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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十六章

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聖剣との戦い

 

 剣を見つめていると、フェル姉ちゃんが声を掛けてきた。


「その前に村長は大丈夫だったのか?」


「大丈夫。リエル姉さんの治癒魔法で事なきを得た」


「分かった。これはアンリがやるべきだろう。でも、無理はするなよ?」


 フェル姉ちゃんは剣から手を離す。手のひらには血の跡すらない。つまりあの剣ではフェル姉ちゃんを斬れなかったということ。こんな状況でも私との差を見せつける。


 でも、それは後。今はあの剣を破壊することだけに集中。


 剣を持っている男の人はフェル姉ちゃんと距離を取ってから私を見つめた。そして下卑た笑みを向ける。


「おいおい、仕留めそこなったのにターゲットの方からやってきてくれたぜ。悪いが戦うなら殺す気でやるぜ?」


「それはこちらも同じこと。言っておくけど、墓もたてないし遺言も聞かない。鍛冶師に頼んで素材にまで戻してあげるから有効利用されるといい」


「チッ、ガキが。相手との力量差も分からねぇのか」


「私は今日、成人した。ガキじゃない。それと、なるつもりはなかったけど、こんなマネをするようなら、トラン国を弟に任せておけない。だから私がトラン国の王になる。私の事はガキじゃなくて王と呼んで」


「なんだと?」


「聞こえなかった? あの程度の国なんていらなかったけど、ダメな国王に任せるつもりはない。だから返してもらうって意味」


「……ハッハー、面白いガキだぜ。だが、王? そりゃ無理だ。お前はここで俺に殺されるからな!」


「あの距離で本命を殺せない三流剣士が私を殺すというのは何かの冗談? 笑っていい所?」


「俺が……三流剣士……?」


「間違えた。三流の剣だった」


「殺す! 絶対殺す! なぶり殺しだ! 跪かせて命乞いさせてやるぞ!」


「できるならやってみるといい。そうそう、忘れているかもしれないからもう一度言っておく。私はトラン国の王。さっきから頭が高い。まずは貴方が跪いて。命乞いをしても許さないけど」


 トラン王国の王位なんていらなかった。そんな小さい物には興味がない。でも、弟は私を殺してでもそんなものが欲しいらしい。実力で奪えないから相手を殺す。そんな王なんて民が不幸だ。


 いまだにピンとこないけど、私がトラン王国の王族というなら、民のために何かをしなくてはいけない。それはたとえ王でなくても。私はフェル姉ちゃんからそう教わった。


 フェル姉ちゃんは魔王だけど、魔王と思っていなかった時期がある。それでも魔族の皆のために人界で頑張っていた。それに村の皆のためにも色々とやってくれている。


 あれこそが私の理想とする王。


 それに比べたら弟はなんて器が小さいんだろう――ううん、そもそも王の器じゃない。


 私がその器だとは言わないけど、弟には任せられない。


「テメェらは手を出すんじゃねぇぞ! このガキは俺がやる!」


 余計なことは考えないようにしよう。まずはあの剣を破壊する。これはただの私怨。おじいちゃんを刺した落とし前を付けさせる。


 背中のフェル・デレの柄を右手掴んだ。そして一呼吸。


 フェル・デレ、力を貸して。目の前にいる敵を滅ぼす力を私に頂戴。


 そう念じながら背中のフェル・デレを勢いよく右側に振り下ろすと、どすっと畑にめり込んだ。


 なんて軽い。これはフェル・デレが私に相当な力を貸してくれていると見た。


 最初は勝てるかどうか分からなかったけど、今なら分かる。私とフェル・デレは負けない。


「この剣は、魔剣フェル・デレ。貴方を壊す剣。冥途の土産に覚えておくといい」


「デカけりゃいいってもんじゃねぇんだよ! その剣ごと叩き切ってやる!」


「出来ないことは言わない方がいい。滑稽だから」


 次の瞬間には男の人が私の目の前にいた。そして横薙ぎをしてくる。


 ――遅い。移動中は見えなかったけど、集中すればスローモーションと言ってもいい。こんな攻撃が当たるわけがない。


 フェル・デレで攻撃を受ける。甲高い音が周囲に響いた。


「その程度?」


 今度はこちらの番だ。


 受けた剣を弾いて、攻撃する。まずは基本。相手もトラン流剣技の構えをしているから同じ型で攻撃をしながら相手の出方を見る。


 勇者のバルトスおじさんが言ってた。私は動体視力がいい。相手の動きを見極めれば絶対に負けないはず。攻撃をしながら相手の癖や動きを覚えるんだ。


 縦、横、斜め、あらゆる角度、あらゆるタイミングで剣を振るう。相手が少しだけ脅威に思うレベルの力で何度も剣を振るう。全部受けられているけど、そうすればそうするほど情報が得られる。


 それが終わったら、一撃のもとに葬り去る。


 ……ここまでで十分。もう終わらせよう。


 最後に思いきり横薙ぎすると、男の人は剣で受け、距離が離れた。


「ほう、大口を叩くだけはあるじゃねぇか」


「そう? 貴方は大口を叩けるほどでもない」


「おいおい、今のやり取りだけで本気でやってると思ってないよな?」


「思ってない。こっちも手加減してるのに、負けそうにないから驚いていただけ」


「減らず口を……聖剣であるこの俺にその魔剣で勝てるつもりかよ?」


「貴方が聖剣? 聖剣なのに三流なのは可哀想。同情する」


 聖剣だとは知らなかった。でも、聖剣にしては弱い。それに下品で卑怯者。魔剣としてもあり得ない。ただの頑丈な金属だ。


 ――ずいぶんと怒っているみたい。プライドみたいなものがあるんだと思う。でも、そのプライドなんてなんの意味もないし興味もない。


 男の人は深呼吸をしてから私を睨んだ。


「そういえば、その剣の名は魔剣フェル・デレだったか? 礼儀として俺も名乗っておこう。聖剣クラウ・ソナスだ。そっちも冥途の土産に覚えておきな」


「私は冥途にお土産なんか持って行かない。冥途でお土産を貰う方。だから貴方の名前なんかどうでもいい。さっきも言ったけど、墓を建てるつもりはないから、貴方の名前は今日で歴史から途切れる。私じゃなくて他の人に覚えてもらうといい」


「死ぬ準備はできているようだな。ならもう手加減はしねぇ。無様に死んでいきな」


「ようやく本気を出してくれるんだ? この後、ケーキを食べないといけないから早くして。小出しじゃなくて最初から全力でお願い。あと、変身できるなら最初からしておいて」


 さあ、来るといい。もう情報は揃った。あとは破壊するだけだ。


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