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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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境界の森

 

 大霊峰でやることが終わったから、今度は南下して境界の森へ入り、エルフの村へ行くことにした。


 今はまだ森じゃなくて岩だらけの場所だけど、ちょっとずつ緑が増えてきて森が近いのが分かる。


「かなりの量のお土産を持たせてくれたね」


「うん。ムクイ兄さんはなかなか男前。顔の区別はつかないけど、心意気が恰好いい」


 スザンナ姉さんの言葉に同意する。


 ドラゴニュートさん達の村を出るとき、ムクイ兄さんが色々なお土産を用意してくれた。


 ドラゴンの肉とかワイバーンの肉とかバジリスクの肉とか……肉ばっかりだけど、その心遣いが嬉しい。戦力として助けてはもらえないけど、それ以上に助けてもらっている。


「俺も族長だし、アンリが王になったら一緒だな! だから頑張れよ!」


 ムクイ兄さんはそんな嬉しいことも言ってくれた。大変さが違うような気もするけど、確かに一緒だ。それに魔王だったフェル姉ちゃんと一緒とも言える。


 やる気が上限を突破したと言ってもいい。


「そろそろ森に入ります。あまりいい道とは言えないので少々揺れますから気を付けてください」


「了解」


 ジョゼちゃんが馬車を操りながらそんなことを言った。


 とうとう境界の森に戻ってきたことになる。


 ソドゴラ村を出てからロモン聖国まで行って、さらにはオリン魔法国のエルリガまで移動し、大霊峰まで行った。


 かなり長旅だったけど、これで大陸の東はほとんど行ったことになる。


 ソドゴラ村に寄るという話も出たんだけど、色々と決意が揺るぎそうだから止めておいた。


 たぶん、フェル姉ちゃんに会いに行っても、会ってくれない可能性がある。もしかすると何も気にせずに会ってくれる可能性はあるけど、それはなんとなく負けた気分。


 それに次に会うときは最高の王になってからと約束した。私からその約束を破るわけにはいかない。


 三年。たった三年だ。それで王位を取り戻してフェル姉ちゃんにドヤ顔で会う。


 大体、フェル姉ちゃんはディーン兄さんの帝位を数日で取り戻した。私には三年も時間があるんだ。それくらいできないと、フェル姉ちゃんを部下になんてできない。


 それはいいとして、この感覚はなんだろう?


 境界の森の北側って初めて来たけど、なんとなく落ち着く。森の中で育ったからかな。故郷に帰ってきたって感じだ。


「この森ってなんで境界の森って言うか知ってる? 東の大陸と西の大陸の境界だから?」


 スザンナ姉さんがそんなことを言い出した。


 たぶん、ただの雑談だと思う。本当に興味があって聞いたわけじゃないかな。


 ずっとこの森に住んでたけど、実は知らない。


 もっと子供の頃に聞いたとき、境界じゃなくて教会かと思った。もしかして女神教の森ということも思ったけど、それを司祭様に言ったら笑って違うって言ってたっけ。でも、司祭様もなんでそう言われているのかは知らなかった。


 おじいちゃんも知らないって言ってたかな。昔からそう呼ばれているとか。スザンナ姉さんが言った通り、単に東と西の大陸を分けている森だから境界の森なのかも。


「こちらで言う世界樹と呼ばれる場所があるのですが、その場所とこの森が空間で結ばれているのです。なので、その境界がある場所の森、境界の森と呼ばれています」


 アビスちゃんがそう答えた。


 言ってることは分かるんだけど、よく理解できない。


「ええと? つまりどういうこと?」


「世界樹という場所をエルフの皆さんが守っているという話を聞いたことがありますか?」


「昔、おじいちゃんからエルフさんがいるところに世界樹があるって聞いたことはある。昔はそこにいるコウノトリが赤ちゃんを連れてくるって思ってた」


 その言葉にアビスちゃんもスザンナ姉さんも首を傾げた。


「おじいちゃんの話だと、世界樹は全ての生物の情報を持つ木って言ってた気がする。つまり設計図があるから、赤ちゃんもそこで作られてコウノトリが連れてくるっておじいちゃんが言ってた……よく考えたら嘘だった」


 あの頃は私も子供だったからおじいちゃんもそう言ったんだと思う。でも、アンリは色々と理解した。ほとんどの知識は紅蓮の皆から教わったけど、私も大人になった気がする。


「ああ、そういう。でも、全ての生物の情報って何?」


「人族やエルフや魔物さんにも設計図があるって言ってたけど、あまり詳しくは知らない」


「村長は博識ですね。トラン王国の宰相だったと聞きましたので、そこで色々な情報を得たのでしょう。あの国の地下には機神もいますからそういう情報には事欠かないのかもしれませんね」


 よく分からないけど、アビスちゃんが言うならそうなんだろうな。でも、それはそれとしてよく考えたら設計図ってなんだろう? 子供の頃に聞いたときは特に不思議には思わなかったけど、それはおかしい気がする。


「アビスちゃん、設計図というのは合っているってこと? でも、人族の設計図っておかしいよね?」


「この時代では解明されていないのですが、遺伝子とかDNAと呼ばれるものがありまして、それが色々な生物の設計図となっているのですよ。でも、そんな知識は大昔の物でして今の時代には不要な物です。ただ、いざという時のために世界樹にそれらの設計図が保管されていて、それを守るのがエルフの役目なのです」


