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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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一騎討ち

 

 魔剣フラガラッハ。


 ルート兄さん達が地下墳墓で行方不明になった時、その最下層にあった意思を持つインテリジェンスソード。私のことを操ろうとしたけど、フェル・デレのおかげで事なきを得た。


 私が何もしないうちにフェル・デレが倒してくれたけど、たしか領域浸食とかなんとかでただの剣になったはず。


 それが魔素の身体を得て戻ってきた。


「アビスちゃん、どういう状況なのか分かる? あれは以前、地下墳墓で倒した剣なんだけど」


「すでに解析は終わっています。どうやら剣の思考プログラムを抽出して直したようですね。今、本体は剣ではなく魔素の身体にある魔石に移っています。他のゴーレム兵と同じように心臓の位置に魔石があるようです」


「もしかしてスザンナ姉さん達が相手にしている人達も?」


「そうですね。武器の思考プログラムを魔石に移して、魔素の身体を動かしているみたいです。魔石を破壊すれば倒せます」


「分かった。それだけ分かれば十分」


 アビスちゃんとの会話を終えてから相手を見る。


 見た目は普通の若い男性に見える。でも複雑そうな顔というか、変な雰囲気だ。私に対して怒りはあるけど嬉しさと言うか喜びもあるような感じ。


 とりあえず話をしてみよう。一騎討ちの前に話すのは礼儀みたいなもの。


「怒っているみたいだけど、フェル・デレに倒されたのはそっちが悪いことをしたから。そういうのは逆恨みって言うから恥じて」


「一度殺されたのだ、恨んで何が悪い。そもそも我は人族ではない。お前達の言う恥など知ったことか。それに我はお前達人族に破壊と殺戮をまき散らすように作られた。悪いことをしたのではなく、それは存在意義だ」


 この剣は第二世代で作られた物と聞いた。そういう風に作られたってことだ。


 ……すごく悲しい存在に思える。意思があるのにそういう生き方を強制されるなんて。


「貴方をその呪縛から解放してあげる。生まれ変わったら次はいい人生を送って」


「……面白いことを言う奴だ。お前には感謝もしている。破壊と殺戮しかなかった我に、お前とその剣を殺したいという自分だけの欲求、いや感情が芽生えたからな。長く生きていたがこんなことは初めてだ。その礼だ。苦しませることなくあの世に送ってやる」


「こっちも貴方のおかげで傭兵団を存続させることができた。お礼にもう戻ってこれないようにしっかりと破壊しておくから安心して」


 そしてお互いに飛び出した。


 さっき攻撃を受けた。助走をつけていたとはいえ、相手はかなりのパワータイプ。ビビっていると思われたら調子に乗る。こちらもパワーがあると思わせないと。


 本来ならもう少し様子を見る必要があるけど、ここは戦場。時間を掛けて戦うのは良くない。それに私がこの相手に勝てば皆の士気が上がるはず。悪いけどそのためにも早めに決着をつける。


