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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十六章

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王位継承権

 

 おじいちゃんが真面目な顔をしてアンリを見つめている。


 どうしたい、と聞かれても、私の答えはさっき言ったはずなんだけど?


「どうしたい?」


「そう、アンリには二つの道がある。アンリは王位継承権を持っている。それは今の国王よりも高い順位だ。自分が王であることを主張することも可能だろう」


「私が王……」


 そうかトラン王家の血を引いていると言うことは継承権を持っているってことなんだ。普段妖精女王とか言っている話じゃなくて正真正銘の王。本物の王なんて、その考えはなかった。


「もう一つは継承権を放棄して無関係になることだ。継承権を放棄するという宣誓書をトランに送り付ければそれで済むだろう。そうすればアンリはトランと無関係になる」


 継承権を放棄……つまりトラン王家とはなんの関わりもないと宣誓すればいいってことかな。


 おじいちゃんをジッと見つめる。


 この話を聞いた後だと、毎日の勉強や、色々なマナーを教えてくれていたのは、私が王になった時のことを考えてのことなんだと思う。おじいちゃんは王になって欲しいって思っているんだろう。


 本当のお母さんであるマユラって人のために復讐してほしいって思っているのかもしれない。


 質問を質問で返す形になるけど、これはおじいちゃんに聞いておかないと。


「おじいちゃんはどうして欲しい?」


 おじいちゃんは目に見えて怯んだ。こういう質問を返されるとは思っていなかったのかも。でも、これはおじいちゃんの口から聞いておきたい。私にどうしてほしいのか。それは重要なことだ。


「そうだね……正直なところを言えば、アンリに娘の――マユラの仇を取って貰いたいと思っているよ。そのためにはアンリが王になるのが一番だ。それをアンリにして欲しいと思っているよ」


「……うん」


 そっか。おじいちゃんはそれを望んでいる。私に復讐してほしいって思っているんだ。


 私にとっての本当のお母さんはおじいちゃんにとっては娘。それ以外の家族の話は聞いていないからおそらく一人娘なんだと思う。


 私のために色々な物を投げ捨ててトラン王国を逃げ出して、ここでいつか私が王として復讐してくれるのをずっと待っていたんだ。


 あれ? おじいちゃんの顔が少しだけ優し気になった?


「でもね、アンリ。それでアンリが幸せじゃないのなら意味がないんだ。マユラがアンリを私に託したのは、復讐するためじゃない。アンリに幸せになって貰いたいから、マユラは私にアンリを託したんだよ」


 お母さんは私のことをおじいちゃんに託して「アンリをお願い」と言ったとか。「私の仇を取って」とは言っていない。それにおじいちゃんの想像ではあるけど、私に幸せになって欲しいから託した。


 会ったこともない、記憶にすらないお母さんだけど、たぶん、私に復讐をして欲しいなんて言いそうにない気がする。ううん、確信した。私の本当のお母さんならそんなことは言わない。むしろ夢は大きく、人界を征服してって言うはず。


「……分かった。ごめんなさい、おじいちゃん。私は継承権を放棄する」


「……そうか。アンリはそう決めたんだね?」


「うん。お母さんには会ったことはないけれど、復讐を望むような人じゃないって思った。おじいちゃんからの説明でそれが分かったから、復讐はしない。それにトラン王国なんて弟にくれてあげる」


 あれ? なんだろう? 皆の動きが止まった?


