最高傑作の剣
リーンの町でクロウおじさんの歓待を受けた後、今度はドワーフの村に向かっている。
馬車に乗ってのんびり、というわけじゃないけど、スザンナ姉ちゃんの水竜は目立つということで使わずに地上を移動している。
たぶんトラン国の監視の目があるだろうから、おじいちゃん達の方に私がいるように偽装している。効果は分からないけど、色々とやっておくべきだとの話だ。
それはともかくとして、そろそろ村に着くと思う。
ドワーフの村はリーンの町を出てさらに東の方だ。大坑道という場所があって色々な鉱石が採れる場所としてかなり有名らしい。私は初めて行くところだ。
ここに行く目的はドワーフの鍛冶師さん、そして鉱石だ。
大規模の戦争をするには色々な物が必要になる。食料とかも大事だけど、武具も重要だ。戦える人がたくさんいても、素手で戦えとは言えない。それに武具があっても使い続ければ必ず壊れる。
私のフェル・デレは「不壊」というスキルが付いているので壊れないけど、他の武具は違う。それを修理できる人が必要だ。
そこで重要なのがいい腕の職人さん達だ。
ソドゴラの町にはグラヴェおじさんとそのお弟子さんがたくさんいる。皆、アンリのために技術を提供してくれると言ってくれた。でも、それでも足りなくなる気がする。
それにグラヴェおじさん並みの鍛冶師さんはまだいない。お弟子さん達はみんな修行中の身だ。
グラヴェおじさんが言うにはドワーフの村には腕のいい職人がたくさんいるから交渉してみてはどうかとの話だった。
「やっぱりグラヴェおじさんとお弟子さんだけじゃ足りないよね?」
誰に向けたわけでもない質問を口にすると、アビスちゃんが頷いた。
「全く足りないでしょう。トラン王国を色々調べているのですが、どうやらあの国は色々な遺跡から武具を集めているようで、それだけでもかなりの戦力になっています」
「武具を集めている? あの国の人は外に出ていないんだよね? もちろん、間者というかスパイはいるだろうけど、ダンジョン攻略もしているってこと?」
「いえ、商人から買っているようですね。シシュティ商会と言われる商会です。今ではヴィロー商会と合わせて二大商会と言われるほど大きな商会です」
シシュティ商会……? どこかで聞いたことがある。どこだったっけ?
「たしかダンジョンの入口で商売をしている商人達だよね? 地下墳墓の入口にいた気がする」
スザンナ姉さんの言葉で思い出した。
そういえば、地下墳墓の奥で手に入れた剣を大金貨千枚で売った気がする。それにラスナおじさんもシシュティ商会がトラン王国と取引しているとか言ってたっけ。
つまり、トラン王国はシシュティ商会を介して、遺跡にある武具を仕入れているわけだ。
遺跡にある武器は色々と強い。特に第二世代の武器と呼ばれるものはかなりの強さだと聞いたことがある。地下墳墓の最下層で見つけた剣なんて人を操るインテリジェンスソードだった。
「スザンナ様の言う通りですね。シシュティ商会は遺跡の入口でそう言った武具をかなりの値段で買っています。遺跡で見つかる武具はほとんどが第二世代の物でしょう。それが揃っている国と戦うのならこちらも最高の武具を用意しておくべきです」
「詳しくは分からないけど、ああいう剣はアビスが作れるんじゃないの?」
スザンナ姉さんの質問にアビスちゃんが一瞬だけ目をつぶってから頷いた。
「確かにダンジョンの機能を使ってああいう装備を作ることはできますね。第二世代は兵器の世代と言われています。それはもっとも効率よく人を殺せる武器が多かったためです。武器の本質はそれなのでしょうが、グラヴェの作った作品を見ている私としてはああいう物は作りたくないですね」
スザンナ姉さんは首を傾げたけど、私は何となく分かる。魔剣フェル・デレが折れたときに聞いた。武器は使用者を守るものだって。決して相手を殺すためだけの物じゃない。
地下墳墓の奥にあった剣や似たような剣を触ったルート兄ちゃん達は自分の意志とは関係なく襲ってきた。あの武器は使用者を守らない。むしろ危険にさらす。
