本当と嘘
不思議と一瞬で目が覚めた。
いつもならベッドの中でゴロゴロしながらまどろみを楽しむんだけど、今日はそんなこともなくすっきりと目が覚めた。これはアンリが大人になった証拠かもしれない。
アンリはとうとう十五歳。大人だ。
さすがにアンリのことをアンリと言っていい歳じゃないような気がする。これからは私で行くべきかも。
お父さん、お母さんも卒業して父上、母上の方がいいかな。おじいちゃんは――おじい様? ちょっと合わない気がする。
姉ちゃんも卒業して姉さん、かな。いきなりは直せないから徐々に直していくようにしよう。でも、フェル姉ちゃんはフェル姉ちゃんだ。これは変えない。
ベッドから起きて服を着る。
そういえば、ベッドがすごく小さくなった。小さくなったって言うか、アンリ――私が大きくなったんだけど。いつの間にかフェル姉ちゃんよりも大きくなっているし、成長しているのかな。
三年ぶりに帰って来たからなのか、色々と部屋が狭く感じる。前はすごく広い部屋だと思っていたんだけど。
よし、服も髪もバッチリ。大部屋に行こう。
大部屋にはスザンナ姉ちゃん――姉さんとレイヤ姉さんもいた。それにおじい様と父上、母上もいる……すごく言いにくい。
皆と挨拶を交わしてから椅子に座る。部屋に入ったときにおじい様――おじいちゃんでいいや。おじいちゃんとレイヤ姉さんが話をしていたみたいだけどどうしたんだろう?
「それではレイヤさん。申し訳ありませんが、しばらく村を見学していてもらえますか」
「承知しました。冒険者ギルドか妖精王国におりますので終わりましたらご連絡ください。では、アンリ様、また後で」
「レイヤ姉さんは行っちゃうんだ?」
「何やら大事はお話があるとかで。ただ、誕生会には改めて呼んでもらえるそうなので、その時にまた」
「そうなんだ。うん、それじゃ誕生会で」
レイヤ姉さんは一度頭を下げると外へ出て行った。
そういえば、前から大事な話があるって聞いてた。スザンナ姉さんがいるってことはそれに関係することなのかな? どんな話なのか楽しみ。
「それで大事な話ってなに?」
「ああ、もう少しまってくれるかい。すぐに来ると思うから」
「来る?」
「たのもー」
入口からフェル姉ちゃんは入ってきた。大事な話をフェル姉ちゃんも聞くってことなのかな?
「おはよう。すまない、遅くなったか?」
「フェル姉ちゃんも呼ばれてたんだ? 大事な話があるって聞いてるけど、何の話か知ってる? もしかして誕生日のサプライズが待ってたりするの? 何も知らない振りをするのは得意だけど」
たとえバレバレでもシラを切る。いままでイタズラをしてもそれで乗り切ってきた。知っていても知らない振りをするのは得意な方。
「内容は知ってる。でもそれは村長から聞いてくれ」
珍しいというと失礼かもしれないけど、フェル姉ちゃんが真面目な顔をしている。これは本当に大事な話ってこと?
フェル姉ちゃんはアンリの左隣に座った。右隣はスザンナ姉さんで、アンリの正面はおじいちゃん、左にお母さん、右はお父さんだ。
何だろう、私とスザンナ姉さん以外はすごく真面目な顔をしている。これはただ事ではないような感じだ。
おじいちゃんは目をつむっていたけど、目が開くとおじいちゃんはいつもの優しい顔で微笑んでくれた。
「アンリ、まず、十五歳の誕生日おめでとう。これでアンリも晴れて成人だ」
よかった。いつも通りのおじいちゃんだ。この厳粛な雰囲気自体がサプライズなのかも。
「おじいちゃん、ありがとう。プレゼントは期待してる」
「そうだね、でもその前に大事な話がある。とても真面目な話だ。アンリが大人になったと思って話すことだから、ちゃんと聞いて欲しい。いいね?」
真面目な話……? アンリを驚かそうとしているのではなくて本当に大事な話?
確かにフェル姉ちゃんも呼んでるし、レイヤ姉さんには席を外すように言っている。もしかすると本当に大事な話なのかも。
ならちゃんと聞かないと。
椅子に座り直しておじいちゃんを見た。
「うん、分かった。大事な話ならしっかり聞く」
「スザンナ君もいいかな? これはアンリにとって大事な話だ。真面目に聞いてもらいたい」
「問題ない。真面目に聞く」
おじちゃんは次にフェル姉ちゃんに視線を送った。フェル姉ちゃんは頷くだけで言葉は発しない。それだけでかなり真面目な話なんだと思える。一体、どんなお話なんだろう?
おじいちゃんが私を真剣な顔で見つめた。
「アンリ、最初に酷な事を言うが、目の前にいるアーシャとウォルフはアンリの本当の両親じゃない」
……え? おじいちゃんは何を言っているの? お母さんとお父さんが、私の本当の両親じゃない?
「アンリの本当の父親はザラス。そして母の名はマユラ。トラン王国の前国王とそのお妃様だ。アンリはトラン王家の血を引いているんだよ」
おじいちゃんはさっきから何を言っているんだろう?
言葉の意味は分かるんだけど、何を言っているのかよく分からない。何も頭の中に言葉が記憶されない感じ。おじいちゃんの言葉が耳を右から左に通り抜けているだけ。
おじいちゃんは何かを言っているけど、それだって嘘かもしれない。
何が本当で何が嘘なんだろう?
私は何を信じればいいんだろう?
目を彷徨わせたら、フェル姉ちゃんがアンリをジッと見つめていた。いつもと同じ優し気な目だ。それに右側にいるスザンナ姉さんも私を心配そうに見ている。そして右手を握ってくれた。
……そうだ。お母さんとお父さんは本当の両親じゃないかもしれない。もしかしたらおじいちゃんも私のおじいちゃんじゃないのかも。でも、フェル姉ちゃんはフェル姉ちゃんだし、スザンナ姉さんは私のお姉さん。それは嘘じゃない。
大丈夫。もしかしたらアンリを騙そうとしているサプライズの可能性だってある。
まずはしっかりおじいちゃんの話を聞こう。




