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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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責任の重さ

 

 城塞都市ズガルを出て南下を始めた。


 私やスザンナ姉さん達幹部を先頭に、その後ろに一緒に戦ってくれる仲間達がいる。


 軍隊は二万弱。その皆が私のために戦ってくれる。


 私のためというよりも私が王になることで得られる利益を勘定した上で手伝ってくれる人もいる。でも、どんな理由だったとしても一緒に戦ってくれるなら仲間だ。


 可能な限り死者を出さずに勝利する。そのためにも私が率先して敵を倒そう。一人でも多く倒せばそれだけ仲間がやられる数が減る。


 トラン軍の兵士には悪いけど圧倒的な強さを見せつけて戦い自体が無謀だと思わせる。そうした方が逆に死者の数は減るはずだ。


 本当は人を数で数えてはいけない。


 その人にはその人の人生がある。その未来を奪うんだから決して一人という数で数えられるものじゃない。


 でも、やるしかない。ここで迷えば味方に余計な死者を出すことになる。敵は容赦なく叩き潰そう。


「アンリ、ちょっと気負いすぎ。マナの言葉じゃないけど、もっと能天気に構えなよ」


 スレイプニルに乗ったスザンナ姉さんが横に並びながらそう言った。


 私や幹部のメンバーはスレイプニルと呼ばれる八本足の馬に乗って移動している。ジョゼちゃん達がどこからか捕まえてきてくれた。


 皆は徒歩なのに申し訳ないけど、こういうのも大事らしい。


 それはそれとして、また能天気って言われた。ちょっと遺憾。


「スザンナ姉さんもそういうことを言う。これは戦争。私は、私のために死んでほしいって皆に命令しているようなものなんだから能天気ではいられない。この責任は重い」


 会議ではああいう命令を出したけど、大怪我もなく死者も出さないなんて無理だと思う。できるだけ自分の命を大事にしてほしいって意味だけど、それでも心配だ。


 一人で王位を取り戻せるだけの力があればこんな悩みもないんだろうけど、フェル姉ちゃんじゃあるまいし私には皆の力が必要だ。


 昔、エルフの森へフェル姉ちゃんを助けに行ったとき、皆を巻き込んだのにおじいちゃんに怒られなかった。


 私は子供だから責任を取ることができないって。


 いまだに責任ってなんだろうと思う。


 私のために戦って亡くなった人達にどう責任を取ればいいのか分からない。


 おじいちゃんに聞いてみたら、自分で考えなさいと言われた。それが王の務めだとも言われている。普段やさしいおじいちゃんもこういうのには厳しい。


 もしかするとずっと考えることが責任の一つなのかもしれない。どんな形で責任を取るか、それを考えることが大事なのかも。


 それなのに能天気って。


 反論しようとしたらスザンナ姉さんが口を開いた。


「アンリが全部の責任を負う必要はない。アンリは自分のために死んでくれって命令したと思っているみたいだけど、ここにいる幹部達や一部の人は自分の責任でアンリを助けようとしている。アンリのために命を懸けることを自分で決めたんだから気にしなくていい」


「スザンナ姉さん……」


 なんて嬉しい言葉を言ってくれるんだろう。言葉だけなのにすごく心が楽になる。


「あまり言いたくはないんだけど……たぶん、フェルはこういうことも見越して仲間を集めろって言ったんだと思う」


「フェル姉ちゃんが?」


「信頼できる仲間をちゃんと作れって言ってた。あの時はイラっとしたけど、フェルは魔王としての責任が重すぎたからアンリにそうなってほしくなかったのかもしれない」


 魔王としての責任が重い……私はフェル姉ちゃんが人界に来たときからしか知らないけど、節々にそんな話を聞いたことはある。魔王としてプレッシャーで夜寝るのも大変だったとか。


 それに魔王は勇者に殺されるという運命も受け入れようとしていた。


 フェル姉ちゃんを見ると信じられないけど、魔界にいた頃は私なんかよりも遥かに強いプレッシャーと戦っていたのかもしれない。


「フェルが手伝ってくれないことはいまだに許せないけど、アンリには私や頼れる仲間がいる。フェルみたいに全部一人でやる必要も悩む必要もない。だから能天気でいい」


「能天気という言葉にちょっと引っ掛かりを覚えるけど、スザンナ姉さんの言いたいことは分かった。フェル姉ちゃんみたいな王を目指しているけど、全く一緒だと単なる模倣で劣化でしかない。その上に行くためにも私は皆と一緒に頑張る王になる」