 よく分からないけど、分からなくていいことが分かった。


「えっと、ムクイ兄さん達が大霊峰で龍神を守っているようなもの?」


「守っている物が少々違いますが似たようなものです。でも、そういうのはフェル様に任せて、アンリ様やスザンナ様は考えなくても大丈夫ですよ」


「それはそれでちょっと気になるけど、アビスちゃんがそういうなら考えないようにする。それに今はトラン王国を取り戻すことが優先。いつかゆっくりできるようになったら、フェル姉ちゃんと世界樹へ行こうと思う」


「そのときは私も行くから」


「もちろん。スザンナ姉さんも一緒に行こう」


「世界樹はかなり巨大な木のように見えるはずですから、見たら驚きますよ」


「それは楽しみ……でも、スザンナ姉さんの水竜に乗って森を上空から見たけど、そんな巨大な木なんてあったかな? 夜だったから分からなかった?」


 そんな巨大な木があったらすぐに分かると思うんだけど。


「さっきも言った通り、世界樹はこの森ではなく別の場所にあるのです。その場所とエルフ達が守っている場所の空間を特殊な技術で繋げている感じですね。常時空間転移ができると言えばいいでしょうか」


「なんだか大変なところを守っているんだけど、エルフの皆は力を貸してくれるかな? ミトル兄さんは協力してくれるみたいに言ってくれたけど」


「行ってみれば分かるよ。それにエルフの人達とはソドゴラ村でアンリとも交流があったから完全な拒否というのはないと思う。だからまずは行くだけ行ってみよう」


「うん。そういうポジティブな思考は好き。当たって砕けろの精神で行ってみる。それじゃジョゼちゃん、エルフの村まで一直線でお願い」


「承知しました」


 エルフの村へ行くのは二度目かな。あの時はフェル姉ちゃんを取り戻すために、ヴァイア姉ちゃんやディア姉ちゃん、それにヤト姉ちゃんと一緒に行った。


 そういえば、ジョゼちゃんの背中に乗ってスライムライダーとなった記憶もある。ずいぶん昔の事なのにすごく覚えてる。


 ……よく考えたらエルフの森を燃やそうとか言ったっけ。大丈夫かな?



 私達は今、エルフの隊長さんの家でちょっと怒られている。村の広場で怒らないのは隊長さんの優しさだろう。でも、ちょっと呆れている顔が罪悪感を掻き立てる。


「アンリ。村へ来るのに何で結界を破壊した?」


「それは不可抗力。ジョゼちゃんがやったんだと思う。私としてはその意思はなかった。そういうことでここは一つ穏便に済ませてください」


 エルフの森は結界が張られていて、普通の人には入ってこれないようになっている。ジョゼちゃんに責任を擦り付けるわけじゃないんだけど、ジョゼちゃんがその結界を破壊してエルフの村へ行ったからちょっとした騒ぎになった。


 隊長さんは溜息をついてからアンリ達を見た。


「ミトルから連絡を受けていなかったら反撃していたぞ?」


「ごめんなさい。そういうのがあったのを忘れててジョゼちゃんに一直線で村へ行くようにお願いしちゃった」


「仕方ないと言えば仕方ないのだが、結界を張っている長老達が自信を無くしているからあとでフォローしてやってくれ」


「うん。ところで、ミトル兄さんから話は聞いているの?」


 隊長さんが頷いた。


「トラン王国の王位継承者だとは驚いた。以前、ミトルが村の外で情報を集めていた頃に聞いた話だが、確かにあの国はちょっと前にそんなことがあったな。その逃げた子がアンリとは驚いた」


「そんなわけだから、エルフさんの力を借りたいんだけど、大丈夫かな?」


「我々には世界樹を守るという使命がある。だが、ここ数年でエルフも色々と変わった。積極的に周りと関係を持とうとしている。俺は参加できないが、ミトルをはじめとしてアンリの力になりたい奴は多いと思うぞ」


「本当?」


「本当だ。いままでソドゴラ村で色々とあったろう? 我々は友人だ。友人のために助けたいと思うのは当然だからな。ただ――」


「ただ、なに?」


「我々エルフはそもそも数が少ない。助けるとは言っても、百人集まるかどうかくらいの戦力にしかならないぞ?」


「それで十分。ミトル兄さんやエルフさん達が強いのは知ってる。むしろ少数精鋭で恰好いい」


 私がそういうと、隊長さんはちょっときょとんとしてから、笑顔になった。


「そうか、恰好いいか。なら期待に応えられるように、ミトルを含めてしっかり鍛えておいてやる」


「うん。ありがとう」


「なに、礼はいらん。アンリを助けたいと思う奴らが助けるだけだ。そうだ、今日は村に泊まっていけ。久しぶりの客人だ。宴で皆をもてなそう」


 隊長さんもそうだけど、エルフの皆はすごくいい人達だった。


 でも、これもフェル姉ちゃんのおかげなんだと思うと、ちょっと悔しい気もする。フェル姉ちゃんは直接手伝ってくれないけど、間接的に手伝ってくれている。


 トラン王国との戦いは負けられない。これだけお膳立てしてもらって負けたら無能な王位継承者って歴史に名前を残しちゃう。そうならないように確実に王位を取り戻そう。


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