「アビスちゃんの言う通り。ああいう危険な武器を作れたとしても使わない。いや、そもそも作らない。そういう方針で行こう」
アビスちゃんは嬉しそうだ。
スザンナ姉さんはちょっと不満そうだけど、地下墳墓の話を踏まえて私の考えを伝えたら納得してくれた。
「アンリ様、ドワーフの村が見えてきました」
ジョゼちゃんが馬車の御者をしながらそう言った。
よし、まずはガレスおじさんと話をしてみよう。
ジョゼちゃんには申し訳ないけど、また村の外で馬車と一緒に待機してもらった。特に気にしていないと言っていたけど申し訳ないから何かお土産を買ってこよう。
それはそれとして、目的はグラヴェおじさんの師匠であり、ドワーフのゾルデ姉ちゃんのお父さんでもあるガレスおじさん。名工ガレスって言われるほど優秀な鍛冶師さんだけど、今は引退している。
一度、リーンの町で会ったことがある。あれはたしかリエル姉ちゃんを助けて帰る途中。でも、挨拶をしたくらいで特に何も話していない。お酒を飲んで騒いでいるドワーフさんという記憶しかない。
なんでも宿屋の経営をしているとか。確か不死鳥亭。今日はそこに泊まりつつ説得する予定だ。
ガレスおじさんはすでに鍛冶師を引退している身。でも、ゾルデ姉ちゃんはまだ鍛冶師を続けて欲しいと思っているって聞いたことがある。あれから何年もたっているし、今はどう思っているのか知らないけど、今回は私の都合でガレスおじさんに鍛冶をしてもらいたい。
ゾルデ姉ちゃんはアビスに潜っていて今回のことは話してない。ロモンから帰ってくるときにソドゴラに寄るからそこでタイミングが良ければ話をしよう。あとできれば一緒に戦ってもらう。アダマンタイトの冒険者ならどう考えても一騎当千だ。
そんなことを考えていたら不死鳥亭についた。
どのあたりが不死鳥なのか分からない。それに出入りしている人達が主にゴスロリ風の服だ。メノウ姉ちゃんが踊るときに着ている恰好。私も持っているけど最近はゴスロリメイズのバックダンサーの話はないから着ていない。もうサイズ的に無理かな。
とりあえず不死鳥亭に入る。
カウンターにドワーフさんが座っていた。
正直ガレスおじさんなのかどうか分からない。ゾルデ姉さんとグラヴェおじさんの区別はつくけど他のドワーフさんは分からない。
「おう、いらっしゃ――お主ら、どこかで見た顔じゃな……?」
「えっと、ガレスおじさん?」
「儂を知っとるのか? いや、儂もなんとなくお主らに会ったような気はするんじゃが」
「私はアンリで、こっちはスザンナ姉さん。リーンの町で一度挨拶したことがある。フェル姉ちゃんと一緒にいた。でもかなり昔の話。十年くらい前」
「おお! ゾルデがいつも言ってた子達じゃな! 思い出したぞ!」
「良かった」
「アンリの方は儂と変わらないくらいの背丈だったのにかなり大きくなったな! そっちのスザンナもずいぶんと背が伸びて美人になった……と思うぞ。人族の顔は良く分からんが」
それは言わなければいいのにとは思うんだけど、まあいいや。
「えっと、まずは宿泊手続きをしたいんだけど」
「おお、泊ってくれるのか。なんじゃ、大坑道で一儲けでもするつもりか? 強いなら奥まで行った方が稼ぎになるぞ」
「そうじゃなくて、今日はガレスおじさんにお願いしたいことがあって来た」
「儂にか? なんじゃ?」
「ガレスおじさんの鍛冶師の腕を借りたいと思ってる」
「……そういう客は多いんじゃが、もう儂は引退しておる。とはいえ、フェルの知り合いじゃ。話くらいは聞いてやるぞ。食堂の方で待っとれ。店番を代わるから」
よかった。門前払いじゃないみたいだ。
さっそく食堂の方へ移動すると驚いた。
壁にゴスロリ服が飾られていて、その周囲は祭壇のようになっている。
以前聞いたことがある。あれってメノウ姉さんが着ていたゴスロリ服だとか。ここはメノウ姉さんを崇める聖地って聞いてたけどここまでなんだ?
なんでそうなったのか経緯は知らないんだけど、フェル姉ちゃんが絡んでいるとか聞いたことがある。一体何をしたらこんなことになるんだろう?