「うん。いい答え。その調子で行こう。それにほら、ガレスさんが作ってくれたその鎧があるでしょ。その綺麗な鎧にそんな顔は似合わないと思う」


「確かにその通り。目立つようにしてくれたのに、その私が悩んでいる顔をしていたら士気に影響しちゃうところだった」


 ドワーフのゾルデ姉さん、そのお父さんのガレスおじさんが私のために鎧を作ってくれた。


 全身を覆う銀色の鎧。機能美を損なわずに綺麗な模様まで描かれている。


 フェル・デレが武骨な大剣だとすれば、これは繊細な鎧といえるかも。


 スピード重視で戦う自分としてはちょっと使えないかなと思ってたけど、実際に装備してみたらそんなことはなかった。「羽のように軽い」は言いすぎだけど、ものすごく軽くて動きを阻害しない。


 なので人前に出るときはいつもこの鎧だ。目立つから狙われやすいという弱点もあるけど、これを着て活躍するところを見せれば軍の士気は相当上がると思う。


「アンリ様、そろそろ『大壁』です」


 おじいちゃんから念話が届く。


 いつの間にかそんなところまで来ていたみたいだ。


 前方を見ると東西に長く建設された金属の壁が見えた。


 よくこんなものを作れたと思えるほど長くて大きい。


 壁の一キロほど手前で全軍を停止させる。


 この壁を全部壊すほどの時間はない。ジョゼちゃん達に一部を破壊してもらえれば十分だ。


「ジョゼちゃん。出番だけど大丈夫?」


「いつでも行けます」


「なら、お願い――壁の上になにかいる……?」


 遠くにいるけど壁の上で微かに動いている何かが見える。


「アーシャ様! 魔法障壁を!」


 近くにいたアビスちゃんがそう叫ぶと、お母さんが一瞬だけ驚いた顔を見せた後に真剣な顔になる。


「前方に障壁展開! 急いで!」


 お母さんがそう叫ぶと魔術師部隊も慌てたように魔法障壁を軍の前方に展開した。


 直後に壁の上にいた何かが一瞬だけ光る。


 いきなり展開された魔法障壁の前で爆発が起きた。


 完璧ではなかったとはいえ、千人近い魔術師が展開した魔法障壁が一瞬で消し飛んだ。


 誰も怪我はしていないけど先手を取られたということ。出鼻を挫かれるとはこのことだ。


「再構築! 詠唱合わせて!」


 アーシャ母さんの叫びが続く。


 そして二回、三回と攻撃が続く。そのすべては障壁で守っているけど、一撃が強すぎるのか障壁が一回ごとに消し飛んでいる。


 なんの攻撃なのかは分からないけど、おそらくあの壁から魔法を撃ってきていると思う。


 あれを食らったらまずい。


 それにあの得体のしれない攻撃で一部の人達は恐慌状態だ。なんとかしないと。


「アンリ、いつまで眺めているつもりだ? お主の号令がなければ戦えないのだが、儂ら獣人部隊だけで向かっていいのか?」


 オルドおじさんが大きな曲刀を肩に担いで隣に来た。


「あれに突撃する気? 危ないんじゃ……」


「戦争が安全だと思っておるのか? それにあれはアンリを狙っている。むしろお主から離れた方が儂らは安全だからな!」


 オルドおじさんはそう言ってガハハと笑った。


 本気か冗談か分からないけど私の緊張をほぐすために言ってくれているんだろう。


 オルドおじさんは大笑いを止めると、今度は口角を上げてニヤリと笑った。


「それに相手にはもう先手を譲った。ならあとはどうするか、フェルから学んでおるだろう?」


 私の仲間は皆いいことを言う。


「なら私がおとりになって戦場を駆けるから、オルドおじさん達はあれに近づいて倒して。あとミトル兄さん達に弓で援護をお願いしておく」


「大役だな。謹んで受けよう」


 スレイプニルの馬上からフェル・デレを掲げた。そして光る何かの方を指す。


「獣人部隊! 突撃!」


 そう叫ぶと近くにいた獣人の皆が雄叫びをあげた。そして我先にと壁に向かって駆けだす。


 先手は譲った。ならもう遠慮する必要はない。叩きのめすぞ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 400話到達、おめでとうございます。 ありがとうございます。 アンリの物語史上、最も激しい転換期(かな? フェル視点では詳細が語られなかった為、アンリ達がどう戦い、どんな想いで戦い続けた…
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