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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十六章

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存在の大きさ

 

 フェル姉ちゃんはルノス姉さんをつれて家を出て行った。


 はっきり言ってすごく寂しい。フェル姉ちゃんはいつだって私の味方だった。それなのにこのことについては手助けをしてくれない。


 従魔の皆を貸してくれるとは言ってくれた。皆には悪いけど、必要なのは戦力じゃない。フェル姉ちゃんが必要なのに。


 でも、さっき約束した。私は最高の王になる。フェル姉ちゃんが永遠に私を最高の王だと思ってくれるような王になる。ならこんなことに嘆いていちゃだめだ。


 もう戦いは始まっている。最高の王への道はもう始まっているんだ。


「私がフェルちゃんを連れ戻してくる。あんなの理由でも何でもない。戦わなくていいって言ってるのにそれも駄目なんておかしい」


「スザンナ姉さん、行かないで。この戦いにフェル姉ちゃん自身の力は借りない。今、そう決めた。そうしないと最高の王になれない」


「でも――」


「大丈夫。私にはスザンナ姉さんがいる。それにおじいちゃん達も。フェル姉ちゃんはそばにいてくれないけど、私のことを案じてくれている。たぶん、フェル姉ちゃんはもっと先のことを見てる。私にはとっとと王位を取り戻せって激励したようなものだから」


 スザンナ姉さんは黙った。珍しく納得していない顔をしているけど、家を飛び出てフェル姉ちゃんを追いかけるような真似はしないみたいだ。


「あー、アンリ、俺も直接戦いに参加することはないと思うけど、マナや聖人教が手を貸すと思うぞ」


「リエル姉さん? それってどういうこと? マナちゃんはともかく聖人教も?」


 マナちゃんは親友だ。助けてって言えば助けてくれる可能性は高い。でも、聖人教が助けてくれる意味がよく分からない。


「その説明をする前に言っておくが、俺はアンリがトラン国の王族なのを知ってた」


「え?」


「ほら、俺って女神教に捕まったとき、当時教皇だったティマに精神を乗っ取られていただろ? そのときに相手の記憶も一部見えるんだよ。その関係でアンリがトラン国の王族なのを知ってた」


 そういえばそんな状況だった気がする。村を出る前は乗っ取りに抵抗して村が襲われないようにしたって聞いた。


「そうだったんだ――そっか、ティマ姉さんが聖人教だからってこと?」


「そうだ。まず間違いなくティマはアンリの味方をする。今では聖人として名高いティマのことだから、アンリに大義があるとか言って聖人教の人を扇動すると思うぞ。まあ、無理に戦争に駆り出すような真似はしないと思うけど」


 それは助かる。戦争をするなら戦力はたくさんあった方がいい。


 でも、戦争か。私のために命を懸けて戦ってくれる人なんて何人いるんだろう。お金を使って雇うこともできるんだろうけど――そっか、これが、フェル姉ちゃんが言っていた王の器か。


 私は私の器で仲間を見つけていかないといけないんだ。そして私のために命を懸けてって言わなくちゃいけない。今更ながらに責任が重い。


 ……前におじいちゃんが言ってた。あれはエルフの森にフェル姉ちゃんを助けに行って帰って来たとき。私はみんなを巻き込んだけど責任が取れないから怒られなかった。


 今度は私の戦いに皆を巻き込む。成人したんだから何らかの責任を取らなきゃいけない。でも、どうやって? 皆を巻き込んだらなんの責任と取ればいいんだろう? そもそも責任なんてどうすれば――


「すまない、アンリ」


「おじいちゃん? なんで謝るの?」


「私は卑怯者だ。アンリに選択肢を与えるなんて言っておきながら、こうなることをずっと願っていた。私にはアンリに何も言わないという選択もできたはずなんだ。今のアンリの苦しそうな顔を見て、私は間違っていたんじゃないかと――」


「待って。それは違う。おじいちゃんは私が継承権を破棄すると言ったときも喜んでくれた。あれは本心のはず。こんなことになっているのは誰のせいでもないし、この苦労は私が自ら選んだこと」


