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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十六章

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インテリジェンスソード

 

「お、おじいちゃ……」


 なにが起きたのか分からない。おじいちゃんが倒れて床には血が広がっている。これはサプライズ? それとも夢? それになんでスザンナ姉さんとレイヤ姉さんが戦っているの?


「アンリ! ぼーっとするな! まずは止血だ!」


 フェル姉ちゃんの必死そうな顔が見えた。


 ……そうだ。これは現実。おじいちゃんはなぜかレイヤ姉さんに剣で刺されて血を流してる。まずは血を止めないと。


「う、うん!」


 フェル姉ちゃんが床に座って倒れたおじいちゃんを仰向けに抱きかかえる。血はお腹から出ているみたい。ずいぶんと深くまで刺さったのか服に付いた血のシミの広がりが早い。


 フェル姉ちゃんが亜空間からタオルを取り出した。それをおじいちゃんの腹部に当てる。直後に治癒魔法を使い始めた。


 少しだけ服に広がる血のスピードが治まった気がするけどまだ完全に止まったわけじゃない。どうしよう、私は治癒魔法を使えない。このままじゃおじいちゃんが……!


「リエル、聞こえるか!?」


 フェル姉ちゃんが急に大声を上げた。リエル姉さん……? そうか念話だ。念話でリエル姉さんに連絡してるんだ。


「村長が刺されて重傷だ! お前の治癒魔法がいる! 急いで村長の家まで来てくれ!」


 リエル姉さんは治癒魔法のエキスパート。もしかしたら助かるかも――ううん、リエル姉さんなら絶対におじいちゃんを助けてくれる。


「村長! 聞こえるか! 返事しろ!」


 フェル姉ちゃんがおじいちゃんにそう言っている。おじいちゃんは目をつぶっていたけど、うっすらと目を開けた。


 良かった。おじいちゃんは意識がある。あとはリエル姉さんが来れば安心だ。


「ア、アンリは、ぶ、無事、ですか……?」


「大丈夫だ! アンリには怪我一つない! 今、リエルが来る! それまで頑張れ!」


 おじいちゃんは自分がこんな状態なのに私の心配をしている。フェル姉ちゃんのおかげで血は止まったみたいだけど、まだまだ危ないのに。


「アンリ! ポーションを持ってないか!?」


 ポーション? そうだ、治癒魔法で血は作れない。こういう時はポーションを飲むって教わった。確かダンジョン攻略用に何本か持っていたはず。


 亜空間から探し出してポーションを取り出した。それをおじいちゃんにゆっくり飲ませる。口から結構こぼれているけど、大丈夫。ポーションならたくさんある。ゆっくり少しずつ飲んで貰おう。


「アンリ、村長に話し掛けろ。リエルが言うには意識を保たせた方がいいらしい」


「う、うん、おじいちゃん! 聞こえる!?」


 苦しそうだけどおじいちゃんは頷いてる。うん、大丈夫。おじいちゃんは助かる。


「チッ、お前ら邪魔だぜ?」


「レイヤ、なんであんなことを……!」


「さあな! おらよ!」


 レイヤ姉さんがスザンナ姉さんとお母さん、それにお父さんを剣で吹き飛ばした。家の壁に当たって気を失ってる。


 どうしてレイヤ姉さんが……でもおかしい。いつもより強すぎる。


「さて、本来の仕事をやらせてもらおうか。アンリと言うガキはお前でいいんだよな? 悪いが死んでもらうぜ? それがトラン国王の依頼だからな」


 なんでレイヤ姉さんが私をいちいち確認するんだろう? それにトラン国王の依頼? それはアンリの弟からの依頼ってこと?


 そんなことよりもどうしよう。フェル姉ちゃんは治癒魔法で手が離せないし、私も体が上手く動かせない。このままじゃ……!


「村長! 無事か!」


 家の入口のドアが開いてリエル姉さんが来た。でも、一人じゃない。横には黒いドレスを着た女性――アラクネから進化したルノス姉さんがいる。


「ルノス! 剣を持っている奴を取り押さえろ! 絶対に剣には触れるな!」


「おまかせクモ! 【縛】!」


 ルノス姉さんの両手から白い糸が出て、生き物のようにレイヤ姉さんに絡みついた。


「くそ! これは糸!? テメェはアラクネか!」


「タダのアラクネじゃないクモ。進化して女王蜘蛛になったクモ。ちなみにルノスって名前クモ」


「くそが!」


 レイヤ姉さんは持っている剣を窓に向かって放り投げた。窓が割れて剣だけが外へ出る。レイヤ姉さんは糸に絡まれた状態で床に倒れた。


 これで少し安全になった……?


