聖母到着
あれから三日後、ディア姉ちゃん達が帝都へやってきた。
移動方法はカブトムシさんによるゴンドラ運送、青雷便。最近はゴンドラもパワーアップして、青い雷のマークもついた。カブトムシさんの名前が青雷だから、それにあやかっているみたい。
なんでもそのマークがついたゴンドラを襲うのは空の魔物界ではご法度だとか。最近では天空の覇者とかいう二つ名が付くほどカブトムシンさんは有名だ。お仕事が順調そうでなにより。
そんなカブトムシさんが運ぶゴンドラから降りてきたディア姉ちゃん達はかなり目を引く。というよりも、ディア姉ちゃんはともかく、リエル姉ちゃんは国賓扱いだ。
帝都の外にたくさんの兵士さんが集まって、リエル姉ちゃんを出迎えてる。指揮をしているのはベル姉ちゃんだ。
アンリとスザンナ姉ちゃん、それにクル姉ちゃんはリエル姉ちゃんの親友枠で近くにいさせてもらった。アンリ達よりもちょっと遠い場所では聖人教の人達が集まっていて一目リエル姉ちゃんを見ようとしているみたいだ。
降りたリエル姉ちゃん達の方へベル姉ちゃんが近づいた。
「お待ちしておりました。遠いところありがとうございます」
「お気になさらないでください。こちらこそ、名君と名高いディーン皇帝陛下の結婚式で進行役ができるなど、とても名誉なことですから」
でた。聖女スマイル。すべてを嘘で塗り固めたと言ってもいいリエル姉ちゃんの必殺技。知らない人はこれでイチコロ。知っている人は皆、顔をしかめる。ディア姉ちゃんは笑いをこらえているけど。
そして久しぶりに見たマナちゃんがものすごくドヤ顔してる……あれからリエル姉ちゃんへの信仰がさらに高まったみたいだ。
「では、城へご案内します。結婚式まではまだ時間がありますが、それまでは城の方でお過ごしください」
「はい。ところで私の友人と娘も同じでよろしいのですか?」
友人はディア姉ちゃんのことで、娘はマナちゃんだ。マナちゃんは顔に出してないけどすごく嬉しそうにしているのが分かる。叫びだしたいのを我慢している感じだ。
「はい、ニャントリオンの店長であるディア様、そしてリエル様のご息女であるマナ様も城でお過ごしいただきたく思います」
周囲がざわってなった。従者さんみたいな人かと思ったらニャントリオンの店長だったからだと思う。ニャントリオンはルハラでも人気のブランドだからびっくりしたんだろう。
そのディア姉ちゃんは首を横に振った。
「私はいいよ。その辺の宿に泊まるから。お城にいたら窮屈で逆に大変だからね」
「え? しかし――」
「それに私って仕事で来てるんだ。しばらくはそれにかかりきりになるからお城はちょっとね。お城にお客様を呼んで仕事をするわけにもいかないでしょ?」
「承知しました。ではなにかお困りのことがあればすぐにご連絡ください」
「うん、何かあればよろしくね」
そっか、ディア姉ちゃんはともかく、マナちゃんリエル姉ちゃんと一緒にお城で過ごすんだ。もしかしてゆっくり話せないのかな?
「はい、ではリエル様、マナ様はこちらへ――」
「申し訳ないのですが、少しお時間を頂いてもよろしいですか?」
リエル姉ちゃんがアンリ達の方を見ている。ベル姉ちゃんもそれに気づいたようで「はい」と首を縦に振った。
リエル姉ちゃん達がアンリ達の方へ近づいてきた。
「お久しぶりですね、皆さん。三ヵ月ぶりくらいでしょうか。色々とご活躍だと聞いていますよ?」
「うん、久しぶり。アンリ達の前ではいつものリエル姉ちゃんでいいよ? 忌憚ない表現をすると、ちょっと気持ち悪い」
「ああん? 完璧に聖母を演じてるだろうが」
演じてるって言った。でも、これこそがリエル姉ちゃんだ。
「そう、それ。アンリはそっちのリエル姉ちゃんの方が好き」
「まあ、実は俺もそうなんだけど、マナの奴がちゃんとした場所ではちゃんとしてってうるさくてなぁ」
「どんなリエル母さんでも私達は好きだけど、こっちのほうが素敵。どんな状態だとしてもリエル母さんからにじみ出る聖なるオーラは抑えきれないけど、こうしたほうがより多くの人に分かってもらえる」
にじみ出てるかな……? ソドゴラ村ではだいたい邪な感じしかなかった。たまに本物の聖母様って感じはあったけど、本当にたまにだ。マナちゃんに怒られそうだから言わないけど。
そのマナちゃんがアンリ達の方を見て笑顔になった。
「アンリちゃん、スザンナさん、クルさん、久しぶり。みんなは元気だった? と言っても普段から念話で連絡しているから元気だって分かっているけど」
マナちゃんの言葉に皆が笑顔で頷く。
「うん。念話で言った通り元気。でもちゃんと元気な姿を見せられて良かった。マナちゃんも元気そうでなにより」
「うん。念話だけだと元気だと聞いてもちょっと心配だよね。あ、そうだ、あれから三ヵ月くらいしか経ってないけど、リエル母さんからいっぱい治癒魔法を教わったんだ。アンリちゃん達が帰ってきたらまたアビスで冒険しようね」