「しかし――」


「それにルハラでも私の暗殺を狙っている人達がいた。継承権のことを知らなければずっと狙われていたし、どこかで私にバレていたはず。知らない人から聞かされるよりもおじいちゃんから本当のことを聞かされた方がいい」


「アンリ――」


「でも、おじいちゃんは私のおじいちゃんなんだから、これからこき使う。おじいちゃんは私を王にする責任がある」


 おじいちゃんは私を驚いた顔で見つめている。でも、少しだけ悪い顔になってきた。


「そうだな。私はアンリにそういう選択を与えた責任がある。そしてアンリは王になることを選んだ。なら私にはアンリを王にする責任があるだろう。アンリ――いえ、アンリ様。このシャスラ、アンリ様を必ずや王にしてみせます」


 おじいちゃんがアンリの前に跪いた。お母さんとお父さんも同じようにしてくれる。


 プライベートなときはともかく、公の場ではそうした方がいいのかな? その方が恰好いいし。


 うん、なら私も王として振舞おう。


「分かった。ならまずはどうすればいいか教えてくれ」


「はい。今の我々には戦力が足りません。トラン国から散り散りになって逃げた同志はあらゆる場所に潜伏しておりますが、そのすべてを集めても千人程度でしょう」


 千人……トラン国と戦争するにはどれくらい必要なのか分からないけど、おそらくもっと必要だ。


「まずは力を蓄えることが先決だと思います。大々的にアンリ様が生きていることを発表して仲間を集うのが良いかと。上手くいけば、トラン王国内でも反乱を起こすことができるかもしれません」


 力を蓄える、か。フェル姉ちゃんの従魔達を貸してくれるって話だけど、それに頼りすぎるのはディーン兄さんの二の舞になる可能性が高いと思う。


 なら、私のために命を懸けてくれる人達が必要だ……いや、人って言うか、人族にこだわる必要はないと思う。エルフさんでもドワーフさんでも獣人さんでもいい。


「あ、あの! 紅蓮に頼むというのはどうでしょうか!」


 レイヤ姉さんが芋虫状態でそんなことを言い出した。少し興奮気味だ。でも、その案はいい。千も二千もいる訳じゃないけど、紅蓮の皆は普通の傭兵よりも強い。


 私としては少数精鋭でもありだ。


「レイヤ姉さんの意見は採用する。私のために戦ってくれるかどうかは分からないけど、クル姉さんに頼んでみる」


「アンリ様のためなら皆手伝ってくれますよ!」


「いや、それは難しいでしょうな」


 おじいちゃんがレイヤ姉さんの言葉を否定した。


「どういうこと?」


「傭兵団の皆さんはルハラ帝国の出身ということです。その皆さんがアンリ様に協力したということになれば、ルハラ帝国が協力したと言うことになりかねません」


「それはダメなの?」


「ディーン皇帝陛下がどう考えるかにもよりますが、勝てる戦ならアンリ様への協力は惜しまないでしょう。しかし今はどう見ても我々が不利。そんな状態で手を貸し、もしも我々が負けたとなれば、トラン王国にルハラ帝国へ攻め込む大義名分を与えかねません。それを天秤にかけると、紅蓮に対して手を貸すなと命令が下す可能性があるかと」


「そんな!」


 レイヤ姉さんが驚いた声を出した。


 確かにこれからは個人の戦いじゃなくてもっと大きな戦い。国という単位で考えないといけない。


 フェル姉ちゃんはルハラ帝国に攻め込むとき、魔族と人族が争ったわけじゃないようにと気を使うというか根回しをしていた。


 私には王位を奪われたから取り返すという大義名分がある。でも、勝者にならなければ意味はない。負けたら反逆者で終わる。そんな私達にルハラ帝国が手を貸すとは思えない。


 ……たぶん、フェル姉ちゃんがいたらこんなことを考える必要もなかったと思う。フェル姉ちゃんがいたら、ディーン兄さんはまず間違いなく味方してくれただろう。今更ながらにフェル姉ちゃんの存在って大きすぎる。


 でも、嘆いている場合じゃない。何とかして私達が勝てそうという状況を作っていかないと。


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