「アビス! 聞こえるか! 町に結界を張れ! 今、この町にいる奴を誰も外へ出すな!」


 フェル姉ちゃんが色々と指示を出している。でも、誰を外に出さないんだろう? レイヤ姉さんはここにいるのに。


「リエル、治癒を頼む」


 フェル姉ちゃんがそう言った。そうだ、それよりもまずはおじいちゃんだ。


「リエル姉ちゃん、おじいちゃんを助けて……!」


「おう、任せろ。アンリ、そんな顔すんな。目の前にいる超絶美人は、昔、聖女って言われてたんだぞ? 生きているなら助けてやるから安心してみてろ」


 リエル姉ちゃんが治癒魔法を使うとおじいちゃんの体が白い光で包まれる感じになった。


 すごい。かろうじて血が止まっていただけの傷がみるみるうちに修復された。それにおじいちゃんの息遣いが少し緩やかになる。でも、同時に意識も失ったみたいだ。ちょっとだけ安心したのかも。


 それにしても、これが聖女――ううん、聖母の力なんだ。マナちゃんが憧れるのも分かる気がする。


「結構、内部まで刺さっていたようだな。そっちの修復は時間が掛かる。もう少し待ってくれ」


 リエル姉さんはさらに治癒魔法を使い始めた。よくわからないけど、さらに傷を治しているんだと思う。よかった。これならおじいちゃんも安心だ。


「村長がトラン国の奴に刺された。犯人は十年前に見たインテリジェンスソードだ。アイツがレイヤを操ってアンリを殺そうとしたんだが、村長はそれを庇った。今、剣だけ逃げられそうだったから結界内に閉じ込めてもらったんだ」


 フェル姉ちゃんが念話で誰かと話をしている。たぶん、アビスちゃんだと思う。


 それはいいとして、インテリジェンスソード? それがレイヤ姉さんを操って私を殺そうとした?


 ……そうだ。剣の中には人を操る魔剣がある。レモ姉さんの魔剣タンタンや、ルハラに行ったときにダンジョンの最深部でそれを見た。


 そう、なんだ。魔剣がレイヤ姉さんを操ってアンリを――おじいちゃんを刺したんだ。


「今、リエルが治癒魔法をかけている。助かるとは思うが、血を出し過ぎているから心配だ……え? ああ、倒れた村長を座って抱えている。触れているけど、それがどうした? ……アビス? 何を言ってるんだ? そんな事できるわけないだろ?」


 フェル姉ちゃんは何を言っているんだろう? アビスちゃんと念話しているみたいだけど。


 急にリエル姉ちゃんが大きく息を吐きだした。


「よし、大体の治癒は終わったぜ。フェル、悪いけど、村長をベッドに連れて行ってくれねぇか……っと、その前に着替えねぇとだめか。服が血だらけだ」


「それでしたら私達が」


 お母さんとお父さんが少し体を痛そうにして近づいてきた。さっきまで気を失っていたみたいだけどもう大丈夫みたいだ。


「そうか、なら村長を頼む。私はちょっとあの剣を壊してくる。あの剣がレイヤを操って村長を刺したようだからな。落とし前を付けさせる」


「私も行く」


 この村には掟がある。


 やられたらやり返す。徹底的に。禍根は残さない。


 それに狙われたのは私。やり返すのはフェル姉ちゃんじゃない。


 でも、フェル姉ちゃんは首を横に振った。


「アンリ、お前は村長のそばにいてやれ。目を覚ました時にアンリがいなかったら可哀想だろ? それにスザンナがまだ目を覚ましてない。村長とスザンナの方を頼む」


 確かにその通りかも……うん、まずはおじいちゃんとスザンナ姉さんが意識を取り戻すまで待とう。


「うん、分かった。でも、二人が目を覚ましたらすぐに追いかける」


「急がなくていいぞ」


 この役を譲るつもりはない。おじいちゃんとスザンナ姉さんの無事を確認できたらすぐに向かおう。


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