久々のソドゴラ村
なぜかレイヤ姉ちゃんがここにいる。
一緒に来るという話は聞いていないけど、もしかして転移門が珍しくて付いてきちゃった?
気持ちは分かる。アンリもいきなり目の前に扉が出てきたら冒険心をくすぐられる。危険は二の次で飛び込むかも。
スザンナ姉ちゃんも驚いているというか、不思議そうな顔でレイヤ姉ちゃんを見た。
「レイヤ、どうしてここに?」
「も、申し訳ありません! 実はクル隊長からお二人に付いていくように言われておりました! 一緒の馬車に乗せてもらう予定だったのですが、急に現れた門にお二人が入ったため、慌てて付いて来たのです!」
「そんな話は聞いていないけど、どうして付いて来るように言われたの?」
確かにそこは大事。もしかしてアンリ達が帰ってこないと思ってお目付け役を付けた?
「クル隊長が言うには、私をアビスというダンジョンで修行させることが目的だったようです。他にも、アンリ様やスザンナ様に何かあれば助けるように、と言われております!」
そっか、クル姉ちゃんはそういう意図でレイヤ姉ちゃんに付いていくように言ったんだ。昨日のお別れ会ではクル姉ちゃんも行きたいみたいにいってたけど、前とは違って今は紅蓮の幹部と言うか部隊長みたいな感じだから、気軽には来れない。だからレイヤ姉ちゃんにアンリ達をお願いしたのかも。
それにレイヤ姉ちゃんは幹部候補。ダンジョンで修業すればかなり強くなる。一石二鳥的なあれだ。
「そう……フェルちゃん、別に構わない?」
「ん? 何がだ?」
「レイヤが付いて来たこと。追い返す?」
たとえいつも一緒にいるメンバーでも容赦ないスザンナ姉ちゃん。
レイヤ姉ちゃんはフェル姉ちゃんに「それは勘弁してください」みたいな視線を送ってる。
確かにこのまま送り返されたら色々問題というか、何の成果もあげずに帰ることになるから、それは避けたいのかも。レイヤ姉ちゃんは色々と真面目だからそういう状況になったらショックを受けると思う。
「問題を起こさないなら別に構わないぞ。まあ、事前に話をしておいて欲しかったけど」
「す、すみません。サプライズを演出しようとしたら、こちらが驚いてしまいまして……」
確かにサプライズは大事。
「フェルちゃんがいいと言うなら問題ない。なら一緒に行動しよう」
アンリもそれに賛成。まあ、フェル姉ちゃんが駄目と言ってもアンリの三代目村長権限の前借でいてもらうつもりだったけど。それにダンジョン攻略ではパーティーが必須。マナちゃんも一緒に四人で突撃だ。
「うん、ダンジョン攻略の時と同じパーティーだから安心。アビスを攻略するのもいいかも」
「は、はい! スザンナ様、アンリ様、よろしくお願いします!」
レイヤ姉ちゃんが嬉しそうにアンリ達に頭を下げてる。そんなことしなくていいのに。
『アンリ様、スザンナ様、お久しぶりです』
いきなり声が響いた。これはアビスちゃんだ。
「うん、アビスちゃん。久しぶり。最近は念話してなかったけど元気だった?」
『はい、それはもう元気です。それといつもダンジョンの情報を送ってくれてありがとうございます。いいデータが取れました』
ダンジョンに行ったときはその時の情報をアビスちゃんに渡してた。それと引き換えにダンジョンの隠れた情報を貰うというのを何度かやったことがある。素敵な隠しお宝をゲットして、紅蓮の資金が潤った。
「こっちもダンジョン攻略の情報を貰ってるからお互い様。しばらく滞在するから、また来るね」
『はい、お待ちしております。外へ転移しますか?』
「うん、お願い」
アンリがそう言うと、一瞬でダンジョンの入口がある畑に視界が切り替わった。
そして深呼吸。
すごく懐かしい匂い。ここにいたころはそんな匂いを感じたことはないんだけど、懐かしいって思える匂いがアンリの鼻を通り抜ける感じ。土の匂いって言うか、野菜の匂いって言うか、全体的なソドゴラ村の匂い。
帰ってきたって感じだ。それにスザンナ姉ちゃんも心なしか笑顔で深呼吸してる。
でも、色々と変わった部分もある。冒険者さん達が、バンシー姉ちゃんが受付をしている小屋の方からこっちを見てる。すごく長蛇の列だ。今はこんなに冒険者がいるんだ?
「アンリ、スザンナ、それとレイヤ。村長の家に急ぐぞ」
うん、まずはおじいちゃん達にただいまって言わないと。
すぐにフェル姉ちゃんの後ろを歩いたんだけど、なぜかレイヤ姉ちゃんが放心状態だ。
「あ、あの、フェルさん、これって一体……?」
「説明が面倒だから後でアンリ達に聞いてくれ。まずはアンリの家に行くぞ」
レイヤ姉ちゃんは「は、はぁ」と言って、不思議そうな顔をしながらも付いてきてくれた。もしかしてさっきの転移に驚いたのかな? 確かに知らないと結構不思議なのかも。あとで説明してあげよう。
すぐに村の広場に着いた。
ちょっとびっくり。ソドゴラ村ってこんな感じだったっけ?
こんなに人がいるとは思ってなかった。アンリがいた三年前よりも三倍くらいの人になっているような? もう村じゃなくて町って言ってもいいかも。
それに建物も少し変わった?
「ニャントリオンが大きくなってる……そうだ。支給されている防具だと防御力がいまいちだから、ディア姉ちゃんに何か作って貰おうかな?」
「アンリは防具なんていらないでしょ? ダンジョンで攻撃が当たったのを見たことない」
「慢心は良くない。それなりの防具で身を固めるべき……でも、それなら、グラヴェおじさんに頼んだ方がいいかな? ニャントリオンは革製品しかないから、本格的な鎧はそっちの方がいいかも知れない」
アンリもフルプレートの鎧で身を固める方がいいかもしれない。多少動きにくいだろうけど、弱めの攻撃が当たってもいいなら、もっと踏み込める可能性がある。今度グラヴェおじさんに相談してみよう。
そんなことを考えていたら、家の前についた。
ここは前と変わってない。家に帰るだけなのにドキドキしてきた。
入る前にフェル姉ちゃんがこっちを振り向いた。
「えっと、話はまとまっているな? 二人で違ったことは言うなよ?」
「うん、大丈夫。クル隊長が悪いことになった」
本当は悪くないけど、怒られるのを回避するためにクル姉ちゃんに犠牲になってもらおう。
「隊長だから仕方ないと思う」
「……そうか」
フェル姉ちゃんがレイヤ姉ちゃんの方を見た。
「レイヤはどうする? 宿が必要なら案内してやるが?」
「えっと、どうしましょう?」
レイヤ姉ちゃんが困った顔をしている。一緒にアンリの家にいってもいいのか判断できないみたいだ。困ることなんて何もないのに。
「それならレイヤ姉ちゃんもおじいちゃんに紹介する。同じ傭兵団の同僚として」
「異議なし。しばらくは一緒に行動するだろうから早めに村長へ紹介したほうが手間が省けていい」
「あ、ありがとうございます!」
「そうか、なら四人で入ろう。私も仕事を終えた報告をしないといけないからな」
フェル姉ちゃんが家のドアにノックする。
なんだか、すごく緊張してきた。




