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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十五章

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人形遣いルネ

 

 オリスア姉ちゃんが来てから一時間くらい経った。


 たったそれだけの時間なのに、傭兵団「紅蓮」の訓練場は無残な形になっている。あちこちにクレーターが作られているし、単に見学していた団員さん達も死屍累々で地面に倒れている。実際死んでいるわけじゃないんだけど、色々な衝撃波の余波で倒れたんだと思う。


「アンリ殿、腕は落ちてはいないようだな。私の攻撃をこれだけしのげるのは魔族でもそういないぞ!」


「それは嬉しいけど、師匠、ちょっといい?」


 こういう時はオリスア姉ちゃんを師匠と呼ぶ。形から入るのは大事。


「どうした? 私はまだまだいけるぞ?」


「それは分かってるんだけど、訓練場が大変なことになってる」


「む? ……なぜこの訓練場とやらはでこぼこが多いのだ? それになぜこの傭兵団の人達は倒れているのだろうか? 立っているのはアンリ殿とスザンナ殿だけのようだが」


「どんな擁護もできないくらいにオリスア姉ちゃんがやった。あと、もう一つ言うと、オリスア姉ちゃんの戦い方って剣術とは言わない。その持っている剣はただの飾りだと思う」


 たぶん、持っている武器とか関係なく同じ威力を出せるような気がする。アンリの七難八苦でもクレーターができるはずだ。まあ、武器がオリスア姉ちゃんの攻撃に耐えられるかどうかが問題なんだけど。


「馬鹿な、これは私が編み出したオリスア流剣技だ。これを広めるために人界に来たと言ってもいいのだが。ぜひともアンリ殿には覚えさせたい」


「アンリはアンリ流剣技でいいかな。というか、力任せに重力魔法を併用して剣を叩きつける技は剣技じゃない。一撃必殺なのは好きだけど」


「むう、アンリ殿は弟子なのに覚えてくれないのか……」


 オリスア姉ちゃんが悲しそうだ。でも、あんな技はオリスア姉ちゃんしかできない。もうちょっと違う技にしてほしい。


「もうちょっとマイルドな技でお願いします」


「ううむ……なら、羅刹と言う技ならどうだろうか。単純に上段の構えから打ち下ろすだけなんだが」


「……本当にそれだけ?」


「あと、全魔力を解放する。次の攻撃を考えない一撃必殺の攻撃だが、どうだろうか? こう、大地を割る感じで振りぬくのだが――」


 オリスア姉ちゃんなら本当にできそうだから怖い。でも、全魔力解放って。そんなことしたら勝っても動けないと思うんだけど。


「えっと、他にはある? もっとマイルドなやつ」


「これもダメか。なら阿修羅という技はどうだ? こう、全魔力を解放して相手の心臓を貫く突きなんだが。この技のいいところは、相手が必ず死ぬことだな!」


「全魔力解放から離れて」


 なんにでも全力攻撃のオリスア姉ちゃんらしいと言えばらしいけど、普通の人にはできないと思う。オリスア姉ちゃんの場合は魔力が全くなくなっても気合だけで動けるだろうけど、普通の人は魔力が枯渇したらしばらく動けない。つまり全魔力解放の技なんて使えない。


 結局、オリスア姉ちゃんの編み出したという技は一つも使えなかった。とりあえず、魔力を使わない形での型は覚えたけど、これは普通の技だ。


「何これ!」


 いきなり訓練場にクル姉ちゃんの声が響いた。


 そういえば、今日は紅蓮の本部で幹部会議があったんだっけ。


 この後、アンリとスザンナ姉ちゃんが怒られた。オリスア姉ちゃんにはクル姉ちゃんも頭が上がらないようで無罪放免。大人の汚い部分を見た気がする……!




 夕方、お説教から解放されてアンリ達は寮の食堂までやって来た。オリスア姉ちゃんもなぜか食堂にいた。優雅に何かを飲みながら椅子に座っているみたいだ。近くにはレイヤ姉ちゃんがいる。


 ベルトア姉ちゃんは町の方でお酒かな。最近、ちょっといい感じの男の人と良く外で飲んでるみたいだし。クル姉ちゃんは後から来るみたいだからオリスア姉ちゃんのところで待とう。