「もちろん。しばらくはこっちで修行するけど、帰ったらまたダンジョン攻略をしよう。その時のアンリは多分アルティメットアンリとなってブイブイ言わせる感じになってると思う」
「うん! 私も治癒魔法でブイブイ言わすよ!」
すごく楽しみ。どれくらいこっちにいるかは決めてないけど、しっかり修行してから帰ろう。
「さて、そんじゃ挨拶はこの辺でいいな。俺達は城の方へいくぜ。ディーンの奴に挨拶しておかないといけないし。ディアは本当に城へ来なくていいのか?」
「お城って堅苦しそうだからね。それにお城で歓待的なことをするんでしょ? 平民には無理無理。それにルハラにニャントリオンの支店を出さないかってラスナさんから言われてるから、その下見みたいなこともしたいんだ。宿に泊まるのもその一環」
「そっか。俺達も聖人教の仕事で教会へ行くから、その時は一緒に飯でも食おうぜ」
リエル姉ちゃんはそう言ってマナちゃんと一緒にベル姉ちゃんのほうへ歩いて行った。
ディア姉ちゃんはここに留まるみたいだ。
「さて、みんな、久しぶりだね。あまり村長に心配をかけちゃダメだよ?」
「う……すみません、いつか村長さんには私の方から謝りに行きますので」
「クル姉ちゃんは誘っただけ。行くのを決めたのはアンリなんだから、怒られるのもアンリ」
「あはは、まあ、怒ってたってわけじゃないから何か美味しい物でも持って謝りに行けば大丈夫だよ。この前、フェルちゃんからもアンリちゃん達はちゃんとしてたって報告があったみたいだし」
フェル姉ちゃんはそんな風に報告してくれたんだ? それは嬉しい。
「さて、それじゃさっそくお仕事をしようか。まずはヴィロー商会の本店に行って採寸しよう。それに生地やデザインも決めないとね」
「え? ヴィロー商会でやるんですか?」
「うん、ラスナさんからそういう許可を貰っているから、しばらくはそこを仕事場にするつもりなんだ。さあさあ、時間は有限だよ。いい物を作るためには最初が肝心だからね、じっくり決めよう!」
どんなドレスを作るのか楽しみ。アンリ達も少し見学させてもらおうっと。
でも、その前に気になることがある。
「ところでディア姉ちゃん、リエル姉ちゃんはずいぶんと大人しかったけど大丈夫なの? もっとごねるか暴れるかと思ったんだけど」
ディア姉ちゃんが遠い目をした。目の輝きが無くなったと言ってもいい。
「フェルちゃんがいないときにこういうことは起きないで欲しいよ。私とメノウちゃんで暴れるリエルちゃんを抑え込んだんだ……」
なんとなくだけど、大変だったんだろうなってことは分かる。
「ちょっと話は変わるけど、メノウちゃんの弟さんでカラオ君って知ってる?」
「あ、カラオなら知ってる。メノウちゃんの実家があるメーデイアで会った。すごく懐かしい」
スザンナ姉ちゃんがそんなことを言いだした。
リエル姉ちゃんを助けに行く途中でメーデイアに寄ったけど、その時に会ったからアンリも知ってる。
「アンリちゃん達が村を出てから、そのカラオ君が幼馴染の子と結婚したんだけど、その時も大暴れしてね……もう勘弁してほしいよ……」
「ククリと結婚したんだ? 知ってる二人が結婚するってなにか不思議」
スザンナ姉ちゃんがそんなことを言ってる。ソドゴラ村でも結構結婚はあったんだけど、それとはちょっと違うのかな?
「あれ、でも、今は落ち着いているの?」
「ルハラで運命の出会いがあるかもしれないよってなだめたから大丈夫だと思う。すんごい疲れた……」
「なんて言ったらいいか分からないけど、お疲れ様」
「うん……でも、リエルちゃんは自分のことをよく分かってないよね」
「えっと、どういうこと?」
「周囲を見ても分かる通り、リエルちゃんってものすごく信仰されてるんだよ。ソドゴラ村にも聖地巡礼としてやってくる聖人教の人が多いほどだし」
それは分かるけど、それがどうしたんだろう?
「それは分かっていない顔だね? 尊敬というか信仰されているような人と結婚しようと思う人はいないよ、恐れ多くて。そんな男性がいたらよほどの勇者だね」
「それじゃリエル姉ちゃんは……」
「可能性はゼロじゃないと思うけど、限りなくそれに近いかな。それにリエルちゃんの理想だと、中身はフェルちゃんクラスのイケメンじゃないとダメそうじゃない? いないよね、そんな人」
皆が、分かる、って顔をした。アンリも分かる。フェル姉ちゃんは女性だけど、中身はイケメン。たまに乙女だけど。
「これからも結婚話が出たら私達がなだめないとダメなのかなぁと思うとちょっと憂鬱だよ。いつでもフェルちゃんを呼びだせるようにしておかないとダメだね……」
フェル姉ちゃんもいい迷惑だと思うけど、たぶん、嫌そうな顔をしながらもやってくれると思う。
うん、もし将来アンリ達の誰かに結婚話がでたら、フェル姉ちゃんがいるときにリエル姉ちゃんに報告しよう。




