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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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未来の王と皇帝の会談

 

 メイドギルドの協力を得られた日の夜、私とスザンナ姉さんは寮でディーン兄さんを待つことになった。


 これからクル姉さんが連れてくるけど、謁見できるのは私達だけ。非公式だから仕方ない。全面的に支持してくれるなら非公式でなくてもいいような気がするけど色々あるみたいだ。


 そもそも皇帝の方から出向くということ自体が駄目とか。偉いなら偉いなりの対応をする必要があるわけで立場的に下とみられる行動は他国への外交的にもやっちゃいけない。


 そんな状態なのに会いにきてくれるのはエルフの森での恩もあるらしいけど、私の立場が下と思われないように配慮してくれた結果らしい。


 帝都の城で謁見すれば確実に情報が残る。私がディーン皇帝陛下に頭を下げたという歴史が残るのがまずいと判断してくれたということ。


 フェル姉ちゃんが私達を迎えに来てくれたときに皇帝陛下を含めて全員で来てたけど、あれは特殊。そもそもフェル姉ちゃんが帝位簒奪に貢献したのは周知の事実。大っぴらに訪問して問題なかったんだろう。


 この辺の情報は貴族や王族に詳しいレイヤ姉さんが言ってたけど、なるほどと思う。


 メイドギルドでは頭を下げて協力を仰いだけど、本当に王になったら簡単に頭をさげちゃいけないというルールもあるとか。色々と窮屈そうだけどそういうのも覚えなきゃいけないんだと思う。


 そんなことを考えながら三十分ほど待つと、クル姉さんがやって来た。


 隣には黒いフード付きローブを着ている人がいる。フードを深くかぶっているから分からないけど、ディーン兄さんだろう。


「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」


「大丈夫。無理を言ってお願いしているのはこっちだから。えっと――」


 ローブを着た人の方を見ると、その人は一度だけ頷き、フードをめくった。


 間違いなくディーン兄さんだ。


「数ヶ月ぶりだね、アンリちゃん、それにスザンナさんも」


「うん。フェル姉ちゃんが私達を寮に迎えに来たとき以来」


「たったそれだけ間でずいぶんと状況が変わってしまったようだ。もしかしてフェルさんが迎えに来たのはそれを教えるためだったのかい?」


「そうみたい。フェル姉ちゃんは昔から知ってたみたいで、成人の誕生日におじいちゃんが言うことまで知ってた」


「フェルさんも色々なことに巻き込まれる人だね。まあ、それが力を持つ人の能力なのかもしれないけどね」


 確かにその通り。フェル姉ちゃんは色々なことに巻き込まれている。でも、あれはフェル姉ちゃんが色々なことに首を突っ込むからだと思う。そこがいいところなんだけど。


 ディーン兄さんとクル姉さんはテーブル越しに対面に座った。スザンナ姉さんは私の隣。とっておきのリンゴジュースを亜空間からだして皆の前に置く。


 ディーン兄さんはそれを一口飲んだ後に微笑んだ。


「非公式だけど、未来のトラン王とルハラ帝国の皇帝の会談みたいなものだ。事情が事情だから情報はどこにも残らないけど、歴史的な瞬間かもしれないね。魔族が攻め込んできた頃はあったらしいけど、ここ六十年くらいは一度もないからね」


 たしかに歴史的なことなのかもしれない。でも、私が王になったら頻繁にそういう会談を持ちたい。


「さて、アンリちゃん。君からの要望はなにかな? ルハラとしてはアンリちゃんを全面的に支持するけど、無茶な要求は受けられない。たとえばルハラの軍隊を参加させてほしいとかだね。他国のために命を懸けてくれとは言えないからね」


「そこは弁えているつもり。全面的に支持してもらえれば十分。ただ、戦乙女部隊だけは戦争への参加を許可してほしい」


「金銭的な支援や情報の提供などもいらないのかな?」


「金銭的な支援はヴィロー商会がしてくれるし、情報の提供はメイドギルドに頼むから大丈夫。今必要なのは戦力だけど、それもだいぶ集まった。はっきり言って最強の軍隊が出来たと思う」


