと」


 この都市にはゴーレム兵は五千から六千ほどいた。確かにあれほどのゴーレムを動かすにはかなりの魔力が必要だ。


 溜息が出た。


 ソドゴラに来ていた魔素の身体を持つ剣士が言った言葉。トラン王国の人達が幸せじゃないっていうのはこのことだ。


 おそらく強制的に連行されたんだろう。そこで自由な暮らしができているとは思えない。トラン国民がどれくらいいるのかは分からないけど、その全員が一つの場所にいるんだからいい暮らしをさせてもらっているわけがない。


「アビスちゃん、建物の具合から考えていつごろ連行されたのか分かる?」


「……おそらく十年くらい前かと」


 トラン王国が周辺と関係を絶った頃、つまり私が生きているって情報が伝わった頃だ。やったのは今のトラン王や摂政なんだろうけど原因は私だ。


 私のせいでトラン王国の国民が酷い目に遭った。


「アンリ様、これは私が情報を流したことで起きたこと。当時のアンリ様は何も知らなかった。アンリ様のせいではありません」


 私の顔に気持ちが出ていたんだろう。おじいちゃんがそんなことを言った。


 でも、それは間違っている。


「今は違う。色々なことを知った以上、これは私の責任。私が責任をもって皆を助けないといけない……事情は分かったけど、問題はこれだけではないと思う。分かっていることは今のうちに全部言って」


 おじいちゃんが頷く。


「これもトラン国民がいないことが理由になりますが、これまでに立てた戦略が通用しなくなりました」


「もう少し詳しく」


「国を取り戻すために主要都市を落として物資の流通を止める予定でしたが、アビスさんの説明から考えるとそもそもトラン国内で流通がありません。どんなに主要都市を落としても王都の戦力を弱体化できないのです」


 確かにそれはある。


 こちらの補給経路を確保する理由もあったけど、相手の流通を止めて王都の戦力を弱体化することが目的でもあった。それが通用しないってことだ。


「あ、あの、それでしたら逆に戦闘回数は減るのではないでしょうか? 流通を止める必要がないなら落とす必要もない都市があるかと思うのですが」


 レイヤ姉さんが発言する。


 でも、それは危険な気がする。


「いえ、逆に戦いの数を増やす必要が出てきました。他の都市や町、村に至るまですべての場所で戦う必要があるでしょう」


「あ、あの、すみません、どういう意味でしょうか?」


「王都にどれほどの戦力があるのかは分かりませんが、戦っている間に周辺の都市からゴーレム兵を送られてくると囲まれる可能性があります。それに王都の戦力も増強されるでしょう。むしろ合流される前に倒したほうが効果的です。それはつまり、王都で戦う前にトラン国にいるすべてのゴーレム兵を倒さなくてはいけないということです」


 この都市だけで五千体から六千体いるということは、都市や町、村の数から考えて全部で十万以上のゴーレム兵がいるということ。


 私達は現在二万程度。総力戦になったら負ける可能性が高い。


「な、なるほど。そういうことでしたか……教えてくださってありがとうございます」


「いえ、レイヤ様。疑問があるならいくらでも聞いてください。では続けます。戦略もそうですが、大きな問題はまだあります」


「遠慮は必要ないから全部言って」


「はい。今、この国ではすべてが敵です。こちらに味方する人がいないということになります。戦力の増強や現トラン王国の反抗勢力も当てにできません」


 私が決起することで現在の国王に不満を持っている勢力を味方に付けたかった。それを期待していたからこそ、二万という軍で乗り込んできた。相手の戦力を減らしつつこちらの戦力を増やす。そういうことができないわけだ。


「また、トラン王国で流通がないということは、この国での物資調達もできないということです。周辺を調べてもらいましたが、食料の生産などは行われていないようです。集められた国民をどうやって養っているのかは不明ですが、王都に近い場所でなければ食料の調達が厳しそうです」


 この都市の井戸が全滅していると聞いた。普通に枯れたのかトランの仕業なのかは分からないけど、そうなっている。水に関しては魔法で作り出せるけど、食料は無理。


 ヴィロー商会から物資を買う形にはなっているけど、トラン国内での調達も視野にいれていた。それができなくなるのは痛い。


「分かった。それじゃ対策を考えよう」


 そう言ったらおじいちゃんが首を横に振った。


「アンリ様、まだあります。トラン国出身者の士気が落ちています。ようやく家族に会えるという考えを持っていた人達も多いのですが、トラン王国の状況を見て意気消沈しています。そちらに関しては、同じトラン国出身であるウォルフ、アーシャがケアをしていますが」


「気持ちというのは一番大事。そこは入念に対応して……その顔はまだ問題があるってこと?」


「大量の問題があります。これはまだ先の話ですが、この状況ですとアンリ様が王位を取り戻してもそれに従ってくれるかどうか分かりません」


「それはどうして――ですか? 皆を解放したらアンリ――様に感謝すると思います」


 スザンナ姉さんがむすっとした顔でおじいちゃんに聞く。


「感謝はするかもしれませんが、一部の国民はおそらく王族の争いに巻き込まれたと思うでしょう。最悪、王制なんて必要ないと言い出しかねません。すぐに国力は回復しないので戦いになることはないでしょうが、国が安定した頃は危険かもしれません」


「そんな……アンリのせいじゃないのに……」


 スザンナ姉さんはがっくりしてそう言った。


「多くの国民にとって王など誰でもいいのですよ。重要なのは自分達の生活を豊かに、そして安定させてくれるかどうかなのです。今回の件、閉じ込められたことといい、巻き込まれたと思う人が大半でしょう」


 私を王として認めないというならともかく、トラン王国そのものの在り方について文句が出てくるという可能性がある。


 でも、それは仕方のないこと。私を王だと認めないなら、それもまた良し。重要なのはそこじゃない。


「昔、フェル姉ちゃんはエルフの森で言った。王になるなら最初に国民のことを考えろと。今、トラン王国の人達がどうなっているのかは分からないけど幸福でないのは分かってる。ならそれを救うためにも王としてトラン王国と戦う。私を王だと認めないならそれも良し。王位を取り戻すことよりも、皆を助けることを優先させよう」


 その言葉に全員が頷いてくれた。


 この国に私の味方はいないかもしれない。でも、頼もしい仲間が多くいる。この戦い、必ず勝とう。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] アンリ本人よりもスザンナの方が気を揉んでしまいますね [一言] トラン国民「もう王なんかに国を任せるつもりはない!」 アンリ「そう。じゃ、私はこの辺で」 トラン国民「え? あ、ちょっ……
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