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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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チャラいエルフ

 

 聖都エティアでは一ヵ月ほど滞在した。


 バルトスおじさんやシアスおじさん、それにオリスア姉さんが、私とスザンナ姉さんを鍛えてくれた。それはいいんだけど、もっと大変だったことがある。


 その期間中、ティマ姉さんは私をロモンで偉い貴族の人に紹介してくれた。修業よりもそっちの方が大変だった気がする。でも、ティマ姉さんへの資金援助や聖人教の人達を味方につけるためには仕方がないことだと思うから頑張った。


 戦争というのはどうしても根回しが必要。しかもロモン聖国の場合はオリン魔法国とは違って直接的な戦力を貸してほしいという形だ。どんな事情があるにせよ、タダで手伝ってくれるわけじゃない。


 ティマ姉さんもそれが分かっているから色々と紹介してくれたんだと思う。それに会う人をしっかり選んでくれたのか、偉い人のはずなのに傲慢な感じはしなかった。


 もちろん、私がトラン王国の王になった時の見返りは要求されたけど、どれも許容範囲だし、それと同等くらいの協力もしてもらうことになっているから問題はないと思う。


 残念なのは、バルトスおじさん達が戦争に参加できないことだ。無敵の軍団を作るのに必要だとは思ったんだけど、人族同士の争いには手を貸せないと断られた。


「アビスとやらが言う通り、相手が魔素の身体を持つ兵だとしても戦争に力を貸すことはできん。気持ち的には貸してやりたいのだが、戦争となればトランが船を使ってここを襲ってくる――いや、逃げてくるという可能性もある。儂やシアスはこの国や聖人教を守らねばならん」


「確かにその可能性もある。でも、それならそれで問題ない。もし、トラン国から船が来たら捕えておいて。その中に私の弟がいるかもしれないから」


「……姉と弟で戦うか。会ったこともない弟の事らしいが、なんとも因果なものだな」


「弟が王になるチャンスはあった。でも、それを台無しにしたのは弟の方。因果応報なんだから仕方ない」


「アンリはもう割り切っておるのだな。王の素質は十分か……もし無事に王になったら皆が生きやすい平和な国にしてくれよ」


「それは約束する。誰もがトラン王国に住みたいって思うような国にするつもり。ソドゴラ村みたいに」


 バルトスおじさんは何も言わなかったけど、笑顔で頭を撫でてくれた。あれは私に期待してくれたと見た。頑張ろう。


 バルトスおじさんもシアスおじさんも戦いには参加してくれないけど、オリスア姉さんも戦争には参加してくれないことになった。このままロモン聖国でバルトスおじさん達と同じようにここを守るらしい。


「フェル様から魔族全員に連絡があった。アンリ殿の手伝いは不要とのことだ」


「そんな連絡があったんだ?」


「ルハラの皇帝、ディーン殿のようになってほしくないのだろう。魔族が介入しすぎてしまったので、ディーン殿の評価が必要以上に低くなってしまった。ああならないようにするための配慮だと聞いている」


 ディーン兄さんは帝位を取り戻して皇帝になったけど、それは全部魔族のおかげだと思われていた時期があった。


 その時の二つ名が傀儡の皇帝。


 不敬もいいところなんだけど、ディーン兄さんはそれを甘んじて受けた。


 クル姉さんの話だと、ディーン兄さんは「本当のことだからね」と疲れた笑顔でそう言ったとか。なかなか言える事じゃないと思う。


 そんなディーン兄さんをサポートしたのがクル姉さんのお姉さん達や紅蓮の人達。その評判を払しょくしようと色々頑張った結果、今ではそんなことを言う人はいないし、国民から慕われている皇帝になった。


 フェル姉ちゃんは私がそんなことにならないようにしているんだと思う。だから魔族さん達にはこの戦いに参加しないように言っている。それでも従魔の皆を貸してくれているところがニクい。


「とはいえ、アンリ殿を鍛えてはいけないとは言われていない! だから修行の最終段階に入ろうと思う! 勇者なんか軽く倒せるくらいの強さにしてみせるぞ!」


「あれよりも上の修行があることにびっくりだけど、その前にバルトスおじさんがちょっとへこんでいるからフォローしてあげて」


 簡単に言うとあの修業は人族には無理。というか、魔族さんにも無理だと思う。私も記憶が一部ない。たぶん、本能的に思い出しちゃいけない状態になったんだと思う。これはいい記憶喪失。


 そんなこんなで地獄の修行に耐えて、人脈も確保した。ロモン聖国でやることは終わったと言える。


 ティマ姉さんは戦争時、海を渡ってトラン王国へ侵攻を開始するからここで一旦お別れだ。


「アンリ様。お体にお気を付けくださいね」


「うん。でも、それはオリスア姉さんとの修行中に言ってほしかった。あれで何度か死を覚悟したから」


「アンリ様は耐えられるとオリスア様が自信をもっていっておりましたから心配してはおりませんでしたよ。それよりも風邪をひかないように体を温かくして寝る様にしてくださいね。冷たい物を飲みすぎてはいけませんし、お肉はちゃんと焼きましょう。うがい手洗いも毎日しっかりやってくだいね」


