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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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初戦の反省会

 

 大壁の上にいた戦車を破壊したので何人かは近づいて色々なことを行っている。


 筆頭はアビスちゃん。


 壁の上にある戦車は過去の遺物。アビスちゃんの要請でこの軍には遺跡機関のメンバーも何人か連れてきている。その人達と一緒に色々と調べているみたいだ。


 また、ミトル兄さん達のおかげで大壁に結構な穴が開いた。戦車を破壊したときの爆発で壁の一部が崩壊したようで、今はその崩壊部分を拡張している。


 金属の扱いならドワーフさんがお手の物。短時間で効率的に壁を破壊している。というよりもゾルデ姉さんの馬鹿力による攻撃がメインっぽい。強化魔法の制限がないってすごいユニークスキルだと思う。


 魔物部隊の皆にはもっと広範囲に大壁を調査してもらっている。


 あの戦車が一体だけである可能性は低いとアビスちゃんが言ったからだ。


 この周辺にはあれ一体だけだったけど、もっと東や西の方にはいるかもしれないらしい。いた場合、こっちに向かってくる可能性もあるのでこちらから見つけて倒してしまおうという判断だ。


 はっきり言って魔物部隊の皆なら何の問題もなく破壊できると思う。大壁を壊すという大役を任せることができなかったから、この対応でちょっとだけでもストレスを解消して欲しい。


 今日はここで野営して明日トラン国へ侵攻する形になる。


 すくなくとも壁の破壊でトラン王国は気づいたはずとアビスちゃんが言っていた。私からの宣戦布告には気づいてくれただろうから、ここからが本番だ。


 そんな状況なのに私はおじいちゃんに怒られている。


 戦うのはしたかないとしても、おとりになるとは何事だという話だった。これにはスザンナ姉さんも賛同して怒ってる。私専属の参謀なのに。


 おじいちゃんが長い溜息をついた後に私を見つめた。


「アンリ様、一人でおとりになるなんて、なんでそんな無茶をするんですか」


「その方がみんな安全になる。戦車は私だけを狙っていたから」


「確かにその通りですが、本来、我々がアンリ様の安全を守るんです。それなのに一人で飛び出したらダメでしょう?」


「戦いは臨機応変。もっとも被害のでない行動を選択したまで。むしろ、もっと褒めるべきだと思う」


 そう言ったらまた溜息をつかれた。


「いいですか? アンリ様の代わりは誰にもできないのです。我々なら替えがきく。ですから――」


「その考えは間違っている」


 語気を強めて言うと、おじいちゃんは少しだけ驚いた顔をした。スザンナ姉さんもおじいちゃんの隣でちょっとびっくりしているみたいだ。


 どうやら二人とも分かっていない。


「この軍にいる人達は全員替えがきかない。たとえ倒れても代わりがいるという考えは改めて。皆にもそれは徹底させるように」


「……失礼しました。徹底させておきます。ですが、それならアンリ様も同じです」


「これは一本取られた」


 そう言ったらおじいちゃんが肩を落としながらまた溜息をついた。今日、何回、溜息をつくんだろう。


 でも、状況を確認してもらったら被害はゼロ。


 最初の爆発で恐慌状態になった人達もいるみたいだけど、慌てていない幹部達や私のおとり作戦によって平常心を取り戻せたという話だった。


 やっぱり間違っていないと思うんだけど。


 それにちゃんと言っておこう。こういうのは言葉にしておかないとダメだ。


「私はこの戦争で可能な限り被害を出さない戦術をとる。目標は死者ゼロ。私に無茶な行動をさせたくないなら被害のでない作戦を考えて」


「無茶ぶりにもほどがあるだろう」


「おじいちゃん、口調が戻ってる」


 おっといけない。私もおじいちゃんって言っちゃった。こういう場所ではシャスラだ。


 おじいちゃんはスザンナ姉さんの方へ視線を向けた。


「スザンナ君、悪いんだがアンリがどんなことをしてもずっとそばにいてやって欲しい。こう言ってはなんだが、スザンナ君のユニークスキルは防御に役立つ。突発的な攻撃にも対処が可能だからね」


