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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十七章

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戦いの勝敗を変える力

 

 ガレスおじさんと鍛冶師ギルドの協力を取り付けてからドワーフの村を出た。


 交渉が一日でまとまったのはネゴシエーターアンリの腕の見せ所だったと思う。実際はフェル姉ちゃんがガレスおじさんの恩人だというのが理由だろうけど。


 ガレスおじさんは私の鎧を作ってくれることになった。武器はすでにフェル・デレがある。必要なのは防具だ。性能よりも目立つというか皆を鼓舞するための派手な鎧。そのうえで機能性重視という注文を付けた。


 実際に身に着けるのはもう少し先だし、まだ成長する可能性もあるからすぐには取り掛からないけど、今のうちから構想を練っておいてくれるそうだ。


 それとなぜかフェル姉ちゃんの武器を作ると息巻いていた。フェル姉ちゃんにはすでにグローブの武器があると言ったんだけど聞いてくれない。仕方ないので諦めた。


 それはそれとして、フェル・デレを見せてくれって言うドワーフさんが多くて困った。


 個人的には嬉しい。ものすごく自慢したい。私のためだけの剣が注目を浴びるというのは、こう、何物にも代えられない嬉しさがある。


 でも、本当に壊れないか試そうとかいうのはなし。たとえ壊れなくてもそういうのは良くない。


 それと、グラヴェおじさんはドワーフさんの中じゃ腕は良くないという認識だったらしい。いつの間にこんなものを作れるようになったんだって皆が驚いていた。


 私からすればグラヴェおじさんは最高の鍛冶師なのに。


 でも、それが鍛冶師さん達の心に火をつけた感じだ。負けてなるものか、という気持ちで溢れていた。いわゆる目が燃えているという状態。さらにはガレスおじさんが現役復帰ということもあって、昨日の夜は村全体が宴会騒ぎだった。


 私は年齢的に飲んではいけないし、スザンナ姉さんもお酒は飲まないからノリについていけなかったけど、アビスちゃんが無双してた。あれでドワーフさん達に一目置かれたと言ってもいい。少々ズルっぽい気がするけど問題はないと思う。


 あと、メノウ姉さんのファンというか、ゴスロリメイズのファンの人も歌ったり踊ったりして盛り上がってた。しかも、一部の人は私のために戦うとまで言ってくれた。


 因果関係は分からないけどメノウ姉さんのバックダンサーとして踊ったことがあるという話をしたのが効いたのかもしれない。


 私とスザンナ姉さん、そしてアビスちゃんで真のゴスロリメイズの踊りを見せようとしたけど、スザンナ姉さんは知らない人の前で踊るのは照れ臭いお年頃になっちゃったみたいだ。残念だけど仕方ない。


 今日の朝は皆が見送りに来てくれた。戦いはまだまだ先の話だけど、今から準備しておくから安心してくれって言われた。ラスナおじさんにも連絡を入れたし、武具の大量生産もしてくれると思う。ラスナおじさんにお金を借りるという形になるけど、後でいくらでも返してあげよう。


 そして今は南にあるメーデイアに向かって移動中だ。


 オリン魔法国の一番南にあるメーデイア。あの町を過ぎるとロモン聖国だ。


 本当はヴァイア姉さんのいるエルリガという町へ行きたかったんだけど、そっちは後回し。クロウおじさんが国王に話をするため王都へ向かったから、そのついでにヴァイア姉さんにも話をしておいてくれるみたいだ。


 ヴァイア姉さんのことだからもう情報は知っていると思うけど、何かをお願いするならちゃんと会ってお願いするべき。


 そもそもヴァイア姉さんはルハラの出身。ニア姉さんやロンおじさんは許してくれたけど、ヴァイア姉さんは分からない。前に聞いたことがあるけど、ヴァイア姉さんの両親は戦争で亡くなった。


 壁ドン魔法を食らっても仕方ないレベルのことをしている。ヴァイア姉さんのことだから許してくれるとは思うけど、それに期待しちゃだめだ。きちんと頭を下げてその上で協力を仰ごう。


 というわけで、まずはロモン聖国に行って、その帰りにエルリガだ。


 そしてエルリガからは大霊峰に入ってドラゴニュートのムクイ兄さん達に協力を仰ぐ。人族の戦争に手を貸してくれるかどうかは分からないけど、お願いするだけはしておこう。


 ムクイ兄さんは族長になったって聞いたけど、大丈夫かちょっと心配。私が王になるって言ったら逆に心配されそうだけど。


「アンリ様、ここからは飛ばしますよ。大丈夫ですか?」


「うん、ジョゼちゃん、お願い。メーデイアに向かって」


 ジョゼちゃんが頷くと馬車のスピードが上がる。まずはメイドさん達を仲間に引き込もう。




 メーデイアの町は以前来た時よりもかなり大きくなった。


 もともと遺跡がある場所として栄えていた町らしいけど、観光業がかなり当たったみたいでオリン魔法国からもロモン聖国からも色々な人が来ているみたいだ。


 でも、その観光業、実はメイドギルドのメイドさん達が聖地巡礼として訪れているとかいないとか。メノウ姉さんは笑うだけで答えてはくれなかったけど、あの笑顔は間違いない。


