最西の町グリトニ
アンリ達はルハラ最西の町グリトニに向かって移動中だ。
バランおじさんがフェル姉ちゃんから水の出る魔道具を受け取った翌日、朝から城塞都市ズガルを出発した。お馬さんで移動すると大体二日くらいかかる。昨日野宿して、今日は二日目のお昼をすぎたところ。夕方か夜くらいには着くって話だ。
フェル姉ちゃんとはズガルで別れた。別れを惜しむとかそういうのは全然なかった。「頑張れよ」って言われただけだ。
フェル姉ちゃんはいつも忙しくしているからなかなか会えないけど、念話できるから会えなくても問題はない。毎日念話を送るって言ったら嫌そうな顔をされた。仕方ないからできるだけ間隔をあけておこう。
別れた後は、帝都へ向かったみたいだ。地下墳墓へ行くって言ってたかな。アビスちゃんのお願いで調査するみたいだ。危ない場所だったら封印するとかも言ってた気がする。
魔王様という人を探すついでに、そういう危ない遺跡とかを封印するのもフェル姉ちゃんのお仕事みたいだ。全然お金にならないときもあるらしいけど、「そのままにしていたら危ないだろ」って理由だけでずっとやっている。
もっと自分のために行動すればいいのにって言ったら、「私ほど自分のために行動している奴はいないぞ」って少しだけ笑いながら返された。誰かを助けるのはフェル姉ちゃんの趣味なのかな? もしかしたら、何も考えていない可能性はあるけど。
たぶん、何も考えてなくても、誰かのために頑張れる人なんだと思う。
やれやれ、アンリが目指す人は器が大きすぎて困る。もうちょっと小さくなってほしい。
帝都で思い出したけど、クル姉ちゃんがニセ金のことで連絡を入れたって言ってた。
レイヤ姉ちゃんが言っていた通り、ニセ金については貴族の人達の間で噂になっていたみたいで、ディーン兄ちゃんもウル姉ちゃんも知ってたみたい。
今はベル姉ちゃんとロック兄ちゃんが調べている最中だとか。もしかしたら紅蓮の力を借りるかもしれないって言ってたらしいから、仕事が終わったらすぐに帝都に戻るみたいだ。
そもそもバランおじさんの護衛は帝都に帰るまで。よく覚えていないけど、ピラミッドまで行ったらすぐに帰るのかな?
そんなことをずっと考えていたら、もう日が落ちてきた。でも、遠くに明かりが見える。あれがグリトニかな。
グリトニに到着すると、宿に直行して休むことになった。
実はこの町、特に何もないみたい。町の中央にある大きな鐘くらいしか見る物がないとか。でも、ここは今、ルハラで一番獣人さん達が働いている場所だから重要だって聞いた。町中でも結構獣人さんを見かけたし、仲良くやっているみたい。
到着した宿はバランおじさんが用意してくれたみたいで、結構豪華だ。部屋にある大きいベッドにダイブしたくなる。アンリはもう大人だからもうそんなことはしないけど、本能に抵抗するのは難しい。
でも、ここは五人部屋。スザンナ姉ちゃんだけだったらやったけど、ベルトア姉ちゃん達がいる間は止めておこう。
なぜかすぐにチャンスが訪れた。クル姉ちゃんがベルトア姉ちゃんとレイヤ姉ちゃんを連れて部屋を出るみたいだ。
「こんな遅い時間にどこへ行くの?」
アンリの質問にベルトア姉ちゃんが答えてくれる。
「明日から砂漠を進むから色々用意しておくんだよ。日差しがキツイから日よけ用のマントとか水筒とかな。それと、バランのおっさんがラクダを用意してくれたみたいなんだが、問題がないかついでに見てくるよ」
そう言って、クル姉ちゃん達は部屋を出て行った。
即座にアンリのベッドへダイブ。なかなかの弾力。悪くない。
それはいいとして、よく考えたら明日からは砂漠か。
砂漠は砂だらけでお馬さんでは進みにくいとか聞いたことがある。砂漠を進む動物、ラクダさんが必要だとか言ってた。クル姉ちゃん達は買い出しのついでにそのラクダさんを見にいったわけだ。
ラクダというと、背中にコブのある四足歩行の動物。砂の上でもスイスイ歩けるとか。お馬さんよりは遅いみたいだけど。
獣人さんとかは砂漠を普通に徒歩で移動できるみたいだけど、人族の場合はそうはいかないって聞いたことがある。砂に足を取られてかなり疲れるとか。