 なんだかお母さんモードになってる。お母さんもよくそんなことを言う。今頃はおじいちゃんやお父さん達と城塞都市ズガルで色々準備してくれているのかな。


 おっといけない。今は目の前のティマ姉さんだ。


「大丈夫。そういうのはソドゴラ村で徹底されてた。ここ数年というか、フェル姉ちゃんが村に来た頃から風邪を引いた記憶がない。もしかしたら風邪無効のスキルを覚えたのかも」


「たとえそうでも無理や無茶をしないようにしてくださいね」


 ティマ姉さんはそう言うと、近づいてぎゅっと抱きしめてくれた。


「アンリ様。貴方は私の親友の娘ですが、私の子でもあります。その姿を見たとき、親友であるマユラが若くなって戻ってきたと思えた程です。よくここまで育ってくれましたね」


「マユラ母さんの姿を見たことないけど、私に似ているんだ?」


「ええ、若い頃のマユラにそっくりです。そしてやんちゃなところや勉強が嫌いだったところもそっくり」


「……うん」


「アンリ様。マユラが望んでいるかどうかは分かりませんが、貴方がトラン王国の王になるところをマユラに見せてあげてくださいね」


「うん。やるからには全力で王位を取り戻す。全部終わったらまたマユラ母さんのことを聞かせて」


「はい、もちろんです。彼女のいいところもダメなところも全部教えますから。まだまだ大変ではありますがアンリ様ならなんでもできます。私も微力ながらお手伝いしますので」


 記憶にはないんだけど、ティマ姉さんに抱きしめられているとなんだか安心する。安心する匂いって言うのかな。赤ちゃんの頃に刷り込まれたのかも。


 一度だけ抱きしめ返してから大きく深呼吸して離れた。


「それじゃ行ってきます」


「はい、お気をつけて」


 ティマ姉さん達と別れて聖都エティアを後にした。




 あれから数日経って、ようやくオリン魔法国の商業都市リーンまで戻ってきた。


 帰りは宿泊するくらいで特にやることはなかったから結構早く戻れた。今度はさらに北上して、ヴァイア姉ちゃんのいる魔導都市エルリガって場所に行く予定だ。


 でも、その前にリーンの町で買い物をしないといけない。


 北へ行くほど寒くなるから防寒具が必要。風邪は引かないと思うけど、ちゃんと温かくしていかないと体が動かなくなる可能性もある。ルハラの方だと年中暑いからそうでもないんだけど、こっちでは気を付けないと。


 さすがに貴族のクロウおじさんがいない状態でお屋敷に泊めてもらうのは気が引けるので普通の宿をとった。まだ時間があるから、さっそく防寒具を買いに行こう。


 お勧めされたのはエリファ雑貨店というお店。


 ここはどうやらフェル姉ちゃんが懇意にしているお店みたいで、なぜかリエル姉ちゃん御用達のお店だ。たしかここの店長さんとも仲がいいとか。


 以前リエル姉さんを助けて戻ってきたときにおばあさんがいたけどその人がエリファおば――姉さんらしい。


 結構繁盛しているみたいだけど、なんだかお店の外まで人が並んでいるような……?


「あれ? アンリちゃんじゃないか。それにスザンナちゃんも。珍しいとこで会うなー」


 なんだか軽そうな声が聞こえたのでそっちを見たらミトル兄さんがいた。


 相変わらずチャラい感じだけど、今なら分かる。ものすごく隙がない。


「ミトル兄さん。久しぶり」


「久しぶり……まあ、人族の感覚だとそーだな。最近は人族と一緒にいるからそーいう感覚も分かるようになってきた気がする。ところで二人ともここでなにしてんの? 確かルハラの方に行ってるってこの間聞いたけどな?」


「色々あって帰ってきた。ミトル兄さんは何をしているの?」


「ほら、そこのエリファ雑貨店にエルフの森で採れたものを売りに来てるんだよ。フェルとの縁で関係を持つことになったから定期的に来てるんだよ。今回は俺とあと数人が当番でな」


 だからあんなに混んでいるのかな。基本的にリンゴとかはソドゴラ村くらいしか置いていないからここで売り出されたら誰もが買いに来ちゃうかも。ルハラでの傭兵活動で何が大変って、リンゴがなかったことが大変だった。


 戦争が始まってもリンゴをたくさん食べたい……というか、皆にも振舞いたいな。それで士気を上げる。


「ミトル兄さん、リンゴって結構お高い物? 今まではおごってもらうことが多かったからよく知らないけど、何となく高いのは知ってる」


「俺達エルフの感覚だとよく分かんねーけど高いらしいな。そもそもあまり出回ってないしなー」


「大量に購入したいって言ったらどれくらいかかるかな?」


「うん? リンゴがそんなに必要なのか? ソドゴラ村で普通に買えると思うけど?」


「実は――」


 そこまで言いかけて、頭に閃光が走った。


 よく考えたらミトル兄ちゃんは強い。エルフさん達も強いはずだ。昔森へ行ったときはジョゼちゃん達がボコボコにしたけど、あれは相手が悪いだけの話。トラン王国に対してならかなりの強さを発揮してくれると思う。


「おーい、アンリちゃん? なにか言いかけたみたいだけど、どうかしたのか?」


「ミトル兄さん、ちょっとお願いがあるんだけど」


「お、いいぜ。その代わりデートしてくれよ? 二人とも美人になったからおごっちゃうぜ!」


「分かった。デートするから戦争に参加して」


「ああ、いいよ――なんて?」


 言質は取ったけど、詳しい説明が必要だ。よし、デートしながら説明しようっと。


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