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少女と魔族と聖剣と  作者: ぺんぎん
第十五章

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お師匠様

 

 アンリは十三歳になった。


 アンリが闇に呑まれるのもあと一年と言ったところ。避けられない病気がアンリを襲うらしい。スザンナ姉ちゃんやクル姉ちゃんも通った道らしいけど、アンリは大丈夫かな? ディア姉ちゃんのように不治の病になる可能性もあるとか。


 なるようにしかならないんだろうけど、ちょっと心配。年中無休で左目が疼いたり、右手に包帯をしたりしておかないといけないのはちょっと困る。でも、「闇よ、誘え!」とか言うのは悪くない。


 それに最近のアンリははちょっとお悩み中。


 傭兵団に所属してから一年。それなりに頑張ってきたんだけど、最近は成長が止まった気がする。こう手ごたえがない。というよりも全力を出せないというのが一番のストレスかも。


 お仕事で護衛をしたり、ダンジョンに潜ったりはしたんだけど、なんというかヒリヒリした感覚がない。傭兵団のみんながアンリと模擬戦をしてくれるんだけど、ちょっと物足りなくなってきた。


 最近ではベルトア姉ちゃんともまともには戦えない。アンリは強くなりすぎた。今だと相手になるのはスザンナ姉ちゃんくらいかな。レイヤ姉ちゃんも強いことは強いんだけど、アンリと戦えるほどじゃない。


 これがいわゆる強者の孤独。


 これはいけない。せっかくソドゴラ村を飛び出して修行しているのに、ソドゴラ村の方が修行になるのなら傭兵をしている意味がない。それにここで足踏みしていたら、フェル姉ちゃんとの差がどんどん開く。それはアンリの人界征服が遠のくということ。


 なにか考えないと。


「どうしたの、アンリ。さっきから窓の外を見て溜息をついているみたいだけど」


 アンリとスザンナ姉ちゃんが共通で使っている寮の部屋の窓から外を見ていたんだけど、スザンナ姉ちゃんが心配してくれたみたいだ。スザンナ姉ちゃんはいつだってアンリのことを思ってくれる。


「実はアンリはアンニュイ。このままじゃフェル姉ちゃんに追い付けないっていう焦燥感に駆られてる。ここはガツンとマンネリを打破したい。何かないかな?」


「もしかして訓練の相手のことを言ってる? さすがにこの傭兵団だともう無理かもね」


「それはつまり、他の傭兵団に殴り込みをかけるって話? 覆面をして看板を寄越せって突撃するのは確かにアリかも」


「違うよ。そろそろ潮時って話。ソドゴラ村に帰る? もう一年近く帰ってないよね?」


 それはアンリも考えた。でも、この一年でやったことと言えば、帝国流剣技を覚えたくらい。おじいちゃんから教わっていた剣技と合わせてアンリ流剣技になったけど、それくらいかも。


 でも、それが一年間の成果としてはどうなんだろう?


 確かにお金を稼げたっていうのもあるけど、強さってことだとそれほど伸びていない気がする。せめてフェル姉ちゃんといい勝負ができそうな感じの強さを手に入れた上でソドゴラ村に戻りたい。


 そんなことを考えていたら部屋のドアをノックする音が聞こえた。


『スザンナ様、アンリ様、いらっしゃいますか?』


 レイヤ姉ちゃんの声だ。どうしたんだろう?


 スザンナ姉ちゃんがドアに向かって声を掛けた。


「いるよ、何?」


『お二人に面会したいという方がいらしてます。魔族の方なのですが、どうしますか?』


 魔族? もしかしてフェル姉ちゃん!?