「今回は逃げられたけど、以降は常にそばにいるようにします。行動力がありすぎて困るよ」


 みんなが普段の口調に戻っちゃった。


 それはそれとして逃げられたとか言われた。あれは作戦なのに。


「スザンナ姉さんに命令したいんだけどいい?」


「え? 今?」


「うん、今すぐ。これからも無茶するからスザンナ姉さんが私に付いてきて」


 おじいちゃんは額を右手で覆うようにして下を向いた。


 スザンナ姉さんは目をぱちぱちしてたけど、すぐに笑顔になって頷いた。


「分かった。王の命令は絶対だからね。アンリの無茶に私の方がついて行くからなんでもするといいよ」


「うん、よろしく」


「……この軍に私の味方はいないのかね?」


 おじいちゃんが呆れた感じでそう言った。白髪が増えそうだけど、それくらいは我慢してもらおう。


 説教が終わって解散と思ったら、オルドおじさんが近づいてきた。その横にはミトル兄さんもいる。


 オルドおじさんはちょっと怒っている感じで、ミトル兄さんは両手を頭の後ろで組んでいつも通りヘラヘラしている。


「アンリ、あれはどうかと思うぞ!」


「あれって?」


 あれってなんのことだろう?


「獣人部隊に突撃を命じておいて本命はエルフ達ではないか。戦いの誉れを得る機会であったのに。それに儂らはあの爆発に巻き込まれそうだったぞ!」


 確かに突撃をお願いして何もなかったのはかわいそうな気がする。


 オルドおじさんは一番槍にこだわるからエルフさん達に取られて悔しいのかも。


 それはそれとして、あの短時間であの壁まで走ったのはすごい。機動力に関しては獣人部隊の右に出る部隊はなさそう。


 何かいいわけを言おうとしたら、ミトル兄さんが笑いながら口を開いた。


「悪りーな、オルド。まあ、今回はエルフ達に華を持たせてくれよ。遠距離攻撃勝負で負けるわけにはいかねーからさ。でもよ、アビスちゃんの話じゃ、オルド達の突撃や俺らの威嚇攻撃でアンリちゃんへの狙いを妨害できていたみたいだぜ。全くの無意味ってわけじゃねーから別にいいだろ」


 私に攻撃が当たらなかったのはそういう理由もあったんだ。確かに思ったよりも命中の精度は低い気がしたけど。でも、スレイプニルの脚力があってこそだと思う。美味しいご飯をあげよう。


「むう。そう言われればそうかもしれんな。まあ良い。まだ機会はある。次は儂らがいただくぞ!」


「次も俺らが貰うけどな!」


 二人は言いたいことだけ言って戻っていった。私からは何も言っていないんだけど、あれでいいのかな?


 私も一番槍が欲しい。次の戦いではちゃんと突撃しよう。


「アンリ様、なにか変なことを考えていませんか?」


「全く考えていない」


 おじいちゃんは鋭いけど、一番槍を狙うのは変なことじゃないから間違っている。オルドおじさんの言うとおり、戦いの誉れだしガンガン狙っていきたい。


「まあ、いいです。言っても聞いてくれませんし……オルド様達が来たので話を変えますが、今日は魔術師部隊、エルフ部隊、それに獣人部隊に褒章を与えましょう。できればアンリ様からも声を掛けてあげてください。活躍してくれましたからな」


「魔術師部隊にも?」


「当然でしょう。アビス様の指示があったとは言え、戦車とやらの攻撃を防いだのはアーシャ達魔術師部隊です。アンリ様の『被害を出さない』ということに最も貢献した部隊ですから」


 ……こういうところで私がまだまだと気づかされる。


 おじいちゃんの言う通り。敵を打ち滅ぼすよりも味方を守る方が私の中では上位だった。


「その通りだった。その三つの部隊には夕食にお酒とか色々出してあげて。その時にでも私から声を掛けておくから」


「承りました。では、野営の準備をさせましょう……アンリ様、初戦の勝利、おめでとうございます」


 そういっておじいちゃんが頭を下げる。


 なんだろう。やっと勝ったという実感がわいてきた気がする。


「皆のおかげ。これからも勝利を重ねるつもりだけど前哨戦みたいなものだから、油断しないように注意を促しておいて」


「はい、徹底させておきます」


 そう言うと、おじいちゃんは離れて行った。そして色々と指示を出しているみたいだ。


 今回の戦いを戦争と言っていいか分からないけど勝ちは勝ちだ。幸先はいい。明日からもしっかり戦おう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 大丈夫。 白髪はきっと減る事に成ります。 [一言] 過度の心労によって白髪の増える量よりきっと抜け毛の方が多い事になりそうですから( ̄▽ ̄)
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