 相手を地面にめり込ませる勢いで剣を上段から振った。


 危険だと思ったのか、相手は攻撃しようとしていた剣を横にして防御した。右手に持った剣に左手を添えて防御する形だ。


「ぐっ!」


 かなり大きな音が鳴ったけど、さすがは魔剣と言ったところ。真っ二つにするつもりだったけど、傷一つ付けられなかった。村に来ていた暗殺者の聖剣と同じってことだ。


 でも、片膝を付かせた。これでパワーもあると証明できたはず。でも、まだまだ。


 そのまま剣に力を入れて相手の動きを封じる。普通なら苦しそうにするんだけど、相手は笑った。


「さすがは因子を持つ者か。ただの人族と思っていたら負けそうだ」


 前もそんなことを言っていたけど意味はよく分からない。でも、そんなことどうでもいい。今は余計なことを考えずに相手を倒すことだけ考える。


 これで斬れないなら絶壊を使おう。あらゆるものを破壊する危険な技。人族には使わないけど魔素の身体を持っている相手なら遠慮はしない。


「【一色解放】【黒】」


 闇の精霊の力を借りるフェル・デレの属性変更能力。剣が徐々に黒くなった。


「ちっ!」


 ヤバいと思ったのか、相手は後方へ地面を転がりながら逃げた。そこを狙って攻撃したけど腕にちょっとかすった程度だ。


 あんな不利な状態になっても逃げるってことは何をするのか分かったってこと。もしかすると、ソドゴラに来ていた聖剣を斬った話を知っているのかも。


 ……知っているのかも、じゃなくて間違いなく知っていると思ったほうがいい。そう思って行動するべき。


 私はあの時よりもかなり強くなった。あの頃の情報が伝わっていたとしても問題はないけど、今後のためにもあまり手の内は見せない方がいいのかもしれない。


 少なくともユニークスキルを使うのはやめておこう。聖剣との戦いでユニークスキルが使えるのはバレているだろうけど、制限時間があることは知られていないはず。


 相手は転がって距離を取ったけど、さらに後ろへ飛びのいてから剣を構える。


「さすがにこのままでは勝てないようだな」


「何をしても勝てないと思ったほうがいい。でも、奥の手があるなら先に出して。あと、遺言もあるなら聞いておく」


「言いおる。ならその言葉に甘えよう。『身体ブースト』『虚空領域接続』『疑似未来予知展開』」


 確か魔素の身体を持つ人が使える魔法的なモノだってアビスちゃんが言ってた。これを使うと相当強くなるとか。


 身体能力の向上と周囲の情報を計算して未来を予測する魔法らしい。でも、弱点を聞いたことがある。情報が間違っている場合は予測が大きく外れると言っていた。


 簡単に言えば、私が数秒前より強くなれば、計算した情報が間違って予測を大きく外すということらしい。アビスちゃんもオルドおじさんと同じように無茶を言う。


 でも、やるしかない。


 練習ではやっていたけど今までは上手くいっていない技を披露しよう。これだけ広いならなんとかなるはず。それに距離も十分だ。


「私も奥の手を出す。悪いけどこの一撃で仕留める」


「いいだろう。お互いにやるかやられるかの攻撃だ」


 頷いた後にフェル・デレを構えた。左の手のひらを相手に突き出して半身に構える。左腕と並行になる様に剣先を相手に向けた。全身全霊の突きによる一撃。


「【一色解放】【緑】」


 黒い剣が緑色に変わっていく。風の精霊から力を借りたためか周囲に風が発生した。


「いくぞ――!」


 相手が飛び出してきた。かなり速い。


 でも、私から見たら遅い。


「【疾風】」


 どん、と足元で爆発的な風が発生する。その勢いに乗ってフェル・デレを突き出した。


「がはっ」


 一秒も掛からずに相手の胸を貫く。さらに刺した勢いで五十メートルくらい移動した。


 お互いに立ったままだけど、心臓部分にある魔石は貫いた。力が抜けていくのか相手は剣を地面に落とす。


「み、未来予測を上回るか……」


「オリスア流剣技、阿修羅。冥土の土産に覚えておくといい。この技の良いところは相手を必ず倒す。未完成だけど」


 さすがに全魔力解放は無理。そんなことができるのはオリスア姉さんだけだ。


「ハ、ハハ……! 未完成でこの威力か、この化け物め……」


「本当の化け物は他にいる。私なんてまだまだ」


「せ、世界は広いな……だが、まだ負けたわけではない……!」


 そう言ってなぜか私の右腕を両手で掴んだ。かなり強い力。剣を落としたのは力が抜けたんじゃなくてこのため?


 なぜか相手の身体が光りだした――というか光が集まって体が赤くなってきている?


「アンリ様! 離れてください! 爆発します!」


 アビスちゃんの声が聞こえた。


 爆発?


 しまった。逃げられないように私の手を掴んだんだ。この状態じゃ逃げられない。威力は分からないけど、この距離で爆発されたら危険だ。


「ぐっ、またしても邪魔するか!」


 力が緩んだ?


 よし、すぐに離れる。


 足癖の悪くなった私の左足でフェル・デレを抜きながら相手を蹴り飛ばす。そしてフェル・デレを盾にしながら後方へと飛びのいた。


 直後に大爆発が起きる。そして爆風が襲ってきた。


 さすがにその場に立っていられなくて吹き飛ばされながら地面を転がった。かなり長い時間転がったけど、急いで立ち上がって周囲を見る。


 爆発が起きたところは草原だったのに土しかないクレーターになっていて、その中心には剣が一本落ちていた。


「アンリ!」


 おじいちゃんの悲痛そうな声が聞こえた。


 念のために怪我や痛いところがないか確認してから連絡。


「大丈夫。生きてるから安心して。もちろん怪我もない」


 皆からも安堵の声が聞こえた。


 そんなことよりも情報を展開しないと危険だ。たぶん、さっきの相手だけじゃないはず。


「魔素の身体を持っている相手は倒れそうになると爆発する可能性があるから気を付けて」


 スザンナ姉さん達が戦っている相手は最後に爆発する可能性が高い。注意してもらわないと。


 何はともあれ強敵を一体倒した。これで軍の士気も上がる。一気に叩こう。


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