 スザンナ姉ちゃんにうんと頷くと、二人そろって立ち上がる。そしてドアを開けて外に出た。


「あ、お会いになりますか?」


「うん。もしかしてフェル姉ちゃん?」


「え? いえ、違います。オリスアさんって方です。アンリ様の師匠だって言ってますけど、本当ですか?」


「オリスア姉ちゃん? 確かにアンリのお師匠様だけど、どうしてここに?」


 そういえば、念話でお話はしていたいから場所は教えていたけど。でも、オリスア姉ちゃんは魔王なのに来ちゃっていいのかな……? まあ、フェル姉ちゃんも来てたから問題はないと思うんだけど。


「ええと、理由までは聞いていません。確認してきますか?」


「ううん。直接会って聞いてみるから大丈夫」


「そうでしたか、ところでオリスアさんってどんな魔族の方なんです? 確かに強そうに見えましたけど」


「魔王をやってる魔族さん」


「へぇ、魔王を……魔王? 魔王って魔族の頂点であるあの魔王?」


「うん。だからお忍びかな? 普通は人界に来ちゃいけないんだけど、お忍びなら問題ないのかも」


 そもそもフェル姉ちゃんが魔王の時もずっと人界にいたわけだし、お忍びでもないのかも。


 まあいいや、とにかく会おう。そうだ、久しぶりに剣の稽古を直接受けたい。そうすれば現状のマンネリ的な状態を打破できるかも。


 アンリとスザンナ姉ちゃん、そして汗ダラダラのレイヤ姉ちゃんの三人で寮の入口まで移動した。


 そこにはあの頃と全く変わってないオリスア姉ちゃんがいた。


 黒いつば付きの帽子をかぶって、黒いコートを、腕を通さずに肩にかけただけのスタイルが相変わらず格好いい。全体的に黒い服だけど、銀色とか金色のチェーンがオシャレ。


 そして見た目は二十代後半なんだけど、実年齢は四十越え。もしかしたら五十を越えているかも。


 そんなオリスア姉ちゃんはアンリ達を見ると笑顔になった。


「アンリ殿、スザンナ殿、久しぶりだな。息災か?」


「オリスア姉ちゃん、久しぶり。いきなりだったからびっくりした」


 まずはスザンナ姉ちゃんと一緒にオリスア姉ちゃんに挨拶。念話ではちょこちょこお話をしてたけど、最後に直接会ったのは八年も前のこと。来るんだったら連絡をくれたらよかったのに。


「驚かせようと思ってな!」


「うん、驚いた。でも、人界に来ていいの? 魔王だよね?」


 さっきからレイヤ姉ちゃんが少しビクッとしてるけど、それは放っておこう。


「うむ、実は魔王はもうやめたのだ。今は新しい魔王がいるから、私はもう魔王ではないぞ、タダの魔族だ」


「そうなんだ?」


「魔王をやめたので、また一から修行をしようと思ってな! なので、魔界のゲートに一番近い人族の国であるルハラへやってきたのだ! それが終わったらウゲン共和国やソドゴラ村へ行ったり、オリン魔法国やロモン聖国へも行ったりしてみるつもりだ!」


 人界で修行……でも、オリスア姉ちゃんが修行になるかな?


「えっと、修行するなら魔界の方が強い相手がいるんじゃないの?」


「強い相手は確かにいるが、大体はもう戦ってしまったのでな。なので未知との戦いに来たというわけだ。魔界にいる魔物や魔族は確かに強いが、人族は弱くてもそれを補う方法に長けている。そういう相手との戦いをしてみたいから来たと言うことだ。それにこのルハラもそうだが、何人かの魔族が働いているから様子を見に来たというのもある」


 そういえば、そうだった。このルハラとか、南にある城塞都市ズガルにも魔族さんがいるのはフェル姉ちゃんから聞いて知ってる。


「まあ、それはさっき王城で済ませてきたので、今度は我が弟子に会いに来たというわけだ! まさかとは思うが、腕は落ちていないだろうな!?」


 ピンときた。アンリには願ってもないチャンス。


「ならこれ以上の会話は不要。アンリがどれくらい強くなったかは剣で語る。レッツバトル」


「うむ! それでこそ我が弟子だ! 腕の二、三本は覚悟せよ!」


「あの、ここで暴れるのは止めてください。あと、腕は普通二本しかありませんから」


 レイヤ姉ちゃんの冷静なツッコミでちょっとだけクールダウン。そして練習場の方へ移動することなった。


 うん。久しぶりに全力を出しても勝てそうにない。アンリはこういう戦いを待ってた。力の限りを出し尽くそう。


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