 フェル姉ちゃんとリエル姉さんがこの町での疫病を治したんだけど、対外的にはフェル姉ちゃんのおかげじゃなくて、メイドギルドのおかげになっている。


 それを感謝したメイドギルドがフェル姉ちゃんを主人として崇めている。そして各地のメイドさんでは年に一回ここへ巡礼と称してやってくるのが通例だって聞いてる。


 それはともかくとして、メイドさん達の力を借りたい。


 ソドゴラでメノウ姉さんにお願いしたんだけど、メノウ姉さんの権限ではできないみたいだ。なので、ここにいるメイド長さんを紹介してくれた。立場的にはメノウ姉さんと同じギルドマスターなんだけど、師匠みたいなもので権限もかなりあるとか。


 ここはキチンと足を運んでちゃんと話を通すべき。私としてはメイドさんの力は必須だ。


 女神教にさらわれたリエル姉さんを助けに行ったとき、フェル姉ちゃんはメイドさん達の力を借りていた。あの時の情報収集能力は大きな戦いには必要だと思う。トラン国の方を味方するとは思わないけど、できればこちらの味方として取り込みたい。


 あまり私と接点はないけど、全然知らないわけじゃないから、約束はなくても会ってはくれると思う。さっそくメイドギルドの支店に行って話をしてみよう。




 メイドギルドのオープンカフェでメイドさんに話をすると、特に問題なく通された。


 ジョゼちゃんもいるんだけど、町でもここでもフリーパスだった。この町ではフェル姉ちゃんに対して絶大な信頼があるみたいで、従魔であるジョゼフィーヌちゃんも例外ではないみたいだ。


 そこそこ広い部屋に通されて数分後、眼鏡をかけたメイドさん――メイド長さんがやって来た。なにかこう背筋を伸ばさないとダメな雰囲気を醸し出してくる。すでに侮れない。


「ご無沙汰しております。アンリ様、スザンナ様、アビス様、ジョゼフィーヌ様」


 そんなに話をしたことはないと思うんだけど、私も含めて皆のことを覚えていてくれた。これは話をしやすいかもしれない。


「お久しぶりです。メイド長さん。今日は突然の訪問にも――」


「そう畏まらなくて大丈夫です。皆さんはフェル様の関係者、もしくは家族と言ってもいい間柄。普通にしてくださって大丈夫ですよ――それに、今日ここへ来た理由もメノウから聞いております。念のためにアンリ様の口から教えていただけますか?」


 メノウ姉さんは仕事が早い。これなら簡単に話が済みそう。


「うん。単刀直入に言うと、私はトラン王国の正統な王位継承者。これから数年のうちにトラン王国へ攻め込んで王位を取り返す。メイドさん達にはその手伝いをしてもらいたいと思って頼みに来た」


「……なるほど。メノウから聞いている通りですね」


「何か証拠が必要というなら――」


「いえ、それは不要です。ジョゼフィーヌ様がいらっしゃる以上、それはフェル様公認ということ。たとえそれが嘘でも我々メイドにとっては本当です。いえ、本当にさせます」


 うん。狂信的。でも、それが頼もしい。


「なら、お願いは一つ。私の王位簒奪に手を貸してほしい。メイドさんには戦いの勝敗を変える力があると思ってる」


 メイド長さんはすぐには何も答えてくれない。目をつぶって黙った。


「えっと……?」


 メイド長さんは目を開くと、クイッと右手で眼鏡の位置を直す。


「申し訳ありませんが、それは難しいでしょう」


 正直、いい返事が貰えると思ってたんだけどそんなに甘くなかった。でも、このまま引き下がるわけにはいかない。


「理由を教えてもらってもいい?」


「簡単に言えば、お金の問題です。アンリ様は我々メイドを雇えるほどのお金をお持ちですか? 高ランクのメイドを雇うには王族でもなければ無理でしょう。情報収集ができるメイドを雇うとなれば、高ランクを長い期間、それも複数人必要。はっきり言いまして、たとえヴィロー商会の後ろ盾があったとしてもアンリ様に支払えるとは思えません」


 ヴィロー商会がいることもすでに知っているみたいだ。さすがメイドさん。でも、ヴィロー商会でも無理か。それは考えてなかった。


 私が考え込んでいると、スザンナ姉さんがちょっとむっとして口を開いた。


「ちょっと待って。お金を取るの? もちろんタダとは言わないけど、フェルちゃんのときは――」


「フェル様には我々メイドがどれほどかかっても返し切れないほどの恩を受けております。お金がなくともフェル様から頼まれれば、たとえ火の中、水の中、それこそマグマの海ですら泳いで見せましょう」


