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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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出陣前の幹部会議

 

 ズガルの城にある会議室に入ると幹部達が集まっていた。


 円卓のテーブルに等間隔で全員が座っている。私が最後に入って上座に座った。


 すでに各国では私のことが宣伝されていて、それに対する支持の表明もされている。


 メイドさん達の話ではかなり盛り上がっているとのこと。とくに関係の深いソドゴラやルハラの帝都では大盛り上がりになっているらしい。


 ほとんどの準備は整っていて、今から今後のことに関して最終確認をする。


 それが終わったら出陣だ。


「みんな、おはよう。今日これからトラン王国へ戦いを仕掛ける。どうか協力をお願いする」


 そして頭を下げた。


 本来はしてはいけないことだけど、私はまだ完全に王になったわけじゃない。そんな頭ならいくら下げても大丈夫。


 私の言葉に全員が頷いてくれた。


 そしておじいちゃんが発言する。


 我が軍の大参謀、懐刀だ。


「何度も説明していますが、確認のために説明をしておきます」


 おじいちゃんの説明が続く。


 今日、トランの国境にある「大壁」と呼ばれる壁を破壊する。それが最初だ。


「ジョゼさん、壁の破壊には魔物の皆さんだけにお願いすることになりますが、よろしいですか?」


「問題ありません。むしろ皆は気持ちが押さえられない程なので、他の方達が近くにいる方が危険だといえるでしょう」


 ジョゼちゃんの言葉が全員に伝わる。


 魔物言語だから本来は伝わらないんだけど、そこはさすがのヴァイア姉ちゃん。魔物言語の翻訳用魔道具をジョゼちゃんに渡してあった。


 それに幹部同士が念話で会話できる多人数向け念話の魔道具も用意してくれた。いたれりつくせりで怖いくらい。


「ですが、本当にそれだけでよろしかったのですか? 都市を攻め落とすときに我々魔物部隊は使わないとのことでしたが」


「はい。基本的に魔物部隊の皆さんには攻城兵器としての活躍だけをお願いしたいと思っています――アンリ様」


 おじいちゃんが私に話を振る。


 頷いてからジョゼちゃんを見た。


「魔物の皆の強さは良く知っている。おそらく魔物の皆だけで国の一つや二つは落とせる。でも、それをやってしまうとフェル姉ちゃんの懸念を無視することになる」


 魔族の人や魔物の力だけで王位を取り戻したということになればディーン兄さんの二の舞。それはフェル姉ちゃんが戦いに参加しない理由の一つだ。無視するわけにはいかない。


「皆の力は魔力の消費が激しいとか制限があるという形で情報を流すから今回と王都を攻めるときにお願いするだけだと思う。ただ、隠れて皆の護衛をお願いしたい。裏方みたいで申し訳ないのだが」


「いえ、問題ありません。承知致しました。では、今回の対応が終わりましたら、皆さんをお守りすることに専念します」


「よろしく頼む」


 このしゃべり方はちょっと苦手だけど、公の場所ではこうした方がいいと言われている。というか慣れろという話。色々と面倒だけど、こういう場所だけでも頑張ろう。


 おじいちゃんが口を開いた。


「では、大壁の破壊が終わりましたら、以降は主要都市の奪還がメインになります。トラン王国にある主要都市の数は十二。ですが、押さえるべき都市は半分の六で十分でしょう。そこを押さえれば軍の補給経路を確保しつつ、王都への流通を止められます」


 主要都市以外にも小さな村や町があるけど、そこは無視する。これは侵略戦争じゃない。私が王位を取り戻すための戦い。国民にはできるだけ不満を持たないようにしてもらわないといけない。


 補給物資に関してはヴィロー商会にお願いしてある。都市での略奪行為がないようにこれも魔物部隊の皆にお願いしておこう。


「それで主な戦術ですが……」


 おじいちゃんが私を残念そうな目で見た。


 そんな目で見られても考えを変えるつもりはない。


「アンリ様とスザンナ様、ミトル様のエルフ軍、ゾルデ様のドワーフ軍、オルド様の獣人軍、そしてレイヤ様率いる紅蓮の戦乙女部隊と、マナ様率いるローズガーデン、その精鋭、総勢五百名ほどの突撃部隊が先陣を切るという戦術……無謀な行為ですが間違いないですか?」


「間違いない」


「何度も言ってますが、最高指揮官であるアンリ様が突撃部隊で先陣を切るというのはおかしいですよね?」


「なにもおかしくない」


「いえ、おかしいんです。この戦いにおける我々の勝利条件は現在のトラン王であるダズマ、そしてその母であるラーファの身柄の確保、もしくは殺害です」


「それは誰もが理解していると思う」


 王都を取り戻すだけでは意味がない。ダズマとラーファを捕えなくては意味がない。私が二人を逃がした状態で王になったとしても今回と同じように王位を簒奪してくる可能性がある。それでは勝利とは言えない。


「ですが、敗北条件もあります。それはアンリ様の死です」


 私が死んでしまった時点でこの戦いは敗北。


 どんなに都市を制圧してあったとしても、私が命を落としたらそこで終わりだ。


「それも理解している。だが、これから王になろうとしている人物が後方でふんぞり返っていていいわけがない。他の事ならいざ知らず、今回は私が王位を取り戻すための戦い。もっとも危険なところに身を置かなければ皆がついてこない」