 でも、すぐにおじいちゃんが笑い出した。


「フフ、そうか! トラン王国なんてアンリにはいらないか!」


 ああ、そっか。その言葉に驚いたんだ。よし、ならもっと度肝を抜かせる。


「うん、トラン王国なんて小さい国の王になっても面白くない。もっと面白いことがある」


 フェル姉ちゃんの方を見た。フェル姉ちゃんは私の方を見て不思議そうにしている。


 やれやれ、フェル姉ちゃんは察しが悪い。ちゃんと言葉にしておこう。私が今まで大事に育ててきた壮大な計画のお披露目だ。


「フェル姉ちゃんと一緒に人界を征服する。全ての国を支配する王、人界王になる方が面白い」


「いや、しないぞ? しないからな?」


 フェル姉ちゃんは否定しているけど、これは決定事項。私がフェル姉ちゃんに勝てるようになったら計画に乗り出す。でも、言葉巧みに味方になってもらうのもアリ。


「大丈夫。時間はまだある。これからゆっくり説得する」


「メノウみたいな事を言うな。本当に頼むからやめてくれよ?」


「確かにアンリならトラン王国なんて小さな国の王なんてつまらないでしょうな。なら人界すべてを統一しましょう!」


「村長も笑いながら何を言ってる」


「私もアンリの姉として人界征服を手伝う。人界王の姉と言うのも悪くない」


「スザンナは顔が真面目だから本気に思えるんだよ。せめて冗談っぽく言え」


 フェル姉ちゃんが全方向にツッコミを入れてる。本気なのに。


 うん、アンリとスザンナ姉さん、それにフェル姉ちゃんで各国に戦いを挑もう。もちろん誰も傷つかない安全な戦争。むしろ一騎打ち。征服したら国の統治は誰かに任せて今度は人界中のダンジョンを制覇する。そうすればフェル姉ちゃんも魔王様って人を見つけられるはずだ。


 完璧な計画。別の言葉で言うとパーフェクトプラン。夢は広がる。


 でも、確認しておきたいこともあるかな。


「ちなみに今のトラン王国の王様ってだれ? そのラーファって人?」


「ああ、いや、その息子だね。ダズマという名前だ。アンリとは腹違いの弟ということになる。とはいっても二週間程度だが」


 私に弟がいたんだ? 会ってみたい気はするけど、あまりいい結果にはならなそう。人界征服するときに会えばいいや。


 でも、弟……ヴァイア姉ちゃんのリンちゃんやモスちゃんがアンリの妹や弟になってくれる計画は頓挫した。別の計画を考えないと。


 ……よく考えたら目の前にその計画があった。


「お母さんとお父さんは夫婦なの? 私の計画にはそれが必須なんだけど」


 お母さんが顔を赤くしてうろたえている。


「ど、ど、どうかしら? 正式に結婚したわけじゃないけど、婚約と言うか? それっぽい約束はしたんじゃないかなーって」


 乙女。乙女がいる。お母さんがチラチラとお父さんを見てる。


 お父さんは頭を掻いて照れ臭そうだ。


「色々なことが全部終わったら一緒になろうとは言ってあるよ」


 私とスザンナ姉さん、それにフェル姉ちゃんから「おー」という言葉が漏れた。でも、それなら話は早い。


「お母さんとお父さんはアンリのお母さんとお父さん。ならその子供はアンリの妹か弟。早速お願いします」


 なぜか二人ともお母さんはさらに真っ赤になった。キャベツでもコウノトリでも桃でもいいから、早めに弟か妹が欲しい。ものすごくかわいがる。


 おじいちゃんが咳をすると、笑顔になった。


「そろそろ昼食にしよう。誕生日だからアンリのためにケーキを用意したからね。アーシャ、準備を。そうだ、レイヤ君にも来てもらおう」


「なら呼んできます」


 スザンナ姉さんが外へ向かった。レイヤ姉さんを連れて来てくれるみたいだ。冒険者ギルドか妖精王国にいるって言ってたかな。


 それはともかく、さすが成人の誕生日。まさかのケーキ。これは全力を出さないといけない。


「ずっと待ってたみたい。家のすぐ外にいたよ」


 すごく早く戻ってきた。でも家の外にいたんだ?


 フェル姉ちゃんが不思議そうな顔でレイヤ姉さんを見てる。


「レイヤ、町を見て回るとか言ってなかったか?」


 レイヤ姉さんはそれには答えず、私の方へゆっくりと歩いて来てる。どうしたんだろう?


「おい、レイヤ? ――アンリ! レイヤから離れろ!」


「え?」


「チッ!」


 レイヤ姉さんが腰の剣を素早く抜くのが見えた。その剣が私に向かってくる――でも、大きな何かが私の前に立ち塞がった。


 嫌な音が聞こえた後、いつのまにか私とレイヤ姉さんとの間にいたおじいちゃんが床に膝をつく。


 そして床に血が広がった。


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