 あらゆる種族の連合軍。


 ミトル兄さん達のエルフ軍やゾルデ姉ちゃんのドワーフ軍。オルドおじさん率いる獣人軍にジョゼちゃんをトップとしたモンスター軍団。ロモン聖国ではティマ姉さんやバルトスおじさんが聖人教の人を集めてくれているし、これに紅蓮の戦乙女部隊が加われば何の心配もない。


 欲を言えば、ドラゴニュートさん達や魔族さん達にも手伝って欲しかったけど、それは甘えすぎだと思う。


 説明するとディーン兄さんは笑った。


「それはアンリちゃんの人徳なのかもしれないね。人界にいるあらゆる種族が王位を取り戻すための戦いに参加してくれるわけだ」


「そう。だからこそ負けられない。これで負けたら変な形で歴史に名を残しちゃう」


 フェル姉ちゃんに言った約束はまだ覚えている。


 私は最高の王になる。それはフェル姉ちゃんの模倣かもしれないけど、それが私の思う最高の王だ。未来永劫覚えておいてもらわないと。負けたら変な形で覚えられちゃう。それは負けるよりも嫌。


「たしかに負けられないね。魔族と戦争をしていたときだってあらゆる種族が一緒になって戦うことはなかった。歴史的な戦いになるから勝敗もおのずと歴史に残るだろうね」


「あらゆる種族が一緒に戦うことはなかったって初耳なんだけど、そうなの?」


「魔族は人族しか襲わなかったから他の種族は我関せずという状況だったと聞いているね。そもそもエルフは森からでようとしないし、ドラゴニュートも山から出ない。ドワーフは武具の製造はしたけど戦争には参加しなかったし、獣人は魔族側に付いた。他種族が人族と協力して戦争をするなんて歴史上初めてだよ」


 確かにその通りだ。よく考えたらおじいちゃんから教わったことがある。


 歴史を塗り替えると言うのはちょっと嬉しい。


「さて、アンリちゃん。君の要望は分かった。戦乙女部隊は傭兵団だから参加は問題ないし、ルハラにいる他の傭兵団ももちろん雇って構わない。それと、ルハラはアンリちゃんを全面的に支持しよう」


「ありがとう。すごく心強い」


「しかし、だ」


 ディーン兄さんの目が鋭く光る。


「私がここへ足を運んだのはエルフの森でアンリちゃんに世話になったからだ。つまりここに来た時点で恩は返したことになる」


「えっと、そうなるのかな?」


「そうなるね。さて、そこで考えて欲しいんだけど、ルハラが全面的に支持することと、戦乙女部隊を戦争に参加させる許可に関しては私から恩を受けたという形にならないかな?」


「ちょっと、ディーン君――」


 クル姉さんが非難めいた声を出したけど、ディーン兄さんはそれを手で制する。


「個人としてはアンリちゃんの力になってあげたい。でも、立場的にそれはできない。私がやることはルハラという国がやることになる。無償で手を貸したということが分かれば、それはルハラ帝国がトラン国よりも下に思われる」


「うん。それは何となく分かる。国と国は対等であるべきだし、恩を受けたら返すのがスジ」


「その通り。だから王位を取り戻したらこちらの要望も叶えて欲しい。恩を返すという意味でね」


 ギブアンドテイクの関係というのは嫌いじゃない。恩を受けたら恩を返す。それは人の道。


 頷こうとしたら、スザンナ姉さんが腕力で止めてきた。首を縦に振れなかったんだけど、何事?


