三年
「そういえば、アンリ様ももう少しで成人ですね!」
「うん。ようやくアンリも大人の仲間入り。成人したらブイブイ言わせていくつもり」
ダンジョン攻略の翌日、疲れてお昼まで寝てた。お腹がすいたからスザンナ姉ちゃんと一緒に食堂へ来たんだけど、食後にレイヤ姉ちゃんがいきなりそんなことを言ってきた。
あと三ヵ月もしたらアンリは十五歳。とうとう成人する。なにか変わるってわけじゃないけど、それでも大人の仲間入りっていうのはちょっと嬉しい。
「アンリは今でもブイブイ言わせてるけどね」
「それは否定しないけど、ブイブイ加減ならスザンナ姉ちゃんのほうがすごいと思う」
アンリとスザンナ姉ちゃん、それにレイヤ姉ちゃんの三人チームは傭兵団「紅蓮」でも結構な稼ぎ頭だ。その中でもスザンナ姉ちゃんはトップクラスだと思う。それに仕事が早いことも有名。毎日のように指名依頼が来るほどだ。
クル姉ちゃんやベルトア姉ちゃんはどちらかというと組織運営の方に力を入れている。最近では一緒にお仕事することも減っちゃったからちょっと寂しい。
でも、ベルトア姉ちゃんには時間があるときに格闘技を教えてもらっている。
アンリがフェル・デレから手を離すことはないけど、それでもいざという時のために体術での戦い方を学んだ。でも、それだけじゃなくて、フェル・デレを振るいながら格闘技もこなすという荒業を覚えた。最近、アンリの足癖は悪いと評判だ。
「それでお二人とも今日はどうするんですか? ダンジョン攻略も終わりましたし、しばらくはお休みを取るんですよね?」
「アンリはヴィロー商会で装備の修復をお願いしに行くつもり。ちょっとボロボロになってきたから」
アンリの防具はヴィロー商会で作ってもらっている。基本的には胸当てとか革製の装備だ。
魔物から攻撃を受けることはほとんどないんだけど、アンリの動きに装備がついてこれない感じ。ダンジョンに行くとすぐにボロボロになる。もうすこし固めの素材の方がいいのかも。でも、バジリスクの皮とかだとお値段が高め。お金は稼いでいるけどそれに手を出すのはちょっと厳しいかも。
それにそういう素材を使うならソドゴラ村で作りたい。ニャントリオンのガープ兄ちゃんにお願いする。ニャントリオンはディア姉ちゃんが有名だけど、それに隠れてガープ兄ちゃんの作る革製品もかなりいい感じだとか。ぜひともお願いしないと。
よく考えたら、ソドゴラ村を出てからそろそろ三年経つんだ……一度、村に帰るべきかな。
最近、念話が一週間おきくらいになったけど、なんとなくおじいちゃんたちがアンリに会いたいような話をしてくる。色々と頑張った成果をおじいちゃん達に直接見せたいかも。
でも、帰ったら帰ったで、もう村の外には出さないっていう感じになる可能性も否定できない。まあ、フェル姉ちゃんやアダマンタイトクラスの冒険者、それにジョゼちゃん達くらいじゃないと今のアンリ達を止めることはできないと思うけど……意外と多かった。絶対に逃げられない気がする。
「アンリが行くなら私も行く。レイヤは一緒に来る?」
「はい! お供します!」
アンリが考え事をしている最中に三人でヴィロー商会に行くことに決まったみたいだ。それじゃお昼を食べたらすぐに向かおう。
ヴィロー商会で色々と装備の修復をお願いしてから外へ出た。
相変わらずバランおじさんはアンリ達に専属の護衛にならないかって誘って来るけどそんなことをするわけない。そもそもアンリ達が紅蓮に所属しているのもクル姉ちゃんがいるからだし。
そういえば、クル姉ちゃんの一つ上のお姉ちゃん、ベル姉ちゃんがロック兄ちゃんと結婚した。クル姉ちゃんはベル姉ちゃんのほうから結婚するって聞いたって言ってたけど、普通男性のロック兄ちゃんの方から言うものじゃないかな?
一応フェル姉ちゃんには伝えておいたけど、どっちが求婚したって伝えたのか忘れちゃった。まあ、どっちでもいいかな。
そのクル姉ちゃんも最近はルート兄ちゃんといい感じだ。リエル姉ちゃんから教えてもらったって言う恋愛戦術がじわじわ効いている頃だって言ってた。アンリとしては、まず、その戦術を見直したほうがいいんじゃないかって思ってるけど。
……あれ? なんだろう?
なんだか視線を感じる。あまりいい感じの視線じゃない。なにかこう魔物に狙われているときのような感じ……この帝都で?
「アンリ、レイヤ、気づいてる? 気づいてても気づかない振りをして」
アンリは何となく分かるけど、レイヤ姉ちゃんは――あ、分かっているっぽい。周囲を警戒しているみたいだ。
紅蓮は結構有名な傭兵団だ。力比べというか模擬戦を頼まれることはあるけど、大体断っている。だから街中でいきなり襲うっていう手段も確かにあるんだけど、最近はスザンナ姉ちゃんがブイブイ言わせてたから減ってたんだけど。
でも、どうやら相手はやる気みたいだ。裏路地で撃退しよう。
本日から再開です。ただ、申し訳ありません。しばらくの間、一話の文字数が減ることになると思います。少々物足りないとは思いますが、よろしくお願いいたします。




