紅蓮のお別れ会
フェル姉ちゃんが帰った後、アンリ達が村へ帰ることを報告した。
いうなれば阿鼻叫喚。さすがにクル姉ちゃんとベルトア姉ちゃんは残念そうだけど、泣きはしなかった。少し涙ぐんでたくらい。
そしてクル姉ちゃんが皆を一喝。笑顔でアンリ達を送り出そうという話になって、今日はスザンナ姉ちゃんとアンリのお別れ会を実施することになった。
それでお別れ会が始まったんだけど、アンリやスザンナ姉ちゃんの言葉はなし。また阿鼻叫喚になったら困るから感動のスピーチはダメみたいだ。
代わりにクル姉ちゃんがアンリ達の武勇伝を少し語ってくれた。みんな、うっとりした感じで聞いてたけど、そんなにすごいことをしたっけ?
しかもそれはアンリじゃなくてスザンナ姉ちゃんがメイン。今やスザンナ姉ちゃんは伝説の冒険者とまで言われているアダマンタイトだ。そういうのって普通、もっと未来で言われるんじゃないかな?
そんな状況なのでアンリ達と握手がしたいってことで、アンリとスザンナ姉ちゃんのテーブルには長蛇の列ができた。
全員との握手が終わって、これからは歓談の時間。同じテーブルにはクル姉ちゃんとベルトア姉ちゃん、そしてレイヤ姉ちゃんがいる。どう考えても皆がアンリ達のテーブルに座りたいって言うだろうから、戦乙女部隊の隊長であるクル姉ちゃんが配慮してくれたみたい。
ものすごく恨みがましい目で見られてるけど、今後の紅蓮が大丈夫かちょっと心配になるくらいの視線だ。
クル姉ちゃんはそれを知ってか知らずか、それとも気にしていないのか、笑顔でいるだけだ。
「とうとうアンリもスザンナも帰っちゃうんだね。このままずっと紅蓮にいるとは思ってなかったけど、実際にこういう日が来るのはちょっと寂しいかな――ううん、かなり寂しいよ」
「突然でごめんなさい。ここのところ色々あって念話用のチャンネルを閉じてたから村からの情報がなかった。フェル姉ちゃんが直接来てくれたから急なことになっちゃった」
「それは仕方ないよ。でも、今の知られているチャンネルは閉じたままで、別のチャンネルを開いたんだよね?」
クル姉ちゃんの言葉に頷いた。
あのピンク色の髪をしたジェイって人の話ではもう帝都で襲われることはないって言ってたけど、何となく危険だからバレちゃったチャンネルは閉じたままにした。そして新しいチャンネルを開く。帰る前にクル姉ちゃん達には伝えておこう。あとフェル姉ちゃんにも教えておかないと。
そんなことを考えていたら、ベルトア姉ちゃんが両手にたくさんの料理が乗ったお皿を持ってやってきた。すごくいい匂い。ニア姉ちゃんの料理には負けるだろうけど、これはこれでいいもの。
「おいおい、時間は有限だぞ。しみったれた話よりも美味い物を食ってこれからのことを話そう!」
「ベルトア姉ちゃんは料理の腕を上げたと見た」
「当然だろ、毎日のように作ってやってるからな!」
ベルトア姉ちゃん、以前はもっとがさつだったのに最近はすこしおしとやかになった。結婚を考えているような男性ができたって話だ。隙あらばそのことを匂わせる話をして、聞いて欲しい前振りをする。毎日のように作ってやってる、それはそういうこと。
アンリはソドゴラ村でヴァイア姉ちゃんに似たようなことをされていたから、そういう攻撃は効かない。惚気耐性スキルがある。だからスルーできる。
スザンナ姉ちゃんがじゃがいも揚げをつまみながら、ベルトア姉ちゃんのほうを見た。
「結婚するの?」
スザンナ姉ちゃんには惚気耐性スキルがなかった。これは自分から言うんじゃなくて、あくまでも聞かれたから答えるというスタンスに持ち込む罠なのに。
「お、聞いちまう? まあ、可能性は高いと言っておくよ。八割はかたい」
意外と高かった。仕方ない、アンリも話しの流れに乗ろう。アンリ達のお別れ会ではあるけど、しんみりしたのは良くない。