 フェル姉ちゃんは昔、ボスは安全なところでふんぞり返っていればいいと言っていた。


 でも、時と場合による。


 今回は私が王になるための戦い。皆を危険な目に遭わせて自分だけ安全な場所にいる王には誰もついてこない。


 それにフェル姉ちゃんなら絶対に最前線で戦う。


「シャスラ様、安心してください。私がアンリ様を危険な目には遭わせませんから。それに王自らが最前線に出て勝利を収めれば皆の士気が上がります。我々の軍は少ない。トラン軍とやり合うにはまだまだ足りませんので色々とやっておくべきだと思います」


 スザンナ姉さんが真剣な顔でそう言った。


 うん、私専属の参謀はいつだって私の味方だ。口調をかなり無理しているみたいだけど。


「まあ、安心してくれよ、村長。俺達エルフ部隊もアンリちゃんを危険な目に遭わせたりしないからさ」


「ちょっとアンリちゃんを守るのは私達ドワーフ部隊でしょ? アンタは遠くから矢でも撃ってなさいよ」


「安心するといい。一番槍は我々獣人部隊が貰う。アンリは常に二番手だから危険はない」


「アンリ様が危険な状況になる想像ができないんですよね。むしろそれについて行く私達が一番危険……」


「我々魔物部隊の何人かも隠れてアンリ様を守りますのでご安心ください」


「大丈夫です! 死んでなければいくらでも助けられますから! 腕の二本や三本なくなったってちょろいもんですよ!」


 うん。味方なんだけど、味方の言葉とは思えない発言もある。


 でも、これほど頼りがいのある味方もいない。


 お父さんとお母さん、それベインおじさんは苦笑いだ。


 おじいちゃんだけはまだ納得していないようだけど、大きく息を吐いて頷いてくれた。


「仕方ないようですね。確かにこのメンバーがいるならアンリ様の危険はぐっと減るでしょう。なら皆さんにアンリ様をお願いします。さて、ウォルフ、アーシャ、そしてベイン」


 おじいちゃんに呼ばれて、三人が頷く。


「ウォルフは突撃部隊以外の軍隊を率いて欲しい。本来はアンリ様のポジションなのだが仕方あるまい」


「……私も突撃部隊で戦いたいのですが」


「お前もか。だが、ダメだ。アンリ様の軍は残念ながら指揮官が少ない。お前以外にこれだけの軍を動かせる人材がいないんだ」


 今のところ、軍は二万弱。もしかすると今日の宣戦布告でもっと多くの人が集まる可能性はあるけど、指揮官を任せられるのは信頼できる人じゃないと危険だ。


 お父さんなら信頼できる。


「ウォルフは私の代わりに軍の指揮をお願いする」


 お父さんは私の方を見て仕方ないなという表情で笑った。


「承りました。アンリ様からお預かりした軍を指揮させていただきます」


「よろしく頼む」


 おじいちゃんは頷くと、今度はお母さんの方を見た。


「アーシャは軍の中でも魔術師部隊の指揮を頼む」


「承りました……あの、赤いドレスは必須なんでしょうか? 年齢的に厳しいんですけど……」


 お母さんは昔、灼熱のアーシャと言われていて、その頃のトレードマークが赤いドレスだったらしい。


 でも、黒歴史っぽい。赤なのに。


「大丈夫だ。ニャントリオンブランドの物だから最先端のデザインで変じゃない」


「いえ、変とかじゃなくて、年齢――」


「この戦いにはトランに戻れなくなったトラン国民も参加している。お前のことを覚えている者も多い。軍の士気を上げるためにも頼む」


 おじいちゃんがそう言うとお母さんは観念したのか、がっくりした感じで頷いた。


「……分かりました。頑張ります……」


 ごめんなさい、お母さん。でも、そういうのは大事。


「俺は綺麗だと思うぞ」


「頑張るわ!」


 お父さんが褒めたら、お母さんはまんざらでもない感じになった。私のお母さんながらちょろい。


 どうやらクル姉さんと同じようにこの戦いが終わったら結婚して本当の夫婦になるみたい。


 負けられない理由がどんどん増えるけど、戦いが終われば幸せなことが待っていると思えば私のモチベーションも上がるというもの。絶対に勝とう。


「ベイン達はアンリ様の親衛隊という立場だがウォルフ達の護衛を頼む」


「お任せください。アンリ様の方にはウチの隊長であるスザンナ様がいますから、こっちはこっちで主要な方達を守りますよ」


「私の方も任せて欲しい。アンリ様には怪我一つ負わせつもりはない」


 スザンナ姉さんは親衛隊隊長という立場になった。ベインおじさん達の上司ということになるけど、いい関係を築けているとのことだ。


 おじいちゃんが私の方を見た。


「最後になりますが、私の方は軍を鼓舞するための演奏部隊を率います」


「戦いに音楽は大事なので任せた」


 おじいちゃんにそう言ってから全員を見渡した。


「さて、皆に私の方から言っておくことがある」


 全員が背筋を伸ばした。


「この戦いで死ぬことは許さない。怪我をするなというのは無理だろうけど、大怪我もしないように。そんな状態になるくらいなら逃亡してかまわない。これは王の命令だと皆にそう伝えておいて。ちなみに命令違反は死罪」


 私の言葉に全員がきょとんとしていたけど、徐々に笑い出した。


 おじいちゃんが深く頷く。


「承りました。アンリ様の言葉、全員に徹底させておきます。しかし、アンリ様の命令はいつだって無茶苦茶ですな」


「王の命令とはそういうもの。では、よろしく頼む……出撃の準備は?」


「いつでも行けます」


「分かった。なら行こう。トラン王国に私が王位を返してもらいに来たと伝えなきゃいけない。今日、大壁を破壊して、それを開戦の狼煙とする」


 全員が頷いた。


 よし、出陣だ。派手にぶちかますぞ。


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