帝都への帰還と祝福ムード
二週間くらいかけて帝都キャラスに帰ってきた。
オアシスの対応はほとんど終わって、後はヴィロー商会の人達や見習いのお姉さん、それに獣人さん達がやるから、バランおじさんはお役御免ということみたい。それにバランおじさんはニセ金の件で早めに帰りたかったみたいだ。
ニセ金はルハラ帝国で大問題になることでもあるから、クル姉ちゃんも急いで帰ろうって話になった。
アンリとしてはもう少しオルドおじさんと模擬戦をしたかったけど、アンリのわがままで滞在を伸ばすわけにもいかない。結局一撃も与えることはできなかったけど、また戦おうって言われたから、もう少し大きくなったらまた行く予定だ。
帝都への帰り道では特に問題は発生しなかった。バランおじさんがアンリ達に専属で護衛をしないかと言っていたけど、クル姉ちゃん達がそれを阻止したくらい。
そもそもアダマンタイトのスザンナ姉ちゃんを専属で雇えるわけがない。毎月のように大金貨が数枚必要になると思う。
アンリとしても護衛とかよりダンジョン攻略とかをしたい。こう、まだ見ぬお宝を探すトレジャーハンティング的な傭兵がいたっていいと思う。
そんなわけで、バランおじさんにヘッドハンティングの誘いを受けつつ、ようやく帝都に着いた。
南門から中に入ったんだけど、なぜか異様に盛り上がってる。皆が笑顔で昼間からお酒を飲んでいるみたいだけどどうしたんだろう?
バランおじさんも不思議に思ってるみたいだ。
「これは何事だ?」
「バランおじさんにも分からないの?」
「昨日の夜に帝都に連絡を入れたときは何もなかったな。今日何かがあったとみるべきか――まあいい。とりあえず、仕事はここまでだ」
ヴィロー商会まで送らなくていいみたいだ。帝都は治安がいいらしいから別に構わないのかな。
ただ、傭兵団としてはそういうわけにもいかず、ベルトア姉ちゃんとレイヤ姉ちゃんだけ本店まで送ることになった。
バランおじさんは「専属の件、考えておいてくれ」と言って、ヴィロー商会の本店の方へ行っちゃった。
「……二人ともダメだからね?」
「当り前。私達はクルがいるから紅蓮に所属してる。クルがいなかったらソドゴラ村へ帰ってるよ」
「それはアンリも同意」
クル姉ちゃんがアンリ達に抱き着いてきた。喜んでくれるなら何より。
でも、今はそんな当然のことよりも、帝都の様子に関して確認したほうがいいかも。悪いことがあったわけじゃないと思う。むしろ祝福ムード。確認しておかないと。
「いったん寮に戻らない? ルート兄ちゃんなら何か知ってるかも」
「それもそうだね。それじゃ報告も必要だし帰ろうか」
三人で寮に戻って来ると、クル姉ちゃんはアンリ達と別れてすぐに紅蓮の本棟へ向かった。
アンリ達はそのまま寮に入ると、食堂で皆からおかえりなさいってすごく喜ばれた。
まずはお土産を渡そう。
スザンナ姉ちゃんが亜空間から色々な町で買った食べ物を取り出した。
皆から歓声が上がる。そして争奪戦が始まった。皆が色々な食べ物に手を出して食べている。アンリも負けていられない。どんな時でも弱肉強食。アンリ達が買ってきたお土産だけど、アンリにも食べる権利はある。
そう思って手を伸ばしたら、クル姉ちゃんが「大変!」って大きな声を出して食堂へ入ってきた。
「クル姉ちゃん、大変ってどうかしたの?」
「そ、そ、それが大変なんだよ! お、落ち着いて!」
「クル姉ちゃんが落ち着いて。それでどうしたの?」
「お、お姉ちゃんがディーン君に勝った!」
「え? それって……」
「そう! ウルお姉ちゃん、ディーン君と結婚するんだって! それが今日発表になったみたい! ルートにその話を聞いてびっくりしたよ!」
なんてタイミング。もしかしてクル姉ちゃんが帰ってくるまで待ってたのかな? いけない、その前に祝福しないと。
「えっと、おめでとう。クル姉ちゃんに言うことじゃないかもしれないけど」
「私からも。ウルって人にはほとんど関りはないけど、クルのお姉さんなら祝福する」
アンリ達がそう言うと、紅蓮の皆も拍手して祝福の言葉を投げかけた。皆はすでに知っていたみたい。というよりも、ルハラ帝国で知らない人はアンリ達だけだったみたいだ。
クル姉ちゃんはちょっと涙目で笑顔になった。
「ありがとう! 自分のことじゃないけど、すごくうれしい! うわー、でもどうしよう!? 盛大に結婚式をやるみたいなんだ! 私も参加できるんだって!」
「家族なんだから当然だと思う。ところで結婚式はいつ?」
「それはまだ明確には決まっていないみたい。でも、色々な国からも人が来るから一ヶ月以上は先じゃないかな。色々と準備もあるからね」
以前のソドゴラ村なら三日後だけど、最近はディア姉ちゃんのウェディングドレス待ちで決まってからも数週間待つことが多かったかも。そういえば、クル姉ちゃんがドレスを作りたいとか言ってたっけ?