 それはどうかと思う。ジョゼちゃんだってマグマは危険だとか言っていた気がする。


 メイド長さんは私やスザンナ姉さんを諭すように笑顔になる。


「我々としてもフェル様のご家族と言える方のためにメイドの力を貸したいとは思います。例えば私であれば知らない仲でもありませんし、無償で力を貸すのもやぶさかではありません」


「だったら――」


「スザンナ様。お待ちください。ですが、メイドギルド全体で見れば、アンリ様のことを知らないメイドの方が多いのです。お金を払わない、もしくは少ない、でも、自分のために危険なことをしてくれと縁もゆかりもないメイドに頼むというのであれば、それを許可するわけにはいかないのです」


 メイド長さんの言葉に頷いた。


 確かにそれは虫が良すぎる。


 情報収集は命懸けだ。メイドさん達はフェル姉ちゃんのためなら命懸けでなんでもできる。でも、フェル姉ちゃんの関係者に過ぎない私のためだけに命を懸けるわけがない。


 私に何かあればフェル姉ちゃんが悲しむ、そんな風に持って行くこともできるとは思うけど、それはフェル姉ちゃんの威光にすがるようなもの。私は私の力でメイドさん達の協力を仰ぐ必要がある。それが王。


 フェル姉ちゃんの力を完全に頼らないというのは難しい。私のほとんどの人脈はフェル姉ちゃん関係だ。今後もそれに頼るしかない。今の時点でもかなり力を借りているのに、その上でフェル姉ちゃんからメイドさんにお願いをしてもらうなんて駄目だ。


「私の考えが甘かった。ちょっとフェル姉ちゃんの力に頼りすぎてたところがある」


「ご理解いただけると思っておりました。ですが、ここまで足を運んでくださったのに、手ぶらで返してはメイドの名折れ。一つご提案があります」


「提案?」


「我々メイドはフェル様に恩があります。そのフェル様がアンリ様を手伝って欲しいと言えば必ずお手伝いするでしょう」


「うん。でも、それはない。フェル姉ちゃんは従魔の皆にお願いしてくれたけど、それ以外の人達にはなんのお願いもしていないはず。これからもすることはないと思う」


「はい。ですので、別の方にお願いすると言うのはどうでしょうか。実は私達メイドにはもう一人、恩人がいるのです」


「もう一人……?」


「その方がアンリ様に協力してほしいと言えば、我々メイドは命懸けでそのお願いを聞くでしょう」


「つまり、その人に私が協力を依頼すればいいということ?」


「その通りです。アンリ様だけでその方に協力を仰ぐのがよろしいでしょう。頼む相手がフェル様からその人に代わるだけではありますが、少なくともそれはアンリ様だけの力と言えると思います」


 誰かに頼るのは仕方のないこと。そもそも戦争は一人じゃできない。私は自分の力で色々な人に協力を仰ぐ必要がある。フェル姉ちゃんの力を直接借りずにメイドさんの協力を仰ぐならそれしかなさそう。


「分かった。そうしてみる。ちなみにその人はどこにいる誰のこと?」


「その方はメイドギルドのグランドマスターであるナミ様です。すでにかなりの高齢ですが、メイドの中ではメノウよりも強いでしょう」


 メイドさんの能力を測るのに強いって必要な情報かな……?


 それはともかく、昔メノウ姉さんに聞いたことがある。メイドさん達を助けたアダマンタイト級の冒険者だったとか。


 そっか、その恩があるからその人に協力を得られれば、メイドさん達が力を貸してくれる可能性があるんだ。


「ご存知かもしれませんが、ナミ様はルハラ帝国の帝都におります。ぜひ、ナミ様にお会いして協力を仰いでください。ナミ様の命令であれば、我々メイドは必ずやアンリ様の力になりましょう」


「うん。ルハラへ行くのはしばらく先になるだろうけど、行ったら会って協力をお願いする」


 メイドさんである以上、フェル姉ちゃんに感謝しているだろうから、協力を得られても完全には私だけの力じゃない。でも、やるべきだと思う。


「ナミ様からご命令があるのを楽しみにしております――今日はここへお泊りください。せめてものもてなしを致しますので」


 メイド長さんにそう言われて今日はここに泊まることになった。


 今回は残念だったけど、まだチャンスはある。ルハラへ行ったらメイドギルドへ行って協力を仰ごう。


 明日からはロモン聖国だ。まずはレメト湖に行って久しぶりに司祭様にお会いする。その後、聖都だ。


 やることはいっぱいだけど、慌てずに一つ一つこなしていこう。


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