「アンリ殿、スザンナ殿、お説教は終わったようだな。訓練場をあんな風にしてはいけないと思うぞ?」


「……オリスア姉ちゃんはもっと周囲を見て。特に自分の行動を見るのが大事」


「アンリ殿はフェル様と同じようなことを言うのだな……」


 オリスア姉ちゃんの言葉にちょっと喜ぶアンリがいる。


 笑顔になったアンリの横からスザンナ姉ちゃんがレイヤ姉ちゃんのほうへ視線を移動させた。


「レイヤはオリスアさんと何を話していたの?」


「あ、はい。色々と魔界のことを聞いていました。行ってみたいような、行きたくないような、なんとなく不思議な魅力のある場所ですね」


「魔界生まれの魔族からすると、面白いものなど何もないのだがな。まあ、強敵はたくさんいるから修行にはもってこいだと思うぞ」


「一体で町を壊滅させるような狼がいるような場所は修行する場所じゃないと思います……」


 魔界に関してはソドゴラ村にいた頃、フェル姉ちゃんから色々聞いている。人族は行かないほうがいいって言ってたかな。人が住めそうなのは魔都ウロボロスってとこだけらしいし、そこへ行くまでに結構強い魔物を倒す必要があるとか。マッドタイガーとかマッドウルフとか言ってたかな?


「あ、今の魔王さんについても聞きました。今は人形遣いルネって方が魔王をやっているそうですよ」


 スザンナ姉ちゃんと顔を見合わせた。ルネ姉ちゃんはどちらかと言うとスザンナ姉ちゃんの方がよく知っているかも。


「オリスアさん、人形遣いルネってあのルネさんのこと?」


「どのルネなのかは知らないが、人界に何回か来ているルネのことならその通りだぞ。ソドゴラ村にも行っていたはずだ」


 やっぱりだ。でも、あのルネ姉ちゃんが魔王?


「本人には言えないんだけど、ルネ姉ちゃんが魔王で大丈夫? その魔界で働く人がいなくなっちゃうような政策をやったりしないかな? 週休六日とか。あと、お酒を魔王に献上する法律を作るとか」


「ないとは言い切れないが、まあ、大丈夫だろう。ルネの周りには優秀な奴らが多い。ルネ自身はそうでもないが、周りが支えてくれるから問題ないと思うぞ」


「えっと、魔王なんだよね? そんな感じでいいの?」


「別にいいと思うぞ。私だってこの八年くらい魔王をやっていたわけだが、何となく上手くいってたからな!」


 魔王と言ったら魔族さん達の王様。もっとこう、フェル姉ちゃんみたいになんでもできる感じじゃないとダメなような気がするけど……?


 その疑問をオリスア姉ちゃんにぶつけてみた。そうすると、オリスア姉ちゃんは笑っちゃった。


「まあ、アンリ殿の言いたいことも分かる。魔族の王である魔王に求めるものはフェル様のような魔王だろう」


「うん。その通り」


「だが、私もルネも――いや、魔王ルネ様もフェル様ではないのだ。どんなに頑張ってもフェル様にはなれない。なら自分なりのやり方で魔王をするしかないだろう?」


「それはそうだけど」


「フェル様が魔王であることが一番なのは間違いない。だが、フェル様と同じ魔王になると言うのは傲慢だ。それに魔王ルネ様はそれなりに良い魔王だぞ?」


 アンリのイメージだと、お酒ばっかり飲んでいつもニコニコしているイメージしかないんだけど。


「魔王ルネ様は総務部の部長だったんだが、その時のコネというか、人脈で結構周囲の魔族と仲がいいんだ。それに総務部は人事的な仕事が多くてな、どの魔族にどういうことを頼むのが効果的なのかをよく知っている。なので仕事を割り振るのが上手いと評判だ。それに本人は仕事の能力が低いことも良く知っていてな、余計なことはせず、仕事は丸投げなのでそれなりにやりやすいそうだ」


「仕事をしないで丸投げってそれはそれで反感を買うような気がするけど」


「そう思う者もいるだろうが、余計な口出しをしないというところがいいらしいぞ。ちなみに私は全部気合でやれって言うからあまりいい魔王ではなかったそうだ……」


 オリスア姉ちゃんがちょっとへこんでいる。アンリも分かる。オリスア姉ちゃんの修行って大体気合で何とかする形が多い。


 それはともかくとして、魔王のやり方にも色々あるってことなのかな……?


 確かにフェル姉ちゃんみたいな魔王をやるのは難しいというか無理。アンリも人界を征服したらフェル姉ちゃんみたいな王様になりたいって思っていたけど、もうちょっと別のビジョンも考えようかな。


 例えば、王様になったら、全部の仕事を別の人にやらせて、アンリはフェル姉ちゃんや皆とダンジョン攻略をするとか……うん。いい夢。


 よし、アンリが人界を征服したら、アンリの代わりに王様をやってくれる人を見つけようっと……あれ? それならアンリが人界を征服しなくてもいいのかな?


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― 新着の感想 ―
[一言] 人界征服が目標だったアンリに、人界征服後の目標が出来るきっかけかな? 征服そのものは普通、何かをする為の通過点だしね。
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