「ドレスはどうするの? ニャントリオンのディア姉ちゃんに頼む? アンリが連絡しようか?」
「そ、そうだね、ドレスが必要だね。でも、ディアさんは忙しいよね……? 私の方からソドゴラ村まで行くわけにはいかないし、出張の仕立ってしてくれるのかな?」
「そこはお金次第だとは思うけど、まずは聞いてみよう。たしかディア姉ちゃんは仕事中にチャンネルを閉じてるらしいからガープ兄ちゃんに聞いてみる」
念話用のチャンネルは閉じることもできるみたい。誰からも念話を受け付けないようにするとか。集中したい時は確かに便利かも。アンリもあとで方法を教えてもらおう。
「えーと、ガープさんて革職人の? たしかニャントリオンでディアさんと一緒に働いている男の人だよね?」
「そう。ガープ兄ちゃんはニャントリオンの受付みたいなこともしてるから、まずはそこに確認してみるね」
ガープ兄ちゃんに念話を送った。
『ガープ兄ちゃん、アンリだけど聞こえる?』
『アンリ? 珍しいな、アンリが俺のところへ念話をくれるなんて――ルハラで頑張っているんだって?』
『うん、頑張ってる。ところでディア姉ちゃんと話がしたいんだけど、今大丈夫かな?』
『ああ、そういうことか。なら、ディアの方から念話を送るように伝えるから少しだけ待ってくれ。ちょうど今は休憩中だからすぐに連絡できるはずだ』
『うん、ありがとう』
ガープ兄ちゃんとの念話が切れた。そしてすぐにディア姉ちゃんから念話が送られてくる。
『アンリちゃん、久しぶり! 私に用? もしかしてルハラで闇の波動を持つアイテムとか見つけちゃった? 言い値で買うよ!』
『チューニ病的なお話じゃなくて仕立てのお話。そういうお話は少し封印してて』
『ああ、そっち? どんなお話かな?』
『実はディーン兄ちゃんとウル姉ちゃんが結婚することになったんだけど、その結婚式に参加するクル姉ちゃんのドレスをディア姉ちゃんに作ってもらえないかなと思って連絡した。ルハラに来てもらうことになると思うんだけど、どうかな?』
返事がない。念話は届いたと思うんだけど。
でも、迷っているって感じじゃなくて、思考が追い付いていないって感じだ。
『えっと、ディア姉ちゃん?』
『いやぁ、アンリちゃんからそんな情報を聞けるとは思わなかったよ。ディーン兄ちゃんって言うと、ルハラの皇帝だよね? そっか、結婚するんだ? 私はほとんど面識がないけど、リエルちゃんなら――ちょ、リエルちゃん、暴れないで! 聖母なんだからオーガみたいな顔しないで!』
近くにリエル姉ちゃんがいるとは思わなかった。念話が再開するまで時間が掛かりそうな気がする。