そんなことを考えていたら、ガレスおじさんがやって来た。
「またせたの。ウチは料理はださんが酒のつまみならある。いくらでも食べてくれ」
何か色々出てきた。ジャガイモ揚げとか、バターコーンとか。どれもおいしそうだけど、ピーマンのベーコン巻きはどうかと思う。とりあえず、出されたジャガイモ揚げを一口。そして一緒に出されたオレンジジュースも飲む。
スザンナ姉さんもアビスちゃんもそれぞれ食べたり飲んだりした。
ちょっと落ち着いたら、ガレスおじさんが真剣な顔で私を見つめた。
「それで儂の鍛冶師の力を借りたいとはどういうことじゃ? お主らがいくらフェルの知り合いでもこればかりは首を縦に振れんが、話くらいは聞いてやる」
「うん、なら事情を説明する」
これまでの経緯をガレスおじさんに話した。
それほど私と面識のないガレスおじさんにとっては荒唐無稽な話だったと思う。でも特に口を挟むことなく最後まで聞いてくれた。
「儂にはそれが本当かどうかは分からん。だが、どちらにしても儂が手伝うことはないな。一応鍛冶師ギルドへの紹介状を書いてやるからそれを持って行くといい」
「えっと、理由を聞いても?」
「……まあいいじゃろ。こう言ってはなんだが、もう作りたい物がないんじゃ。儂は最高傑作と言えるものを作った。その時点で儂の鍛冶師としての情熱は消えたんじゃよ。亡くなった妻のためにこの宿をやっておるとか言われてもいるが、そんな話じゃない。やる気がないだけじゃ」
「最高傑作?」
「そうじゃな。ゾルデの持っている斧は傑作ではあるが、最高ではない。とある最高傑作の剣を作って国王に献上した。それ以降もいくつか作ったが、それを超えることはできん。儂にも他の誰にもな。だから鍛冶師を辞めたんじゃよ。たまにいい素材を見ると血が騒ぐが、儂が鍛冶をすることはないのう」
やれやれ。これはちゃんと教えておかないといけない。
「事情は分かったけど、その最高傑作は間違ってると思う。ガレスおじさんにとっては最高傑作の剣だったかもしれないけど、すくなくともそれは二番目以降の剣」
「なんじゃと?」
「最高傑作の剣はこの魔剣フェル・デレ。いまだに成長期。もっと強くなる」
亜空間から取り出したフェル・デレをガレスおじさんに見せた。
ガレスおじさんはジッと剣を見ていたけど、くわっと目を開いた。
「なんと! 不壊の剣か! しかも製作者はグラヴェとは!」
「グラヴェおじさんが作ったことも分かるんだ?」
「儂には鑑定スキルがあるからの――しかし、魔剣? これは聖剣じゃぞ?」
「え?」
「正式な名称は聖剣フェル・デレじゃ。鑑定スキルで見たから間違いない。なんで魔剣なんじゃ?」
いつの間に。私が知らない間に剣が進化してた。
「まあ、それはいいが、これが最高傑作か」
「ガレスおじさんの剣を見たことはないけど、最高傑作は譲れない。いつか人界にその名を轟かせる剣になる」
「……いや、確かにその通りじゃな。これは最高傑作の剣じゃろう」
あれ? 簡単に認めた? これからもっとこの剣の凄いところを説明しようとしたんだけど。
「この剣はお主のためなら何でもする。そのために生まれてきたと言ってもいい剣じゃ。所有者と魂すら一体となる剣――確かに人に作られたものの中では最高傑作と言えるのう」
思いのほか評価が高い。フェル・デレが褒められるのは自分の事のように嬉しい。
ガレスおじさんは腕を組んで唸っていたけど、「よし」と言って頷いた。
「いいじゃろう。久々に鍛冶師としての情熱が湧いてきた。お主の戦いとやらに力を貸そう!」
「本当?」
「ドワーフに二言はない。とはいえ、儂はここから離れることはできん。この村で武具を作ってやるから誰かに取りに来させてくれ」
それならヴィロー商会にお願いしようかな。普通のお仕事でもここに来ることがあるってラスナおじさんが言っていた気がする。
「うん。それじゃよろしくお願いします」
「任せるがいい! その剣を超えるような武器を作ってみせるぞ! そう簡単に弟子が師匠を超えるなんてことはさせん!」
「それは無理だと言っておく。最高傑作はこの剣」
その後ちょっといい争いが続いたけど、とりあえずガレスおじさんの協力は得られることになった。それに鍛冶師ギルドにも色々と働きかけてくれるみたい。鉱石の件も何とかしてくれるみたいだ。
かなり強力な人が味方になってくれたと思う。この調子で仲間を増やしていこう。
でも、フェル・デレが魔剣から聖剣になっていたとは驚いた。確かに聖剣の方がしっくりくる。これからはちゃんと聖剣フェル・デレって呼んであげよう。