まあ、アンリにはスザンナ姉ちゃんという最高のお姉ちゃんがいる。たとえ砂でもへっちゃらだ。水竜さんならひんやりしているし、砂だってスイスイ移動できるはず。
「そっか、砂漠か。もしかしたら水竜で移動するのは無理かも」
「いきなりアンリの計画が破綻した。スザンナ姉ちゃん、どういうこと?」
「水って砂に吸われるんだよね。それに暑いと蒸発する。私が魔法で作った水だけど、その性質は水のままだから、たぶん水竜がどんどん小さくなる」
「えっと、水を追加してあげれば……?」
「私の魔力が持てばいいんだけどね。確か最初のオアシスまで一日は掛かるって聞いたから、結構ギリギリかも」
「それならアンリ達もラクダに乗っていくべきかな?」
「ラクダはいらないと思う。水竜で飛べば解決。砂に足をつけていると水を吸われるから、浮いていれば一日くらい持つと思う。暑さはどうにもならないけど」
水が蒸発するのは避けられないけど、吸われるのは防げるってことかな。ラクダで砂漠を移動するのも悪くないけど、アンリとしてはやっぱり水竜で行きたいかな。暑さ対策に。
「私も砂漠を飛んだことはないからどうなるか分からないけど、たぶん平気。駄目だったらラクダに乗りかえよう」
「うん、分かった。ところでスザンナ姉ちゃんはこれからの予定というか、どういう形で護衛していくか覚えてる?」
「それはもちろん覚えてるよ……勉強道具を見て色々と記憶が飛んだから微妙だけど」
気持ちは分かる。アンリもそう。記憶が微妙になってる。
しかも護衛をしながらなのに毎日勉強。グレてもいいような気がしてきた。ピーマンと一緒にいつか算数も滅ぼす。
とりあえず、クル姉ちゃん達が帰ってきたら明日からの状況を再確認しよう。
クル姉ちゃん達が帰ってきた。
「おかえりなさい。ラクダさん達はどうだった?」
「大丈夫だよ。さすがはバランさんかな。準備してあるラクダは健康そのものだったね」
分析魔法でも使ったのかな? それはいいとして、今後のことを確認しておこう。
「それじゃこれからのことを確認しておこうか」
まず明日。朝からグリトニを出て西に向かう。砂漠を一日くらい進むとクトーニアというオアシスがあるみたい。
そこで一晩明かして翌日はさらに西にあるアーカムというオアシスに行く。これは二日くらい。
アーカムからピラミッドは意外と近くて、アーカムから北へ一、二時間くらい行ったところにあるとか。
バランおじさんの話だと、そこに人工のオアシスを作る予定だとか。すでに作るところは決まっていて、そこにあの魔道具を設置、そして定期的に魔力を通せばオアシスの完成だ。
「あと三日くらいでピラミッドへは行けるんだけど、その人工オアシスが軌道に乗るといえばいいかな、ちゃんとしたオアシスになるまではそこで待機するからそれは覚えておいて」
「そうなんだ? どれくらい待機するの?」
「それが分からないんだよね。二、三日は掛かると思ったほうがいいかな。ただ、契約上、長くても一週間だね。それ以上、バランさんがそこに残るって言うなら、私達の仕事は終わり。帝都へ帰ることになるよ」
そういう契約だったんだ? できればオアシスが出来るところまでは見届けたいかな。せっかくのお仕事なんだから中途半端は良くない。
「そうだ、時間があるようだったらピラミッドへ入ってもいいよ。そういう許可は得ているし」
「それは嬉しいかも。実はアビスちゃんのお友達がいるみたいだから、ちょっと挨拶したかった」
アンリがそう言うと、クル姉ちゃんが不思議そうな顔をした。ベルトア姉ちゃんとレイヤ姉ちゃんはそもそもアビスちゃんを知らないから、アンリが何を言っているのかも分かっていないみたい。
「え? アビスの友達って、もしかしてピラミッドもそうなの? なんだっけ? ダンジョンコアって言ったっけ?」
「うん、そうみたい。友達というよりはライバルなのかも。いつも負けられないって言ってる」
最強で最高であるためには、どのダンジョンコアにも負けられないとか。アンリのお願いを聞いてくれているみたいで結構嬉しい。ピラミッドにいるダンジョンコアの名前は忘れちゃったけど、ちゃんと挨拶しておかないと。
あと腕試しとかもできたらいいな――そうだ、ピラミッドには獅子王のオルドおじさんがいたはず。ちょっとお願いして戦ってもらおう。




