不思議な村
アンリ達が帝都へ帰って来て数日が経った。
アンリ達は寮の食堂でのんびりタイムだ。アンリ、スザンナ姉ちゃん、クル姉ちゃん、レイヤ姉ちゃんの四人でお茶を飲んでいて、ベルトア姉ちゃんは訓練場で他の皆を鍛えてる。
アンリ達は仕事が終わったばかりだからしばらくはお休み。ディーン兄ちゃん達の結婚式が終わるまで仕事はない。訓練場でスザンナ姉ちゃん達と訓練するだけだ。
いまだに帝都は祝福ムード、というかお祭りムードだ。これを見るだけでもディーン兄ちゃんは国民から慕われているんだと思う。ちょっと前までは傀儡の皇帝とか言われていたけど、今はそんなことを言う人はいない。すごく頑張ったんだろうな。
「ねえ、アンリ。ディアさんから連絡あった? 時間は大丈夫だけど、駄目なら駄目で別の仕立て屋さんにお願いしなくちゃいけないんだけど」
「そろそろ連絡が来るはずだから、もう少し待ってもらっていい? たぶん、今日か明日には連絡が来ると思う」
「うん、分かった。まあ、ニャントリオンと言ったら今は有名ブランドだからね。期待半分くらいで待ってるよ」
リエル姉ちゃんが暴れたってこともあるけど、ソドゴラ村では色々大変だったみたいだ。リエル姉ちゃんが「俺が代わりに結婚する!」とか意味不明なことを言いだして騒いでいたとか。マナちゃん、リエル姉ちゃんに幻滅してないかな……?
『やっほー、アンリちゃん。ディアだけど今大丈夫?』
ちょうどいいタイミングでディア姉ちゃんからの念話が来た。
『うん、大丈夫。それでどうかな? ドレスを作りに来てくれる?』
『仕事の調整ができたから大丈夫だよ。ルハラに行くからクルちゃんにそう言っておいて』
『ありがとう、ディア姉ちゃん。ずいぶんと時間が掛かったけど、なにかスケジュール的に問題があった?』
『問題ってわけじゃないんだけど、実はその結婚式にリエルちゃんが進行役としてお願いされたみたいなんだ。私もそれについて行く感じになるって言えばいいかな。その調整にちょっと手間取った感じ』
アンリとしては問題だと思う。控えめに言って大問題。
『これはアンリの個人的な意見なんだけど、大丈夫なの? というか、なんでリエル姉ちゃんに? もしかして結婚式を台無しにさせたい勢力とかがあるの? こう、闇の組織とか』
『そういう陰謀論はないから。皇帝の結婚だからね、それなりに肩書のある人に進行役を頼むのは当然のことなんだよ。ソドゴラ村にいると分からないけど、リエルちゃんは聖人教の聖人で最大派閥の聖母だから、たぶん、どこの国でも王族クラスならリエルちゃんに頼むよ』
そうだった。リエル姉ちゃんは聖人教では相当な信者を持つ聖人だった。たぶん、数百年後には聖人の意味が変わると思う。
『まあ、そんなわけでね。私とリエルちゃん、それにマナちゃんも一緒に行くよ』
『マナちゃんも? それは嬉しい。念話では何回も話してるけど、しばらくぶりだから会ってお話したい』
『そうだね、マナちゃんも嬉しそうだったよ。そんなわけだから数日中には皆でそっちへ向かうからよろしくね』
『うん、それじゃクル姉ちゃんに伝えておくね』
念話が切れた。
そしてディア姉ちゃんに聞いた話を皆に伝える。
「よかったー、ニャントリオンのドレスならどこに着ていっても問題ないよ。貴族社会では目利きが多くてどこの仕立て屋で服を作ったかなんてすぐに見破られちゃうから有名店以外だと笑われちゃうんだよね」
「そういうものなんだ?」
「私もレイヤからの聞きかじりだけどね」
クル姉ちゃんがそう言うと、レイヤ姉ちゃんが頷いた。
「そうですね。男性はともかく、女性はそういうのに目ざといです。パーティとかで前と同じドレスを着て行ったら笑われるって話もありますからね」
「それじゃ一回しかドレスを着れないと思うんだけど?」