「もしかして結婚したら傭兵を辞めるの?」
「この際だから言っちまうけど、まあ、そうだな。今まで稼いできた金があるから傭兵を辞めて、一緒に故郷で食堂でも開くかって話になってる」
クル姉ちゃんは知ってたみたい。でも、すごく大きい溜息を吐いた。
「幹部クラスに抜けられるのは痛いんだよね。とはいえ、いつまでもやれるような仕事じゃないし、引き留めるわけにもいかないからね。幹部候補を育ててくれていたから安心と言えば安心なんだけど」
幹部候補……たしかレイヤ姉ちゃんも幹部候補だったはず。
「それじゃレイヤ姉ちゃんが継ぐのかな?」
レイヤ姉ちゃんがすごく期待した顔でクル姉ちゃんのほうを見た。
でも、クル姉ちゃんのほうは首を横に振る。
「いつかはなってもらうけど、今はまだ早いかな。もう少し強くなってからだね。あと、もう少し相手の強さというか素性を見極められるようにならないとね。まさかフェルさんに戦いを挑むとは思わなかったよ」
「う。そ、それはすみません。色々と疑う癖がついてしまいまして。これからはもう少し相手のことをちゃんと見るようにします……」
フェル姉ちゃんの場合、見た目は十五歳だし、仕方ないのかも。
しょんぼりとしているレイヤ姉ちゃんの肩にベルトア姉ちゃんが手をのせた。
「まあ、これからだよ、これから。でも、俺も一度、そのフェル姉ちゃんとやらと戦ってみたかったな。すごく強いんだろ?」
「私達は殺気だけで動けなくなってしまいましたね。一部は気絶してしまいました。そのあとにアンリ様と戦ったんですが、感想としては、すごい、ですね。お互い本気ではなかったと思いますが、それでも動きを見るのがやっとでして。なんというか、目で見たものを全部思い出すって感じなんですよ。動きを頭で認識したと思ったら、もうすでに次の行動をしてまして――」
レイヤ姉ちゃんが色々と語っている。クル姉ちゃんはそれを見てなかったけど、フェル姉ちゃんの強さを知ってるから、うんうんと頷いてる。
ベルトア姉ちゃんは「そんなに強いのかぁ?」とちょっとだけ疑っている感じだけど、あの強さは目で見ないと信じられないかも。
「――というわけでして、そのフェルさんと互角に戦ったアンリ様もすごいんですよ!」
いつの間にかアンリが褒められてた。嫌じゃないけど、フェル姉ちゃんと互角はない。どう考えても手加減されてた。しかもかなり。
アンリもユニークスキルを使ったアルティメットアンリだったらもっといい勝負ができたとは思うけど、それでもまだ届かないと思う。アンリも強くなったからよく分かる。フェル姉ちゃんは強すぎ。だからこそ超えるつもりだけど。
そして超えたらフェル姉ちゃんを部下にして人界征服に乗り出す。ピーマンは滅亡させないと。あれは悪。
「ところで、アンリ達は村に帰った後、どうするの? 村長さんのところでアンリの成人祝いをした後のことなんだけど」
いつの間にか話が変わってた。クル姉ちゃんがアンリ達の方を見ている。
「私は特に決めてないけど、アンリは?」
「アンリも特に決めてない。でも、三年近く村を離れていたからしばらくは村にいると思う。ダンジョン攻略を再開しようかな。到達階層を更新できるかも」
「ああ、アビスがあったね。そっか、アビスか……」
「どうかした?」
「ううん、何でもないよ。ただ、もしさ、紅蓮に戻ってくれるっていうなら歓迎するから。二人とも幹部待遇で雇うよ。そうなるとレイヤの幹部は遠のくけど」
「そんな!」
レイヤ姉ちゃんの悲壮な顔にテーブルで笑いが起きる。クル姉ちゃんの冗談だったみたいだ。
でも、ちょっと気になる。
確かにアンリ達はソドゴラ村に帰るって言ったけど、紅蓮を辞めるって感じで話が進んでないかな? 一時的な帰省だと思ってるんだけど、この状態で勘違いしてるって言っていいかちょっと心配。