「待った。まずはその要望を聞かせて。なんでもかんでも言うことを聞くような内容だったら逆にトラン王国がルハラ帝国の下に見られる。王位を取り戻してもルハラに隷属するような国になったら困る」


 スザンナ姉さんは鋭い。危なかった。


 ディーン兄さんは少しだけ笑った。


「どうやらアンリちゃんには優秀な参謀がいるようだね。私にとってのウルやロックといったところかな」


 そう言われてスザンナ姉さんも悪い気はしなかったみたいだ。少しだけ嬉しそうにしている。


 ディーン兄さんはリンゴジュースを一口飲んでから、私の方を見た。


「アンリちゃんはエルフの森で私が言ったこと――いや、影武者だったルートが言っていたことを覚えているかな?」


「昔のことだからちょっとあいまいだけど、大体は覚えていると思う」


「その中で、私が皇帝になったらどの国とも戦争をしないという風に言ったんだけど、覚えているかい?」


「それは覚えている。考えが甘すぎて『笑止』って言った覚えがある。人生で一度は使ってみたい言葉だった」


「アンリちゃん、それ五歳の頃だよね……まあ、それはいいとして、確かに考えが甘かったね。こちらから戦争をしなくても相手は違う。そんなことにも気づかない子供だった。甘いと言われても仕方がないね。でも、あの時の出会いが今の私を作っていると思うとなんだか感慨深いよ……」


 もう十年も前のこと。あれから随分と変わった気がする。あの頃に戻りたいとは思わないけど、楽しかった覚えしかない。


「おっと、すまないね。昔を懐かしむなんて久しぶりだから、ちょっと色々思い出してしまったよ。それで話を戻すけど、簡単にいえば、ルハラ帝国とトラン王国はお互いに戦争しないという条約を結んで欲しいという要望だよ」


「それはこちらにも利があることだけど、そんなことはしなくても戦争は起きないと思う」


 ディーン兄さんは笑顔で頷いた。


「フェルさんがいる限り、戦争にはならないだろうね。それに城塞都市ズガルもある。ルハラとトランが戦争する可能性はゼロに近いだろう」


「だったら――」


「でもね、アンリちゃん。国のことをフェルさん一人の恩恵で済ませるのは良くない。帝位を取り戻せたのもウゲン共和国と関係が改善できたのもフェルさんのおかげだ。傀儡の皇帝と言われたのも間違いじゃないから甘んじてそれを受けた。でも、これからはそんな風に呼ばせるつもりはない。そもそも、ルハラ帝国とトラン国の関係までフェルさんのおかげで平和に保たれていたら、皇族や王族なんていらないだろう? いや、国というシステムがいらなくなる」


 言っていることは分かる。それはフェル姉ちゃん一人いればいいってことになる。


「私達はフェルさんがいなくても問題がないような国を作らなくてはいけない。私はそう思っているけど、アンリちゃんはどうだい?」


「言われてみると確かにその通りな気がする。フェル姉ちゃんに頼りすぎなのは良くない」


「そう。だから、せめて大陸の西側だけでも定期的に会談をするなりして平和な関係を築いていきたいんだ。要望は二つ。お互いに不可侵の条約を結ぶことと、ウゲン共和国との三国で定期的に会談をすること。アンリちゃんが王位を取り戻したらそれに同意してもらいたい。どうかな?」


 私にとってそれはなんの問題もない良い話。でも、一応スザンナ姉さんの意見も聞いておこう。


 横を向くだけで理解してくれたのか、スザンナ姉さんは頷いてくれた。


「うん。その要望には必ず同意する。細かい条件はそのときになるけど」


「ありがとう。ならルハラは全面的にアンリちゃんを支持するよ。もし追加で要望があるならクルを通して言ってくれればいい。その代わりにこちらの要望も一つ増えるけどね」


 ディーン兄さんは笑顔でそう言ったけど、その笑顔がちょっと怖い。これ以上の要望は色々と危険かも。


 その後、ディーン兄さんと昔の話をしてからお開きになった。


 今更ながらに王というのは大変なんだなと思う。


 まだまだ覚悟は足りないだろうけど、私には優秀な人達がいる。王として足りない部分はいくらでも補ってくれる。


 気合を入れよう。成人したばかりだからと言って甘えていいわけじゃない。それにこんなに力を貸してくれる人がいるのに負けることは許されない。


 必ず王位を取り戻すぞ。


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