「ですから一回しか着ないんですよ。貴族と言うのは見栄を張るのも仕事みたいなところがありますから。それに社交界ではロマンス的な何かを期待する令嬢も多いです。今頃、ルハラの有名ブランド店は全部予約でいっぱいじゃないですかね? 王族の結婚式に出れるほどの貴族ですから、お金に糸目をつけずにいい物を作らせているはずですよ」
「そこまでするんだ?」
「私達の視点から見たら、そこまで、なんですけど、貴族の方はそれが普通ですから。だからそういう場所ではちょっとの隙も見せられないんですよ」
「……ちなみにそういう場所でお料理をバクバク食べる行為は隙になる?」
「……隙というか、すでにクリティカルヒットされている感じですかね? たぶん、今後一切、どこのパーティにも呼ばれなくなると思います」
クル姉ちゃんが絶望的な顔をしている。アンリもクル姉ちゃんにお料理を隠して持って来てもらおうと思ってたんだけどそれはダメかも。
王族というか貴族というのは大変みたいだ。アンリとしては結婚式の時くらい大口を開けてモリモリ食べたい。むしろフェル姉ちゃんを見習っていく。
あ、そうだ、スザンナ姉ちゃんとクル姉ちゃんに言っておかないと。
「ソドゴラ村からディア姉ちゃんが来るけど、マナちゃんも来るって言ってた」
クル姉ちゃんが不思議そうな顔をしている。
「マナが? どうして? いや、嬉しいけど」
「リエル姉ちゃんと一緒にくるみたい――そっか。まずこっちを言わないとダメだった」
「リエルさんが? なんでまた?」
「結婚式の進行役をやるって言ってた。そういう依頼があったんだって。だからディア姉ちゃんとリエル姉ちゃん、そしてマナちゃんが来ることになってる。アンリの予想では、結婚式で一波乱あると睨んでる。たぶん、歴史に名を残す結婚式になる」
スザンナ姉ちゃんが同意するように頷いた。
そしてクル姉ちゃんは顔を引きつらせた。
「だ、大丈夫だよね? いくらリエルさんでもそんなことは――ないとは言い切れない……ウル姉さんの晴れ舞台なんだけど……」
「あのー、さっきからおっしゃっているリエルさんと言うのは、聖人教の聖母リエル様ですか?」
「うん、そう。アンリ達の親友。ソドゴラ村で孤児院を運営してる。あと治療院的なこともしてたかな」
「……そういえば、聖母リエル様はどこかの村で孤児院を開いているって話でした。ソドゴラ村って不思議な村ですよね。ニャントリオンの本店がある場所ですし、聖母様もいるなんて。それにアビスというダンジョンもある……アンリ様達が強いのもおかしいことじゃない気がしますよ」
そこにフェル姉ちゃんがいるっていうのが一番大事。ソドゴラ村はフェル姉ちゃんが来てから栄えた感じだし。
「そういえば、聖母様が開いたローズガーデンという孤児院はすごいですよね」
「すごい?」
「そこの孤児院にいた方はどこでも重宝されますよ。すごく優秀だって言われてまして、文字の読み書きは当然で計算もできる、さらには治癒魔法も得意ときてますからね。私のような下手な貴族の子供よりも優秀だって評判ですよ」
文字の読み書きと計算はおじいちゃんのおかげかな。治癒魔法はリエル姉ちゃんだ。
「よく考えたら、アンリ様の親友なのですから、私も聖母様に会えるかもしれないんですね! 優しく、純粋で、まるで古典に出てくる天使様のような方だと聞いていますから、すごく楽しみです!」
噂がひとり歩きしてる。決してそんな感じじゃない。でも、よく考えると、リエル姉ちゃんは欲望に忠実だから純粋って言ってもいいような気がする。それに優しいって言うのは間違いない。たまにワイルドになるくらい優しいし。天使様というのも見た目はその通りで間違いない。
言ってることは間違いないんだけど、問題は結婚願望が高すぎるとこかな……よく考えたらソドゴラ村を出るとき、フェル・デレに祝福してもらったんだけど、いい男の人がいたら紹介しないといけないんだっけ。
……うん、まだいない。この約束は保留にしておこう。でも、それだと結婚式で暴れそうな気がする。何とかしないと。




